9 / 14
【鬼灯】
第9話 毒針
しおりを挟む「え…?毒針?ミツさんが放火犯だとすれば、毒針なんてちっぽけな罪になる訳ない…。」
「いいえ、そういう基準ではないわ。毒針は、その名の通りの武器。一度相手に刺せば、毒は体に回って手遅れになる。つまりそれは、人を騙し自分の手玉のように扱うミツにぴったりの武器よ。」
そう、ミツの武器は毒針。それは、彼女が言葉巧みに男性陣を誑かし資金を奪い取ったことが、頻発していた罪だからだ。日常のように行われていたと資料には記載されていた為、彼女は沢山の男を引っ掛けてその毒を男たちの体に巡らせていったのだろう。そして、一度引っ掛けてしまえばその毒は体全体に巡り、彼女の罠から抜け出せなくなる、それは、本物の毒でなくても毒と同じ効果のある、『言葉』。
「でも、納得出来ないわ!人を騙すだけの罪なら、ハルちゃんのお兄さんはどうなるの?実際にミツさんに殺されているんでしょ?」
そう、それが不可解なのだ。ハルの言葉が本当なのだとしたら、なぜ私に嘘をついているのか。そして、その情報を何故アルストロメリアは知りえないのか。それとも、私のことは騙していないけれど、何か目的があってみんなを騙す必要があるのか。今、この場でそれを彼女に問いかけることは出来ない。どうすればいい。どうすれば、この場の全ての人間を納得させられるのだろうか。そんな時、助け舟とも思えるオミの素直な言葉が聞こえてきた。
「…オミは、ミツさんの罪は毒針で間違いないと思います。それは、きっと罪自体の重さではなく総合的な判断なのではないでしょうか。」
「オミちゃん、あんたは黙ってなさいよ。そもそも、総合的な判断って何?全く意味が分からないわ。」
「…俺はなんとなく理解できます。ハルさんのお兄さんが殺された事は、もちろん決して許されない罪です。でも、殺されるきっかけとなったのは、ミツさんの口車に乗せられたことが始まりだからじゃないでしょうか。殺す事なんて、たった一瞬の出来事だと思います。そう考えた時、人を騙し人を追い詰めた時間の方が圧倒的に多い。結果、毒針という罪になったのでは?」
「…シオくんの言ってる事は理解出来るわ。というか、そもそも武器なんてどうでもいいんじゃないの?」
「どうでもよくありません。ミツさんの罪が分かれば、放火犯の犯人を捕まえることが出来ます。オミも、放火犯には言ってやりたいことが山ほどあるので。でも、罪だけで簡単に解けるほど、あかゆりデパート放火事件は優しいものでは無いのですね。話を逸らしてしまったオミに責任があります、すみません。」
オミは静かにこの場の全員に向かって頭を下げた。たしかに、罪だけではこの事件は解決されないだろう。オミのしおらしい態度に目をつけたユリは、にこにことわざとらしい笑みを浮かべる。
「オミちゃんがへんなこと言わなければ、この時間が無駄にならなくて済んだのに。どうやって償うつもり?」
「償いですか?そんなことはしません。謝った、それが償いです。」
喧嘩になりそうな二人の前に、またしても私とシオが止めにかかる。
「そもそも、ミツさんが早くこの世から消えてくれればこんなに無駄な時間を過ごさずに済んだのよ。いつまでもこんなとこに縛ってないで、早くスズランに殺してもらうか私たちで始末しましょう?」
ユリの怒りは既に頂点に達している。ここでミツを殺してしまう訳にはいかない。私がアルストロメリアへミツを引き渡さなければいけないのだ。それが、私に与えられた任務。だが、既に周囲の人間はこの場で殺すという目をしている。これを止められるのは、今この場にはあの人しかいない。私の任務を手助けしてくれる人物、そうアルストロメリアの人間。
『おーい、ナスタチウムのみんなー!スズラン討伐開始するよ!流れ弾がそっちに行くことはほぼないと思うけど、念の為建物の奥に逃げておいてくれるかな?あ、そうそう!この後、ナスタチウムの皆に説明しなきゃいけないことがあるんだけどみんないるよね?さっきオペナビでわちゃわちゃしてたみたいだけど、ミツさんのことちゃんと生かしておいてねー!』
