48 / 193
48話
しおりを挟む
何故あんな光景が頭によぎったのかはわからない。
願望?
いやまさか。それこそおかしいだろ。
俺とニルスが……あんな、あんな……。
ニルスにキスされ、エルヴィンは受け入れるどころかニルスの後頭部に手を回してしがみついていた。そして自らもキスを求めに行った。
どう考えてもおかしい。このよぎった光景も多分エルヴィンの夢なのだろう。ただ、何故ニルスとそんなお互い求めあうようなキスをしている夢など見るのか理解できない。
いや、でも夢ってよくわからないものわりと見るよな? いちいち全部に理由を求めても仕方ないものだろ?
だからシュテファンの夢も気にするべきではないし、ニルスとのキスも気にしなくていい。
そう、それでいい。
はず。
エルヴィンの額に手を置いていたニルスは今、また少し離れてからベッドの縁に腰かけ体を少しひねらせて心配そうにエルヴィンを見ている。
「エルヴィン……」
「な、何?」
多少は挙動不審な反応だったかもしれないが、変なことを口走ったりあからさまに動揺しなかった自分をエルヴィンは褒めてもいいのではとそっと思う。
「無理、しないで欲しい」
ああ、本当になんて優しいやつなんだろうな。
「……うん。ありがとうな、ニルス」
何とか笑みを見せて頷くと、ニルスも無言でこくりと頷いてきた。
「えっと、医者は何て?」
「寒さと疲れで免疫が落ちたんだろう、って」
「かもな。でも俺、別に疲れるほど仕事してないけどな。絶対ニルスのほうが疲れてそう」
疲れは疲れでも、精神的な疲れだろうか。過去のことはもう、あまり考えないほうがいいのかもしれない。そろそろ心配しなくても、もうあんなことにはならないだろう。
ただ、二度と会うことのないシュテファンを思わないというのはできそうにない。とはいえあんな夢はもう見ることのないよう、過去でもきっとリックたちがどうにかしてくれてシュテファンは幸せに暮らしたと思うようにしなければ、結局精神的に不健康だろうなとエルヴィンは考えた。
生まれてきてもきっと悲しいことばかりだったシュテファンまでもが非業の死を遂げ、しかも今の人生では生まれてくることすらないなんて、つらすぎる。
「俺は問題ない」
じっとエルヴィンを見ていたニルスは少ししてからそう言い切ってきた。
「……、はは。確かにニルスが具合悪そうなとこ、見たことないかも。仕事だけじゃなくて健康管理までちゃんとしてるんだな」
「それはわからない、けど俺が病気になるとリックやお前を守れない」
リックはわかる。リックに仕えている補佐官の仕事がどういった仕事なのかは正直知らないが、とりあえずニルスを見ているとある意味何でも屋かと思えたりする。当然、騎士ではないもののリックを守るのも仕事の内だろう。
だが何故そこにまだ自分が入っているのか。
「……まだ律儀にリックの指示を守り続けてるの? リックも戻ってきたし、俺もニルスと同じで、もう二十歳だよ? いい加減そろそろ俺まで守らなくても……」
「守るよ」
静かに言い切られ、何故かわからないが顔が熱くなった。
いや、熱だからだろ。さっきから喋ってるから熱、また上がってきたのかもだな。
「……えっと、一応、ありがと、う」
何となく落ち着かなくて礼を告げると、ニルスは無言のままふるふると頭を振ってきた。お互い無言のままでも普段なら気にならなかったが、今はどうにも落ち着かない。熱のせいか、もしくはさっき頭に浮かんだとんでもない光景のせいかもしれない。
「あ、あの、さ。とりあえず変な病気でもないし……いや、変な病気だったらそれはそれでここにいちゃ申し訳ないけど、えっとそうじゃなくて、あれだ、これ以上迷惑かけたくないし、俺、帰るよ。使いだけ出させてもらえるかな。いや、それだと時間かかっちゃうし、もしよければ馬車を借り……」
「ここにいろ」
「でも」
「いい。ここにいろ」
「……ありがとう」
正直なところ、まだ自宅へは帰りたくなかった。何となくだが、まだこの弱った状態で家族に会わないほうがいいような気がしている。きっと今、家族に会ったら訳もなく泣いてしまうかもしれない。それに自室に一人で眠ったらまたあんな夢を見てしまうかもしれない。
そんなこと、ないんだろけど……多分、昨日あんな夢見た上に熱出しちゃったから、変に構えちゃってるのかも、な。
「じゃあ、申し訳ないけど今日だけ……」
「治るまでいればいい」
「迷惑じゃないかな」
「そんなわけない」
「……よかった。あ、えっと……この部屋はニルスの部屋?」
「ま、まさか。その、ちゃんと客用の部屋、だから」
何故そこで動揺するのかわからないが、何となくそんなニルスが微笑ましく思う。あと、確かにベッドもニルスの匂いはしなかったなと思った後に自分のその考えに少々微妙になる。
「そっか。じゃあ、ありがたくこのままここで休ませてもらうよ」
「うん」
頷くと、ニルスが立ち上がった。エルヴィンの枕元に近づくとそっとエルヴィンを横たえさせてくる。そして今までずっとエルヴィンが手に持っていたタオルを優しく奪うと、近くに置いてある桶にひたしてからしぼり、エルヴィンの額に乗せてきた。
「冷たくて気持ちいい」
「うん。また少し眠るといい」
熱を計るかのようにニルスの手がそっとエルヴィンの頬や首元に触れる。その手も少しひんやりとしていて気持ちよかった。ついその手に顔をすりつけたくなった。
願望?
