彼は最後に微笑んだ

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128話

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 昼下がりの町は休憩している労働者たちもよく目に入ってきた。まだ冷たい風も吹く季節ではあるものの、今日のように晴れて日差しがよく差し込んでくる場所ならそれなりに暖かさも感じる。

「ほら、ニルスが食べたいもの教えてくれよ」

 エルヴィンは少し困ったような笑みにならないよう心がけながらニルスの袖を軽く引いた。

『本当に俺は情けなさす……』

 途端、ニルスの思考が入ってきて、とりあえずさっと手を離す。

 まだ頭抱えてる感じか。

 風呂から出ても結局絡み合っていた二人だが、エルヴィンが口淫しようとした途端ニルスは射精してきた。少し驚いてぽかんとしているエルヴィンに、珍しく慌てたように「早く吐き出せ」とニルスは促していた。そう言われて初めて、自分が精液を口に含んでいるのだと気づいたが、咄嗟のことで思わず飲み込んでしまった。

 わかる、わかるよ?

 エルヴィンは心の中でため息をつく。自分とて、以前もし恋人だった女性が口でしようとした途端果ててしまったら恥ずかしさと情けなさのあまり埋まってしまいたいと思っただろう。わかる。おまけに驚いている相手がうっかり自分の出したものを過失で飲み込んでしまったら申し訳なさと居たたまれなさで頭を抱え込みそうだ。わかる。

 わかるけど、そろそろ立ち直ってニルス。

 相手が女性なら心から申し訳ないと思うが、男性であるエルヴィンにそこまで気遣わなくていいし、それとなくニルスにも真綿でくるんだようにしてやんわりと伝えたつもりだ。
 エルヴィンとて、大好きなニルスに口で咥えられようとされたら同じように嬉しさと興奮であっけなく果ててしまうかもしれない。それにできれば確かにあまり味わいたいものではないし、あれほどお互い出した後だというのに薄くなかったのか薄くてもそうなのか、喉までイガイガしたとはいえ毒を飲んだわけではない。愛しい相手の子種を飲んだのだと思えばそれはそれでありかもしれないと自分に言い聞かせることは容易だ。

 何てったってニルスのだしな。

 さすがに「お前の子種を飲んだと思えばむしろありだ」などとは言えないが、少なくとも変な慰めはしていないし心から何でもないような言動をとったつもりだ。だがニルスはかなり落ち込んでいるようだ。相変わらず表情だけではわかりにくいが、さすがにそれくらいはエルヴィンにもわかる。
 なので結局眠らないまま「やっぱり町へ出ないか。お腹も空いたし気軽に食べ歩きみたいなやつ、前からしてみたかったし」と提案し今に至る。ブローチを上着から外していないのは珍しく故意だ。なるべく読まないようにはしたいが、多少様子は窺いたかった。
 食べたいものはないかと聞けば「お前が食べたいもの」と全然返答になっていないことを言われ、とりあえず言われた通りエルヴィンが食べてみたいものをいくつか試したが、エルヴィン的にはニルスが食べたいものを聞きたいし食べて欲しいし、自分もそれを食べたい。

「ニルス」
「……あ、ああ。お前が食べたいものがいい」
「もう食べたよ。俺だってニルスが食べたいもの聞きたいし食べたいんだけど」
「……」
「本当に。わかるだろ? 俺だってお前が好きなんだ。お前も俺が好きなら、俺が言ってることわかるだろ?」

 するとニルスはこくりと頷き「……ではあのフルーツを」と色とりどりの果物を売っている屋台を指差した。

 果物が食べたかったの? 一晩中すごく肉食的だったのに果物?

 思わずかわいいと思いつつ懸命にも口にはしないでいられた。おそらくまだ自己嫌悪的な落ち込みをしている男相手に「かわいい」はちっとも癒される薬ではないだろう。

「どの果物がいい?」
「いらっしゃい。お兄さん方は観光?」

 店主の男性がにこやかに話しかけてきた。

「何でわかったんだ?」

 別に民族衣装をまとっているわけでもないし、旅に必要な荷物は宮殿にある。

「雰囲気かな」
「へえ。俺ら、旅してる雰囲気駄々洩れみたいだぞ」

 昨日よりもさらにシンプルで質素な格好をしているからか、貴族とまでは思われなかったようだ。
 エルヴィンがニルスに笑いかけるとニルスはただこくりと頷いてきた。そして綺麗なピンク色したピタヤを指差した。果皮がまるでドラゴンの鱗のような形態のため、ドラゴンフルーツとも呼ばれている。派手な色をしているが低カロリーでいて栄養も豊富なため、ダイエットに励む令嬢たちにも人気だったりする。
 またほんのり「かわいい」と思いつつエルヴィンは「じゃあこのピタヤ二つとあと……そのチェリーみたいなのは何?」と店主に聞いた。

「まんま、チェリーだよ。ゼノガルトチェリー。ここの特産だな」
「じゃあそれも。っていうかピタヤもだけど、結構南国フルーツが多いな。ここはどっちかっていうと北寄りだろ?」
「南の国からの輸入だよ。取引わりとしててな。面白い果物結構あるだろ」
「だな、見たことないのも結構あるよ。俺らが来た国もそこそこ商業も発達してるんだけどな」
「新鮮なものを機械を使って早く大量に運べるのが俺らの国の利点だろうな」
「あーなるほど」

 さすがゼノガルトと思いつつ、エルヴィンは色とりどりの果物の中でやたら地味な茶色をした果物に目がいった。

「これは何?」
「クプアスだな。それはザイフォンの特産の一つ、ザイフォンクプアスっていうクプアスの中でもちょっと珍しいやつだよ。でもあんたらにはさほど用なしじゃないかな。それとも嫁さん?」

 南の方にあるザイフォンといいう地名は聞いたことあるものの何の話だと聞き返そうとしたが、他にも客が来たためそれ以上は聞けなかった。
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