一目惚れなんです、黒竜様

雪吹つかさ

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1:運命の邂逅

休められない羽

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「――全て終わった」
「ああ、終わったな」
「魔族の負けだ」


 近いようないつ遠いようないつか。隣にいるが昔を思い出しているのか遠い目をしてぽつりと呟いている。私はそれを横目で見て、目の前へと注視した。魔王城が煙を上げて崩れていく。魔王軍は幹部が討たれた事により散り散りとなった。言わずともわかっている。勇者が長き戦いに終止符を打ったのだ


「……ああ」
「お前はどうするのだ?」
「私は人の目に触れぬであろう場所にこもる。ゆっくりと羽を休めたいのだ」
「そうか……」


 ――もう懲り懲りだ


「お前には、似合わないな」


 がそんな事を言った。何が似合わないのか問わず語りをしてきたがよく覚えていない。私は兎角休みたいのだ。もう疲れてしまった
 だから私は広大な森の人が寄り付かない奥地で身を休めた。最初の内は安住の地だった。だが、とある日に人間が迷い込んだ。私を見た人間は何か喚きながら攻撃を仕掛けてきた。それを追い払うと今度は違う人間がやってきた。次も追い払ったがそれから不定期に次々に人間達がやってきた
 人間達が来るのは大体同じ理由だ
 素材、名誉、興味本位。好奇心は猫を殺す――それは人間達の言葉ではなかったのか
 傷を癒すためのはずが休んでいる気がしない。他の地への移住も考えたが勇者によりどこもダンジョンとして有名らしく、ここ以上に人間が入るらしい。人間達は懲りたのかほとんど寄り付かなくなった――それでも時々現れるが――というのもあり移住はしなかった。何よりもう疲れたのだ


 もう私に関わるな、人間も魔族も



「……――懲りんようだな」


 回想から意識を戻し目を開いて身を起こす。また人間が森に入りこちらに向かってきている。手間だが突風あるいは獄炎で焼かなくてはならん。私はいつになればゆっくりと心身休める事が出来るのだ


「……あの」


 顔を見せたのは今日戯言たわごとを並べた、私とは真逆の色を持つ人間だった。腕にいくつもの瓶と大量の草を抱えていた


「何の用だ」
「さっきはごめんなさい。反省したの。いきなりあんな事言われたら困るよね……」


 腕にそれを抱えたまま二つ折りに体を曲げた。人間の謝罪のポーズの一つだ。人間は謝罪をすると持っている物をその場に置き始めた。何を始める気だ。警戒して構えておき注意深く見下ろす。人間はその場に膝をつき、そのまま座り込んだ。あまりに不可解な行動に黙って見ていると片手を上げて私の翼を指差してきた


「薬草と傷薬を買ってきたの。さっき怪我しているのが見えたから」


 さっき。羽を広げたのはこの人間を飛ばす時だ。あの時に見られたのか。そこにつけ込んで毒を盛ろうという魂胆だろう


「失せろ。毒だろう。手負いの身であろうと貴様程度の人間を屠るのは容易いのだぞ。毒を盛ろうなどと考えぬ事だ」
「毒じゃないわ。こっちの薬草は食べられるくらいだって聞いたの」
「なら貴様は食えるのか。今すぐ食べてみろ」
「ええ」


 何の躊躇いもなく人間は薬草と呼んだ草を口に入れた。何度も噛んで飲み下す。人間の顔は汗一つ浮かんでいない。苦しんだ顔でもない。矢継ぎ早にもう一つの瓶を開けて呷った。こちらも何の異常も現れない。苦悶の表情どころか人間は笑っていた


「ね? 何ともないよ。薬だから少し苦くはあるけど……」
「――何が目的だ、人間。そうまでする理由は何か私から得たいからだろう」


 本当に毒ではないならば、この人間は何故そこまでするのかがわからない。目的が見えん。その理由を問い質すと人間は目を見開いた後に伏し目がちになった。しかしすぐに顔を上げて私を見る。泣きそうなのか目が潤んでいた


「最初に言った通り、あなたの事を知りたい。話をしてほしいの」
「本当の事を言え」


 そんな理由であるはずがない。真実を促すと人間は首を振って否定した


「本当だよ。あなたのそばにいて、お話が出来ればいいの。それ以上は望まないから……」


 ――話にならんな


「帰れ」
「え?」
「帰れと言っている。二度も言わせるな」
「……わかった……」


 諦めたらしい。人間は立ち上がって来た方向をに向かい歩き出る。だが途中で足を止めて振り返ってきた。何か言いたい事があるのか開口したが結局何も言わずに街に戻っていった。人間が草や瓶を忘れていったが後で埋めておけばいいだろう。私は強く鼻息を出してもう一度体を伏せた
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