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10:果実は実り
遠くの彩り
しおりを挟む「――収穫祭?」
「そ、そうなんです……! フェリーク様は知って、る……?」
午後からの販売後。グレンと話し合い、収穫祭で出すパンについて決めた。それから食事をとり、暗くなる前にイヴは慌てて出てきた。森をひた走り、いつもの場所に行けば黒い姿を見ることが叶う。念のため辺りを窺ったがあのライバルとおぼしき女性は見当たらず、イヴは胸を撫で下ろした。
そうして、イヴの言動に不審げに見るフェリークに収穫祭について切り出したところだった。収穫祭という単語を出したところの反応としてはまったく知らない訳ではなさそうで、間が空いた。
「あ、えっと……二回あるんだけど、いつもこのくらいの時期に一回やっているらしくて。色んな人も来て、食べ物も出て、みんなで楽しむみたいなの」
「……道理で。喧騒が届く時があるとは思ったが」
「知ってはいたんですか?」
「賑わいがあれば自然と届く。森の侵入者も感知しているのだからな」
この森は彼にとってテリトリーだ。入ってくる者は感知して威圧したり風を起こして遠ざける事が出来る。そんなフェリークの元に祭りの賑やかさは届いているようだ。その内容は知らなかったようだが。
声だけが届く遠くの祭り。
町からは少し距離があるとはいえ、森自体は町の近くにある。だがフェリークは見ることも味わう事もない。そのことにイヴは寂しい気持ちを抱くが彼の黒竜を連れて祭場まで連れていけるわけではない。イヴが出来るのは味方であること。ほんの些細なもしもフェリークが雰囲気を味わいたいというのなら出来る限りのことをする。彼女としては望んでほしい気持ちはあるが、それを促すようなことは口には出来なかった。
しかし、知らないとわかったのならどうにか自分に何か出来ないかとも考える。せめて収穫祭の何かに触れるようなことは出来ないかと。
「フェリーク様は……甘いものは好きですか?」
「……甘いもの?」
「甘い……パンとか」
問いかけてちらりと目で窺う。冷徹さを与える瞳はイヴを見つめたが、木々の方へと逸れる。
「毒でないのなら食す物が多い」
返答を聞いたイヴの表情が花咲くように明るくなった。フェリークは息を吐く。ブレスがかかった草花が揺れ、落ちている葉っぱが吹かれて飛んでいった。蹲るようにして体を伏せ双眸を伏せる。円らな瞳がそれを見つめていた。
「眠る。立ち去れ」
「あ、あの。収穫祭が終わったらお話に来ていいですか?」
「好きにせよ。立ち去れ」
「は、はい! また」
嬉しそうに花笑んで、イヴは立ち上がる。暗くなり始めた空に急かされるように来た道を走って戻っていった。場に静けさが訪れる。しかし、何かが黒竜の神経に触れていた。街を目指す少女の物とは違う。
――侵入者めが。ここにたどり着くまでは近いか。
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