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92話
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思わず素で突っ込んでしまうと、リックがにこにこしながら見てきた。
「エルヴィン、エルヴィン。私、どころか敬語すら忘れてるよ」
「仕事の話せずに余計なことばかり話してくるあなたに使う敬語など忘れもします……!」
「大丈夫。君のニルスを俺が取ると思う?」
「むしろそこには思い至りませんでしたのでご安心ください。あと何が大丈夫なのか。ほんっともうあなたという人は……!」
「ちゃんと応援してるから」
「邪魔されてる気、しかしません」
「えー。なんなら性交について実践つきで教えてあげてもいいのに」
「あんたはオヤジですか……! だ、第一俺らはまだそういう……じゃなくて! と、とにかくその、あれだ、あの、そう、し、失礼します!」
サインされた書類をかき集めると、エルヴィンは飛び出す勢いで執務室を出た。気づいていなかったがちょうどニルスが戻ってきていたようで、しばらく後に残りの書類をエルヴィンに届けてくれた上で「執務室を飛び出した際に顔が真っ赤だったけど、大丈夫なのか」とまた体の具合を心配された。
優しい。けどお前ちょっと俺の体調諸々誤解しすぎ。
誤解されるようなことというか、ひたすら看病までしてもらったこともあり仕方ないのかもしれないが、今まで生きてきてあれほど具合が悪くなったのはあの時くらいだ。
……でもそれ以前にもラヴィニアのことで俺、倒れちゃったしなあ……ニルスからすればひ弱な男に見えてもやっぱ仕方ないのかな。
「ニルス……その、確かにニルスの前で俺は何度か具合悪くなったけど、思い出して。子どもの頃の俺、ニルスやリックよりも元気溌剌だっただろ?」
ニルスやリックが風邪や子ども特有の病気で寝こんだりしても、エルヴィンはいつも元気だった。ヴィリーやラウラもそういえばあまり病気をしたことはないかもしれない。もしかしたら免疫力が高い体質なのかもしれない。
そう思うと遡る前にラウラが出産後あっけなく死んでしまったのだって違和感あるよな。
その後ラヴィニアのせいで毒を飲まされていたとわかったものの、当時は怪しむことをしなかった。出産には危険が伴うものだけに、悲しいけれども仕方がなかったとエルヴィンを含め皆、そう思っていた。
確かにシュテファンを出産して間もなく亡くなったとはいえ、産後の肥立ちは今思えば悪くなかった。出産のせいで弱ってはいたが、悪い症状も特になく体の回復に関しても医師からいい感じだと言われていた。
だいたい何でも後から気づくこと、多いもんだよな……。
そういうことがないよう、日々をしっかり過ごしたいとは思っているし、今まではあの悲劇を繰り返さないようやり直すことに必死だった。
やり直し人生もすでに新しい人生へと変わっているし、改めて毎日を大切に生きないとだよな。
しみじみ思っていると「思い返したし確かにそうだが、大人になるにつれて体質が変わったのかもしれない」とニルスに言われた。一日を大切に生きる流れからの、いったい何の話だと一瞬思った後で自分が勝手に話の軌道をそらしていたことに気づく。
「あー、いや、変わってないぞ。今だって普段俺は風邪もひかないしいたって健康だから。あの時はたまたまなんだ」
たまたまというか、遡る前のことに触れる感じになると体がというより気が弱ってしまい、その流れで体も弱るのだろうとエルヴィンは思っている。
「……それでも心配なんだ」
そうか、といった風に頷いた後に身長差もあり視線を落として見てきたニルスに、エルヴィンの心臓が軽く跳ねた。
好きだと意識してしまうとわかったが、どうやらエルヴィンはニルスの顔に弱いかもしれない。確かに意識する以前から美形イケメンだなとしみじみ思ってはいたが、それに拍車がかかっている気がする。また、どこまでも無表情ではあるが、あまりに綺麗な上に好き補正がかかるのか、多少表情も豊かに見えてしまい心臓にいい意味で悪い。今も少し憂えたように見えて、背の高い美形イケメンがむしろかわいくさえ思えてくる。
「そ、それはありがとう」
こんなかわいい子が俺の恋人でいいのかな。
思わずそんな風にさえ考えてしまい、少々自分の頭のレベルが下がっているかもしれないとも思う。
ついでに先ほどリックにからかわれた時のことを思い出してしまい「こんなかわいい子と俺はいずれ性的なことしちゃうのか」とまで心の片隅によぎってしまい動悸が治まらない。
男同士で少し怖いと思っていた自分どこへいったんだよ、どんどん頭悪くなってないか俺。あと心臓煩い。
「エルヴィン?」
「……ちょっと心臓の動悸が……」
「……っいますぐ医師を」
「あーっ、待って違う、そうだけど違うんだ! 何でもない。大丈夫、俺は何でもないから」
本気で自ら医師を呼びにいきそうな勢いに、エルヴィンは慌ててニルスを引き留めた。
「本当に?」
「ああ、本当に。……あの、もし時間まだ大丈夫なら少し休憩室へ行かないか? っあ、具合は悪くないよ? ただ俺はそろそろ休憩しようかなと思っていて」
リックのところである意味休憩しかしていないようなものだったが、湧き上がる気持ちには抗えない。もう少しニルスと一緒に話がしたい。というか二人きりでいたい。あわよくばキスくらいはしたい。
そんなエルヴィンの欲望に気づいていないのか、いつもと変わらない様子でニルスはこくりと頷いてきた。
「少しの時間なら問題ない」
