158 / 193
158話
しおりを挟む
その後ようやくエルヴィンは自分の上司の元へ顔を出しに向かった。服は仕方ないのでリックに借りた。借りたというか「返さなくていいよ」と言われたが、部屋着ともども完璧にクリーニングして返そうと心に誓う。ただでさえ借りしか作っていないし、それを理由に今後専属となる自分がいいように使われる未来しか見えないため、せめてもの反撃、だろうか。
もちろん今回のことでリックにもすごく感謝してはいるけども。
本当に迷惑しかかけていないし、直接何もしていないとリックは言うが、それでも助けてくれていたのだとエルヴィンは思う。
ちゃんと感謝の気持ちは心から返したいと思う、けど、でもリックにそう言っても流される気がするからなあ。
人をいいように使おうとしてくるくせに、こちらから好意的な気持ちを伝えると流すリックを思い、エルヴィンは苦笑した。
上司に「一旦戻り、改めて城へ出向きます」と言えば首を振られた。
「仕事の引継ぎは完了してるし、君も旅やごたごたで疲れているだろう。どのみち君の屋敷から往復したら、馬だろうが結構時間を取られるしな。それに第二王子殿下の護衛騎士としてこれからがんばってもらわなければいけない。おっと、まだ公じゃなかったっけか。でも正式な任命は改めて出るぞ。とにかく、一旦帰宅すると言うのなら今日はそのまま休んでいい。あと今日から数日間は第二王子殿下の護衛騎士としての準備など行う期間として使ってくれていい」
「いえ、しかし……」
「それも仕事だ」
「……。かしこまりました」
思いがけず休暇となったエルヴィンはニルスを探すことにした。とはいえいざニルスを目の前にしたら普通ではいられないかもしれないが、だからといって避けるのだけは嫌だ。
だとしたらさっさとすっきりさせるべきだよな。
ニルスに一体どんなことをさせてしまったのだろうか、自分の尻に違和感があるのは気のせいなのだろうかと、気になることは多々ある。それらを思い切ってずばり聞いてしまえるなら一番すっきりするだろうが、多分その前にエルヴィンが羞恥のあまり息が止まりそうだ。だが顔を見ないまま今日を終えてしまえばニルスが気になって眠ることもできなさそうな気がする。
リックの補佐をしているニルスがリックのそばにいないこととか、恋人であるエルヴィンが起きるまで様子を見ていてくれなかったことなど、その辺のちょっとした気になることはリックがすでにすっきりさせてくれている。
「君と顔を合わせづらいんだってさ」
「……それほど俺はひどい有様だったってことでしょうか……」
目に見えて落ち込んでいたようだ。むしろリックはおかしそうに笑った後で「違う違う」と手を振ってきた。
「大好きな君にさ、仕方ないとはいえほぼ意識を保てていないというのにエッチなことしまくったからでしょ」
「……あなたも第二王子殿下なら、もう少し言い方……」
呆れと羞恥が半端なかった。とはいえ、リックの言葉からして少なくともエルヴィンに引いたり軽蔑したりといった様子ではなかったということにはなる。
……エッチなことしまくった……。
ニルスを探しながらリックの言葉を思い出し、もう完全に果物の効用は切れているものの少し体が熱くなった。あと、前にもこんなことがあったような気がするとエルヴィンは微妙な気持ちで思った。おそらくニルスは真面目過ぎるからか、エルヴィンに何かしてしまったと思うと顔を合わせづらくなるのかもしれない。
もしくはリックが言うように、色々してくれたから気まずい、とか?
本当にそうなのだとしたら、何をされたのかとてつもなく気になる。何故自分はせめてもう少しだけでも意識を保っていられなかったのかと変な後悔が湧き起こる。
薬、じゃないけどそういうので乱れる相手を鎮めるために何かするとか、成人向けの小説でありそうだよな……。
少し前に読まされた話が少しそういう話だった。幸い、それを渡してきたのはラウラではない。コルネリアだ。しかも男同士の話だった。
「コルネリア……君ね……」
「ご安心なさって? ラウラはそういった同性愛ものは読みませんわ」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「ああ、そうですわね。成人向けのお話も多分読んでらっしゃらないんじゃないでしょうか。私も異性愛なら成人向けは少々苦手なのですけど、同性愛の……」
「いいからちょっと黙ってくれる……?」
「あら? どうかなさって? そんなに青ざめておられるなんて、もしかしてご気分がすぐれないのでは? 執事でも呼びましょうか?」
ある意味気分がすぐれないし、その原因は主に君だよと言ってしまいたかったがエルヴィンはどうにか堪えた。
本当は聞きたいことは多々あった。
君は成人しているけど、でも淑女がこういうものを読むものじゃありません。
多分そう言っても「あら、令嬢に夢を見すぎですわよ。むしろラウラみたいな方のほうが少ないのですから」などと返ってきそうだ。
君はうちのヴィリーと仲がいいと思っているけど、もしかしてヴィリーと誰か男性をこういう風に見立てたりして楽しんでないだろうか?
