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3話
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ぱちりと目を覚まし、佐紅はふと隣を見た。朝の明るい光が半開きのカーテンからたっぷりと入ってきている。そんな中、真尋は気持ちよさそうに眠っていた。
昨夜、また勝手にベランダから入ってきたのだろう。既に佐紅が眠っている場合、真尋はもちろんなにもしてこないが、それでもこうして潜り込んでくることは多い。
佐紅は複雑な気持ちで、隣で眠る真尋の髪に触れた。短めの完全な黒髪はいつも少しぴんと尖っているようにも見える。なので硬そうかと思いきや、その感触は案外サラサラとしている。そして体は大きいくせに子どものような寝顔をしている。純粋そのものといった寝顔は、普段無表情だからと周りから少々恐れられたり遠巻きに見られたりしているのと同一人物とは思えなかった。
佐紅は苦笑した。そして少し真顔になる。
「……まひろが好きだ」
間違いなく眠っているとわかっていてなお、起きていても絶対に聞こえないくらいの小さな声で佐紅は囁いた。思っているだけでなく口にすることでさらに胸がぎゅっと詰まったかのように苦しくなる。
もしもこの「好き」という気持ちが真尋にバレてしまったらどうなるのだろうと思う。少なくとも、真尋が佐紅を嫌っていないということだけはわかっている。むしろ懐かれている。ただ好意を持たれているとはわかるが、その好意が恋なのかどうかは佐紅にはわからない。恋ではなく、ひたすら擦りこみのように、そばにずっといた佐紅に懐いているだけのような気もする。それにどのみち例え恋だとしても、佐紅は両想いだと喜ぶことはできない。佐紅も男で、真尋も男だ。
この恋はあってはならないもの。
だからこそ、昔からなんでもはっきりと言うタイプの佐紅も、決して言わないと思ってきた。
いや、言わない、ではない。
言えない、だ。
寝返りを打ち、無意識にそばにあるからというだけで腕を回してきた、まだぐっすり眠っている真尋に対してため息を吐いた後、佐紅はその腕を退けた。
「いっそ、マジで彼女作ればいいのに……」
休日、お互いデートをする相手もなく二人で出かけている時に佐紅はまたそっと呟いた。
「……? どうした、さく」
「なんでもない。あ。あそこの雑貨屋、見てみねえ?」
佐紅が向かいにある雑貨店を指差すと、真尋はコクリと頷く。
普段から佐紅はアクセサリーの類をつけないし、インテリアや置物などに拘ったこともない。今もたまたま目に付いた店だから話を逸らすために言っただけだ。真尋もアクセサリーはつけていないし佐紅がそういうタイプだと知っているはずだが「何故」とも「興味あったっけ」とも言ってこない。佐紅が見ようと言えば、ただ頷く。とはいえ逆に「見たいか?」と聞いていれば、興味がなければ「いや」とはっきり言ってくる。
店内に入ると、一応それでも佐紅はどんな商品があるのか見ていく。絶対にいらないと完全否定しているのではなく、ただ基本的に興味がないだけなので、たまたまなにか興味のひくものがあれば買うこともある。
「おお、瀬名と月島じゃねーの!」
クラスメイトでもあり仲のいい友人でもある雄大が声をかけてきた。髪の色をほぼ金色にしているし軽いタイプなのだが、悪いヤツではないのは真尋とも仲がいいことでもわかる。大抵は真尋相手にどうしていいかわからなかったり勝手に怯えたり面倒がったりといった反応を示してくるのだが、雄大はちゃんと真尋を見て色々聞くし、話す。だから表情が読めなくともコミュニケーションが取れている。
「お前らも買い物?」
「ああ、相良もか?」
「そそ。俺は新しいピアス欲しくてさー。ほんとなら彼女と来ようって思ってたんだけど、一人で買って彼女にも渡してーなって」
雄大が悪戯っぽく笑う。佐紅は雄大の耳を見た。
「ピアスな。痛くねーの、それ」
「すでに開いてんだから痛くねーよ? つか開けるのも全然痛くねーって。そんでな、渡してーってのはさー、二つのピアス買ってさ、それを彼女と片方ずつとかにすんの。なんか独占してるみたいでよくね?」
「ごめん、言ってることよくわかんない」
得意げにピアスを選びながら言ってくる雄大に佐紅が答えてると「なんでだよ!」と口を尖らせてくる。
「いや、なにがいいのかがさ。束縛っぽくない? 片方ずつにして所有欲を満たす感じなんだろ」
苦笑しながら言うと、雄大が「えー、つか考え方がかてぇよ」と嫌そうな顔をしてきた。
「まあなんだかんだでモテるお前には関係ねーよな、月島はさー。瀬名はそういうのどう思う?」
べ、と舌まで出してきながら雄大が今度は真尋を見る。
「……いいと思う」
「お! お前は話わかるじゃねーの! つか瀬名ってさー、結構ピアス似合いそう。開けてみたら?」
ニヤニヤと嬉しそうにしながら言う雄大に、真尋はコクリと頷く。
「ほら、こーゆーのとか、どうよ。あ、でもこんなのもよくね? つかこれは俺似合いそ。あ、そっちの! それ、お前に合いそうじゃね?」
まるで意気投合したかのような二人がピアスを物色し始める。とはいえ、喋っているのはほぼ雄大だ。真尋は雄大の言葉に対し、頷いたり首を傾げたりしている。
……でも興味は持ってるって感じだな。
思いのほか興味を持った真尋を、佐紅は微妙な顔で見た。真尋が好きだが、別に雄大と気が合っていることに関して微妙に思うことはない。むしろどこか微笑ましい気持ちさえ湧く。だが真尋がピアスに興味を持ったことに関しては少しモヤモヤとした。今までそんな素振りなんてなかったはずなのに、何故興味を持ったのだろうと思ったからだ。
なにか思うことがあったのだろうか。
心に響くことがあったのだろうか。
そう思っても「多分これだ」と浮かぶことがないのだ。ずっと昔から一緒にいるのに自分が把握していない真尋の気持ちがあるのだと思うと、それが少し嬉しくない自分がいる。心が狭いとしか思えない。いっそ彼女でも作ってくれたらなどと思いながら、こんなことにすら、なんとなくスッキリとしない自分がそして嫌だなと思った。
だがもちろん、真尋がなにかに興味を持つこと自体は嫌ではない。今も雄大に対して「それは嫌だ」とばかりに首を振っている真尋を見て、佐紅は微妙な顔をしながら苦笑した。
昨夜、また勝手にベランダから入ってきたのだろう。既に佐紅が眠っている場合、真尋はもちろんなにもしてこないが、それでもこうして潜り込んでくることは多い。
佐紅は複雑な気持ちで、隣で眠る真尋の髪に触れた。短めの完全な黒髪はいつも少しぴんと尖っているようにも見える。なので硬そうかと思いきや、その感触は案外サラサラとしている。そして体は大きいくせに子どものような寝顔をしている。純粋そのものといった寝顔は、普段無表情だからと周りから少々恐れられたり遠巻きに見られたりしているのと同一人物とは思えなかった。
佐紅は苦笑した。そして少し真顔になる。
「……まひろが好きだ」
間違いなく眠っているとわかっていてなお、起きていても絶対に聞こえないくらいの小さな声で佐紅は囁いた。思っているだけでなく口にすることでさらに胸がぎゅっと詰まったかのように苦しくなる。
もしもこの「好き」という気持ちが真尋にバレてしまったらどうなるのだろうと思う。少なくとも、真尋が佐紅を嫌っていないということだけはわかっている。むしろ懐かれている。ただ好意を持たれているとはわかるが、その好意が恋なのかどうかは佐紅にはわからない。恋ではなく、ひたすら擦りこみのように、そばにずっといた佐紅に懐いているだけのような気もする。それにどのみち例え恋だとしても、佐紅は両想いだと喜ぶことはできない。佐紅も男で、真尋も男だ。
この恋はあってはならないもの。
だからこそ、昔からなんでもはっきりと言うタイプの佐紅も、決して言わないと思ってきた。
いや、言わない、ではない。
言えない、だ。
寝返りを打ち、無意識にそばにあるからというだけで腕を回してきた、まだぐっすり眠っている真尋に対してため息を吐いた後、佐紅はその腕を退けた。
「いっそ、マジで彼女作ればいいのに……」
休日、お互いデートをする相手もなく二人で出かけている時に佐紅はまたそっと呟いた。
「……? どうした、さく」
「なんでもない。あ。あそこの雑貨屋、見てみねえ?」
佐紅が向かいにある雑貨店を指差すと、真尋はコクリと頷く。
普段から佐紅はアクセサリーの類をつけないし、インテリアや置物などに拘ったこともない。今もたまたま目に付いた店だから話を逸らすために言っただけだ。真尋もアクセサリーはつけていないし佐紅がそういうタイプだと知っているはずだが「何故」とも「興味あったっけ」とも言ってこない。佐紅が見ようと言えば、ただ頷く。とはいえ逆に「見たいか?」と聞いていれば、興味がなければ「いや」とはっきり言ってくる。
店内に入ると、一応それでも佐紅はどんな商品があるのか見ていく。絶対にいらないと完全否定しているのではなく、ただ基本的に興味がないだけなので、たまたまなにか興味のひくものがあれば買うこともある。
「おお、瀬名と月島じゃねーの!」
クラスメイトでもあり仲のいい友人でもある雄大が声をかけてきた。髪の色をほぼ金色にしているし軽いタイプなのだが、悪いヤツではないのは真尋とも仲がいいことでもわかる。大抵は真尋相手にどうしていいかわからなかったり勝手に怯えたり面倒がったりといった反応を示してくるのだが、雄大はちゃんと真尋を見て色々聞くし、話す。だから表情が読めなくともコミュニケーションが取れている。
「お前らも買い物?」
「ああ、相良もか?」
「そそ。俺は新しいピアス欲しくてさー。ほんとなら彼女と来ようって思ってたんだけど、一人で買って彼女にも渡してーなって」
雄大が悪戯っぽく笑う。佐紅は雄大の耳を見た。
「ピアスな。痛くねーの、それ」
「すでに開いてんだから痛くねーよ? つか開けるのも全然痛くねーって。そんでな、渡してーってのはさー、二つのピアス買ってさ、それを彼女と片方ずつとかにすんの。なんか独占してるみたいでよくね?」
「ごめん、言ってることよくわかんない」
得意げにピアスを選びながら言ってくる雄大に佐紅が答えてると「なんでだよ!」と口を尖らせてくる。
「いや、なにがいいのかがさ。束縛っぽくない? 片方ずつにして所有欲を満たす感じなんだろ」
苦笑しながら言うと、雄大が「えー、つか考え方がかてぇよ」と嫌そうな顔をしてきた。
「まあなんだかんだでモテるお前には関係ねーよな、月島はさー。瀬名はそういうのどう思う?」
べ、と舌まで出してきながら雄大が今度は真尋を見る。
「……いいと思う」
「お! お前は話わかるじゃねーの! つか瀬名ってさー、結構ピアス似合いそう。開けてみたら?」
ニヤニヤと嬉しそうにしながら言う雄大に、真尋はコクリと頷く。
「ほら、こーゆーのとか、どうよ。あ、でもこんなのもよくね? つかこれは俺似合いそ。あ、そっちの! それ、お前に合いそうじゃね?」
まるで意気投合したかのような二人がピアスを物色し始める。とはいえ、喋っているのはほぼ雄大だ。真尋は雄大の言葉に対し、頷いたり首を傾げたりしている。
……でも興味は持ってるって感じだな。
思いのほか興味を持った真尋を、佐紅は微妙な顔で見た。真尋が好きだが、別に雄大と気が合っていることに関して微妙に思うことはない。むしろどこか微笑ましい気持ちさえ湧く。だが真尋がピアスに興味を持ったことに関しては少しモヤモヤとした。今までそんな素振りなんてなかったはずなのに、何故興味を持ったのだろうと思ったからだ。
なにか思うことがあったのだろうか。
心に響くことがあったのだろうか。
そう思っても「多分これだ」と浮かぶことがないのだ。ずっと昔から一緒にいるのに自分が把握していない真尋の気持ちがあるのだと思うと、それが少し嬉しくない自分がいる。心が狭いとしか思えない。いっそ彼女でも作ってくれたらなどと思いながら、こんなことにすら、なんとなくスッキリとしない自分がそして嫌だなと思った。
だがもちろん、真尋がなにかに興味を持つこと自体は嫌ではない。今も雄大に対して「それは嫌だ」とばかりに首を振っている真尋を見て、佐紅は微妙な顔をしながら苦笑した。
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