彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
5 / 193

5話

しおりを挟む
 騎士もさすがに直接王子たちから聞いたのでなく向こうの使用人に聞いた話らしいが、リックはニルスが止めるのも聞かずにお忍びで城を抜け出したらしい。結局ニルスもついて行かざるを得なかったようだ。だが道に迷った上に王子は転んで怪我をしてしまった。エルヴィンが見つけたのはちょうどその辺りだったのだろう。

 へぇ。リック王子って牢で会った時はあんなに落ち着いた人だったのに子どもの頃はやんちゃだったのかな。

 少しおかしく思ったりしつつ、偶然とはいえきっかけはできたのだからどうにかして二人と接触を持つことはできないか、それともやはり身分の高すぎる二人だけに難しいだろうか、などとエルヴィンは考えた。もしかしてこうして多少事情は変わっても結局同じ未来への道しかなかったりして、とネガティブな考えまで浮かんでしまっていたが取り越し苦労だったようだ。
 少しして王族であるそれも王の直系であるサヴェージ家から礼がしたいと茶会の招待状がエルヴィン宛に届いた。サヴェージ家からとはいえ、その茶会は格式ばったものではなく子どもであるエルヴィンのために準備させる気楽なものらしい。

 お茶会……。まあ男同士とはいえ子どもだもんな。葉巻をくゆらせながらの酒の席というわけにいかないもんな。

 保護者として母親が当然ついていくが、さすがにサヴェージ家に自分一人は心細い。そこでエルヴィンはニアキスを誘った。

「いや、何で俺」
「頼むよ。だって俺だけとか心細いだろ」
「呼ばれてない俺のが心細いとか思わないのか?」
「美味しいお菓子が出るんだって」
「いや別に……」
「それにもしかしたらびっくりするくらいかわいい女の子がいるかもしれないぞ」
「……お前は俺を何だと思ってんの? あとかわいい子ならラウ……」
「何?」
「ああ、いや。わかったよ。行けばいいんだろ、行けば。その代わりちゃんと紹介してくれよ?」
「まかせて親友」

 エルヴィンはにっこり微笑んだ。
 ちなみに、何で俺と首を振っていたニアキスとは別に、ヴィリーも「何でボクじゃなくてニアキスなの?」と不満そうだった。だが、それは仕方ない。時間が戻る前を思うと、兄心としてはヴィリーを極力サヴェージ家に近づけたくなかった。
 いざ当日になるとエルヴィンも少々緊張した。第一王子であり、時間が戻る前はラウラの婚約者でその後結婚し、ことの原因を作ったデニスもその茶会にいたらどうしよう、会ってしまったらどうしようと今さらながらに思えてきた。
 だが幸いデニスはいなかった。気楽なものと言っていたようにサヴェージ家から出席しているのは他の護衛を抜けばリックとニルス、そしてリックやその兄姉デニス、アリアネという三人の母親であり王妃であるラモーナの三人だけだった。
 エルヴィンの母親であるネスリンは社交的な人だ。今も王妃であるにも関わらず、もちろん礼儀作法をしっかりとした上でラモーナと朗らかに接している。
 ラモーナ王妃のことは時間が戻る前のこともそれほど詳しくは知らない。確か外交があまり得意ではないながらに王妃としてがんばっていた人だ。それもあり、夫である王ラフェドが亡くなり長男であるデニスが王となった後は全てを任せて離宮へ引っ込んだはずだった。
 ラフェド王は悪く言えば可もなく不可もない王だったかもしれないが、逆に言えばそれなりに王としていい政治を行っていたのだと思う。その王亡き後に王となったデニスは多分魔女のような、少なくともエルヴィンたちにとってはろくでもない女の虜になってからおかしくなったのだと、エルヴィンは時間が遡った今でも思っている。圧政で抑えつけられていた国民の不満はどんどん高まっていった。

 ……そして俺たちは……。

「もしかして具合でも悪いのかな? だとしたらそんな日に誘ってしまって申し訳ないんだけど」

 ハッとなり、エルヴィンは慌てて話しかけてきた相手に笑いかけた。

「殿下、とんでもない。誘ってもらって嬉しいですし、具合も悪くありません。多分少々緊張してしまったんだと思います」
「緊張はいらないよ。公的な場ではないからね。どうか気楽にして俺とも接して欲しいな」
「しかし……」
「社交辞令で言ってるんじゃないんだよ。心から言ってる。怪我の手当て、本当に嬉しかったし助かったよ。改めてありがとう。ようやく君に会えた。ずっとずっと会いたいと思っていたんだ」

 あの日から数日くらいしか経っていない。あまりに大げさすぎやしないかと苦笑したくなるほど、リックは力を込めて言ってきた。少なくとも誠意は伝わってくる。

「是非これからも友人として会いたい。駄目だろうか?」
「そんな、駄目だなんて……」
「よかった。嬉しいよ、ありがとう。ならエルヴィン、俺のことはリックと呼んで欲しい」
「いや、さすがにそれは」
「公的な場では殿下だろうが王子だろうが呼んでくれたらいいけど、普段ならいいだろう?」

 いや、よくない。

「私が困ります」
「友だちじゃないか」
「困ります」
「リック……いい加減にしろ」

 今までリックのそばにいてほぼずっと黙っていたニルスが呆れた顔でため息をついている。エルヴィンはホッとしてニルスを見た。するとその視線に気づいたニルスは無表情のまま顔をそらしてきた。もしかしたら大切な第二王子をたぶらかす者くらいに思われてしまっているのかもしれない。

「いい加減にするのはニルスでしょ。そんな顔と態度ではエルヴィンに誤解されちゃうよ? エルヴィン、安心して。ニルスはこんなだけど君のことは本当に感謝していた上にかなり好意的なんだから」
「リック……!」
「え? そ、そうなんですか?」

 にこにこと言ってくるリックに戸惑いの顔を向けてから、エルヴィンはまたニルスを見た。できれば親しくなりたいが嫌われているのなら仕方がないと思っていた。
 またエルヴィンの視線に気づいたらしいニルスは小さくため息をついてからエルヴィンを見てきた。

「悪い。俺は無口だし顔にもあまり出ないらしい。だが確かに感謝している」

 そして手を差し出してきた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

処理中です...