彼は最後に微笑んだ

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3話

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 交流会当日、ラウラは意外にも楽しんでいる様子だった。何人かの令嬢と楽しそうに話す姿を見て、エルヴィンも微笑む。ちなみにヴィリーはひたすら何かを食べていた。一応前のヴィリーは太ったりせずスマートだったが、将来を変えてみせるとあがこうとしているエルヴィンだけに「まさか未来が変わってヴィリー、太ったりしないよな」と思ったりして苦笑した。
 辺りを見ると母親のネスリンはエルヴィンたちと少し離れた庭園で、他の子どもたちの母親と楽しそうに話している。それを眺めていると、エルヴィンはラウラに呼ばれた。

「どうかした?」
「私ね、一番のお友だちができたの。その方にも兄さまがいらっしゃるのよ。だから兄さまにごしょうかいしたくて」

 ラウラの隣にはラウラよりもしっかりしていそうな少女が立っていた。ラウラより年上かと思ったらむしろ一つ下の六歳らしい。そしてその隣には今のエルヴィンと歳が近そうな少年が立っていた。

「はじめまして。テレーゼともうします」

 少女はかわいらしくお辞儀しながら名前を名乗ってきた。そして隣の少年が「ニアキスだ。ニアキス・バウム。よろしく」と手を差し出してくる。
 バウムと聞いて、確かエルヴィンの家と同じく侯爵家だったはずだとエルヴィンは頭に浮かべた。話を聞くとエルヴィンの一つ年上で十歳らしい。
 エルヴィンたち兄弟は三人とも青に近い銀色の髪をしているものの、目の色はエルヴィンの鮮やかな水色に対してヴィリーとラウラは琥珀色をしている。ニアキスとテレーゼの兄妹はどちらも金髪に緑色の目をしていて二人ともどこか気の強そうな顔立ちをしていた。
 以前のエルヴィンだったら強気そうなタイプにあえて近づこうとはしなかっただろう。だが今は違う。それに少し話してみて二人とも話しやすいタイプだと思えたし、以前を思い返してもバウム家の人間と関わりはなかったものの裏切りや敵対といった状況にもならなかった。これを機に仲よくなってもいいかもしれないと、少々打算的だがエルヴィンは思った。
 その考えは間違っていなかったように思える。その後もニアキス、テレーゼとは親しくなっていった。互いの家を行き来するようにもなった。親しくなればなるほど、やはり話しやすいタイプだとも思えた。エルヴィンが十歳になる頃には少なくともニアキスとは親友と呼び合ってもいい仲になっていた。
 ところで時間が戻ってからそろそろ一年になるが、まだリックにもニルスにも出会えていない。ただリックは第二王子だ。王族にはいくら公爵子息とはいえ気軽に会えないことくらいはわかる。

 ……ニルスがなぁ。どこのどういう人か知らないままだったから……。せめてフルネームを聞いておくんだった。

 ファミリーネームがわかれば少なくとも貴族であるのならばどこの誰かくらいはわかったかもしれない。
 そんなある日、ラウラが町へ買い物に行きたいと朝食の席で両親にねだった。テレーゼからかわいい贈り物をもらったらしく、自分も何か自分で選んだものを贈りたいのだそうだ。両親は連れて行ってやりたいものの二人ともそれぞれ仕事や予定があるらしく、困惑しているようだったのでエルヴィンが提案した。

「なら俺が連れていきます」
「……エルヴィン。気持ちは嬉しいがな、いくらしっかりしていてもお前もまだ十歳なんだぞ。はいそうですかと言えるわけないだろう」
「父上、ご安心ください。俺がラウラのそばにいる他に、使用人の誰かとあと護衛騎士を三人ほどお借りして出かけたいと思っています」
「ええ。ならボクも行く」
「ヴィリー、お前は留守番だよ」
「兄さま、なんで」
「昨日仕上げなきゃだめだった先生からの課題、終わらせてないの俺は知ってるからね」
「か、帰ってからする!」
「駄目」
「ええ。ヤダ」
「ヴィリー。お兄様の言うことはちゃんと聞きなさい。あと家庭教師の先生に言われたことはちゃんとするようにってお母様もこの間あなたを叱ったはずよね?」

 母親にダメだしされ、ヴィリーは半分泣きながら諦めていた。その代わりちゃんと課題を済ませたらヴィリーの好きな焼き菓子を用意してもらえるらしい。それを聞いてエルヴィンはまた「ヴィリー、太ったりしないよな」と苦笑した。
 いくつかの店を回ってからどうやらお気にいりの店に出会ったらしく、ラウラはその店の中を側近と楽しそうに見て回っている。どうやら長くなりそうだと思い、エルヴィンは休憩がてらに外へ出てあまり離れないよう心掛けながら少し歩いた。天気もよくのどかな様子が心地よい。ところどころで綺麗な花も咲いている。
 それらを見ていると石畳の片隅で少年二人の内一人がうずくまるように座り込んでいるのに気づいた。よくわからないが膝を押さえているのでもしかしたら転んだか何かで怪我をしたのかもしれない。
 気になってエルヴィンは少年たちのそばまで近づいた。二人とも質素な身なりをしているが、何となく醸し出す雰囲気が貴族を物語っている気がする。エルヴィンが見た目通りの少年なら気づかなかったかもしれないが、中身は二十七歳まで歳を重ねていた記憶を持つだけに、何となくそう感じられた。

「あの……大丈夫ですか?」

 声をかけてみると怪我をしていないほうの背が高い少年が、怪我をしているらしい少年を庇うように前へ出る。警戒されたのかもしれない。
 エルヴィンは自分が危険も何もないただの少年ですよと思ってもらうためにも無邪気な風に笑いかけた。ただ内心ではその前へ出てきた少年が何となく時間が遡る前のニルスに似ている気がして、さすがにそんな偶然があるはずがないと思いながらも少しテンションが上がっていた。
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