彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
12 / 193

12話

しおりを挟む
 ちなみにリックに仕え、いつもそばにいたニルスは何故留学にはついていかなかったのだろうとエルヴィンは思っていた。ニルスいわく「リックがそうしろと」らしい。

「何で?」
「……さあ」

 どのみち理由を知っていたとしても口数の少ないニルスがベラベラと喋ってくるとは思えない。とはいえリックがニルスを残らせたのは何か意味でもあったのだろうかと多少気にはなる。留学するにしても仕えている者がそばにいたほうがいいのではないのだろうか。
 ただでさえニルスは剣の腕が立つ。何があるかわからない外国で、ニルスの存在は安心だとエルヴィンは思うのだが。

 あと、遡る前はどうだったんだろ。やっぱりニルスは残ってたのかな。それとも一緒に行ってたのかな。

 リックが留学していることはもちろん知っていたが、ニルスの存在を知らなかったエルヴィンにわかるはずもない。かといってニルスに「ニルスって以前は殿下と一緒に行ってたのか?」と聞けるはずもない。こいつは何を言っているのだと、頭のやばそうな相手を見る目で見られること請け合いだ。

 少しでも以前と違うところを探そうとしてるみたいだな俺。必死か。

 苦笑した後に、必死にもなるわと自分に突っ込んだ。

「大丈夫か? 熱でもあるのでは……?」

 ニルスが怪訝そうな顔をしてエルヴィンの額に触れてきた。ひやりとした手が気持ちいい。すっきりしそうだ。しかしその手がすぐ離れようとしたので思わずそのままで、とつかんだ。

『具合が悪いわけでもないのか? とても心配だがでももしかしたらやっぱりリックをひたすら思っているのかもしれないしやっぱりリックが好きなのでは。いやでも今まで見てきてそんな風には見えなかったしリックが留学してからという気がするがどうなんだろう。あとおとなしく額を触らせてくれてるとこすらかわいい上につかまれた。手が額にあるせいで少し上目遣い気味にこちらを見る様子もかわいいしもう結婚するしかな……』
「饒舌かよ……!」

 思わずまた叫んでいた。ニルスがびっくりしたように額から手を放し、エルヴィンを見ている。それはそうだろう。リックに付き添っていないのは何でかと聞いた後黙っていたかと思えば、いきなりわけのわからないことを叫び出した男でしかない。

 ああ、これじゃあ俺ほんとにただのやばいやつ。

 手で顔を覆いたくなったが、その途中でエルヴィンは我に返ったかのようにぎしりと固まった。自分の奇行はさておき、今の声は本当になんなのだと疑問しかない。
 ニルスの声のように思えるし、今この近くにはエルヴィンとニルス以外人はいない。普通に考えてもニルスの声だと思うだろう。

 でも……やっぱり耳から聞こえてきた声じゃなかった気がする。

 それに思わず突っ込んでいたように、ニルスはあんなにたくさんのことを話す人ではない。聞こえてきた気がした声はほぼノンブレスでつらつら終わりを見せない勢いで喋っていた。あと、内容がどう考えてもおかしい。

 俺がかわいいって何だ。

 正直、自分の顔は整っているほうだという自覚はある。遡る前もわりとモテていた気がする。恋人がいたことも何度かある。だがかわいいとは何だ。

 まあ恋人はいても、ラウラとかのことに気を取られて結局死ぬまで一度も結婚してないけ──

 そう思っている途中でさらに気になる。

 つか結婚するしかないって何だよ……っ?

「本当に大丈夫か……? 顔色があまりよくない」

 ニルスはますます心配そうにエルヴィンを見てきた。エルヴィンが知っているニルスだ。言葉数が相当少ないし一見素っ気ないが、実は男らしい上に優しい。いつものニルスだ。

「あ、ああ。大丈夫。ありがとう」

 エルヴィンは笑いかけた。

 お前の声が聞こえた気がしたんだけど、お前誰だよと百回くらい言っても足りないほどあり得ないことに、饒舌な上に俺のことかわいいとか結婚するしかないとか言ってきたんだけど、やっぱりお前なの?

 聞けない。
 改めてニルスとはかけ離れている気がするし、どう考えてもエルヴィンがやはり大丈夫じゃない人に聞こえるだろう。

 どうしよう。

 ニルスと何でもないような話を、主にエルヴィンがしながら、ひたすら考えていた。

 どうしようか。

 だがどうしようもない。ニルスから聞こえてきた気がするものの、気のせいである可能性がまだ高い。
 時を遡ったと知った時と同じように、しばらく黙って様子を見るか。
 どう考えてもそれが一番いいような気がした。誰かに相談してみたいし、一番身近で頼りになりそうなのは今だとニルスだが、声がそもそもニルスから出ている気がしている限りはニルスにも言えない。もちろん一番の親友だと思っているニアキスにも言えない。親友には違いないが、相談相手としてニアキスだとあまりにも荷が重そうだ。

 馬鹿にしてるわけじゃないからな、ニアキス。少々生温い目で見てるだけだから。

 改めて、やはりしばらくは様子見が一番いいだろうとエルヴィンは思った。
 まずはどういった時に声が聞こえた気がしたのか考えよう。そしてどういう理屈があげられそうかを次に考えていこう。
 方向性が決まり、エルヴィンはニルスに「じゃあそろそろ休憩終わらせて仕事するかな」と満面の笑みを向けた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

処理中です...