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5話
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家へ帰ると真尋に部屋へ行くよう促しながら、佐紅は消毒液を探した。耳とピアスの辺りを消毒する訳だしと、綿棒もついでに用意する。
店でいきなり真尋が鏡の前に立ったかと思うと、なんの躊躇もなく安全ピンで耳に穴を開けていたのを見た時は心底唖然とした。佐紅の隣に居た雄大の表情を見るからに、恐らく自分もあんな表情をしていたのだろうなと思っている。馬鹿と言っても怪訝そうに首を傾げている真尋に、佐紅は本当に頭痛がしそうだった。
昔から真尋は無口な割にオブラートに包まない。思ったことをそのまま口にする。そしてその考えや行動はただ素直だ。たちが悪い程に。
店でも恐らく深く考えずに、ただ開けたいと思ったからそのまま開けたのだろう。
部屋へ向かうと真尋が大人しくベッドの上に座っていた。
「全く」
消毒液を思い切りピアスのついた辺りに吹きかけてやった。そして湿らせた綿棒で前と後ろを拭うようにすると血がついてくる。
片耳だけついた赤いピアスは何気に似合っている。それがむしろ腹立たしいとばかりにため息を吐いた。そして、なんとも言えない気持ちで真尋の耳を見る。
真尋は大人しくされるままでいたが、終わったのを感じ取ると制服のポケットからもう片方のピアスを取り出し、じっと見た。そしてそれを佐紅に渡してくる。
「なに。まさか俺にも開けろと?」
佐紅はそのピアスを手に取ると、また真尋を微妙な顔で見返した。
「俺はやだ」
ハッキリと言うと真尋は残念そうな顔で佐紅を見てきた。とはいってもその表情が残念そうだとは真尋の家族や佐紅しか分からないだろう。
「そんな顔しても開けないからな」
佐紅は微妙な顔で真尋を見返したが、手にしたピアスはそのまま受け取ることにした。もちろん、ピアスホールを開けていない佐紅にとって使い道はない。だが、雄大の話を聞いたからだろうか、なんとなく真尋の付けているピアスの片方を持っておきたいと思った。そんな自分が女々しいとも思う。
後でふと、真尋がピアスに興味を持ったのは、ピアス自体ではなくやはり半分こにすることなのだろうかと思い至って、佐紅は苦笑した。店では真尋がピアスに興味を持ったことに対して、興味を持った理由がわからないと少し不貞腐れていた自分を思い出す。自分が把握していない真尋の気持ちがあることに落ち着かないと心の狭いことを思っていたら、何のことはない、ただいつもの真尋だったのだ。
とはいえ嬉しくもあり微妙でもある。真尋があんな場所でピアスホールを開けるほどに佐紅と半分こにしたかったのかと思うとやはりどうしたって嬉しくはある。あの真尋に、独占したいとかの束縛の意味はないとしか思えないし恋愛の意味は恐らくないだろうが、それでも自分を好いてくれているのだなとは思える。
自分と半分こにしたいと思って躊躇することなく自らを傷つける真尋を思うとしかし複雑だった。
妙にぞくぞくと震え感じる悦びと、真尋にそんなことをさせてしまったというどこか感じる罪悪感。それに勝手に自分の体を傷つけたという苛立ち。なによりも自分が真尋を思っている気持ちが歪んで間違っているとわかっているせいで胸の奥からモヤモヤとしたなにかが自分を苛んできた。
翌日、片方にピアスを付けている真尋は、いつもと違ってクラスメイトに声をかけられていた。無口で無表情な真尋が赤いピアスを付けたことで、いつもと印象が違って見えたのかもしれない。
それとも、いつも気になっていたがどう話しかけていいかわからなかったというのもあるのかもしれない。ピアスは恰好の話のタネになる。
「うんうん。やっぱ似合ってんぞ。俺の見立ては正解だったな」
雄大は何故か上から目線で得意げだ。
