彼は最後に微笑んだ

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139話

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 なるべく微妙な顔にならないよう心がけてはいるが、思えば思うほど微妙にならざるを得ない。

 それとも俺はたまたまラヴィニアのことをある意味よく知ってるから余計そう思えるのかな……いやいや、ラヴィニアをさておいてもやっぱりちょっと軽率すぎやしないか?

 確かにラヴィニアが顔と体だけの頭の弱い女性だったならバルトルトの提案に喜んで飛びついただろうし、実際以前はとても好みだったのであろうラヴィニアに言い寄られたら今のデニスとてどうなるかわからないかもしれない。最悪、また同じ未来にならないとも限らないし、その流れをあえて起こそうと目論んだ貴族からすればそれを理由にリックを持ち上げ、国が狂う前にデニスを失脚させられた可能性もゼロではないのかもしれない。
 エルヴィンたちがラヴィニアとバルトルトを見かけたのは偶然だし、もしかしたら発覚せず話は進んでいたかもしれないし、進まなくともバルトルトは捕まることなく次の方法を考えていたかもしれない。
 ただ、それらはすべて「かもしれない」というだけだ。そんな確証のない悪事を、それも王族相手に大それたことをよく実行しようとしたなとしか思えないし、以前のラヴィニアはむしろことごとく確証があったからこそ成し遂げていったのだろうなと腹立たしいながらも否応なしに思わされた。
 商談はどのみちもう済んでいたのか、その後リックとニルスが戻ってくるとエルヴィンたちは予定を少々早めて帰国することとなった。ラヴィニアからどんな話を聞いたのかはざっとした説明しか聞いていない。

「じゃあ以前から知り合いだったわけではないんですね」

 やはり軽率に実行しようとしたとしか思えない。

「まあ、そういうことだね」
「他にはどんな話を?」
「帰国したら改めてラヴィニアとの話、時間作ってエルヴィンにも伝えるよ」

 エルヴィンが以前からラヴィニアのことをかなり気にしているからか、それとも他に何か理由でもあるのか、リックはエルヴィンにそう言ってきた。

「いえ、そこまで……わざわざ俺に時間を割いていただかなくても……」
「幼馴染に変な気配りしないでくれる? 今回の事件にはエルヴィンも結構絡んだし、気になるでしょ」

 ありがたくはあるが、変に絡んでしまったから好奇心もあるだろうと思われているのだろうか。それで気を使ってくれているのだろうか。

 リックには俺が好奇心の塊みたいに見えてるのかな。

 それに関しては少々苦笑せざるを得なかったが「実は俺、時間を遡ってて、そのせいで……」などと正直には言えないため、とりあえず「ありがとうございます」と礼を告げた。
 帰りも竜馬ではなく馬車で移動している。リックはデニスと同じ馬車にジェムとそしてバルトルトと共に乗っていた。代わりにフリッツがエルヴィンとニルスが乗る馬車へ同乗することになった。

「今頃あっちの馬車は針のむしろだろうな」

 エルヴィンがぼそりと呟くとフリッツが苦笑してくる。何も言わないが同じように思っているのだろう。くせのあるというかくせしかなさそうなリックと、リックとは違った意味でくせが強そうなジェム。そして三人の中ではその面に関しては普通そうながらに我が道を行くところがあるデニス。その三人に囲まれ、しかも二人は王子で一人はその王子命の補佐だ。その三人にさらに尋問されながらの旅はわりと拷問に等しいに違いない。おそらく他の第二王子派であり過激派である貴族の名前もマヴァリージ王国に到着する頃には完全に明らかになっていそうだ。

「でも……俺はデニス殿下の護衛騎士だというのに側についてなくて大丈夫なのだろうか」

 苦笑した後でフリッツが気がかりそうに口にした。

「大丈夫だよ。ジェムはああ見えて格闘術もばっちりだし」

 王子の補佐だけに頭がいいだけでなく剣や格闘術もニルス同様得意であるジェムであっても、遡る前はデニスの言いなりでしかなかった。今のジェムを見ている限りではデニス命、といったところは少々窺えるものの、デニスが道を間違えそうになったらちゃんと意見しそうだし、それとなく支えそうだとしか見えない。しかしそれほど以前はラヴィニアの影響が強かったのかもしれない。

「それにリック殿下があの馬車に何やら不思議な魔法かけてたし」

 風だか水だかの魔法属性の持ち主だったはずだが、そこから一体どうすれば保護と逃亡防止の結界魔法がかけられるのか、魔力を大して持ち合わせていないエルヴィンとしては全くもって理屈も方法も謎だが、リックがいつものうさんくさそうな笑みで「大丈夫だよ」と言うからには大丈夫なのだろう。
 そして大丈夫ならば行きもその結界魔法をかけてもらいたかったとエルヴィンは少し思う。そうしたら時折襲ってきていたつまらない盗賊もどきを払う手間もかからなかったのではと思ってしまう。

 まぁ、俺一人でさっと払えるほど、今の今まで忘れてたくらいつまらないやつらだったし構わないんだけどさ。

「ならいいけど……職務怠慢じゃないかな。魔法がかかってるとはいえ、もしまた誰かが襲ってきたら……」

 改めてフリッツは生真面目だとエルヴィンは感心した。それに比べ、エルヴィンはゼノガルトで周りを心配させた上に配慮してくれた休日の半分くらいはニルスとの濃厚な時間に費やしていた。エルヴィンも基本は真面目だけに今さら居たたまれない。
 エルヴィンとフリッツの会話を、ニルスは一応聞いているようではあったが道中ほぼ無言だった。とはいえエルヴィンだけでなくフリッツもニルスがそういう人だと把握しているようでそれに関しては特に何も気にならないようだ。ただ、ようやくマヴァリージ王国に到着して城内で馬車から降りた時にそっとエルヴィンに小声で「俺、カイセルヘルム卿に何かしただろうか」と聞いてきた。

「え、何で」
「いや……確証も確信もないんだけど、時折彼から睨まれているような気がしてて……」
「ニルスが? あー、でもほら、綺麗な顔立ちしてるけど目つき少し悪いだろ、ニルスって。だからそう思えたとか?」
「うーん……それはわからないでもないんだけど、それとはまた違う気が……あ、今も少し……。と、とにかく気のせいかもしれないし、変なこと聞いて悪かった」

 少し考えるように頭を上げていたフリッツは視線をどこかへやると慌てたようにエルヴィンに手をあげ、この場から離れていった。
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