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1:運命の邂逅
森の奥に棲む恐ろしき竜
しおりを挟む雪と見紛う白い髪の少女が髪を靡かせる。まだ年の頃は一五、六程だろう。身なりはあまり良いとは言い難い。少なくとも貴族ではない。平民かそれ以下といったところであろう。探しモノがあるのか忙しなく目や頭動かしている。若い娘が困っているのを見た街の人間が気にかけて声をかけた。声をかけられた少女が振り返る。紅玉色の瞳が向いた。親切心から呼びかけた者を数秒凝視してから話しだした
「この辺りで黒い竜が飛んでいたと聞いて来たんですが」
「ああ……噂を聞いて来たのか」
探しものの正体を聞いて声をかけた住人は顔を顰める
この近くの森には黒い鱗を持ち青い目の悪しき竜がいるという噂があった。かつて世を支配していた魔王の手先であったという竜だ。黒炎を吐き出し、翼で暴風を巻き起こし、牙や爪は鋭く引き裂き或いは食いちぎるという恐ろしい竜。英雄気取りや好奇心から無謀にも関わりにいき、無事で戻って帰った者が一人もいないのを街の人間達は知っていた。そのため森に棲み着いてしまった以上は刺激しないように街の者は注意を払って暮らしている。そんな生活に嫌気が差して以前よりも住民も減っている程だ
「やめときな。好奇心で見るものじゃない。お嬢さんはまだ若いし、わざわざ痛い目見る事もないだろう」
「どこですか?」
「……何?」
「どうしても会いたいんです。一体、どこに?」
少女は懸命に訴えかける。その瞳は真摯に、切なさを含んで告げていた。遊びとはとても思えない。やや面食らった住人は少女の強い意志に戸惑う。何度も命知らずな若者を見てきた住人だが、それと種類が違うように思え、それが拍車をかけていた
眉間に皺を寄せ腕を組んで考え始める。少女は引きそうにない。何か事情があるのだろうと思った住人は皺を刻んだまま森の方角を見遣った。視線を追って少女が森の方へと体を向ける。森は深く、広大だ。街からでは家々などで見えないためそれを少女は今の位置からで確認出来ないが
「ここをまっすぐ進むと森がある。すぐにわかるだろう。森の奥の奥に奴は棲んでいる」
「ありがとうございます……!」
「いいか、すぐに引き返すんだよ。それから食料や道具類をちゃんとそろえてから……あっ!」
説明している最中で少女は森に向かって駆け出した。背後から少女に注意点を叫んでいるが少女の耳には届いていない。少女は一刻も早く竜のいると言われる奥地まで行かなければならなかったのだから
*
ひたすら奥へ奥へ目指して少女は行く。歩いても歩いても同じような景色が続くが少女はさして気にかけていなかった。今は少しでも奥へ。その考えが頭を支配していた
歩き続けていると空気がビリビリ震えて来たのを感じ、足早になる。周囲を威圧する何か。そこに近付けば近付く程に強くなっていく。逸る気持ちが足を止めようとしない。やがて大地に響くような唸り声が聞こえた。枝葉を手で退けて少女はそこに辿り着く
艶めいた黒色が頭から尾まで包んでいる。腹部と角は黒色ではない。アイスブルーの強い瞳は敵である少女を捉えていた。他者を寄せ付けない雰囲気を纏っている。口を大きく開き咆哮を上げ、少女を威嚇する。牙は鋭く尖っており口は少女を丸呑みするのも容易い
少女の鼓動は激しく高鳴っていた。圧倒的な存在感。咆哮は魂を掴んで揺さぶりかねない。別格の存在と言えた
「何の用だ、娘。私の首を獲りに来たか。それとも牙か、爪か、尾か。貴様に渡す者は何一つない。命が惜しければ出て行け」
だから、そんな邪竜と噂される竜を見て自然と零れたのは――――
「……綺麗」
素直で簡潔な言葉だった
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