一目惚れなんです、黒竜様

雪吹つかさ

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14:平穏の先

一番近い夫婦

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 休みの日にアメリアと収穫をした数日後。グレンも帰ってきて仕込みも終えて、営業に戻った。
 いつも通りにパン屋での業務を行う。一日の営業を終えて、汗と共に汚れも落とした。眠る前の自由な時間。イヴはシェリーに呼ばれてダイニングの方へと向かった。
 今月分の給料と同じ流れなため、給与を渡されるものだと思いダイニングに入ったイヴは目を瞬かせる。シェリーもグレンも揃っていたが、コインはテーブルに置かれていなかった。


「イヴ。前に確か戦争孤児だって言ってたよね?」
「はい、そうですけど……?」
「引き取り手はいなかったのかい?」


 話されたのは以前少しだけ話した孤児であるという話だ。予想だにしていなかった質問に、イヴは戸惑いながらも答える。シスターたちと別れたが、それは身上を保護してくれる存在が現れた訳ではない。ただ、フェリークを追っただけ。


「そんな子供でもないので……」


 内情は話さず、イヴは否定する。
 彼の黒竜を追い求めて旅立つそれまではいたが、孤児になったのはここ数年の話だ。旅立つ時には、この国では大人として扱われる年齢だった。成人を控えた孤児は子供よりは引き取り手が少ない。引き取る側の考えによっては、大人でも引き取るが自力で生活出来る齢だ。それならば自身での生活を選んで出ていく者も多い。それでも残るならば、場所も場所なので神に仕える身となっていた事であろう。
 イヴは居た期間もあって、引き取り手はおらず、シスターになる事も選ばずに飛び出した。年齢の事もあるが、生活出来ているイヴにとって、身上の保護の相手について考えた事はなかった。その程度の認識である。


「そうかい。……グレンと話し合ったんだけどね、家族として、これからここに居る気はないかい?」
「え……?」


 シェリーから出された提案に、イヴは呆然と聞き返す。イヴはシェリーとグレンを順に視線を移した。二人はイヴに真っ直ぐに視線を向けており、冗談でも何でもなく真剣に言っている事がわかる。思いもよらなかった提案に、イヴは当惑を隠せずにいた。
 家族として迎えたいと二人は伝えてくれたが、イヴは素直に喜べない。彼女が今抱えている問題がどうしてもそうさせた。視線を彷徨わせ、言葉を紡げずにいるイヴに、シェリーは立ち上がり肩を撫でるように叩いた。


「強制している訳じゃあないよ。そこはあんたの自由さ。あんたさえ良けりゃ、このまま家族になりたいって思っただけさ」
「あ……嫌とかじゃないんです。ただ……びっくり、して」


 少しずつ、言葉を口にしながらもそれ以上の言葉を言いはしない。断言する事を避けている。普段良くしてくれている二人にはっきりと断る事も、承諾する事も出来ない。手は自身の服を握り、言えずにいる自分への感情がそこに含まれている。
 そんな迷いに満ちたイヴに、怒る事もせず、ただ優しい眼差しで二人は見守っていた。


「急に言って困らせてしまったね。すぐに答えが出るものでもないし、急いで結論を出す必要はないよ。断っても今の関係が続くからね。決まったら伝えてくれるかい?」
「……はい」


 促されるようにして言葉を吐く。胸の内に渦巻く感情は声には乗せずに。そうとは知らず、うんうんとグレンは笑みを湛えて頷いていた。イヴはそんなグレンを見ることは出来なかった。これ以上プレッシャーをかけてはいけないという配慮だろう。話をそれで終えると、解散となった。眠れるようにと言葉をかけ、部屋まで送られて二人は出ていったのだ。
 グレンの言う通り、断ったところで二人の優しさや接し方は変わらないだろう。保留の間も、二人は変わらぬ態度でいるに違いない。だからこそ。このままではいけない。

 俯いていたイヴは顔を上げる。その瞳には決意が宿っていた。

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