彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
75 / 193

75話

しおりを挟む
 大広間にいる時からエルヴィンを目で追っていたニルスは、エルヴィンがニアキスの妹と踊った後に庭園の方へ歩いていく様子に気づいて後に続いた。
 リックについているとはいえ、さすがにこういった場ではむしろ離れている。リックだけでなく王族優先ながら参加者全員の警備は担当の者が担っている。それにリックは王子としての責務、と言えば大げさだが、婚約相手をそろそろ見つける必要がある。帰国パーティーの時は貴族たちへの顔合わせが目的もあったためニルスもずっとリックについていたが、今日のパーティーではその目的にかなり適しているだろう。

 ……リック自身は冗談じゃないと思ってるだろうけれども。

 気持ちはとてもわかる。とはいえ立場上仕方がないことでもある。これに関してはニルスの意見など関係ない。大変だなと思うが、何もしてあげられない。
 それもあり、元々リックのそばについていなかったニルスは構わずエルヴィンの後を追った。
 追いつく前にエルヴィンの姿が見えたが、ベンチを見ながらぼんやりとしている。そして座ってからもぼんやりとしているようだった。

 まだ、何かに悩んでいるのだろうか。あの悪夢の関係だろうか。

 ニルスが近づくと、気配に気づいたエルヴィンが見上げてきた。

「ニルス」

 物憂げな表情が笑顔に変わる。かわいくて愛しくて、できればそのまま抱きしめて離したくないと思った。それとともに「俺に気づく前は何を考えていた?」と気になる。

「隣、いいか」
「もちろん」

 頷きながら横へ移動してくれた。それだけですらかわいい。
 ニルスは座りながら一旦自分の気持ちを落ち着けようとした。そうしないと心配を上回る勢いでひたすら「かわいいかわいい」と繰り返してしまいそうだ。

 そう、とりあえず落ち着かせて、エルヴィンに悪夢のことを言おう。俺がそうしようと思ったことを。

 ほぼ告白みたいなものかもしれない。「好き」だという言葉がないだけだ。
 気持ちを自ら打ち明けるつもりはないが、悪夢について自分の気持ちを言うためなら告白と受け止められても構わない。

「以前熱を出した時に話していた悪夢の話だが……」
「あ、ああ! あれな。うん、その、忘れてくれ」

 上手く言えるかわからないながらに話しかけると、エルヴィンが前のめりな勢いで返してきた。それに対し普段なら「わかった」と答えるだろう。だがニルスは首をそっと振った。

「……忘れない。あれが本当のことだろうが夢の話だろうが、お前を苦しませた内容の上に、俺は必ず助けると言ったくせに約束を果たせなかった。……申し訳ない」
「い、いや。何で今のニルスが謝るんだよ」
「今の?」

 とは。

「あーその、お前は実際それに直面してないだろ?」

 確かに直面していない。夢の中の話というだけかもしれないし、もしからくりや流れなどわからないものの本当にあったことなのだとしても、確かに「今の」ニルスは知らないことだ。だが夢だろうが何だろうが、もしニルスが本当にそれらに直面していたら耐え難い思いに駆られただろうし、その後一生悔やみ続けたはずだ。

「……もしその俺が本当の俺なら、きっとその後死んでも死にきれないくらい後悔し続けただろう」
「……ニルス」

 それに夢だろうが何だろうが、エルヴィンのつらさや悲しみを思うとそれだけで耐え難い。

「大切な人をなくし、絶望の中苦しんで殺されるなんて、現実であろうが夢であろうがつらいことだ。……俺はせめて、その中にいた俺が果たせなかった約束を違う形で果たしたい」
「え?」
「お前が不安に思うこと、つらいと感じること、悲しいこと、どんなことでも取り除いていきたい。リックに言われたからじゃない。俺は……俺自身がお前をどんなことからも守りたいと思う。剣の腕前がいいお前を認めていないんじゃない。ただひたすら、そういった負のものから守りたい」

 これが一番伝えたかったことだ。口が上手くないため回りくどいかもしれないし、一番伝えたいこともちゃんと言えていないかもしれない。それでも伝えたかった。
 ニルスが何とか口にした後、エルヴィンは何も言わずにニルスをじっと見てくる。

 見られてとても嬉しい。……じゃなくて、どうしたんだろう。もしかして俺は何か言うのを間違えたのだろうか。

 それとも必ず助けるという約束を違う形で果たしたい、ひたすら守りたいなんて言われて引かれているのだろうかとニルスは内心考えを巡らせていた。
 それはあり得るかもしれない。普通に困惑する可能性は低くないだろう。

 恋人でも何でもないただの……いや、俺からすれば全然ただのじゃないけど、でもエルヴィンからしたらただの親友……少なくとも親友と思ってはくれてる、んだろうかな……だといいが……とにかくそんな相手からそこまで言われたら引くかもしれない。俺だってもしリックに言われたら「何を言ってる?」とか唖然と言いそうだ。いやでもそれは相手がリックだからかもだけども。確かにリックは普段何を考えているのかわからないし適当なところあるもののいざとなると真摯なやつだが、それでも……じゃなくて今リックのことはどうでもいい。とにかく引かれてるだろうか……?

「エルヴィン?」
「あ、ああ……その、嬉しい。……ありがとう」
「うん」

 よかった、引かれてはいないようだ……。

 実際嬉しそうな様子で礼を言ってくれた。別に礼など求めてはいないが、嬉しく思ってもらえるのはニルスこそとてつもなく嬉しい。

 ……告白とはこれっぽっちも思ってもらえなかったみたいだけど……。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...