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1:運命の邂逅
交わす言葉
しおりを挟む――ずっと会いたかった。もう一度、姿を見たかった
かつて少女は間違いなくこの黒竜を見た。空の彼方まで消えるのをずっと目で追った。その姿に目を奪われた相手――皆が恐れる竜。白雪が如く少女は恐ろしいという気持ちはなかった。むしろ言葉が交わせるなんてなんと僥倖なのかと喜びが胸中に広がっていた
「わたしあなたに会いたいと思っていたの」
「そうだろうな。こんな奥地まで来る程だ。しかし貴様にやるものはない。力も貸すつもりもない」
「黒竜様は、一目惚れとかって信じますか……?」
少女が胸の高鳴りに両手で胸を押さえながらも問い掛ける。初めて黒竜を見た時、目だけではなく心も奪われた。故に心臓は激しく脈打ち、告げる声は震えている。頬は赤く色付き頭は真っ白になってしまいそうになる。言葉も上手く纏まらない。それでも少女は唇を開いて言葉を紡ごうとしていた。黒竜への想いを
「あなたの事、知りたいの」
「――帰れ」
そんな少女に浴びせたのは冷たい言葉だった。放たれた言葉は他者を屈服させる程の力強さがあった。少女は両足に力を入れて踏みとどまる。力を込めなければ崩れ落ちてしまいそうだった。少女の体は危険であると警鐘を鳴らしている。圧力だけで力を奪うこの黒竜は生命を脅かす生物であると。それでも少女は体からの警告を無視し、黒竜に悟られぬように見つめて一歩踏み出した。すると竜は前肢の片側を上げ、思い切り振り下ろした。大地を踏み鳴らして遠くまで振動させる。振動で少女の体が僅かに浮いた。少女が懸命にこめた力など脅威の生物の前では無いに等しい
「帰れ、人間の戯れ言を聞くつもりはない!」
「お願い、話を――」
「愚かな人間よ、そんなに死にたくば朽ち果てるがいい!」
憤怒で燃え上がる目が眼光鋭く少女を睨めつけて大きな翼を広げる。広げただけで少女の視界の半分を埋め尽くした翼は羽振き始める。風を生み、やがて強風となって少女を襲った。大地に根を張るように飛ばされまいと踏みとどまる少女だが、徐々に風は強くなる。周囲の木々の葉は風で舞い、枝は撓う。その内に枝は折れて風のままに飛ばされた。次第に少女の体も浮き、とどめとばかりに強く翼を動かした。途端に力に押さえつけられて枝葉と共に飛ばされてしまう
少女が唇を動かして何か伝えようとしている。だが荒れ狂う風の前では何も黒竜には届かなかった
――暴風を止めた時にはとうに少女の姿はない。木々も抗えなかった横風で周辺の木の葉はすっかり散ってしまった。森の気配を探る。少女の気配は遠ざかっていっていた。少女がいなくなったと知ると黒竜は身を伏せる。黒竜にとっては彼女がどんな想いで来たのかなど知ったことではない。今まであらゆる目的でここに訪れた数多の者たちと大差ないのだ
つと、魔族の頂点に君臨していた者が脳裏によぎって目を細めた
――嗚呼、気分が悪い
それはこんな日々か
先程の新たな訪問者か
それとも――――そこまで考えて瞼を下ろした
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