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75話
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大広間にいる時からエルヴィンを目で追っていたニルスは、エルヴィンがニアキスの妹と踊った後に庭園の方へ歩いていく様子に気づいて後に続いた。
リックについているとはいえ、さすがにこういった場ではむしろ離れている。リックだけでなく王族優先ながら参加者全員の警備は担当の者が担っている。それにリックは王子としての責務、と言えば大げさだが、婚約相手をそろそろ見つける必要がある。帰国パーティーの時は貴族たちへの顔合わせが目的もあったためニルスもずっとリックについていたが、今日のパーティーではその目的にかなり適しているだろう。
……リック自身は冗談じゃないと思ってるだろうけれども。
気持ちはとてもわかる。とはいえ立場上仕方がないことでもある。これに関してはニルスの意見など関係ない。大変だなと思うが、何もしてあげられない。
それもあり、元々リックのそばについていなかったニルスは構わずエルヴィンの後を追った。
追いつく前にエルヴィンの姿が見えたが、ベンチを見ながらぼんやりとしている。そして座ってからもぼんやりとしているようだった。
まだ、何かに悩んでいるのだろうか。あの悪夢の関係だろうか。
ニルスが近づくと、気配に気づいたエルヴィンが見上げてきた。
「ニルス」
物憂げな表情が笑顔に変わる。かわいくて愛しくて、できればそのまま抱きしめて離したくないと思った。それとともに「俺に気づく前は何を考えていた?」と気になる。
「隣、いいか」
「もちろん」
頷きながら横へ移動してくれた。それだけですらかわいい。
ニルスは座りながら一旦自分の気持ちを落ち着けようとした。そうしないと心配を上回る勢いでひたすら「かわいいかわいい」と繰り返してしまいそうだ。
そう、とりあえず落ち着かせて、エルヴィンに悪夢のことを言おう。俺がそうしようと思ったことを。
ほぼ告白みたいなものかもしれない。「好き」だという言葉がないだけだ。
気持ちを自ら打ち明けるつもりはないが、悪夢について自分の気持ちを言うためなら告白と受け止められても構わない。
「以前熱を出した時に話していた悪夢の話だが……」
「あ、ああ! あれな。うん、その、忘れてくれ」
上手く言えるかわからないながらに話しかけると、エルヴィンが前のめりな勢いで返してきた。それに対し普段なら「わかった」と答えるだろう。だがニルスは首をそっと振った。
「……忘れない。あれが本当のことだろうが夢の話だろうが、お前を苦しませた内容の上に、俺は必ず助けると言ったくせに約束を果たせなかった。……申し訳ない」
「い、いや。何で今のニルスが謝るんだよ」
「今の?」
とは。
「あーその、お前は実際それに直面してないだろ?」
確かに直面していない。夢の中の話というだけかもしれないし、もしからくりや流れなどわからないものの本当にあったことなのだとしても、確かに「今の」ニルスは知らないことだ。だが夢だろうが何だろうが、もしニルスが本当にそれらに直面していたら耐え難い思いに駆られただろうし、その後一生悔やみ続けたはずだ。
「……もしその俺が本当の俺なら、きっとその後死んでも死にきれないくらい後悔し続けただろう」
「……ニルス」
それに夢だろうが何だろうが、エルヴィンのつらさや悲しみを思うとそれだけで耐え難い。
「大切な人をなくし、絶望の中苦しんで殺されるなんて、現実であろうが夢であろうがつらいことだ。……俺はせめて、その中にいた俺が果たせなかった約束を違う形で果たしたい」
「え?」
「お前が不安に思うこと、つらいと感じること、悲しいこと、どんなことでも取り除いていきたい。リックに言われたからじゃない。俺は……俺自身がお前をどんなことからも守りたいと思う。剣の腕前がいいお前を認めていないんじゃない。ただひたすら、そういった負のものから守りたい」
これが一番伝えたかったことだ。口が上手くないため回りくどいかもしれないし、一番伝えたいこともちゃんと言えていないかもしれない。それでも伝えたかった。
ニルスが何とか口にした後、エルヴィンは何も言わずにニルスをじっと見てくる。
見られてとても嬉しい。……じゃなくて、どうしたんだろう。もしかして俺は何か言うのを間違えたのだろうか。
それとも必ず助けるという約束を違う形で果たしたい、ひたすら守りたいなんて言われて引かれているのだろうかとニルスは内心考えを巡らせていた。
それはあり得るかもしれない。普通に困惑する可能性は低くないだろう。
恋人でも何でもないただの……いや、俺からすれば全然ただのじゃないけど、でもエルヴィンからしたらただの親友……少なくとも親友と思ってはくれてる、んだろうかな……だといいが……とにかくそんな相手からそこまで言われたら引くかもしれない。俺だってもしリックに言われたら「何を言ってる?」とか唖然と言いそうだ。いやでもそれは相手がリックだからかもだけども。確かにリックは普段何を考えているのかわからないし適当なところあるもののいざとなると真摯なやつだが、それでも……じゃなくて今リックのことはどうでもいい。とにかく引かれてるだろうか……?
「エルヴィン?」
「あ、ああ……その、嬉しい。……ありがとう」
「うん」
よかった、引かれてはいないようだ……。
実際嬉しそうな様子で礼を言ってくれた。別に礼など求めてはいないが、嬉しく思ってもらえるのはニルスこそとてつもなく嬉しい。
……告白とはこれっぽっちも思ってもらえなかったみたいだけど……。
リックについているとはいえ、さすがにこういった場ではむしろ離れている。リックだけでなく王族優先ながら参加者全員の警備は担当の者が担っている。それにリックは王子としての責務、と言えば大げさだが、婚約相手をそろそろ見つける必要がある。帰国パーティーの時は貴族たちへの顔合わせが目的もあったためニルスもずっとリックについていたが、今日のパーティーではその目的にかなり適しているだろう。
……リック自身は冗談じゃないと思ってるだろうけれども。
気持ちはとてもわかる。とはいえ立場上仕方がないことでもある。これに関してはニルスの意見など関係ない。大変だなと思うが、何もしてあげられない。
それもあり、元々リックのそばについていなかったニルスは構わずエルヴィンの後を追った。
追いつく前にエルヴィンの姿が見えたが、ベンチを見ながらぼんやりとしている。そして座ってからもぼんやりとしているようだった。
まだ、何かに悩んでいるのだろうか。あの悪夢の関係だろうか。
ニルスが近づくと、気配に気づいたエルヴィンが見上げてきた。
「ニルス」
物憂げな表情が笑顔に変わる。かわいくて愛しくて、できればそのまま抱きしめて離したくないと思った。それとともに「俺に気づく前は何を考えていた?」と気になる。
「隣、いいか」
「もちろん」
頷きながら横へ移動してくれた。それだけですらかわいい。
ニルスは座りながら一旦自分の気持ちを落ち着けようとした。そうしないと心配を上回る勢いでひたすら「かわいいかわいい」と繰り返してしまいそうだ。
そう、とりあえず落ち着かせて、エルヴィンに悪夢のことを言おう。俺がそうしようと思ったことを。
ほぼ告白みたいなものかもしれない。「好き」だという言葉がないだけだ。
気持ちを自ら打ち明けるつもりはないが、悪夢について自分の気持ちを言うためなら告白と受け止められても構わない。
「以前熱を出した時に話していた悪夢の話だが……」
「あ、ああ! あれな。うん、その、忘れてくれ」
上手く言えるかわからないながらに話しかけると、エルヴィンが前のめりな勢いで返してきた。それに対し普段なら「わかった」と答えるだろう。だがニルスは首をそっと振った。
「……忘れない。あれが本当のことだろうが夢の話だろうが、お前を苦しませた内容の上に、俺は必ず助けると言ったくせに約束を果たせなかった。……申し訳ない」
「い、いや。何で今のニルスが謝るんだよ」
「今の?」
とは。
「あーその、お前は実際それに直面してないだろ?」
確かに直面していない。夢の中の話というだけかもしれないし、もしからくりや流れなどわからないものの本当にあったことなのだとしても、確かに「今の」ニルスは知らないことだ。だが夢だろうが何だろうが、もしニルスが本当にそれらに直面していたら耐え難い思いに駆られただろうし、その後一生悔やみ続けたはずだ。
「……もしその俺が本当の俺なら、きっとその後死んでも死にきれないくらい後悔し続けただろう」
「……ニルス」
それに夢だろうが何だろうが、エルヴィンのつらさや悲しみを思うとそれだけで耐え難い。
「大切な人をなくし、絶望の中苦しんで殺されるなんて、現実であろうが夢であろうがつらいことだ。……俺はせめて、その中にいた俺が果たせなかった約束を違う形で果たしたい」
「え?」
「お前が不安に思うこと、つらいと感じること、悲しいこと、どんなことでも取り除いていきたい。リックに言われたからじゃない。俺は……俺自身がお前をどんなことからも守りたいと思う。剣の腕前がいいお前を認めていないんじゃない。ただひたすら、そういった負のものから守りたい」
これが一番伝えたかったことだ。口が上手くないため回りくどいかもしれないし、一番伝えたいこともちゃんと言えていないかもしれない。それでも伝えたかった。
ニルスが何とか口にした後、エルヴィンは何も言わずにニルスをじっと見てくる。
見られてとても嬉しい。……じゃなくて、どうしたんだろう。もしかして俺は何か言うのを間違えたのだろうか。
それとも必ず助けるという約束を違う形で果たしたい、ひたすら守りたいなんて言われて引かれているのだろうかとニルスは内心考えを巡らせていた。
それはあり得るかもしれない。普通に困惑する可能性は低くないだろう。
恋人でも何でもないただの……いや、俺からすれば全然ただのじゃないけど、でもエルヴィンからしたらただの親友……少なくとも親友と思ってはくれてる、んだろうかな……だといいが……とにかくそんな相手からそこまで言われたら引くかもしれない。俺だってもしリックに言われたら「何を言ってる?」とか唖然と言いそうだ。いやでもそれは相手がリックだからかもだけども。確かにリックは普段何を考えているのかわからないし適当なところあるもののいざとなると真摯なやつだが、それでも……じゃなくて今リックのことはどうでもいい。とにかく引かれてるだろうか……?
「エルヴィン?」
「あ、ああ……その、嬉しい。……ありがとう」
「うん」
よかった、引かれてはいないようだ……。
実際嬉しそうな様子で礼を言ってくれた。別に礼など求めてはいないが、嬉しく思ってもらえるのはニルスこそとてつもなく嬉しい。
……告白とはこれっぽっちも思ってもらえなかったみたいだけど……。
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