こんな状況に相応しくない明るい声の主は、シロだ。どんな時でも明るいポジティブさは、私も見習いたい。また、状況を理解する能力にも長けていて、頼りになる。シロの要望は、私以外はみんな怪訝な顔をしていた。それもそうだ。私以外は、アルストロメリアのことをよく思っていない。誰一人、シロのオペナビに反応をしない。ここは、今この場で話せて、尚且つオペナビに反応しても違和感のない私が返答しておく。仮にも、私はナスタチウムの副隊長だからだ。
『了解。』
「ちょっと!なに返事してるのよ!ここでミツを殺しておいた方がいいに決まってるでしょ!」
「それは得策ではないわ。シロはオペナビの一部分を聞いていた。万が一、ここでミツを殺したとしてシロは真っ先に私たちを疑う。もし、殺害した事がバレてしまえば、私たちは自由を失う可能性だってある。目先の感情だけで、人を殺すなんて考えこそ殺人犯みたいよね。あなた達も殺人犯と同じ思考になってしまっていると思わない?この状況を、あなた達の大切な人が見たらどう思う?」
ここからは私がカバーする。シロは、私がやりやすいように軌道修正をしてくれた。もちろん、私のたった一言の返答でも、ユリとシオ、そしてオミが私の方を怪訝な顔で見つめてきた。なぜアルストロメリアの言うことを聞くのか、そう問いかけて来るような瞳。それは、まるで私を疑うようなものだ。しかし、この返答の正当性を説明した。最後に、みんなに問いかける。この状況を、あなた達の失った大切な人が見たらどう思うのか。彼女達は、大切な人を失った悲しみを受け入れきれていない。その言葉が、効果的だと思い発言するとみんなは静かに俯いた。
「俺は、従います。」
「ちょっと、シオくん…。そんな…、なんで?」
「俺の大切な人は、人を救う仕事に就いていました。それも、命に関わる大事な仕事に。それなのに、俺がここでミツさんを殺すことに賛成してしまったら、あの人は一生俺の事を恨むでしょう。」
シオはそう呟いて、大人しく建物の奥へ進んだ。覚束無い足取りのシオを心配したユリも、そのまま建物の奥へ向かう。シオはきっと、亡くなった人のことを思い出してしまったのだろう。彼は、唯一ナスタチウムに入ってもなお、優しさが捨てきれない人間だから。
そして、取り残されたオミと私とミツ。オミはじっとこちらを見つめてくる。
「メイさん、あなたは優しいままなんですね。」
オミの言葉に、目を丸くする。オミは眉を下げながら、悲しみを隠せていない表情でこちらを見つめているのだ。先程の発言で、どこか優しいと感じたのだろう。
「オミは、メイさんの指示に従います。メイさんは、私たちを庇っているように見えました。私たちが、これ以上罪を犯してしまわないように。」
オミはそう呟くと、自分より大きなミツを一人で持ち上げた。ミツはぎょっとした顔でオミを見下ろす。華奢な体のどこからそんな力がでてきているのか。純粋な疑問を持ちつつ、ミツを持ち上げても平気そうなオミを見て苦笑いを浮かべた。ミツのことはオミに任せておこう。そう思いながら、私たちは建物の奥へ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
シャーロットの仮説
ariya
ミステリー
ルイスは出版会社に勤務し始めたばかりの新人編集者。
彼が担当することになったのは、人気作家チャールズ・イヴァノヴィッチだった。
しかし作家は極度の引きこもりで、打ち合わせに現れたのは代理人だという女性だった。
紫の瞳を持つ、どこか不思議な雰囲気のシャーロット。
二人が打ち合わせをしていた喫茶店で事件が起こる。
※ミステリーを書いてみたいと思い、挑戦した作品です。
※架空の帝国「ケルトニカ帝国」を舞台にしたミステリー
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる