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74話
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とにかく自覚してしまった以上、どうにかしたいと思うのは真っ当な成人男子として致し方ないことだとエルヴィンは思った。
ラウラはきっとニアキスと幸せになる。デニスもきっと以前のようなことにはならない。
なら、これからは自分のことも少しは考えてもいいのではないだろうか。
いまだにエルヴィンは何故時を遡れたのかわからないため、神様の思し召しと考えることにしている。そのため敬虔な信者にはなれないながらも教会へは遡る前より行くようにしているし、寄付も度々してきた。
そんなエルヴィンに対してたまにリックが「奇特な人だねえ」と言っていたが、おかしそうな顔からするに褒めているというよりは茶化してくれているのだろう。とはいえ「俺に神様が奇跡を起こしてくれたんだからこれくらいはしたい」とは言えないため「マヴァリージ王国民として当然のことですし」と言えば「国民としてなら、王子の俺にも何かしてくれないの」とさらににこにこ言われたりした。
「毎日王城へ向けて忠誠を誓ってますよ」
「俺には?」
「リックはだって友人でしょう」
いつもは王子扱いをするなという勢いのくせにと呆れたように言えば、むしろ嬉しそうに「そうだね」と頷いていた。
とにかく、今まではひたすら未来を変えようとエルヴィンなりにがんばってきた。これからは多少自分のことを考えても神はつむじを曲げはしないだろう。多分。
……多分。
曲げない、よな?
それともこの世の理に反してまで未来を変えたくせに、まだ自分のことまで考えようとするのかと思われるだろうかと少し不安になってきた。
もしそれでまた悪い方向に行ったら?
それともまた時が戻ったら?
どうしても過去のことに関してはネガティブになりがちだ。
「なあ、ニルス」
「うん」
エルヴィンのありがとうという言葉にニルスが頷いた後お互い黙っていたが、エルヴィンが呼びかけるとニルスはすぐに顔を向けてきた。
「……自分や家族のために奮闘する時間を与えられた後、さらに自分のその、何だ、えっと、欲望かな? を満たそうって思ったらやっぱ神様は怒るかな」
「……、……すまない、何の話だ」
ですよね。
困惑しているであろうニルスにエルヴィンも困ったような笑みを向けた。すると少し黙った後ニルスがまた口を開いてきた。
「……よくわからないが、自分のために生きて何が悪いんだ?」
「っ、そ、そう、だよな」
全くもって何を言っているのかわからないだろうし、下手したら「またいつもの奇行だろうか」くらい思われそうな流れだっただろうに、ニルスはそれでも自分なりに考えてくれた。しかも言われた言葉はエルヴィンにまた響いてくる。
自分のために生きて、何が悪い、か……。
そう、だよね。それでいい、よね?
もしいるのなら神様、それでいい、ですよね……?
「ありがとう、ニルス」
ますます嬉しくて、そして好きで、エルヴィンは思わず隣に座っているニルスを自分も座ったままぎゅっと抱きしめた。途端、懐かしの言語化できていない不思議な音がものすごい勢いでエルヴィンの頭に入ってきた。
最初はこれ、ちょっと怖かったっけ。
慌てて抱擁を解きながらエルヴィンは内心苦笑した。
怖くはないながらに今でも一体どういう強い感情なのだろうと不思議ではあるものの、だがニルスのことが好きだと自覚した以上、なおさら勝手に感情を読むわけにいかない。
やっぱりブローチ、リック王子に返すべきかな。
所持させてもらったまま引き出しかどこかにしまっていても構わないが、せっかくもらった、それもとてつもなく価値のあるものを眠らせておくのも何だか申し訳ない気がする。
とはいえ一応今までは心を読む力は使わないにしても、お守りとして、そして美しい装飾品として身に着けていたものの、こうしてうっかりニルスの心を読んでしまうのはいただけない。
……それにほら、あれだ。これからニルスに振り向いてもらうため努力するにあたって、ほら、あれだ。できるならその、せ、接触だって増やしたいし?
少し顔が熱くなるのを感じながらそんなことを思う。
顔が赤いのがもしニルスにばれても、そろそろ落ちてきた陽の光のせいだと言えばいいだろう。
「……エルヴィン、もしかして顔、赤い?」
早速かよ。
「お、お前のせいだよ」
早速過ぎたにしても、そうじゃないだろ俺。
「え?」
「そう、お前のせいだぞ、太陽。はは、俺の顔まで染めてきてほんとに。でもすごい綺麗な夕暮れだな、ニルス」
「あ、ああ」
ニルスがまた少し戸惑っている気がする。
そりゃそうか。不審すぎるよな。というか、恋愛初心者かよ俺……。
やり直しているため、ある意味そうかもしれないが、いい歳して少し情けない。緊張を解くため、エルヴィンは大きく深呼吸した。するとニルスがますます戸惑ったように見てくる。
何でだろ。戸惑ってる、で合ってる、よな?
っていうか今、何考えてる?
俺に引いてる?
それとも友人だからと言い聞かせてる?
何より、俺に少しの可能性はある?
それとも絶対友人の枠からは出られない?
読みたい。
できるのであればニルスの感情を読みたくて仕方がない。ただでさえあまり感情を出してこない上に無口な上、好きだと自覚してしまうとなおさら何を考えているのか知りたくて仕方がない。
エルヴィンだって聖人ではない。欲望に抗うことは容易くない。
駄目に決まってんだろ、俺。やめろ。絶対やめろ。最低なんだからな、絶対するな。
心からそう思っているというのに、伸びる手を止められない。
馬鹿! 俺、やめろ。最低だって言ってんだろ!