「まあ、あの突拍子のない奇行はマジびびったしドン引きだったけどな」
「それに関しては同意だけど、なんでお前が得意げなんだよ」
佐紅は呆れた顔で雄大を見る。
「だって俺がピアスへの道を開いたよーなもんだろ」
「大袈裟なんだよ」
「えー。つかさー、あいつが他のヤツと喋ってんのってなんか新鮮じゃね? っつっても喋ってんの周りであいつほぼ喋ってねーけど」
「それはうん、思う」
「保護者としてはどうよ」
「そもそも保護者じゃねーから」
雄大とそんなやりとりをしていると視線を感じた。見ると、真尋がこちらをじっと見ていた。
手を振って返すような性格ではない上に、真尋に対してはまだ腹を立てているので佐紅は「便所」と呟いてその場を離れた。
理由はどうあれ、真尋が自分の体を勝手に傷つけたことに関しては今もまだ少し腹を立てている。ただ「勝手に」が誰にかかっているのかと思うと微妙になる。
親に勝手に、ではない。
俺に勝手に、だ。
「あー、ほんと、やだ」
ぼそりと呟くと、佐紅は実際トイレへ向かった。
教室へ戻る途中に、別のクラスの女子から声をかけられる。
「月島くん、見て見て」
「なに?」
「ピアス。新しく買ったの。どう?」
その子はニコニコとしながら佐紅を見上げ、耳を見せてきた。耳元に小さめではあるがファーがくっついている。
「可愛いんじゃないかな」
「ほんと? よかったー」
嬉しそうに歩いていく女子を、佐紅は微笑ましげに見送った。
別に他の誰かが耳に穴を開けようが、舌に開けようが気にならない。いや、さすがに親しい友人が突拍子もないほど沢山開けたり、変なところに開けたりしたら驚くとは思うが、腹が立つというのはない。
だが真尋は違う。佐紅はそっとため息を吐いた。本当にいつか諦めがつくのだろうかと思う。とりあえず自分が誰かと付き合ってみても、今のところは無駄だった。だから真尋がいっそ誰かと付き合えばいいのにとは思ってみたりする。
だが、勝手に体を傷つけたと腹立たしく思うような自分が、そんなことで心穏やかに諦められるのだろうかとも改めて思う。
不毛だな。
内心そっと呟いた。
店でいきなり真尋が鏡の前に立ったかと思うと、なんの躊躇もなく安全ピンで耳に穴を開けていたのを見た時は心底唖然とした。佐紅の隣に居た雄大の表情を見るからに、恐らく自分もあんな表情をしていたのだろうなと思っている。馬鹿と言っても怪訝そうに首を傾げている真尋に、佐紅は本当に頭痛がしそうだった。
昔から真尋は無口な割にオブラートに包まない。思ったことをそのまま口にする。そしてその考えや行動はただ素直だ。たちが悪い程に。
店でも恐らく深く考えずに、ただ開けたいと思ったからそのまま開けたのだろう。
部屋へ向かうと真尋が大人しくベッドの上に座っていた。
「全く」
消毒液を思い切りピアスのついた辺りに吹きかけてやった。そして湿らせた綿棒で前と後ろを拭うようにすると血がついてくる。
片耳だけついた赤いピアスは何気に似合っている。それがむしろ腹立たしいとばかりにため息を吐いた。そして、なんとも言えない気持ちで真尋の耳を見る。
真尋は大人しくされるままでいたが、終わったのを感じ取ると制服のポケットからもう片方のピアスを取り出し、じっと見た。そしてそれを佐紅に渡してくる。
「なに。まさか俺にも開けろと?」
佐紅はそのピアスを手に取ると、また真尋を微妙な顔で見返した。
「俺はやだ」
ハッキリと言うと真尋は残念そうな顔で佐紅を見てきた。とはいってもその表情が残念そうだとは真尋の家族や佐紅しか分からないだろう。
「そんな顔しても開けないからな」
佐紅は微妙な顔で真尋を見返したが、手にしたピアスはそのまま受け取ることにした。もちろん、ピアスホールを開けていない佐紅にとって使い道はない。だが、雄大の話を聞いたからだろうか、なんとなく真尋の付けているピアスの片方を持っておきたいと思った。そんな自分が女々しいとも思う。
