銀色の魔物

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112話

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 手で顔を覆って転がっていると頭を撫でられた。余計に顔が熱くなる。
 あれから出した後、徐々に冷めてくる頭にサファルはとりあえず無言で自分のものをしまうと立ち上がっていた。

「サファル?」
「あの、少し川に……」
「ならついて行こう」
「だ、大丈夫です」
「しかし……」
「ほんと、大丈夫なので……すぐ戻ってきます……!」

 そう言うとサファルは走って川へ向かった。カジャックといた場所と違って火を焚いていないので暗いが、さほど離れていないのと月明かりやせせらぎの音でたどり着けた。
 汚れた手を洗い、股間も清潔に保った。おかげでますます冷静になった。だがあえて頭の中を無にしたままサファルはカジャックの元へ戻る。 

「お帰り」
「……はい」

 返事をしたものの、やはり無にはなれなかった。そして冒頭へ戻る。崩れ落ちるように転がると顔を覆った。

 俺、何やってんの?
 よくやれたな?
 馬鹿じゃないのか?

 男同士なら抜き合いも問題ないと昔友だちの誰かが言っていた。だがそれをルーカスに言えば「問題しかないだろ」と呆れられ「何でも真に受けるな」と説教も食らったのを思い出す。

 ルーカス、やはりお前はいつだって正しいよ……!

 こんな情けなくて恥ずかしいことを例え誰だろうが目の前でやったりやられたりが問題ない訳がない。現にサファルは今、死にそうだ。

 男の欲、ほんと馬鹿だ。
 そういやクラフォンのアドルフさんも言ってた。その場の欲に勝てなくてやらかしたって。あの酒場で出会った人とついやらかして奥さんにボコボコにされてたもんな、あの人。
 つか男の欲、カジャックは制御しまくれるの何で? 修行でもしたの? 徳の違い? それとも、やっぱ俺にそんな魅力ないから……?

「サファル、大丈夫か?」

 カジャックの声がとても近くで聞こえる。

「無理です……」
「無理? 何が……」
「恥ずかしさで死ぬ」
「……ああ。さっきのお前はでも、凄く可愛かったが」

 可愛い?
 欲に勝てなくて大好きな人の前でちんちん扱いた俺が?

「何言ってんの……可愛い訳ないのに」
「とても可愛かった。また見たいな」

 声がもっと近くなる。優しく髪を撫でられた。

「無理……」
「変なやつだな。普段二人でする時はもっと恥ずかしいことしてるのに」
「う……。じゃ、じゃあカジャックは俺の目の前でちんちん扱けるんですか」
「出来るよ、お前だけの前ならな」

 それは……めちゃくちゃ見たいような、見たくないような……。

「お前の中に入れる時もよく少し扱きながら入れているが……」

 そういえばそうだなとサファルは思い出す。ただそれに関して特に違和感を抱いたことはない。入れにくい穴に入れるのだから調整のようなものだろうと多分無意識で認識していた。

「……俺、情けなくなかったですか」

 ようやく顔から手を離し、サファルはおずおずとカジャックを見た。やはりとても近くにいて、また顔が熱くなる。

「そう思ったこと自体ない」
「えー……。……俺、可愛かった……?」
「ああ」
「本当に情けなくなかったですか?」
「むしろまた見たい」

 思わずまた興奮しそうになり、サファルはごまかすために商売している時のように金額の計算を浮かべた。そしてため息を吐く。

「……、あの」
「ん?」
「カジャックは何で興奮、しないんですか」
「するけども」

 妙なことを言う、といった風のカジャックに、サファルは更に聞いた。

「でも俺に愛撫したり、俺が抜いてんの見ても平気そうです……」
「平気な訳がない。ただ、お前に無茶はしたくないし、やはり外でという理性が俺を留めてくるだけだよ」
「俺、理性なんて即、ぶっ飛びましたけど……」
「お前はそういうところも可愛いよ」

 この人はほんともう……!

 今度は違う意味で顔を覆う。

「サファル?」
「好きです」
「……また唐突な……」
「だって仕方ない……! めちゃくちゃ大好きなんです」
「……ありがとう。俺も好きだよサファル」

 顔を覆っていたので今の言葉を口にしながらのカジャックの表情が見られないのは残念過ぎた。

「はぁ……。前だったら今ので死ねました」
「何故死ぬんだ……」
「でも俺、欲深いから……」
「お前が?」
「欲、めちゃくちゃ深いですよ……だからめちゃくちゃ大好きな人に好きって言ってもらえるだけじゃもう満足出来なくなっちゃって……もっと触れて欲しいし、もっと愛し合いたくて堪らなくなります……」
「……それは……俺も分かるよ」
「ほんとに? 俺だけがそう思ってるんじゃない、ですか?」

 思わずまた顔から手を離し、サファルは勢いよくカジャックを見た。カジャックは優しく笑うと自分もサファルの隣に横たわり、背後から抱きしめてきた。

「ああ。俺もどれだけお前を抱いても足りないくらい」
「じゃあ何で……」
「二人とも理性が崩れてしまっていたらどうしようもないだろ。せめて俺は頑張らせてくれ。下らないプライドだよ。でもお前はいつだって崩れていいよ。可愛いから」

 下らなくない。格好がいいと思う、けれども。

「そ、そんなの俺が恥ずかしいだけじゃないですか」
「恥ずかしいことじゃない。むしろ見たいって言っているだろ」
「じゃ、じゃあ俺だってカジャックが崩れたとこ、見たいです! ずるい!」
「ずるいのか」

 背後でカジャックが少し笑っている。だが続けてきた。

「では、代わりにお前が理性を留めていてくれるか?」
「え?」
「なら崩そう」

 囁くように言われると、ぐいっと体を起こされた。
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