いやまさか。それこそおかしいだろ。
俺とニルスが……あんな、あんな……。
ニルスにキスされ、エルヴィンは受け入れるどころかニルスの後頭部に手を回してしがみついていた。そして自らもキスを求めに行った。
どう考えてもおかしい。このよぎった光景も多分エルヴィンの夢なのだろう。ただ、何故ニルスとそんなお互い求めあうようなキスをしている夢など見るのか理解できない。
いや、でも夢ってよくわからないものわりと見るよな? いちいち全部に理由を求めても仕方ないものだろ?
だからシュテファンの夢も気にするべきではないし、ニルスとのキスも気にしなくていい。
そう、それでいい。
はず。
エルヴィンの額に手を置いていたニルスは今、また少し離れてからベッドの縁に腰かけ体を少しひねらせて心配そうにエルヴィンを見ている。
「エルヴィン……」
「な、何?」
多少は挙動不審な反応だったかもしれないが、変なことを口走ったりあからさまに動揺しなかった自分をエルヴィンは褒めてもいいのではとそっと思う。
「無理、しないで欲しい」
ああ、本当になんて優しいやつなんだろうな。
「……うん。ありがとうな、ニルス」
何とか笑みを見せて頷くと、ニルスも無言でこくりと頷いてきた。
「えっと、医者は何て?」
「寒さと疲れで免疫が落ちたんだろう、って」
「かもな。でも俺、別に疲れるほど仕事してないけどな。絶対ニルスのほうが疲れてそう」
疲れは疲れでも、精神的な疲れだろうか。過去のことはもう、あまり考えないほうがいいのかもしれない。そろそろ心配しなくても、もうあんなことにはならないだろう。
ただ、二度と会うことのないシュテファンを思わないというのはできそうにない。とはいえあんな夢はもう見ることのないよう、過去でもきっとリックたちがどうにかしてくれてシュテファンは幸せに暮らしたと思うようにしなければ、結局精神的に不健康だろうなとエルヴィンは考えた。
生まれてきてもきっと悲しいことばかりだったシュテファンまでもが非業の死を遂げ、しかも今の人生では生まれてくることすらないなんて、つらすぎる。
「俺は問題ない」
じっとエルヴィンを見ていたニルスは少ししてからそう言い切ってきた。
「……、はは。確かにニルスが具合悪そうなとこ、見たことないかも。仕事だけじゃなくて健康管理までちゃんとしてるんだな」
「それはわからない、けど俺が病気になるとリックやお前を守れない」
リックはわかる。リックに仕えている補佐官の仕事がどういった仕事なのかは正直知らないが、とりあえずニルスを見ているとある意味何でも屋かと思えたりする。当然、騎士ではないもののリックを守るのも仕事の内だろう。
だが何故そこにまだ自分が入っているのか。
「……まだ律儀にリックの指示を守り続けてるの? リックも戻ってきたし、俺もニルスと同じで、もう二十歳だよ? いい加減そろそろ俺まで守らなくても……」
「守るよ」
静かに言い切られ、何故かわからないが顔が熱くなった。
いや、熱だからだろ。さっきから喋ってるから熱、また上がってきたのかもだな。
「……えっと、一応、ありがと、う」
何となく落ち着かなくて礼を告げると、ニルスは無言のままふるふると頭を振ってきた。お互い無言のままでも普段なら気にならなかったが、今はどうにも落ち着かない。熱のせいか、もしくはさっき頭に浮かんだとんでもない光景のせいかもしれない。
「あ、あの、さ。とりあえず変な病気でもないし……いや、変な病気だったらそれはそれでここにいちゃ申し訳ないけど、えっとそうじゃなくて、あれだ、これ以上迷惑かけたくないし、俺、帰るよ。使いだけ出させてもらえるかな。いや、それだと時間かかっちゃうし、もしよければ馬車を借り……」
「ここにいろ」
「でも」
「いい。ここにいろ」
「……ありがとう」
正直なところ、まだ自宅へは帰りたくなかった。何となくだが、まだこの弱った状態で家族に会わないほうがいいような気がしている。きっと今、家族に会ったら訳もなく泣いてしまうかもしれない。それに自室に一人で眠ったらまたあんな夢を見てしまうかもしれない。
そんなこと、ないんだろけど……多分、昨日あんな夢見た上に熱出しちゃったから、変に構えちゃってるのかも、な。
「じゃあ、申し訳ないけど今日だけ……」
「治るまでいればいい」
「迷惑じゃないかな」
「そんなわけない」
「……よかった。あ、えっと……この部屋はニルスの部屋?」
「ま、まさか。その、ちゃんと客用の部屋、だから」
何故そこで動揺するのかわからないが、何となくそんなニルスが微笑ましく思う。あと、確かにベッドもニルスの匂いはしなかったなと思った後に自分のその考えに少々微妙になる。
「そっか。じゃあ、ありがたくこのままここで休ませてもらうよ」
「うん」
頷くと、ニルスが立ち上がった。エルヴィンの枕元に近づくとそっとエルヴィンを横たえさせてくる。そして今までずっとエルヴィンが手に持っていたタオルを優しく奪うと、近くに置いてある桶にひたしてからしぼり、エルヴィンの額に乗せてきた。
「冷たくて気持ちいい」
「うん。また少し眠るといい」
熱を計るかのようにニルスの手がそっとエルヴィンの頬や首元に触れる。その手も少しひんやりとしていて気持ちよかった。ついその手に顔をすりつけたくなった。
5
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる