176 / 193
176話
しおりを挟む
「いいパーティーだったと思う……」
珍しくニルスがそんなことを言っている。エルヴィンと同じくそういった催しが苦手なはずのニルスだけに、そう思えるのならよかったとエルヴィンは笑みを浮かべた。
「お前がそう思うなら、よかった」
「ああ。招待された客も皆マナーをわきまえた人たちばかりだったし」
それを聞いて改めて、それなりの地位である貴族全員ご招待、でなくてよかったなとエルヴィンは内心しみじみ思った。
「だな。でも結構それなりの規模だったろ。騒がしかったり大げさだったりしなかったか?」
エルヴィンが聞くとニルスはふるふると首を振ってきた。
「ならよかったけど」
「……確かに盛大ではあった」
ですよね。
侯爵家の長男である以上ある程度は仕方ないと思うし、それでも実際いいパーティーだったとも思うが、もしあえて言うとしたらもう少し地味でよかったなとエルヴィンは少し思っている。
「だが、ひそかにするよりはいい」
「え」
ニルスも騒がしいのはあまり好まないと思っていたが、自分が主役のパーティーは意外にも少々派手なほうが好きなのだろうかとエルヴィンは少しぽかんとニルスを見上げた。
「ニルスって派手なほうが好みだっけ」
「いや。……その、あれだ」
どれだろう。
首を傾げながらニルスをそのまま見るが、ニルスも首を傾げてきた。言ったほうなので傾げられても困るが、傾げる姿も恰好がいいしおまけにかわいいのでよしとする。
エルヴィンはあれがどれか気にするのをやめて横にいるニルスから視線を外し、テーブルの上にある酒の入ったグラスに手を伸ばした。こくりと飲んでいると「お前が……」とニルスが呟くように口にしてきた。
あ、続いてるんだな。
エルヴィンはまたニルスに視線をやってから頷く。
「……あまり周りに知られるの、好まなかったから……嫌だったかもしれない、が……」
「え、あ、それは……」
確かに大っぴらにしたいと思ったことはない。元々異性が好きだからというのもあるが、どうしても侯爵家の長男として引け目があったからだろうか。堂々とあからさまに付き合うのではなく、どちらかといえばこっそりに近かった。
「ごめん、ニルス。それで嫌な気持ちにさせたりしたか……?」
「まさか。そうじゃない」
「ならいいけど……。確かに付き合ってる時は大っぴらにしてなかったけど、俺らもう婚約したんだし、これからは堂々と俺の好きな人で俺の婚約者だって宣言しまくる勢いになるよ」
「いや……別にそこまでは……。そうじゃなく、て……だな。確かに大貴族でありながら同性同士というのは……下手をすれば周りで変な噂をされかねないだろう」
言葉に出して話すのが得意でないニルスがいつもよりたくさん話している。
珍しいというよりも何だか嬉しくて、というかそれだけニルスはがんばって何かを伝えようとしてくれているのだとわかって、エルヴィンは口を挟まずニルスを見つめた。
「ノルデルハウゼン侯爵夫人は……お前の母上は、もちろんこういう祝い事が好きなのも、あるだろうが……」
静かな状況が好きであってもエルヴィンは特に話すことが苦手なわけではない。だから思っていることをそのまま言葉として発することの難しさは多分この先もわかってあげられそうにないが、そういうものだと理解することはできる。
「ああいったくらい盛大に……堂々としたほうが……多分、だが」
思っていることと話すことが全然違う人ならば確かに言葉にするのが難しいとかありそうな気はするが、少なくともニルスは思っていることと口に出すことに基本相違がない。もちろん、エルヴィンがひたすらかわいいだとかを口にすることはきっとほぼないだろうが、とにかく裏表のない人だとはエルヴィンもわかっている。
だから余計、思ってることをそのまま出す難しさはわからないんだけど、でもそれがニルスだからな。
そういうニルスがまた愛おしいと思う。
「きっと……堂々としているから、こそ周りからも変に噂されず……祝ってもらえたと、思うし、きっとお前の母上もそれも考慮してたんじゃないか、と」
「え」
もっともらしいが、ネスリンは本当に昔からこういったことが大好きだけにそれはどうだろうとエルヴィンは少し思った。とはいえネスリンは社交界について長けている人でもある。もしかしたらニルスの言う通りかもしれない。
「だから……密かにするよりは、いい。皆に祝ってもらえた。それに……俺はエルヴィンの婚約者だと……大勢の人に知ってもらえた。盛大な婚約パーティーにしてくれて……ありがとう」
ニルスの家からはアルスラン家に委ねてくれた分、パーティーを企画するというよりは祝いの品などをそれこそ盛大に贈られた。エルヴィンはまだ独立していないのもあり、アルスラン家が主となって今回のパーティーが開かれていた。
「そんな、俺のほうこそお前の家からびっくりするくらい祝いの品届いたし、ありがとうだよ。それに何より、エンゲージメントを俺に提案してくれて、ありがとう。ニルス」
あえてまるで契約ごとのような言い方をした。すると以前エルヴィンが盛大に勘違いしていた時のことを思い出したのだろう。ニルスが少し口元をほころばせてきた。
二人は顔を合わせ、そのまま引き寄せられるようにキスした。