後でふと、真尋がピアスに興味を持ったのは、ピアス自体ではなくやはり半分こにすることなのだろうかと思い至って、佐紅は苦笑した。店では真尋がピアスに興味を持ったことに対して、興味を持った理由がわからないと少し不貞腐れていた自分を思い出す。自分が把握していない真尋の気持ちがあることに落ち着かないと心の狭いことを思っていたら、何のことはない、ただいつもの真尋だったのだ。
とはいえ嬉しくもあり微妙でもある。真尋があんな場所でピアスホールを開けるほどに佐紅と半分こにしたかったのかと思うとやはりどうしたって嬉しくはある。あの真尋に、独占したいとかの束縛の意味はないとしか思えないし恋愛の意味は恐らくないだろうが、それでも自分を好いてくれているのだなとは思える。
自分と半分こにしたいと思って躊躇することなく自らを傷つける真尋を思うとしかし複雑だった。
妙にぞくぞくと震え感じる悦びと、真尋にそんなことをさせてしまったというどこか感じる罪悪感。それに勝手に自分の体を傷つけたという苛立ち。なによりも自分が真尋を思っている気持ちが歪んで間違っているとわかっているせいで胸の奥からモヤモヤとしたなにかが自分を苛んできた。
翌日、片方にピアスを付けている真尋は、いつもと違ってクラスメイトに声をかけられていた。無口で無表情な真尋が赤いピアスを付けたことで、いつもと印象が違って見えたのかもしれない。
それとも、いつも気になっていたがどう話しかけていいかわからなかったというのもあるのかもしれない。ピアスは恰好の話のタネになる。
「うんうん。やっぱ似合ってんぞ。俺の見立ては正解だったな」
雄大は何故か上から目線で得意げだ。
「まあ、あの突拍子のない奇行はマジびびったしドン引きだったけどな」
「それに関しては同意だけど、なんでお前が得意げなんだよ」
佐紅は呆れた顔で雄大を見る。
「だって俺がピアスへの道を開いたよーなもんだろ」
「大袈裟なんだよ」
「えー。つかさー、あいつが他のヤツと喋ってんのってなんか新鮮じゃね? っつっても喋ってんの周りであいつほぼ喋ってねーけど」
「それはうん、思う」
「保護者としてはどうよ」
「そもそも保護者じゃねーから」
雄大とそんなやりとりをしていると視線を感じた。見ると、真尋がこちらをじっと見ていた。
手を振って返すような性格ではない上に、真尋に対してはまだ腹を立てているので佐紅は「便所」と呟いてその場を離れた。
理由はどうあれ、真尋が自分の体を勝手に傷つけたことに関しては今もまだ少し腹を立てている。ただ「勝手に」が誰にかかっているのかと思うと微妙になる。
親に勝手に、ではない。
俺に勝手に、だ。
「あー、ほんと、やだ」
ぼそりと呟くと、佐紅は実際トイレへ向かった。
教室へ戻る途中に、別のクラスの女子から声をかけられる。
「月島くん、見て見て」
「なに?」
「ピアス。新しく買ったの。どう?」
その子はニコニコとしながら佐紅を見上げ、耳を見せてきた。耳元に小さめではあるがファーがくっついている。
「可愛いんじゃないかな」
「ほんと? よかったー」
嬉しそうに歩いていく女子を、佐紅は微笑ましげに見送った。
別に他の誰かが耳に穴を開けようが、舌に開けようが気にならない。いや、さすがに親しい友人が突拍子もないほど沢山開けたり、変なところに開けたりしたら驚くとは思うが、腹が立つというのはない。
だが真尋は違う。佐紅はそっとため息を吐いた。本当にいつか諦めがつくのだろうかと思う。とりあえず自分が誰かと付き合ってみても、今のところは無駄だった。だから真尋がいっそ誰かと付き合えばいいのにとは思ってみたりする。
だが、勝手に体を傷つけたと腹立たしく思うような自分が、そんなことで心穏やかに諦められるのだろうかとも改めて思う。
不毛だな。
内心そっと呟いた。
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