シロツメクサと兄弟

Guidepost

文字の大きさ
15 / 44

15.やりとり

しおりを挟む
 利央の声がして海が楽しげに「はいはい」とマンション入口から鳴ったインターフォンに出た後も、律は怪訝な表情をしていた。
 利央がいるなら飯、あったほうがいいだろうし米炊くか、と海はそのまま台所へ向かっていった。

「りお、何でそんなに心配するんだろ。俺、そんなに頼りない兄貴なのかなぁ」

 少し寂しく思って呟くと「ちげぇよ」と冷ややっこを食べながら亨が首を振ってきた。

「違う?」
「頼りねぇからじゃなくて、お前が好きだから色々心配してんだろ、あいつは。あいつも知ってっからな、俺と海の事。んで俺らが人目気にせずイチャつくのがお前に悪影響だとでも思ってんじゃね?」
「え? りおも知ってたんだ? ってゆーか、何で悪影響……」
「さっきだってお前、俺らが軽いキスしただけで赤くなって固まってただろーが」
「う……」

 でも……むしろじゃあ、りおはそんなのを見ても平気ってこと……?

 律が何となくそんなことを考えていると、亨が続けてきた。

「つかお前だってすげぇ利央のこと心配してんだろ。ちょっと見当たらないと翔に電話かけたりしてんの知ってんぞ」
「だ、だって。それはほら、俺はお兄ちゃんだから……」
「んなもん関係ねぇだろ。弟だってじゃあ弟だからっつーだろそれだと。だいたい兄だったら心配する必要あんのか? 俺、翔に対して心配なんて基本しねぇぞ。そりゃまあお前んとこ歳離れてるし二人だからっつーのもあんだろうけどな」

 亨も二杯目のビールを開けながら言ってきた。

 そういえば亨兄も、兄なんだよな……。

 ふと今さらなことに律は気づく。ただ昔から見ているからだろうか、亨が志水兄弟の兄だというのが当たり前すぎて意識していなかった。それに弟よりも背が低いのは律たちと同じだが、亨を見ていると間違いなく兄にしか見えない。口は悪い方だし適当で軽い感じなのにやはり亨は「兄」らしく見えたし、翔を見ていても全然弟らしさなんて見えないのにやはり亨の弟ということに違和感はなかった。

「ねえ、亨兄。俺、ちゃんと兄に見える?」
「見える見える」
「すごい適当に答えたよね」
「見えるのはでも嘘じゃねぇよ? つかお前ほどすげぇ兄ちゃん見たことねえんだから、自信持てよ。でもさぁ、別に兄とか弟とか気にしなくていいだろ。仲がいい家族。それで十分じゃね?」
「そ、うだね。……ありがと、亨兄」

 ニヤリと笑って言ってくる亨は、やはり兄らしく感じた。
 とりあえず律も冷ややっこを口に入れる。
 確かに兄だとか弟だとか拘らなくてはいけない理由はない。ただそれでもかわいい利央には「兄」としていつまでも頼って欲しいと思ってしまうのだ。要は自分のわがままなのかなとそっと律は苦笑した。
 この間も利央に叱られたばかりだからついほんのり落ち込んでしまう。

 高校生に説教される大人とか。

 しかも「しっかりしてる」と自分で主張しながら実際簡単に押し倒されてしまった。あれは密かにショックだった。

 まだまだ子どもだと思っていたりおに……。

 律はため息を押し殺し、チュウハイをコクリと飲む。
 子どもだと思っていた利央に、身長だけでなく力や判断力など色んなものを追い抜かれたような、そんな気になってしまった。
 でも皆が楽しく飲んでるのにこんな風に落ち込んでるのはよくないとねと、律は飲み終えた後に亨を見た。

「そういえば亨兄も車は詳しいの?」
「は? 何いきなり。あんま知らねえよ」
「そうなの? ほらだって藤堂さんて車のこと、話しだしたら止まらない勢いだから」
「あー。海、車好きだからな、あいつ。俺は動いたらそれでいい」

 亨はニヤリと笑いながら、海が買ってきたテーブルワインを今度は開け出した。

「じゃあ話に付き合ってあげないの?」
「適当にふんふん聞いてるだけでもあいつ嬉しいらしいぞ。要は好きなこと喋れたらいいんだろ」
「へえ。……何か、何だろ、何て言うか、やっぱお似合いなんだね、亨兄と藤堂さんって。今亨兄、奥さんみたいだった」

 律がニッコリ言うと、グラスに入れたワインを飲んだ後で亨が「まじかよ」と微妙な顔をしている。

「うん、お似合いだけど?」
「いや、そーじゃなくて俺が奥さん? 止めてくんねぇ? 奥さんって何つーか甲斐甲斐しくしてるイメージじゃね? 俺、色々するよりされる方が好きなんだよね」
「ああ、確かに藤堂さん優しいし、亨兄が我がまま言っても何でも聞いてくれそう」

 なるほどね、と律が頷くと亨がまたニヤリと笑った後、思わせぶりな表情をしながら律の首に片手を回し、そっと撫でる。

「まあでもあっちの方では俺確かに女役だけどな。それにアレならわりと色々俺がすんのも好きかも」
「え?」

 何言って……と律がポカンと亨を見た時、背後から「ほんっと最悪だな」と利央の声がした。

「え? りお?」

 律が振り向く前に利央が亨から律を引き離してくる。

「ちょ、りお、いきなり何……」
「俺来たの知っててわざと兄貴からかおうとしてたろ」
「あは、バレてんのか。っち。ほんっと利央ってかわいくねぇなー」

 律がポカンとしている中、利央が亨を睨みつけている。しかし亨はしれっとした様子でまたワインを飲みつつ開けた袋からチーズのつまみをとろうとしていた。

「亨兄にかわいいとか思われたくねーし。だいたいそんな事しても兄貴疎いからわからなかったんじゃないのか?」
「あー、まぁそーだろーな。バカ面してたしな」

 呆れたように言う利央に亨も頷き、律を見てニヤリと笑う。

「は? え? ていうか何二人して俺のことバカみたいに……、ああいやそんなことより、りおどうしたの? 何で急に?」

 相変わらずポカンとした後でハッとなり、律は利央を見た。

「何? 兄貴は俺が来たら迷惑?」
「そんな訳ないだろ。そうじゃなくて……ああ、そっか、りおも亨兄に会いたかったんだな」

 利央が小学生の頃はよくこの志水兄弟に遊んでもらっていた。中学生になるとそういったこともなくなっていったが、やはり懐かしい上に慕っているのだなと律はニッコリ利央を見た。律が心配というより、そう考える方が何となくしっくりとした。
 すると何故か利央はため息をついてくる。

「え、俺なんか変なこと言った……?」

 律がまたポカンとすると「いや、兄貴はそれでいいよ」とまるで慰められるかのように利央に言われた。横では亨が少し笑っている。

「亨兄笑ってんじゃねえよ。ったく。兄貴、こいつらほんっとろくでもないから俺、心配で」

 ジロリと亨を睨んだ後での言葉に、律は首を傾げる。

 やはり心配だからなんだ……。

 律はそっと項垂れた。弟に心配される兄というのが相変わらず何だか切ない。だがやはり何故心配なのかわからなかった。

「りお、どういう意味? 亨兄は昔から知ってるし、藤堂さんは職場でいつもいる人だよ?」
「それはわかってるけど。亨兄と海さんの組合せがろくでもねぇっつってんの」
「利央てめ、失礼なヤツだな」

 ろくでもないと言われつつも気を悪くした様子もなく、亨はニヤニヤと言ってくる。

「ほんと失礼だよねえ利央くん。せっかく利央くんのために米炊いてたのに。おかずもちょっと増やそうと面倒ながらに簡単なもん作ってたのに」

 家に来た利央を入れるため一旦台所を離れ玄関に行った後、またずっと台所にいた海が笑いながらやってきた。

「頼んでないし。でもありがとう」

 利央が礼を言った途端、海はきょとんとした顔で利央を見た。

「何だよ」
「いやー、利央くんちゃんとお礼が言える子なんだねえ、かわいい」

 途端ニッコリ笑いながら海は利央の頭を撫でてきた。

「ちょ、やめろ」
「だってほら、利央くん俺に対していつもシビアだろ」
「兄貴に変なことしかねない軽さにシビアなんだよ……ったく」
「ええー、酷いなあ。俺が律に変なことするわけないでしょ」
「そうそう。たまに俺らがいちゃいちゃするだけだろ」
「それがたち悪いっつってんの」

 海の手から逃れた利央が呆れたようにため息ついている。何となく置いてきぼりをくらったような気がして律は「俺、何だろう、ついていけてない?」と首を傾げた。

「兄貴はいいんだよ、むしろついて行くな」
「く、く。お前らほんといい兄弟だよな。かわいいから特別に俺がキスしてやろう」
「いるかよ! 亨兄、冗談でも兄貴に手、出すなよ」

 いっそ息の合った利央と亨のやりとりに律がポカンとしていると、海に「ほら、食え」と律は頭を撫でられる。
 何だろう、本当にどちらが兄かわからないような、と律はそっとため息ついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...