珍しくニルスがそんなことを言っている。エルヴィンと同じくそういった催しが苦手なはずのニルスだけに、そう思えるのならよかったとエルヴィンは笑みを浮かべた。
「お前がそう思うなら、よかった」
「ああ。招待された客も皆マナーをわきまえた人たちばかりだったし」
それを聞いて改めて、それなりの地位である貴族全員ご招待、でなくてよかったなとエルヴィンは内心しみじみ思った。
「だな。でも結構それなりの規模だったろ。騒がしかったり大げさだったりしなかったか?」
エルヴィンが聞くとニルスはふるふると首を振ってきた。
「ならよかったけど」
「……確かに盛大ではあった」
ですよね。
侯爵家の長男である以上ある程度は仕方ないと思うし、それでも実際いいパーティーだったとも思うが、もしあえて言うとしたらもう少し地味でよかったなとエルヴィンは少し思っている。
「だが、ひそかにするよりはいい」
「え」
ニルスも騒がしいのはあまり好まないと思っていたが、自分が主役のパーティーは意外にも少々派手なほうが好きなのだろうかとエルヴィンは少しぽかんとニルスを見上げた。
「ニルスって派手なほうが好みだっけ」
「いや。……その、あれだ」
どれだろう。
首を傾げながらニルスをそのまま見るが、ニルスも首を傾げてきた。言ったほうなので傾げられても困るが、傾げる姿も恰好がいいしおまけにかわいいのでよしとする。
エルヴィンはあれがどれか気にするのをやめて横にいるニルスから視線を外し、テーブルの上にある酒の入ったグラスに手を伸ばした。こくりと飲んでいると「お前が……」とニルスが呟くように口にしてきた。
あ、続いてるんだな。
エルヴィンはまたニルスに視線をやってから頷く。
「……あまり周りに知られるの、好まなかったから……嫌だったかもしれない、が……」
「え、あ、それは……」
確かに大っぴらにしたいと思ったことはない。元々異性が好きだからというのもあるが、どうしても侯爵家の長男として引け目があったからだろうか。堂々とあからさまに付き合うのではなく、どちらかといえばこっそりに近かった。
「ごめん、ニルス。それで嫌な気持ちにさせたりしたか……?」
「まさか。そうじゃない」
「ならいいけど……。確かに付き合ってる時は大っぴらにしてなかったけど、俺らもう婚約したんだし、これからは堂々と俺の好きな人で俺の婚約者だって宣言しまくる勢いになるよ」
「いや……別にそこまでは……。そうじゃなく、て……だな。確かに大貴族でありながら同性同士というのは……下手をすれば周りで変な噂をされかねないだろう」
言葉に出して話すのが得意でないニルスがいつもよりたくさん話している。
珍しいというよりも何だか嬉しくて、というかそれだけニルスはがんばって何かを伝えようとしてくれているのだとわかって、エルヴィンは口を挟まずニルスを見つめた。
「ノルデルハウゼン侯爵夫人は……お前の母上は、もちろんこういう祝い事が好きなのも、あるだろうが……」
静かな状況が好きであってもエルヴィンは特に話すことが苦手なわけではない。だから思っていることをそのまま言葉として発することの難しさは多分この先もわかってあげられそうにないが、そういうものだと理解することはできる。
「ああいったくらい盛大に……堂々としたほうが……多分、だが」
思っていることと話すことが全然違う人ならば確かに言葉にするのが難しいとかありそうな気はするが、少なくともニルスは思っていることと口に出すことに基本相違がない。もちろん、エルヴィンがひたすらかわいいだとかを口にすることはきっとほぼないだろうが、とにかく裏表のない人だとはエルヴィンもわかっている。
だから余計、思ってることをそのまま出す難しさはわからないんだけど、でもそれがニルスだからな。
そういうニルスがまた愛おしいと思う。
「きっと……堂々としているから、こそ周りからも変に噂されず……祝ってもらえたと、思うし、きっとお前の母上もそれも考慮してたんじゃないか、と」
「え」
もっともらしいが、ネスリンは本当に昔からこういったことが大好きだけにそれはどうだろうとエルヴィンは少し思った。とはいえネスリンは社交界について長けている人でもある。もしかしたらニルスの言う通りかもしれない。
「だから……密かにするよりは、いい。皆に祝ってもらえた。それに……俺はエルヴィンの婚約者だと……大勢の人に知ってもらえた。盛大な婚約パーティーにしてくれて……ありがとう」
ニルスの家からはアルスラン家に委ねてくれた分、パーティーを企画するというよりは祝いの品などをそれこそ盛大に贈られた。エルヴィンはまだ独立していないのもあり、アルスラン家が主となって今回のパーティーが開かれていた。
「そんな、俺のほうこそお前の家からびっくりするくらい祝いの品届いたし、ありがとうだよ。それに何より、エンゲージメントを俺に提案してくれて、ありがとう。ニルス」
あえてまるで契約ごとのような言い方をした。すると以前エルヴィンが盛大に勘違いしていた時のことを思い出したのだろう。ニルスが少し口元をほころばせてきた。
二人は顔を合わせ、そのまま引き寄せられるようにキスした。
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる