63 / 193
63話
しおりを挟む
「いい加減にするのはニルスでしょ。そんな顔と態度ではエルヴィンに誤解されちゃうよ? エルヴィン、安心して。ニルスはこんなだけど君のことは本当に感謝していた上にかなり好意的なんだから」
にこにこと言えばニルスが案の定慌てたように「リック……!」と名前を呼んできた。
よく考えなくとも、この三人の中で本当に完全な十歳の子どもであるのは多分ニルスだけだ。そう思うとこの不愛想で無口無表情なニルスが余計にかわいく思えてくる。あと純粋に楽しい。
「え? そ、そうなんですか?」
「……悪い。俺は無口だし顔にもあまり出ないらしい。だが確かに感謝している」
「感謝なんて」
気づけば二人は握手している。その後ニアキスを加えて四人で話していても、ニルスはエルヴィンから目が離せないようだった。いつも無言なので黙っていることに目新しさはないが、目が離せないニルスはさすがに目新しい。その上とても微笑ましくて、リックとしてもつい笑顔になる。
ただ、ニルスはそんな自分が理解できないようでひたすらこっそり首を傾げていた。ますます微笑ましくてかわいらしいなと思う。
まだ恋とかわからないんだろうなあ。
でも絶対に間違いなく、ニルスはエルヴィンに惹かれている。それだけは確実だとリックは思った。
その後、四人でよく集まって一緒に遊ぶようになった。王城ならまだしも王宮は落ち着かないというエルヴィンに合わせ、ニアキスかエルヴィンの屋敷で遊ぶことが多かった。ニルスの屋敷でもいいのではとリックは思ったが、ニアキスいわく「ニルスの屋敷なんてある意味王宮へ行くのと似たようなものだ」らしい。確かに大公爵家という身分はとても高い上に王族でもある。
ニルスにとってはどこで遊ぶかなど、どうでもいいようだった。
多分、エルヴィンに会えたらそれでいいんだろうね。
相変わらずリックには微笑ましく思える。自分もニルスも、そしてエルヴィンも大人のままだったらまた違ったのかもしれない。関係性は変わっていたかもしれない。そう思える程度にはリックはエルヴィンに好感を抱いていたのだろうと自分でも思う。
でも、今のこんな感じ、悪くない。
エルヴィンの屋敷で遊ぶ時は、エルヴィンの弟であるヴィリーも一緒に遊ぶことが少なくなかった。
遡る前にリックがヴィリーの存在を知ったのはすでに処刑された後だった。騎士団総長ウーヴェの次男であることは元々知っていたが、処刑されたことで存在を知ったとも言うだろうか。
デニスのやり方に反発したというよりはきちんと抗議を行っただけだったと、当時リックの味方である大臣の一人に聞いた。だが亡くなったラウラについてデニスがあまりよくない表現をしたらしく、ずっと堪えていたのであろうヴィリーは思わずデニスに対し剣を向けてしまった。
聞いた時は胸が痛かった。また一人、自分の身内のせいで無駄に死んでしまったと。せめてリックがもう少し早く国へ戻ってきていれば、ヴィリーの処刑も止められた可能性はあった、かもしれない。そう思うと余計に胸が痛かった。
そんな引け目のせいだろうか。リックは遡る前の記憶のないヴィリーに対して、あまり話しかけることは多くなかった。もちろん、話せば普通に楽しく会話することはできるため、エルヴィンたちだけでなくニルスすら気づいてはいないだろう。
遡る前のヴィリーがどんな人物だったのかは知らない。だが今のヴィリーはとにかく兄であるエルヴィンのことが大好きなようだとはすぐにわかった。あと、大好きだけに気づきやすいのだろうか。感情がほぼ読まれないであろうニルスに対して、何となく目の敵にしている様子が見てとれる。
これはこれで楽し……いや、大変かもだねえニルスは。
申し訳ないが、正直リックの楽しみの一つになったかもしれない。あと、時折だがエルヴィンの妹であるラウラを見かけた。さすがに兄たちの集まりに入ってくることはなかったが、顔を見る機会があればリックはラウラも気にして窺うようにしていた。
最初の頃は遡る前に仕えてくれている貴族たちから聞いた話のように、人見知りをするおとなしい恥ずかしがり屋で物静かな少女だと思っていた。だが少しずつ、それなりに明るくて自分をしっかり持つ少女ではと思うようになっていった。元々そうだったのか、以前の記憶を持つエルヴィンの働きかけによるものかは明確ではないが、エルヴィンが何もせず手をこまねいているだけとも思えないため、もしかしたらエルヴィンがそう仕向けているのかもしれない。
だとしたら、俺もがんばらないとね。
とりあえずやるべきことの一つ目である、エルヴィンとの繋がりを持つことは果たした。メモ帳にも丸をしておく。
ちなみにエルヴィンに、リックも時間が戻っているのだとは言わないことにした。何となくだが、エルヴィンにとってそのほうがいいような気がする。耐え難いつらい過去だけに、その過去を知る者はいないほうがきっといい。
それにエルヴィンには、過去のつらい悲しい出来事を乗り越え、新しい未来を見ていて欲しい。
そんな風に考えながら、リックはメモ帳に目を落とした。
あとは二つ目と三つ目だ。
二つ目は、ラヴィニアとデニスの出会いを潰すことだ。
もう少し先に、デニスとラヴィニアはとある公爵家のパーティーで出会う。そこから完全に阻止していきたい。
そして三つ目は──父、そして国王であるラフェドの暗殺を阻止することだった。
にこにこと言えばニルスが案の定慌てたように「リック……!」と名前を呼んできた。
よく考えなくとも、この三人の中で本当に完全な十歳の子どもであるのは多分ニルスだけだ。そう思うとこの不愛想で無口無表情なニルスが余計にかわいく思えてくる。あと純粋に楽しい。
「え? そ、そうなんですか?」
「……悪い。俺は無口だし顔にもあまり出ないらしい。だが確かに感謝している」
「感謝なんて」
気づけば二人は握手している。その後ニアキスを加えて四人で話していても、ニルスはエルヴィンから目が離せないようだった。いつも無言なので黙っていることに目新しさはないが、目が離せないニルスはさすがに目新しい。その上とても微笑ましくて、リックとしてもつい笑顔になる。
ただ、ニルスはそんな自分が理解できないようでひたすらこっそり首を傾げていた。ますます微笑ましくてかわいらしいなと思う。
まだ恋とかわからないんだろうなあ。
でも絶対に間違いなく、ニルスはエルヴィンに惹かれている。それだけは確実だとリックは思った。
その後、四人でよく集まって一緒に遊ぶようになった。王城ならまだしも王宮は落ち着かないというエルヴィンに合わせ、ニアキスかエルヴィンの屋敷で遊ぶことが多かった。ニルスの屋敷でもいいのではとリックは思ったが、ニアキスいわく「ニルスの屋敷なんてある意味王宮へ行くのと似たようなものだ」らしい。確かに大公爵家という身分はとても高い上に王族でもある。
ニルスにとってはどこで遊ぶかなど、どうでもいいようだった。
多分、エルヴィンに会えたらそれでいいんだろうね。
相変わらずリックには微笑ましく思える。自分もニルスも、そしてエルヴィンも大人のままだったらまた違ったのかもしれない。関係性は変わっていたかもしれない。そう思える程度にはリックはエルヴィンに好感を抱いていたのだろうと自分でも思う。
でも、今のこんな感じ、悪くない。
エルヴィンの屋敷で遊ぶ時は、エルヴィンの弟であるヴィリーも一緒に遊ぶことが少なくなかった。
遡る前にリックがヴィリーの存在を知ったのはすでに処刑された後だった。騎士団総長ウーヴェの次男であることは元々知っていたが、処刑されたことで存在を知ったとも言うだろうか。
デニスのやり方に反発したというよりはきちんと抗議を行っただけだったと、当時リックの味方である大臣の一人に聞いた。だが亡くなったラウラについてデニスがあまりよくない表現をしたらしく、ずっと堪えていたのであろうヴィリーは思わずデニスに対し剣を向けてしまった。
聞いた時は胸が痛かった。また一人、自分の身内のせいで無駄に死んでしまったと。せめてリックがもう少し早く国へ戻ってきていれば、ヴィリーの処刑も止められた可能性はあった、かもしれない。そう思うと余計に胸が痛かった。
そんな引け目のせいだろうか。リックは遡る前の記憶のないヴィリーに対して、あまり話しかけることは多くなかった。もちろん、話せば普通に楽しく会話することはできるため、エルヴィンたちだけでなくニルスすら気づいてはいないだろう。
遡る前のヴィリーがどんな人物だったのかは知らない。だが今のヴィリーはとにかく兄であるエルヴィンのことが大好きなようだとはすぐにわかった。あと、大好きだけに気づきやすいのだろうか。感情がほぼ読まれないであろうニルスに対して、何となく目の敵にしている様子が見てとれる。
これはこれで楽し……いや、大変かもだねえニルスは。
申し訳ないが、正直リックの楽しみの一つになったかもしれない。あと、時折だがエルヴィンの妹であるラウラを見かけた。さすがに兄たちの集まりに入ってくることはなかったが、顔を見る機会があればリックはラウラも気にして窺うようにしていた。
最初の頃は遡る前に仕えてくれている貴族たちから聞いた話のように、人見知りをするおとなしい恥ずかしがり屋で物静かな少女だと思っていた。だが少しずつ、それなりに明るくて自分をしっかり持つ少女ではと思うようになっていった。元々そうだったのか、以前の記憶を持つエルヴィンの働きかけによるものかは明確ではないが、エルヴィンが何もせず手をこまねいているだけとも思えないため、もしかしたらエルヴィンがそう仕向けているのかもしれない。
だとしたら、俺もがんばらないとね。
とりあえずやるべきことの一つ目である、エルヴィンとの繋がりを持つことは果たした。メモ帳にも丸をしておく。
ちなみにエルヴィンに、リックも時間が戻っているのだとは言わないことにした。何となくだが、エルヴィンにとってそのほうがいいような気がする。耐え難いつらい過去だけに、その過去を知る者はいないほうがきっといい。
それにエルヴィンには、過去のつらい悲しい出来事を乗り越え、新しい未来を見ていて欲しい。
そんな風に考えながら、リックはメモ帳に目を落とした。
あとは二つ目と三つ目だ。
二つ目は、ラヴィニアとデニスの出会いを潰すことだ。
もう少し先に、デニスとラヴィニアはとある公爵家のパーティーで出会う。そこから完全に阻止していきたい。
そして三つ目は──父、そして国王であるラフェドの暗殺を阻止することだった。
4
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる