お試しデートは必須科目〜しなけりゃ卒業できません!〜

桜井 恵里菜

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いつの間にかこんなにも

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夏休みが終わり、新学期が始まった。

「樋口さん、おはよう!久しぶり」

「おはよう。沢田さん、髪ばっさり切ったんだね」

「うん。ちょっと気分転換にね」

「そうなんだ。似合ってて可愛い」

「そう?ありがとう」

席に座って沢田さんと話していると、後ろの笠原くんがやって来て机にカバンを置く。

「おはよう、樋口」

「おはよう、笠原くん」

挨拶してから、私は、ん?と首をひねる。

(あれ?笠原くんと沢田さん、ホワワーンとしてない)

そう思いながら二人のカバンを見て、あ!と思わず声を上げる。

「どうしたの?」

沢田さんに聞かれて、「ううん、何でもない」と咄嗟に答えた。

(二人のスクバ、お揃いのマスコットがなくなってる。それってつまり、別れたってこと?)

髪をばっさり切って気分転換したのも、きっとそういうことなのだろう。

(そっか、そうだよね。つき合ってしばらく経ったら別れるカップルも出てくるよね)

先生の話では、お試しデートの課外活動は、もし別れてしまったらそのあとは無理に新しい相手を探さなくても良いということだった。

つき合った期間の長さやレポートの枚数は成績には響かないから、と。

(ってことは、もう活動を終えた人達も何人かいるってことか)

沢田さんと笠原くんは、何事もなかったかのように顔も合わせない。

その日は始業式のあと席替えをして、私も沢田さんも笠原くんも、離ればなれになった。

◇◇

(課外活動が続いてるペアって、今どれくらい残ってるんだろう)

ホームルームを終えて昇降口に向かいながら、私はふと考えた。

誰と誰がペアなのかは分からないけれど、以前は少し華やかだった周りの雰囲気が妙に落ち着いている気がする。

机で黙々と問題集に向かっている人も多かった。

(みんなここから先は受験勉強に専念するのかな。私も遅れないようにがんばらないと!)

自分は活動もまだ残っているし、と考えてから、そう言えば…と疑問が湧いてくる。

(私と工藤くん、いつまで活動するんだろう。10月で終えてもいいことになってるから、今続いてる他のペアもそこで終了する人達がほとんどなのかな?工藤くんも、受験勉強のことを考えたら早く活動を終えたいのかも)

うーん、どうなんだろうと思いつつ階段を下りていると、後ろから「樋口!」と呼び止められた。

振り返ると、笠原くんがタタッと階段を下りて来る。

「笠原くん、どうかした?」

「ああ。樋口、ちょっと時間ある?」

「うん、大丈夫だけど」

そう答えると笠原くんは私を、階段の横の人気のない渡り廊下に促した。

「なあに?何か話?」

「うん、まあ」

少し言い淀んでから、笠原くんは思い切ったように顔を上げた。

「樋口、課外活動ってまだ続いてるの?」

「え?うん」

「そうなんだ。でも10月で終わるんだろう?」

「どうかな、分かんない」

「それ以降も続けるってこと?そんなペア、聞いたことないぞ」

そうなの?と私は驚く。

じゃあやっぱり工藤くんもそのつもりなのかな…と考えていると、笠原くんがまた口を開いた。

「樋口、俺とつき合ってくれない?」

考えごとをしていて、すぐには理解できない。

「…え?ごめん、何?」

「だから、俺とつき合って欲しいんだ」

「あ、活動のこと?」

そうか、沢田さんとは別れちゃったんだもんね、と思ってから、あれ?と首をひねる。

「ペアを解消したら、そのあと無理に新しい相手を探さなくてもいいんじゃなかったっけ?」

「そうだけど、その話とは関係ない」

「ん?じゃあどういう話なの?」

「俺、樋口が好きなんだ」

「…は?」

意味が分からない。
いや、意味は分かるけれど意図が分からない。

「好きってどういうこと?私に何か頼みたいの?」

「ええ?なんでそうなるの。普通に、樋口っていいなって思って。彼女になって欲しいんだ」

「は?いったい何をどうしたらそういう考えになるの?私、学校でじっとしてるだけだよ?」

「ええー?難しいこと言うな。人を好きになるのって理屈じゃないだろ?なんか、今まで樋口と席が近かったからさ。授業中の真剣な表情とか、俺にプリント回してくれる時にちょっと笑ってくれたりとか、そういう些細なことが気になってたんだ。今日席替えして樋口と離れちゃって、すごく寂しくなった」

「はあ…。そういうことなら、そのうちまた前の席の子を好きになるんじゃない?えっと、笠原くんの前って誰になったっけ。青山さん?」

いや、だから!と、笠原くんはちょっと苛立ったように手で遮る。

「俺は樋口が好きなんだってば。樋口、課外活動はやめて俺とつき合ってくれない?」

「そんな、相手に聞かずに勝手にやめられないよ」

「じゃあ俺からそいつに話をしてもいいから。誰?活動のペアって」

「俺だけど」

突然聞こえてきた声に、私達は驚いて振り返る。

「く、工藤くん…」

私は驚いて言葉を失う。

久しぶりに見る工藤くんはいつにも増して真剣な表情で、ツカツカと近づいて来ると、いきなりグイッと私の肩を掴んで引き寄せた。

「悪いけど、俺は何を言われても樋口とペアを解消する気はない。じゃあ」

そう言うと私の肩を抱いたまま歩き出す。

「ちょ、ちょっと、工藤くん」

強引に連れて行かれ、屋上へと続く階段の踊り場まで来ると、工藤くんはようやく私から手を離した。

「樋口、俺が現れなかったらなんて答えるつもりだったの?」

向き合った工藤くんに真剣に問いかけられ、私は何も考えられなくなる。

「あいつに言われるがまま、俺との関係を解消してあいつとつき合う気だったの?」

「え、そ、それは…」

射抜くような視線で見つめられ、私は上手く言葉が出てこない。

「俺だけだったのか?一緒にいて楽しいって思ってたのは。このままずっとこの関係を続けたいって思ってたのは。樋口は何とも思ってなかったのか?俺は夏休み中も、樋口に会いたくて会いたくてたまらなかったのに。いつの間にか、こんなにも」

そこまで言ってうつむいてから、工藤くんは再び顔を上げる。

「こんなにも大切な存在だって思ってたのは、俺だけ?樋口は単なる学校行事の一つに過ぎなかったのか?時期が来たら、あっさり俺から離れていくの?」

だんだんと工藤くんの表情は切なげに変わる。

「樋口が別のやつのところに行くなんて、耐えられない」

次の瞬間、私は工藤くんの大きな腕に抱きしめられていた。

「頼む、俺から離れていかないでくれ。この先もずっとそばにいて欲しい」

耳元でささやかれ、私の胸はキュッと締めつけられる。

「工藤くん…。私も同じだよ。一緒にいると楽しくて、話を聞いてもらうと頼もしくて、優しくされると嬉しくて。いつの間にかこんなにも、工藤くんは私の大切な人になってた」

「樋口…」

工藤くんは少し潤んだ瞳で私を見つめる。

「みっともないことしてごめん。俺、あいつが樋口のこと好きだって言ってる声が聞こえてきて、思わず嫉妬したんだ。平常心ではいられなくなった。あんな自分は初めてだった。どうしようもないくらい俺…、樋口が好きだ」

そう告げられて、私は身体中がしびれたような感覚になる。

頬が一気に赤くなるのが分かった。

「うん、私も。工藤くんのことが大好き」

恥ずかしくて顔を上げられない。

すると工藤くんは、ギュッと私を抱く腕に力を込めた。

「樋口、これからもずっと俺のそばにいてくれる?」

工藤くんの胸に顔を寄せたまま、私は小さく頷く。

「うん。他の誰のところにも行かない。ずっと工藤くんと一緒にいたい」

「ありがとう、樋口」

優しく髪をなでられて、私は何とも言えない安心感に包まれる。

幸せで、嬉しくて、切なくてちょっと苦しくて。

そっと工藤くんを見上げると、涙が込み上げてきた。

工藤くんはそんな私に優しく微笑むと、もう一度腕の中にしっかりと抱きしめてくれた。
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