以前は倒れて運ばれた休憩室だったが、今回はほんのひと時のデートとして使われた。
「エルヴィン、エルヴィン。私、どころか敬語すら忘れてるよ」
「仕事の話せずに余計なことばかり話してくるあなたに使う敬語など忘れもします……!」
「大丈夫。君のニルスを俺が取ると思う?」
「むしろそこには思い至りませんでしたのでご安心ください。あと何が大丈夫なのか。ほんっともうあなたという人は……!」
「ちゃんと応援してるから」
「邪魔されてる気、しかしません」
「えー。なんなら性交について実践つきで教えてあげてもいいのに」
「あんたはオヤジですか……! だ、第一俺らはまだそういう……じゃなくて! と、とにかくその、あれだ、あの、そう、し、失礼します!」
サインされた書類をかき集めると、エルヴィンは飛び出す勢いで執務室を出た。気づいていなかったがちょうどニルスが戻ってきていたようで、しばらく後に残りの書類をエルヴィンに届けてくれた上で「執務室を飛び出した際に顔が真っ赤だったけど、大丈夫なのか」とまた体の具合を心配された。
優しい。けどお前ちょっと俺の体調諸々誤解しすぎ。
誤解されるようなことというか、ひたすら看病までしてもらったこともあり仕方ないのかもしれないが、今まで生きてきてあれほど具合が悪くなったのはあの時くらいだ。
……でもそれ以前にもラヴィニアのことで俺、倒れちゃったしなあ……ニルスからすればひ弱な男に見えてもやっぱ仕方ないのかな。
「ニルス……その、確かにニルスの前で俺は何度か具合悪くなったけど、思い出して。子どもの頃の俺、ニルスやリックよりも元気溌剌だっただろ?」
ニルスやリックが風邪や子ども特有の病気で寝こんだりしても、エルヴィンはいつも元気だった。ヴィリーやラウラもそういえばあまり病気をしたことはないかもしれない。もしかしたら免疫力が高い体質なのかもしれない。
そう思うと遡る前にラウラが出産後あっけなく死んでしまったのだって違和感あるよな。
その後ラヴィニアのせいで毒を飲まされていたとわかったものの、当時は怪しむことをしなかった。出産には危険が伴うものだけに、悲しいけれども仕方がなかったとエルヴィンを含め皆、そう思っていた。
確かにシュテファンを出産して間もなく亡くなったとはいえ、産後の肥立ちは今思えば悪くなかった。出産のせいで弱ってはいたが、悪い症状も特になく体の回復に関しても医師からいい感じだと言われていた。
だいたい何でも後から気づくこと、多いもんだよな……。
そういうことがないよう、日々をしっかり過ごしたいとは思っているし、今まではあの悲劇を繰り返さないようやり直すことに必死だった。
やり直し人生もすでに新しい人生へと変わっているし、改めて毎日を大切に生きないとだよな。
しみじみ思っていると「思い返したし確かにそうだが、大人になるにつれて体質が変わったのかもしれない」とニルスに言われた。一日を大切に生きる流れからの、いったい何の話だと一瞬思った後で自分が勝手に話の軌道をそらしていたことに気づく。
「あー、いや、変わってないぞ。今だって普段俺は風邪もひかないしいたって健康だから。あの時はたまたまなんだ」
たまたまというか、遡る前のことに触れる感じになると体がというより気が弱ってしまい、その流れで体も弱るのだろうとエルヴィンは思っている。
「……それでも心配なんだ」
そうか、といった風に頷いた後に身長差もあり視線を落として見てきたニルスに、エルヴィンの心臓が軽く跳ねた。
好きだと意識してしまうとわかったが、どうやらエルヴィンはニルスの顔に弱いかもしれない。確かに意識する以前から美形イケメンだなとしみじみ思ってはいたが、それに拍車がかかっている気がする。また、どこまでも無表情ではあるが、あまりに綺麗な上に好き補正がかかるのか、多少表情も豊かに見えてしまい心臓にいい意味で悪い。今も少し憂えたように見えて、背の高い美形イケメンがむしろかわいくさえ思えてくる。
「そ、それはありがとう」
こんなかわいい子が俺の恋人でいいのかな。
思わずそんな風にさえ考えてしまい、少々自分の頭のレベルが下がっているかもしれないとも思う。
ついでに先ほどリックにからかわれた時のことを思い出してしまい「こんなかわいい子と俺はいずれ性的なことしちゃうのか」とまで心の片隅によぎってしまい動悸が治まらない。
男同士で少し怖いと思っていた自分どこへいったんだよ、どんどん頭悪くなってないか俺。あと心臓煩い。
「エルヴィン?」
「……ちょっと心臓の動悸が……」
「……っいますぐ医師を」
「あーっ、待って違う、そうだけど違うんだ! 何でもない。大丈夫、俺は何でもないから」
本気で自ら医師を呼びにいきそうな勢いに、エルヴィンは慌ててニルスを引き留めた。
「本当に?」
「ああ、本当に。……あの、もし時間まだ大丈夫なら少し休憩室へ行かないか? っあ、具合は悪くないよ? ただ俺はそろそろ休憩しようかなと思っていて」
リックのところである意味休憩しかしていないようなものだったが、湧き上がる気持ちには抗えない。もう少しニルスと一緒に話がしたい。というか二人きりでいたい。あわよくばキスくらいはしたい。
そんなエルヴィンの欲望に気づいていないのか、いつもと変わらない様子でニルスはこくりと頷いてきた。
「少しの時間なら問題ない」
以前は倒れて運ばれた休憩室だったが、今回はほんのひと時のデートとして使われた。
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