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【鬼灯】
第9話 毒針
しおりを挟む「え…?毒針?ミツさんが放火犯だとすれば、毒針なんてちっぽけな罪になる訳ない…。」
「いいえ、そういう基準ではないわ。毒針は、その名の通りの武器。一度相手に刺せば、毒は体に回って手遅れになる。つまりそれは、人を騙し自分の手玉のように扱うミツにぴったりの武器よ。」
そう、ミツの武器は毒針。それは、彼女が言葉巧みに男性陣を誑かし資金を奪い取ったことが、頻発していた罪だからだ。日常のように行われていたと資料には記載されていた為、彼女は沢山の男を引っ掛けてその毒を男たちの体に巡らせていったのだろう。そして、一度引っ掛けてしまえばその毒は体全体に巡り、彼女の罠から抜け出せなくなる、それは、本物の毒でなくても毒と同じ効果のある、『言葉』。
「でも、納得出来ないわ!人を騙すだけの罪なら、ハルちゃんのお兄さんはどうなるの?実際にミツさんに殺されているんでしょ?」
そう、それが不可解なのだ。ハルの言葉が本当なのだとしたら、なぜ私に嘘をついているのか。そして、その情報を何故アルストロメリアは知りえないのか。それとも、私のことは騙していないけれど、何か目的があってみんなを騙す必要があるのか。今、この場でそれを彼女に問いかけることは出来ない。どうすればいい。どうすれば、この場の全ての人間を納得させられるのだろうか。そんな時、助け舟とも思えるオミの素直な言葉が聞こえてきた。
「…オミは、ミツさんの罪は毒針で間違いないと思います。それは、きっと罪自体の重さではなく総合的な判断なのではないでしょうか。」
「オミちゃん、あんたは黙ってなさいよ。そもそも、総合的な判断って何?全く意味が分からないわ。」
「…俺はなんとなく理解できます。ハルさんのお兄さんが殺された事は、もちろん決して許されない罪です。でも、殺されるきっかけとなったのは、ミツさんの口車に乗せられたことが始まりだからじゃないでしょうか。殺す事なんて、たった一瞬の出来事だと思います。そう考えた時、人を騙し人を追い詰めた時間の方が圧倒的に多い。結果、毒針という罪になったのでは?」
「…シオくんの言ってる事は理解出来るわ。というか、そもそも武器なんてどうでもいいんじゃないの?」
「どうでもよくありません。ミツさんの罪が分かれば、放火犯の犯人を捕まえることが出来ます。オミも、放火犯には言ってやりたいことが山ほどあるので。でも、罪だけで簡単に解けるほど、あかゆりデパート放火事件は優しいものでは無いのですね。話を逸らしてしまったオミに責任があります、すみません。」
オミは静かにこの場の全員に向かって頭を下げた。たしかに、罪だけではこの事件は解決されないだろう。オミのしおらしい態度に目をつけたユリは、にこにことわざとらしい笑みを浮かべる。
「オミちゃんがへんなこと言わなければ、この時間が無駄にならなくて済んだのに。どうやって償うつもり?」
「償いですか?そんなことはしません。謝った、それが償いです。」
喧嘩になりそうな二人の前に、またしても私とシオが止めにかかる。
「そもそも、ミツさんが早くこの世から消えてくれればこんなに無駄な時間を過ごさずに済んだのよ。いつまでもこんなとこに縛ってないで、早くスズランに殺してもらうか私たちで始末しましょう?」
ユリの怒りは既に頂点に達している。ここでミツを殺してしまう訳にはいかない。私がアルストロメリアへミツを引き渡さなければいけないのだ。それが、私に与えられた任務。だが、既に周囲の人間はこの場で殺すという目をしている。これを止められるのは、今この場にはあの人しかいない。私の任務を手助けしてくれる人物、そうアルストロメリアの人間。
『おーい、ナスタチウムのみんなー!スズラン討伐開始するよ!流れ弾がそっちに行くことはほぼないと思うけど、念の為建物の奥に逃げておいてくれるかな?あ、そうそう!この後、ナスタチウムの皆に説明しなきゃいけないことがあるんだけどみんないるよね?さっきオペナビでわちゃわちゃしてたみたいだけど、ミツさんのことちゃんと生かしておいてねー!』
こんな状況に相応しくない明るい声の主は、シロだ。どんな時でも明るいポジティブさは、私も見習いたい。また、状況を理解する能力にも長けていて、頼りになる。シロの要望は、私以外はみんな怪訝な顔をしていた。それもそうだ。私以外は、アルストロメリアのことをよく思っていない。誰一人、シロのオペナビに反応をしない。ここは、今この場で話せて、尚且つオペナビに反応しても違和感のない私が返答しておく。仮にも、私はナスタチウムの副隊長だからだ。
『了解。』
「ちょっと!なに返事してるのよ!ここでミツを殺しておいた方がいいに決まってるでしょ!」
「それは得策ではないわ。シロはオペナビの一部分を聞いていた。万が一、ここでミツを殺したとしてシロは真っ先に私たちを疑う。もし、殺害した事がバレてしまえば、私たちは自由を失う可能性だってある。目先の感情だけで、人を殺すなんて考えこそ殺人犯みたいよね。あなた達も殺人犯と同じ思考になってしまっていると思わない?この状況を、あなた達の大切な人が見たらどう思う?」
ここからは私がカバーする。シロは、私がやりやすいように軌道修正をしてくれた。もちろん、私のたった一言の返答でも、ユリとシオ、そしてオミが私の方を怪訝な顔で見つめてきた。なぜアルストロメリアの言うことを聞くのか、そう問いかけて来るような瞳。それは、まるで私を疑うようなものだ。しかし、この返答の正当性を説明した。最後に、みんなに問いかける。この状況を、あなた達の失った大切な人が見たらどう思うのか。彼女達は、大切な人を失った悲しみを受け入れきれていない。その言葉が、効果的だと思い発言するとみんなは静かに俯いた。
「俺は、従います。」
「ちょっと、シオくん…。そんな…、なんで?」
「俺の大切な人は、人を救う仕事に就いていました。それも、命に関わる大事な仕事に。それなのに、俺がここでミツさんを殺すことに賛成してしまったら、あの人は一生俺の事を恨むでしょう。」
シオはそう呟いて、大人しく建物の奥へ進んだ。覚束無い足取りのシオを心配したユリも、そのまま建物の奥へ向かう。シオはきっと、亡くなった人のことを思い出してしまったのだろう。彼は、唯一ナスタチウムに入ってもなお、優しさが捨てきれない人間だから。
そして、取り残されたオミと私とミツ。オミはじっとこちらを見つめてくる。
「メイさん、あなたは優しいままなんですね。」
オミの言葉に、目を丸くする。オミは眉を下げながら、悲しみを隠せていない表情でこちらを見つめているのだ。先程の発言で、どこか優しいと感じたのだろう。
「オミは、メイさんの指示に従います。メイさんは、私たちを庇っているように見えました。私たちが、これ以上罪を犯してしまわないように。」
オミはそう呟くと、自分より大きなミツを一人で持ち上げた。ミツはぎょっとした顔でオミを見下ろす。華奢な体のどこからそんな力がでてきているのか。純粋な疑問を持ちつつ、ミツを持ち上げても平気そうなオミを見て苦笑いを浮かべた。ミツのことはオミに任せておこう。そう思いながら、私たちは建物の奥へ向かった。
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