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117話
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突然給仕の女性を見て青ざめだしたエルヴィンにいち早く気づいたニルスは、無言のまま自分もその女性へそっと目を向けた。
……ヒュープナー嬢?
あの頃のようなきらびやかなドレスでなく質素なドレスにエプロン姿であり、あの頃のような豊満な体つきに自信に満ちた表情ではなく少し痩せて疲れの窺える様子であるものの、ニルスの目からは確かにラヴィニアに見えた。
基本的にどのような女性もほぼ記憶に残らないニルスだが、さすがにエルヴィンが絡んでいただけにラヴィニアは覚えている。いや、正直なところ顔の作りはあまりしっかり覚えていないが、全体的な雰囲気というかフォルムというか、どう言えばいいかわからないが、簡単に言えば動物的な勘にも似た直観ですぐにわかった。
……エルヴィン。
咄嗟にエルヴィンを支えようとしたが、エルヴィンは青ざめているものの倒れるまではいかないようだ。とはいえ心配で目が離せない。
ふとリックが「監視してたはずなのに」と呟いたのが聞こえた。何か一点を見つめているような様子のエルヴィンには聞こえていないようだ。
そういえばリックはマヴァリージからいなくなったヒュープナー家を探させ、見つけると動向を監視させていた。ニルスに「監視している」といちいち報告してきたわけではないが、時折ヒュープナー家に関する報告書が目についていたので何となく把握していた。ニルスからすればエルヴィンの近くにいなくなったというのに何故そこまでとさすがに思わないでもなかったが、リックのすることなので何か意味はあるのだろうと特に意見を挟んだことはなかった。
監視していたのにということは、少なくともラヴィニアはこの国もしくは町にいるはずがなかったということだろうか。
ラヴィニアはエルヴィンが具合を悪くしている様子には気づかないのか、にこやかな、そしてただの給仕にしては少々、いや結構馴れ馴れしい様子で誰にともなく話しかけてくる。そしてふとニルスに気づき「あなた、もしかしてカイセルヘルム侯爵……?」と驚いてきた。幸い何度かパーティーで目にしてはいるはずだが、さすがに一緒にいるのが本物の王子たちだとは思っていないようだ。ジェムについてもあまり接点がなかったのか気づいていない。多分ニルス以上にジェムは主であるデニスから離れることはなかったのだろう。基本仕事に忠実ではあるもののリックに対して友として接しているニルスと違い、ジェムは昔からデニスに対しあくまでも王子に対してとして接している。とはいえそばからほぼ離れることのないジェムはある意味ニルスよりも友愛は強そうだ。
フリッツが面識あるのかどうかは知らないが、エルヴィンはラヴィニアを避けていたようだし、ラヴィニアからすればすぐに気づけるのはニルスだけだったのかもしれない。
とはいえ……面倒だな。
すでに令嬢ではなくなっているラヴィニアは貴族としてのマナーなど関係ないといったばかりにやたら親しげに話しかけてくる。とはいえニルスはエルヴィンが心配でそれどころではないし、エルヴィンが青ざめている原因がそもそもラヴィニアのはずだ。できることなら無視するよりいっそ「迷惑だ、消えろ」とはっきり言いたい。
ただ、王子たちがいるというのに下手に問題は起こせない。ニルスが消えろと言ってラヴィニアが騒ぎ立てないという保証はない。もしかしたら庶民となり言動も改めるようになっている可能性もないとはいえないが、こうしてやたら馴れ馴れしく話しかけてくる様子にそんな可能性も見出すのが難しい。
リックはどう動こうか思案中といったところだ。普段なら口がよく動くリックのことだ、すぐに何らかの対応をしてきそうなものだが、今は下手に自分が動いて王子だと認識されるのを避けるためだろう。フリッツは困惑したような様子で、ジェムに至ってはまったく興味を示していないというか、知らない者が近づいてきたからとばかりに警備警戒を騎士に任せ意識をデニスから一切外さない。ある意味補佐の鑑のような男だろう。デニスはまだ把握できていないのかポカンとした様子だ。
「ねえ、侯爵様。よかったらこの後……」
ニルスが反論しないのをいいことに、ラヴィニアがますます馴れ馴れしくニルスに触れながら何か言いかけてきた。さすがに鬱陶しいなとニルスが重い口を開こうとする前に、エルヴィンが思いきり顔を上げてきた。
「申し訳ないが……」
そして顔色が悪いままラヴィニアに向かって毅然とした態度に出る。
もしかして……俺のためにがんばってくれている、のか……?
「おい、何だお前その顔色は」
心配ながらに、つい思わずニルスが感動していると、デニスが立ち上がった。そしてエルヴィンのそばへつかつかと歩いていく。
「え、あ、問題ありま……」
「は? 何を言っている? 問題しかない顔色だろうが。おい、すまないが今日はもうやめておく。席料が必要ならいくらでも払っておけ」
「はい」
あえてお互い名前を出さないまま、デニスの言葉にジェムが頷く。
「お前たちはこいつを支えてやれ。出るぞ」
そしてニルスとフリッツに向かって言うと、デニスはリックを促しながら店を出ていった。
ニルスもすぐに立ち上がり、唖然としているラヴィニアをしり目に無言のままエルヴィンを支え、歩き出した。
……ヒュープナー嬢?