これは聞いては駄目なやつだろう。肯定されても否定されてもすっきりしないだろうし、多分ほぼ百パーセント想像しているような気がする。エルヴィンとしてはヴィリーとコルネリアがくっつけば、中々にかわいいカップルなのではなどと少し思っているが、もしかしたらくっついても全然かわいくないカップルになりそうで怖い。主にコルネリアが。
そしてエルヴィンがコルネリアに何より聞きたいことは、何より聞けそうになかった。
もちろん今回のことでリックにもすごく感謝してはいるけども。
本当に迷惑しかかけていないし、直接何もしていないとリックは言うが、それでも助けてくれていたのだとエルヴィンは思う。
ちゃんと感謝の気持ちは心から返したいと思う、けど、でもリックにそう言っても流される気がするからなあ。
人をいいように使おうとしてくるくせに、こちらから好意的な気持ちを伝えると流すリックを思い、エルヴィンは苦笑した。
上司に「一旦戻り、改めて城へ出向きます」と言えば首を振られた。
「仕事の引継ぎは完了してるし、君も旅やごたごたで疲れているだろう。どのみち君の屋敷から往復したら、馬だろうが結構時間を取られるしな。それに第二王子殿下の護衛騎士としてこれからがんばってもらわなければいけない。おっと、まだ公じゃなかったっけか。でも正式な任命は改めて出るぞ。とにかく、一旦帰宅すると言うのなら今日はそのまま休んでいい。あと今日から数日間は第二王子殿下の護衛騎士としての準備など行う期間として使ってくれていい」
「いえ、しかし……」
「それも仕事だ」
「……。かしこまりました」
思いがけず休暇となったエルヴィンはニルスを探すことにした。とはいえいざニルスを目の前にしたら普通ではいられないかもしれないが、だからといって避けるのだけは嫌だ。
だとしたらさっさとすっきりさせるべきだよな。
ニルスに一体どんなことをさせてしまったのだろうか、自分の尻に違和感があるのは気のせいなのだろうかと、気になることは多々ある。それらを思い切ってずばり聞いてしまえるなら一番すっきりするだろうが、多分その前にエルヴィンが羞恥のあまり息が止まりそうだ。だが顔を見ないまま今日を終えてしまえばニルスが気になって眠ることもできなさそうな気がする。
リックの補佐をしているニルスがリックのそばにいないこととか、恋人であるエルヴィンが起きるまで様子を見ていてくれなかったことなど、その辺のちょっとした気になることはリックがすでにすっきりさせてくれている。
「君と顔を合わせづらいんだってさ」
「……それほど俺はひどい有様だったってことでしょうか……」
目に見えて落ち込んでいたようだ。むしろリックはおかしそうに笑った後で「違う違う」と手を振ってきた。
「大好きな君にさ、仕方ないとはいえほぼ意識を保てていないというのにエッチなことしまくったからでしょ」
「……あなたも第二王子殿下なら、もう少し言い方……」
呆れと羞恥が半端なかった。とはいえ、リックの言葉からして少なくともエルヴィンに引いたり軽蔑したりといった様子ではなかったということにはなる。
……エッチなことしまくった……。
ニルスを探しながらリックの言葉を思い出し、もう完全に果物の効用は切れているものの少し体が熱くなった。あと、前にもこんなことがあったような気がするとエルヴィンは微妙な気持ちで思った。おそらくニルスは真面目過ぎるからか、エルヴィンに何かしてしまったと思うと顔を合わせづらくなるのかもしれない。
もしくはリックが言うように、色々してくれたから気まずい、とか?
本当にそうなのだとしたら、何をされたのかとてつもなく気になる。何故自分はせめてもう少しだけでも意識を保っていられなかったのかと変な後悔が湧き起こる。
薬、じゃないけどそういうので乱れる相手を鎮めるために何かするとか、成人向けの小説でありそうだよな……。
少し前に読まされた話が少しそういう話だった。幸い、それを渡してきたのはラウラではない。コルネリアだ。しかも男同士の話だった。
「コルネリア……君ね……」
「ご安心なさって? ラウラはそういった同性愛ものは読みませんわ」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「ああ、そうですわね。成人向けのお話も多分読んでらっしゃらないんじゃないでしょうか。私も異性愛なら成人向けは少々苦手なのですけど、同性愛の……」
「いいからちょっと黙ってくれる……?」
「あら? どうかなさって? そんなに青ざめておられるなんて、もしかしてご気分がすぐれないのでは? 執事でも呼びましょうか?」
ある意味気分がすぐれないし、その原因は主に君だよと言ってしまいたかったがエルヴィンはどうにか堪えた。
本当は聞きたいことは多々あった。
君は成人しているけど、でも淑女がこういうものを読むものじゃありません。
多分そう言っても「あら、令嬢に夢を見すぎですわよ。むしろラウラみたいな方のほうが少ないのですから」などと返ってきそうだ。
君はうちのヴィリーと仲がいいと思っているけど、もしかしてヴィリーと誰か男性をこういう風に見立てたりして楽しんでないだろうか?
これは聞いては駄目なやつだろう。肯定されても否定されてもすっきりしないだろうし、多分ほぼ百パーセント想像しているような気がする。エルヴィンとしてはヴィリーとコルネリアがくっつけば、中々にかわいいカップルなのではなどと少し思っているが、もしかしたらくっついても全然かわいくないカップルになりそうで怖い。主にコルネリアが。
そしてエルヴィンがコルネリアに何より聞きたいことは、何より聞けそうになかった。
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる