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61話
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エルヴィンの所在は当然ながらわかっている。アルスラン家の長男だ。ノルデルハウゼン侯爵という、王に仕える騎士団総長ウーヴェの息子だ。屋敷もわかるため、会いに行こうと思えばいつでも行ける。
──俺が大人であればね。
さすがに六、七歳のそれも第二王子を一人で自由に出かけさせてくれる者は周りに一人もいなかった。何度かこっそり抜け出そうとしたが意外にも難しい。警備がしっかりなされていることでもあるため褒めるべきところかもしれないが、正直面倒でしかない。
一つ目のエルヴィンと出会うことを達成するためにはまず、抜け出すルートを確保しなければならないとリックは思い知った。
あと、ニルスを味方につけることだ。何気にクソがつくほど真面目なニルスはリックのもちろん味方ではあるが、リックが「抜け出したい」と言っても「あり得ない」としか返ってこないだろう。いっそ小馬鹿にする勢いで素っ気なく言ってくるニルスしか浮かばない。
よって、リックは抜け出しやすいルートを色々検討しつつ、ニルスにはことあるごとに「城の外で自由に過ごしてみたい」「馬車に乗って見てまわるだけじゃない、色んなところを見てみたい」などと吹聴していた。
本当ならば馬車だけは使いたかったが、それこそ子どもだけで馬車を使って自由に動くなど、不審にしか思われない上にまず許可が出ないだろう。それに記録に残されてしまうし、何より今のところリックはエルヴィンを知らないはずだというのに不自然だ。町へ出て一般の馬車を使用するにしても御者に警戒されてしまう。
結局周りの状況に今のリックとして慣れつつ、上手く抜け出す方法を完璧に調べ上げ、その上でニルスを上手く味方に引き入れるのに一年くらいかかった。それでもニルスには「だいたいなんでお忍びなんかしてまで……」と言われた。
「したかっただけ」
にっこりと言えばため息をつかれた。上手く味方に引き入れたというよりは多分ほぼ諦めだろう。
子どもで動くって思ってたより難しいもんだね。
微妙に思うものの無理はしたくない。失敗しても今度はもうやり直せない。今のリックなら、子どもであってもいくらでも頭と魔法を駆使してエルヴィンに会いにいけただろう。だが間違いなく不審な子どもでしかない。
自分の力さえも、上手く利用しなきゃね……。
そしてようやくニルスを連れて城を抜け出し、一旦町まで出ることに成功した。ただ、正直なところ遡る前も町から徒歩で移動したことなど皆無だけに、いくらアルスラン家の屋敷の場所がわかっていてもたどり着くのは予想外に難しいことがわかった。まず子どもの足に関わらず、徒歩では侯爵家へ向かうどころか町を出て移動することですら遠い。おまけに町は想像していたよりも複雑だった。
「迷ったみたいだ」
笑顔で言えばニルスに唖然とされた。確かにリックとしても唖然としたい。まさか二十五歳にまでなっていた自分が迷子になるとは、予想外すぎた。その上歩き慣れない石畳だけに、リックはあろうことか子どものように転んでしまった。
いや、子どもだけどさ。でも微妙だよね……。
苦笑しているリックに、ニルスのほうが少しおろおろとしている。
さすがのニルスもやっぱりまだ十歳だもんね。
そんなことをつい思って微笑ましささえ感じてしまう。
「こんな場所だし、傷に細かい石が入ってるかもしれない。どこかで洗い流して……」
「んー、でも俺の魔法でどうにかなるんじゃないかな」
「他人事すぎる……」
ますますニルスが呆れている。他人事ではないが、怪我くらい正直どうってことないリックとしては、足の怪我よりもせっかく抜け出せたというのにエルヴィンにまでたどり着けない現状が気がかりだった。
こうなったらやっぱり魔術でどうにかするか? そのためにニルスにも俺の魔力を見せていたわけだし……。
「あの……大丈夫ですか?」
リックが俯きながら考えているとそんな声が聞こえてきた。ニルスがリックを庇うように前へ出る。ニルスの様子にどう思ったのかわからないが、少ししてその声の持ち主がまた話しかけてきた。
「怪我したならあの、俺、救急セットすぐ取ってくるから待っててください。悪いことなんて考えてないので。ただ応急処置するだけですから。ね?」
ニルスが少し困惑しつつリックを見てくる。
リックは俯いたまま思わず「見つけた」と呟いていた。体がゾクゾクとし、口元が綻ぶ。
間違いなく、エルヴィンだ。
ちらりと声をかけてきた少年を見ながら思った。青みのあるシルバーの髪色と吸い込まれそうなほど透明感のある水色の瞳。二つを兼ね備えている。エルヴィンしか持ち得ない。
ただ、ニルスには何でもないといった笑顔で「お願いしよう」と頷いた。
頷き、エルヴィンを見たニルスに対し「じゃあ少し待っててくださいね。すぐ取ってくるので!」と笑いかけ、エルヴィンはどこかへ走っていった。ニルスはそんなエルヴィンを目で追っている。
「やたら見てるけど、どうしたの」
「……警戒してるだけだ」
「へえ」
どうやら今のニルスも間違いなくエルヴィンに惹かれているようだとリックにはすぐわかった。
なら幼馴染兼親友兼主である俺は、ニルスを応援するだけだ。幸せになって欲しいから、ね……。
