彼は最後に微笑んだ

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72話

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 何もかもおそらくとしか言えないものの、パーティーによく出入りしていたラヴィニアはその子息が麻薬取引を行っているという弱みを握った。そして指示したのだろうと思われる。
 確かに当時、その公爵家子息からラフェドへ体にいいと言われている茶葉が送られていたことがあった。今までもそういうことはあったし、そこそこ親しい付き合いをしていた貴族の息子だけに違和感は特になかったと思われる。おそらくはそこに毒を忍ばせたのだろう。

 茶葉の容器は押収し調べさせたものの、ずいぶん経っていたのもあり残念ながら何も出なかったんだよね……。

 とはいえあきらかに中身が入れ替えられていたであろうことは、茶葉の種類が微妙に違うことからわかった。多分、時期やタイミングにより全く同じ茶葉が手に入らないまま仕方なく似たものと入れ替え、その後バレることもなかったのもありそのままになっていたのだろう。
 ただの男爵令嬢が毒を手に入れられたのは、おそらく父親の商売絡みではないだろうか。後ろ暗い取引もしていたであろう関係で手に入れることも可能だったのではと、当時も今もリックは思っている。
 ラヴィニアは外見や素行に反し、決して馬鹿ではない。それどころか王や王妃の暗殺すら、さらりとやってのけたくらいだ。父親の商売絡みで毒をこっそり手に入れるくらい、大したことでもなかったのではないだろうか。
 ラウラに使った毒とラフェドに使った毒もおそらく同じではない。よくある犯罪者なら同じ毒を使いそうなものだが、症状からみても違う毒を使ったと思われる。

 それもあって当時、二人ともに対してそれぞれ「まさか亡くなるなんて」と言われていたにも関わらず、結び付けて考える者なんて皆無だったしね。

 無事シュテファンが生まれたことを思えば、出産後の肥立ちが悪くて亡くなったと考えるのが自然であるラウラは即効性の毒が使われ、少しずつ体が弱っていき何らかの病巣に侵されたと思われているラフェドは遅効性の毒が使われたのだろうとリックは考えている。ちなみにエルヴィンに使われた毒もまた別の種類ではないかと踏んでいる。数日苦しみぬいたと聞いて、当時は胸が張り裂けそうだった。
 ただし証拠はどれも残念ながら全くない。どんな毒かもおかげで明確にわからない。
 それもあり、ラヴィニアが公爵子息を使って毒殺を試みることはもうないとは思いつつも、不安は残る。
 未来を着々と変えている関係で、遡る前に起きた流れも変わっている可能性だってある。

 もしすでにラヴィニアが何かに狙いを定め、そのために子息をゆすっていたら?
 もしそのせいで王族の誰かに対しすでに計画が立てられていたら?

 そんなことある訳がないと思いつつも絶対にないとも断言できない。どのみち子息が今回も麻薬取引を行っていることは調べがついているし、それは罰すべきものだ。完全に退路を潰しておくに越したことはない。

「じゃあ、また。アメーリア」
「ああ。いつでも遊びに来るといいよ王子様」
「……そのついでに掃除させる気ですよね」

 にこにこしたまま言えば、アメーリアもにっこりと笑顔で見返してきた。それについては何も言わず「リックは優秀な弟子だったよ」と続けてきた。

「過去系ですか」
「別に破門するわけじゃないさ。ただ、お前はもう弟子というより私の友人だ。それでいいじゃないか」
「光栄です、アメーリア。あなたの友人になれるだなんて。ですが尊敬はきっと永遠にさせてもらいます」
「別にいらないよ」
「そうはいきません。友人であっても尊敬くらいするでしょう? ああでも弟子でなく友人なら遊びに来ても掃除させられることはなさそうですね」
「……それとこれとは別だよ」

 帰国してからまず行ったのは、あらかじめ調べておいた公爵子息の麻薬取引に関して公にすることだった。ニルスにも手伝ってもらい、証拠をそろえて告発した。これでもうやるべきことはやり切ったのではないだろうか。
 その後も忙しさにバタバタしつつ、帰国パーティーでは久しぶりにエルヴィンときちんと対面できたし、その後時間を作ってもらって話もした。
 まさか心を読む魔術具を手にしてなお、エルヴィンとニルスがちっとも進んだ関係になっていないとはと、正直純粋に驚いた。とはいえ全くゼロでもないのではという感触は何となく得ている。
 リックは大広間に戻ってから胸ポケットに入れている色褪せたメモ帳にそっと手を触れた。
 遡ってから今日まで、あっという間だった気がする。だが古くなったメモ帳を見ればそれなりに経ってきたのだと実感する。

 十一年くらい、かな?

 時間を戻してやり直すにも結構な年数だったかもしれない。だが後悔はない。それだけたくさん準備できたし、ニルスやエルヴィンたちとも楽しい時間をたくさん過ごせた。
 メモ帳に書いた計画を果たした今、ようやくリックも前へ向けて歩いていける気がした。

 何よりエルヴィンが笑顔なら俺も嬉しいし、ニルスがエルヴィンと幸せになるのなら、こうして時間を戻してよかった。……エルヴィンはだからもっとあのブローチを使って欲しいしニルスもせめてもう少し積極的になって欲しいところなんだけどね。

 シュテファンだけはさすがにリックもどうすることもできない。人の命を生み出すことはそれこそどれほどの魔力を持っていようが、決して関わってはいけないことだ。
 エルヴィンはきっと、今もラウラの忘れ形見である幼い彼のことを忘れずにいるのだろう。

 でも……縁はきっとどこまでも繋がってるよエルヴィン。

 家族だからこそなおさら、その絆は繋がっているだろう。きっとシュテファンも今度こそ幸せになるためにどこかで、どんな形であろうと生まれてくるだろうし、エルヴィンたちの絆を思えばきっと出会えるのではないだろうか。
 遡る前のアメーリアも言ってくれていた。
 縁が繋がればどの時の流れに生まれても、どのような形であれ必ず出会える、と。

「お久しぶりです、殿下。次は私と踊ってくださいます?」

 耳にしたことのあるハキハキとした令嬢の声にリックはふと我に返った。そしてにっこりと笑いかけた。

「喜んで、テレーゼ」
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