私のワカれ話

すぎやまひでお

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1. 病院での私

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事故の後、私は意識が戻り、搬送された病院で検査を受けていた。簡易的な検査では問題はなく、擦り傷ぐらいだった。精密検査を受けて、今はその結果待ちの状態。
私の事故を聞きつけた父と母が、仕事を放り投げて病院まで急いで飛んで来てくれた。「無事でよかったぁー!」と泣きながら抱き着かれた。私は家族に愛されているんだなぁ、ウルっと来る。
……ところで…霊の私はここにいるのに、家族と話している私の体の中にいるのは誰??

体の私が救急車で運ばれるとき、霊の私は必死にふわふわと追いかけ、運び込まれた病院を特定することが出来た。
霊の私の移動速度は小走りぐらいが限界だった。救急車のサイレン音を追って、空を飛ぶことが出来たおかげで、見失いつつも病院にたどり着くことが出来たのだった。霊の私が病院に着いて、体の私を見つけた時には検査が終わり、病室にいる状況だった。

どうして体の私と、霊の私が別々にいるのか?事故の衝撃で魂の一部が分かれちゃったの?霊の私と体の私は同じ?それとも別人が入り込んでいたりしない?
体の私を観察した限り、体の私は私っぽい。お医者さんや看護師さん、家族とのやり取りを見ていると、私でもそうしそうな反応をしている。
学校の学年担当の先生も来てくれた。学校への手続きは心配するなと心強いことを言ってくれた。しばらく入院することになるのかな?

体に戻れるか、試しに体の私に重なってみたが、何も変わらなかった。というか、霊の体は人や物をすり抜けることができるのね。それもそうか。それを知っていたら、体の私をもっと早く見つけることができただろうなぁ。一室一室のぞき込んで探していたので時間を無駄にしてしまった。

そういえば、事故現場から急いで追ってきたので、霊の私にはどんな事が出来て、何が出来ないのか、把握していないことに気づいた。
体の私の検査結果まで、まだしばらく時間がかかるみたいだし、色々と試しながら病院内をふらふら散策してみることにする。多分、体の私も同じようにジッとはしないだろうなぁ。

壁や物をすり抜けてみたり、何かを持とうとしてみたり、大声で叫んでみたり。だけど、壁や物には触れられないし、何も持てないし誰も気づいてくれない…
人を通り抜けたとき、「少しゾワっとした」と身震いした人はいた。ほかの人の時はそんなことはなかったので、その人は霊感?のある人なのかな?

救急を受け付けているだけあって大きな病院だなぁ、いろんな人が来ているなぁ、と思いながら病院の待合室あたりをふわふわしていた。
その時、受付の案内所に知った顔が来ていることに気づいた。私の幼なじみで同じ学校に通っている男の子だ。

どうやら私が事故にあった事を知って来てくれたらしい。受付の人にお見舞いできないかを聞いているみたい。今はお昼時、もしかして学校を抜けて会いに来てくれたの!?
嬉しくなって顔が少しにやける。霊の私は鏡には映らなかったけど、自分の顔が赤くなっているのが分かった。

…彼には密かに思いを寄せている。告白しようとは何度も考えたけど、幼稚園からの仲だし、今更小恥ずかしい。何より彼との関係が終わってしまうことを恐れて、これといったアクションは起こせていない。

その彼は受付の人と何やら長く話している。私が運ばれた理由が事故であるために、面会はまだ認められていないとか、基本的に家族でなければ会えないとか、詳細は教えられないとか言われている。
折角、学校を抜け出して来てくれたのに会えないとか!でも、認められていないのであれば従うしかなさそうだ…

ふと周りを見渡すと、通路の向こうに体の私の姿があった。待ち時間ということで、自動販売機までジュースを買いに来たみたい。
おい!こっちを向け!私!のんびりジュースを選んでるんじゃない!
そう思いながら急いで体の私のところまで行く。

振り返れば、これ以上病院には迷惑はかけられないと、彼がしかたなく帰ろうとしていた。
せっかくのチャンス?不意にするんじゃない!
「こっちを向けぇ~~~っ!!」
今までにないぐらい、必死に念じて叫んだ。
そうしたら偶然かもしれないが、体の私がこちらを見た。
「あ!」
霊の私越しに、彼の姿に気づいた様だ。決して大きな声ではなかったが、聞き覚えのある声に彼は気づいた様だ。
「ん?」
2人の目が合い、私に気づいた彼が小走りで歩み寄ってきた。
開口早々、「朝、事故ったって聞いた!大丈夫なの!?」
「っ!来てくれたの?ありがとう。」
彼はすごく心配してくれてたみたい!体の私も少しうれしそうにしている。 

霊の私?
さっき叫んだせいなのか、かなり疲れた…
特別がんばったら霊でも疲れるみたいね…
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