思いきり叱咤しながらも、震える手がニルスの腕に触れた。
『雲』
「いや、何でだよ……!」
ラウラはきっとニアキスと幸せになる。デニスもきっと以前のようなことにはならない。
なら、これからは自分のことも少しは考えてもいいのではないだろうか。
いまだにエルヴィンは何故時を遡れたのかわからないため、神様の思し召しと考えることにしている。そのため敬虔な信者にはなれないながらも教会へは遡る前より行くようにしているし、寄付も度々してきた。
そんなエルヴィンに対してたまにリックが「奇特な人だねえ」と言っていたが、おかしそうな顔からするに褒めているというよりは茶化してくれているのだろう。とはいえ「俺に神様が奇跡を起こしてくれたんだからこれくらいはしたい」とは言えないため「マヴァリージ王国民として当然のことですし」と言えば「国民としてなら、王子の俺にも何かしてくれないの」とさらににこにこ言われたりした。
「毎日王城へ向けて忠誠を誓ってますよ」
「俺には?」
「リックはだって友人でしょう」
いつもは王子扱いをするなという勢いのくせにと呆れたように言えば、むしろ嬉しそうに「そうだね」と頷いていた。
とにかく、今まではひたすら未来を変えようとエルヴィンなりにがんばってきた。これからは多少自分のことを考えても神はつむじを曲げはしないだろう。多分。
……多分。
曲げない、よな?
それともこの世の理に反してまで未来を変えたくせに、まだ自分のことまで考えようとするのかと思われるだろうかと少し不安になってきた。
もしそれでまた悪い方向に行ったら?
それともまた時が戻ったら?
どうしても過去のことに関してはネガティブになりがちだ。
「なあ、ニルス」
「うん」
エルヴィンのありがとうという言葉にニルスが頷いた後お互い黙っていたが、エルヴィンが呼びかけるとニルスはすぐに顔を向けてきた。
「……自分や家族のために奮闘する時間を与えられた後、さらに自分のその、何だ、えっと、欲望かな? を満たそうって思ったらやっぱ神様は怒るかな」
「……、……すまない、何の話だ」
ですよね。
困惑しているであろうニルスにエルヴィンも困ったような笑みを向けた。すると少し黙った後ニルスがまた口を開いてきた。
「……よくわからないが、自分のために生きて何が悪いんだ?」
「っ、そ、そう、だよな」
全くもって何を言っているのかわからないだろうし、下手したら「またいつもの奇行だろうか」くらい思われそうな流れだっただろうに、ニルスはそれでも自分なりに考えてくれた。しかも言われた言葉はエルヴィンにまた響いてくる。
自分のために生きて、何が悪い、か……。
そう、だよね。それでいい、よね?
もしいるのなら神様、それでいい、ですよね……?
「ありがとう、ニルス」
ますます嬉しくて、そして好きで、エルヴィンは思わず隣に座っているニルスを自分も座ったままぎゅっと抱きしめた。途端、懐かしの言語化できていない不思議な音がものすごい勢いでエルヴィンの頭に入ってきた。
最初はこれ、ちょっと怖かったっけ。
慌てて抱擁を解きながらエルヴィンは内心苦笑した。
怖くはないながらに今でも一体どういう強い感情なのだろうと不思議ではあるものの、だがニルスのことが好きだと自覚した以上、なおさら勝手に感情を読むわけにいかない。
やっぱりブローチ、リック王子に返すべきかな。
所持させてもらったまま引き出しかどこかにしまっていても構わないが、せっかくもらった、それもとてつもなく価値のあるものを眠らせておくのも何だか申し訳ない気がする。
とはいえ一応今までは心を読む力は使わないにしても、お守りとして、そして美しい装飾品として身に着けていたものの、こうしてうっかりニルスの心を読んでしまうのはいただけない。
……それにほら、あれだ。これからニルスに振り向いてもらうため努力するにあたって、ほら、あれだ。できるならその、せ、接触だって増やしたいし?
少し顔が熱くなるのを感じながらそんなことを思う。
顔が赤いのがもしニルスにばれても、そろそろ落ちてきた陽の光のせいだと言えばいいだろう。
「……エルヴィン、もしかして顔、赤い?」
早速かよ。
「お、お前のせいだよ」
早速過ぎたにしても、そうじゃないだろ俺。
「え?」
「そう、お前のせいだぞ、太陽。はは、俺の顔まで染めてきてほんとに。でもすごい綺麗な夕暮れだな、ニルス」
「あ、ああ」
ニルスがまた少し戸惑っている気がする。
そりゃそうか。不審すぎるよな。というか、恋愛初心者かよ俺……。
やり直しているため、ある意味そうかもしれないが、いい歳して少し情けない。緊張を解くため、エルヴィンは大きく深呼吸した。するとニルスがますます戸惑ったように見てくる。
何でだろ。戸惑ってる、で合ってる、よな?
っていうか今、何考えてる?
俺に引いてる?
それとも友人だからと言い聞かせてる?
何より、俺に少しの可能性はある?
それとも絶対友人の枠からは出られない?
読みたい。
できるのであればニルスの感情を読みたくて仕方がない。ただでさえあまり感情を出してこない上に無口な上、好きだと自覚してしまうとなおさら何を考えているのか知りたくて仕方がない。
エルヴィンだって聖人ではない。欲望に抗うことは容易くない。
駄目に決まってんだろ、俺。やめろ。絶対やめろ。最低なんだからな、絶対するな。
心からそう思っているというのに、伸びる手を止められない。
馬鹿! 俺、やめろ。最低だって言ってんだろ!
思いきり叱咤しながらも、震える手がニルスの腕に触れた。
『雲』
「いや、何でだよ……!」
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