あの頃のようなきらびやかなドレスでなく質素なドレスにエプロン姿であり、あの頃のような豊満な体つきに自信に満ちた表情ではなく少し痩せて疲れの窺える様子であるものの、ニルスの目からは確かにラヴィニアに見えた。
基本的にどのような女性もほぼ記憶に残らないニルスだが、さすがにエルヴィンが絡んでいただけにラヴィニアは覚えている。いや、正直なところ顔の作りはあまりしっかり覚えていないが、全体的な雰囲気というかフォルムというか、どう言えばいいかわからないが、簡単に言えば動物的な勘にも似た直観ですぐにわかった。
……エルヴィン。
咄嗟にエルヴィンを支えようとしたが、エルヴィンは青ざめているものの倒れるまではいかないようだ。とはいえ心配で目が離せない。
ふとリックが「監視してたはずなのに」と呟いたのが聞こえた。何か一点を見つめているような様子のエルヴィンには聞こえていないようだ。
そういえばリックはマヴァリージからいなくなったヒュープナー家を探させ、見つけると動向を監視させていた。ニルスに「監視している」といちいち報告してきたわけではないが、時折ヒュープナー家に関する報告書が目についていたので何となく把握していた。ニルスからすればエルヴィンの近くにいなくなったというのに何故そこまでとさすがに思わないでもなかったが、リックのすることなので何か意味はあるのだろうと特に意見を挟んだことはなかった。
監視していたのにということは、少なくともラヴィニアはこの国もしくは町にいるはずがなかったということだろうか。
ラヴィニアはエルヴィンが具合を悪くしている様子には気づかないのか、にこやかな、そしてただの給仕にしては少々、いや結構馴れ馴れしい様子で誰にともなく話しかけてくる。そしてふとニルスに気づき「あなた、もしかしてカイセルヘルム侯爵……?」と驚いてきた。幸い何度かパーティーで目にしてはいるはずだが、さすがに一緒にいるのが本物の王子たちだとは思っていないようだ。ジェムについてもあまり接点がなかったのか気づいていない。多分ニルス以上にジェムは主であるデニスから離れることはなかったのだろう。基本仕事に忠実ではあるもののリックに対して友として接しているニルスと違い、ジェムは昔からデニスに対しあくまでも王子に対してとして接している。とはいえそばからほぼ離れることのないジェムはある意味ニルスよりも友愛は強そうだ。
フリッツが面識あるのかどうかは知らないが、エルヴィンはラヴィニアを避けていたようだし、ラヴィニアからすればすぐに気づけるのはニルスだけだったのかもしれない。
とはいえ……面倒だな。
すでに令嬢ではなくなっているラヴィニアは貴族としてのマナーなど関係ないといったばかりにやたら親しげに話しかけてくる。とはいえニルスはエルヴィンが心配でそれどころではないし、エルヴィンが青ざめている原因がそもそもラヴィニアのはずだ。できることなら無視するよりいっそ「迷惑だ、消えろ」とはっきり言いたい。
ただ、王子たちがいるというのに下手に問題は起こせない。ニルスが消えろと言ってラヴィニアが騒ぎ立てないという保証はない。もしかしたら庶民となり言動も改めるようになっている可能性もないとはいえないが、こうしてやたら馴れ馴れしく話しかけてくる様子にそんな可能性も見出すのが難しい。
リックはどう動こうか思案中といったところだ。普段なら口がよく動くリックのことだ、すぐに何らかの対応をしてきそうなものだが、今は下手に自分が動いて王子だと認識されるのを避けるためだろう。フリッツは困惑したような様子で、ジェムに至ってはまったく興味を示していないというか、知らない者が近づいてきたからとばかりに警備警戒を騎士に任せ意識をデニスから一切外さない。ある意味補佐の鑑のような男だろう。デニスはまだ把握できていないのかポカンとした様子だ。
「ねえ、侯爵様。よかったらこの後……」
ニルスが反論しないのをいいことに、ラヴィニアがますます馴れ馴れしくニルスに触れながら何か言いかけてきた。さすがに鬱陶しいなとニルスが重い口を開こうとする前に、エルヴィンが思いきり顔を上げてきた。
「申し訳ないが……」
そして顔色が悪いままラヴィニアに向かって毅然とした態度に出る。
もしかして……俺のためにがんばってくれている、のか……?
「おい、何だお前その顔色は」
心配ながらに、つい思わずニルスが感動していると、デニスが立ち上がった。そしてエルヴィンのそばへつかつかと歩いていく。
「え、あ、問題ありま……」
「は? 何を言っている? 問題しかない顔色だろうが。おい、すまないが今日はもうやめておく。席料が必要ならいくらでも払っておけ」
「はい」
あえてお互い名前を出さないまま、デニスの言葉にジェムが頷く。
「お前たちはこいつを支えてやれ。出るぞ」
そしてニルスとフリッツに向かって言うと、デニスはリックを促しながら店を出ていった。
ニルスもすぐに立ち上がり、唖然としているラヴィニアをしり目に無言のままエルヴィンを支え、歩き出した。
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