ほんの少しだけ切ない気持ちがあるのは仕方がない。リックもエルヴィンには惹かれていた。とはいえ恋や愛というほどでもないはずだ。それよりもさっそくエルヴィンに惹かれているのが手に取るようにわかるニルスが楽しいではないかとリックはにこにこした。
──俺が大人であればね。
さすがに六、七歳のそれも第二王子を一人で自由に出かけさせてくれる者は周りに一人もいなかった。何度かこっそり抜け出そうとしたが意外にも難しい。警備がしっかりなされていることでもあるため褒めるべきところかもしれないが、正直面倒でしかない。
一つ目のエルヴィンと出会うことを達成するためにはまず、抜け出すルートを確保しなければならないとリックは思い知った。
あと、ニルスを味方につけることだ。何気にクソがつくほど真面目なニルスはリックのもちろん味方ではあるが、リックが「抜け出したい」と言っても「あり得ない」としか返ってこないだろう。いっそ小馬鹿にする勢いで素っ気なく言ってくるニルスしか浮かばない。
よって、リックは抜け出しやすいルートを色々検討しつつ、ニルスにはことあるごとに「城の外で自由に過ごしてみたい」「馬車に乗って見てまわるだけじゃない、色んなところを見てみたい」などと吹聴していた。
本当ならば馬車だけは使いたかったが、それこそ子どもだけで馬車を使って自由に動くなど、不審にしか思われない上にまず許可が出ないだろう。それに記録に残されてしまうし、何より今のところリックはエルヴィンを知らないはずだというのに不自然だ。町へ出て一般の馬車を使用するにしても御者に警戒されてしまう。
結局周りの状況に今のリックとして慣れつつ、上手く抜け出す方法を完璧に調べ上げ、その上でニルスを上手く味方に引き入れるのに一年くらいかかった。それでもニルスには「だいたいなんでお忍びなんかしてまで……」と言われた。
「したかっただけ」
にっこりと言えばため息をつかれた。上手く味方に引き入れたというよりは多分ほぼ諦めだろう。
子どもで動くって思ってたより難しいもんだね。
微妙に思うものの無理はしたくない。失敗しても今度はもうやり直せない。今のリックなら、子どもであってもいくらでも頭と魔法を駆使してエルヴィンに会いにいけただろう。だが間違いなく不審な子どもでしかない。
自分の力さえも、上手く利用しなきゃね……。
そしてようやくニルスを連れて城を抜け出し、一旦町まで出ることに成功した。ただ、正直なところ遡る前も町から徒歩で移動したことなど皆無だけに、いくらアルスラン家の屋敷の場所がわかっていてもたどり着くのは予想外に難しいことがわかった。まず子どもの足に関わらず、徒歩では侯爵家へ向かうどころか町を出て移動することですら遠い。おまけに町は想像していたよりも複雑だった。
「迷ったみたいだ」
笑顔で言えばニルスに唖然とされた。確かにリックとしても唖然としたい。まさか二十五歳にまでなっていた自分が迷子になるとは、予想外すぎた。その上歩き慣れない石畳だけに、リックはあろうことか子どものように転んでしまった。
いや、子どもだけどさ。でも微妙だよね……。
苦笑しているリックに、ニルスのほうが少しおろおろとしている。
さすがのニルスもやっぱりまだ十歳だもんね。
そんなことをつい思って微笑ましささえ感じてしまう。
「こんな場所だし、傷に細かい石が入ってるかもしれない。どこかで洗い流して……」
「んー、でも俺の魔法でどうにかなるんじゃないかな」
「他人事すぎる……」
ますますニルスが呆れている。他人事ではないが、怪我くらい正直どうってことないリックとしては、足の怪我よりもせっかく抜け出せたというのにエルヴィンにまでたどり着けない現状が気がかりだった。
こうなったらやっぱり魔術でどうにかするか? そのためにニルスにも俺の魔力を見せていたわけだし……。
「あの……大丈夫ですか?」
リックが俯きながら考えているとそんな声が聞こえてきた。ニルスがリックを庇うように前へ出る。ニルスの様子にどう思ったのかわからないが、少ししてその声の持ち主がまた話しかけてきた。
「怪我したならあの、俺、救急セットすぐ取ってくるから待っててください。悪いことなんて考えてないので。ただ応急処置するだけですから。ね?」
ニルスが少し困惑しつつリックを見てくる。
リックは俯いたまま思わず「見つけた」と呟いていた。体がゾクゾクとし、口元が綻ぶ。
間違いなく、エルヴィンだ。
ちらりと声をかけてきた少年を見ながら思った。青みのあるシルバーの髪色と吸い込まれそうなほど透明感のある水色の瞳。二つを兼ね備えている。エルヴィンしか持ち得ない。
ただ、ニルスには何でもないといった笑顔で「お願いしよう」と頷いた。
頷き、エルヴィンを見たニルスに対し「じゃあ少し待っててくださいね。すぐ取ってくるので!」と笑いかけ、エルヴィンはどこかへ走っていった。ニルスはそんなエルヴィンを目で追っている。
「やたら見てるけど、どうしたの」
「……警戒してるだけだ」
「へえ」
どうやら今のニルスも間違いなくエルヴィンに惹かれているようだとリックにはすぐわかった。
なら幼馴染兼親友兼主である俺は、ニルスを応援するだけだ。幸せになって欲しいから、ね……。
ほんの少しだけ切ない気持ちがあるのは仕方がない。リックもエルヴィンには惹かれていた。とはいえ恋や愛というほどでもないはずだ。それよりもさっそくエルヴィンに惹かれているのが手に取るようにわかるニルスが楽しいではないかとリックはにこにこした。
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