69 / 71
14:平穏の先
一番近い夫婦
しおりを挟む休みの日にアメリアと収穫をした数日後。グレンも帰ってきて仕込みも終えて、営業に戻った。
いつも通りにパン屋での業務を行う。一日の営業を終えて、汗と共に汚れも落とした。眠る前の自由な時間。イヴはシェリーに呼ばれてダイニングの方へと向かった。
今月分の給料と同じ流れなため、給与を渡されるものだと思いダイニングに入ったイヴは目を瞬かせる。シェリーもグレンも揃っていたが、コインはテーブルに置かれていなかった。
「イヴ。前に確か戦争孤児だって言ってたよね?」
「はい、そうですけど……?」
「引き取り手はいなかったのかい?」
話されたのは以前少しだけ話した孤児であるという話だ。予想だにしていなかった質問に、イヴは戸惑いながらも答える。シスターたちと別れたが、それは身上を保護してくれる存在が現れた訳ではない。ただ、フェリークを追っただけ。
「そんな子供でもないので……」
内情は話さず、イヴは否定する。
彼の黒竜を追い求めて旅立つそれまではいたが、孤児になったのはここ数年の話だ。旅立つ時には、この国では大人として扱われる年齢だった。成人を控えた孤児は子供よりは引き取り手が少ない。引き取る側の考えによっては、大人でも引き取るが自力で生活出来る齢だ。それならば自身での生活を選んで出ていく者も多い。それでも残るならば、場所も場所なので神に仕える身となっていた事であろう。
イヴは居た期間もあって、引き取り手はおらず、シスターになる事も選ばずに飛び出した。年齢の事もあるが、生活出来ているイヴにとって、身上の保護の相手について考えた事はなかった。その程度の認識である。
「そうかい。……グレンと話し合ったんだけどね、家族として、これからここに居る気はないかい?」
「え……?」
シェリーから出された提案に、イヴは呆然と聞き返す。イヴはシェリーとグレンを順に視線を移した。二人はイヴに真っ直ぐに視線を向けており、冗談でも何でもなく真剣に言っている事がわかる。思いもよらなかった提案に、イヴは当惑を隠せずにいた。
家族として迎えたいと二人は伝えてくれたが、イヴは素直に喜べない。彼女が今抱えている問題がどうしてもそうさせた。視線を彷徨わせ、言葉を紡げずにいるイヴに、シェリーは立ち上がり肩を撫でるように叩いた。
「強制している訳じゃあないよ。そこはあんたの自由さ。あんたさえ良けりゃ、このまま家族になりたいって思っただけさ」
「あ……嫌とかじゃないんです。ただ……びっくり、して」
少しずつ、言葉を口にしながらもそれ以上の言葉を言いはしない。断言する事を避けている。普段良くしてくれている二人にはっきりと断る事も、承諾する事も出来ない。手は自身の服を握り、言えずにいる自分への感情がそこに含まれている。
そんな迷いに満ちたイヴに、怒る事もせず、ただ優しい眼差しで二人は見守っていた。
「急に言って困らせてしまったね。すぐに答えが出るものでもないし、急いで結論を出す必要はないよ。断っても今の関係が続くからね。決まったら伝えてくれるかい?」
「……はい」
促されるようにして言葉を吐く。胸の内に渦巻く感情は声には乗せずに。そうとは知らず、うんうんとグレンは笑みを湛えて頷いていた。イヴはそんなグレンを見ることは出来なかった。これ以上プレッシャーをかけてはいけないという配慮だろう。話をそれで終えると、解散となった。眠れるようにと言葉をかけ、部屋まで送られて二人は出ていったのだ。
グレンの言う通り、断ったところで二人の優しさや接し方は変わらないだろう。保留の間も、二人は変わらぬ態度でいるに違いない。だからこそ。このままではいけない。
俯いていたイヴは顔を上げる。その瞳には決意が宿っていた。
0
あなたにおすすめの小説
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる