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2:かつてない光景
深い森の中で
しおりを挟む青空が闇へと包まれた夜。竜は身を起こしてまだいる少女を見遣る
少女は泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしい。膝を抱えたままで、寝息を立てている。森には野生の夜型動物もいるため危険だ。その上人々に恐れられている黒竜がいるというのに
黒竜は空を見上げる。数え切れない程の星達は皓然と光り輝き、青白い月が見守っていた
目を閉じれば梟の声や風でそよぐ枝葉の葉音が耳に届く。人々だけでなく幾らかの動物も眠っている比較的静かな夜だ。すぐ近くにいる少女を除けば森への侵入者はいない
少女へと視線を落とす。月明かりはあるが木が影になっており細部までは見えない。しかし捲れた袖や足には切り傷があった。突風で吹き飛ばされた時に負ったものだろう。黒竜は考えるような素振りをしたのちに、顎を地面へとつけた
空が明るくなり始める頃に少女は目を覚ました。顔を上げてキョロキョロと顔を左右に振って辺りを見回し、正面に竜がいる事に気が付いて漸く眠ってしまった事に気づき、立ち上がって手で服についた土や葉っぱを払った。何度も叩くようにして取り去ると黒竜と目を合わせた
鮮やかな赤色は真逆の色を見つめてから微笑を一つこぼして頭を下げた。顔を上げても頬は緩んでいる
昨日は泣いていたとは思えない表情だ。一晩眠って涙も落ち着いたようだった
「黒竜様、長々とごめんなさい」
「…………」
黒竜は何も話さない。黙り込んでいる。少女は臆せず話していく
「信じてもらえていないだろうけど、わたしが言った事は全部ほんと。黒竜様は違うと言っても、黒竜様は綺麗だと思う」
また戯言を、だとか本当の事を言え、だとか。黒竜は言わなかった。黙視を続けている
「……わたしはあなたから何かをもらったり、傷つけるつもりはないよ。せめてそれだけでも信じてほしい」
先程まで笑っていた少女は途端に悲しげに目を伏せる。手をお腹の前で組んでは自身の指に絡ませて少し落ち着かない仕草をした。下唇を僅かに噛んでから呟くように言った
「あなたが話したくないなら話したりもしないから……」
呼吸が徐々に速くなっていく。大きく息を吐いて絡ませるのをやめて自分の片手を強く握った。手が震えてしまわぬように
意を決した様子で瞼を上げて黒竜の顔を見据えた
「だから。また、来てもいい……?」
語尾が消えてなくなりそうな程に弱々しい。声は震えており、手が震えない代わりに声に移ったかのようだった。少女の心音は大きく、堪えられなくなってきたのか視線を鱗に移してしまう
まだ弱い陽の光を浴びて煌めいている。それに目を奪われて、鎮めるはずが変わりなかった。どうやったってこの竜のあらゆるところに惹かれてしまうから
数分程そうしていると黒竜は顔を背けた。少女の肩が跳ねる
黒竜から出たのはたった一言
「好きにしろ」
少女にとっては天にも昇る気持ちになる一言だった
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