一目惚れなんです、黒竜様

雪吹つかさ

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13:変動

岐路

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 ――イヴ達が暮らす地域はやや温暖な気候であるため、一年の変動は大きくはない。一年中安定はしているがしかし、完全に温暖な地域ではないため、ある程度変動はある。収穫祭を終えた後は気温が下がっていっていた。
 迷いが晴れぬまま時間が過ぎ、そうして冷える時期も越えようとしていた。リリスが討伐隊の事を伝えに来てから幾分経っているが、未だその気配はない。誤情報であれば、考えを改めてやめてくれたのなら。そんな希望をイヴは抱くと同時に、不安が拭えなかった。

 考案したりんごの蜂蜜漬けと木の実がカゴから無くなり、イヴはいつも通りカゴを下げる。
 定番のパンの一種となったパンは、日々よく売れており今日も閉店時間までに売り切れた。今日はもう追加がないため、無くなっている他のパンのカゴも手に取り下げていく。下げ終えればカウンターの方へと向かった。


「ええっ、もうないの?」


 店内の入口の方から聞き覚えのある声が聞こえて、イヴは振り返る。完売のため先ほど下げた――パンが陳列されていた場所で、フードを被った人影がパンのあった場所を見ている。聞き覚えと見覚えのある相手がイヴの方を見た。それにより目が合った。目が合うと、まるで旧友にでも会ったように気さくに笑いかける。イヴの方は複雑そうに、ぎこちない表情を浮かべた。
 閉店してから、二人から許可をもらってイヴは店に来たリリスと広場の方へと向かった。陽が落ちかけているため、町の中から人が減っている。人気ひとけのないのを確認してから、リリスは腰に両手を置いて体を折り畳むようにしてイヴの顔を覗き込んだ。


「本当に行ってないみたいじゃない。なんで行ってないのよ」
「い、行ってないって」


 怒ったような――どちらかと言えば拗ねたような――口調でリリスは言う。イヴは勢いも相まって戸惑い、身を少し引いて言葉に詰まった。


「決まってるでしょ、あの竜様。あなたの好きなフェリーク様よ。あれから行ってないでしょ」
「それは……はい。来ないように言われたので」


 日は随分経ってはいるが、あれからイヴは未だにフェリークの元には行っていない。素直に彼の言葉を守り続けている。それを以前、健気だと称したリリスだったが、イヴの返答を聞いたリリスは深い溜め息をついた。溜め息の後に、手近な場所に腰を落ち着かせる。


「じゃあ、結局つがいになりたい訳じゃなかったの?」
「それは……まだ。わからなくて」
「呑気なお嬢さんねぇ。討伐隊が来るって言ってて、魅力的なメスが他にもたくさんいて、大好きなフェリーク様が集落に行くって言ってるのに。このまま別れてもいいのね?」


 唇を尖らせて、矢継ぎ早に問いかける。イヴは大きく頭を左右に振って否定した。


「一緒にいたいです。つがい……とかはわからない、けど。……でも」
「でも、じゃないのよイヴちゃん。ま、種族も大きく違うし、私達側の集落だし、簡単ではないのはそうでしょうけど」


 リリスの人差し指が、イヴの額をつつき、強く押す。かけられた力に合わせてイヴの頭部は前後に動き、軽く首を振ってからリリスの指が届かない地点まで足を下げた。不満を湛えるリリスは足を組んで、その足を支えにして頬杖をつく。何か考えているようで、正面にいるイヴのいる方向とは違う方に顔を向けた。
 その様子に、何かあったのかとイヴに思わせる。心拍数が若干上がりながら、イヴはリリスを見つめた。


「言ってた一月、がもう経ったけどまだ来てないでしょ? 私はその間あっちの集落と連絡を取り合いながら調べていたの。そうしたら」
「討伐隊の話がなくなった……とか?」
「まさか。逆よ。確実に仕留めるために、増員しているみたいよ。それで時間がかかっているみたい」
「増、員」


 確実に仕留める。増員。
 耳を塞ぎたくなるような単語の羅列に、イヴは足の感覚がなくなったような錯覚を受ける。イヴの迷いなど関係なく、中央の者達は確実に動いている。迷いの元である相手そのものが消える危機が増しているのだ。
 茫然と佇むイヴをリリスは見ていた。しばらくして、リリスは立ち上がる。


「まだすぐには来ないだろうけど、来られたらあの竜様でも危ないわね。でも、食料とか周辺に敵がいないかとか、集落の受け入れ体制とか下準備がいるわ。私たちもすぐには行けない」


 イヴの横を通り、リリスは少しして足を止める。横目でイヴを見遣った。


「一緒に行くなら私は歓迎するわ。来るならフェリーク様、に話すといいわ。――――来ないなら、忘れなさい。かの孤高の黒竜様の事をすべて」


 そう言葉を残して、リリスは立ち去った。


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