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寛ぐ豹
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友悠が見えた。一瞬チクリと良心が痛む。だがそんなこと言っていられない。
「友悠、タッチ」
「へ」
颯一は走って近づくと友悠に軽く抱きつき耳元でそう言い、離してまた走りだした。そしてチラリと後ろを振り返る。
案の定、颯一の後を追っかけてきていた渉がとてつもなく黒さをにじませた表情で友悠に絡みに行っていた。
「……ごめんな、とも」
謝りつつも、だが颯一は足の運びを緩めない。一刻も早くこの場から立ち去るつもりだった。
普通に接してくれるならだいたい幼馴染なのだ、颯一だって逃げない。だが渉は颯一を見つけると、ものすごい勢いで近づいてきて抱きついたり変なこと言ってきたりしかしてこない。それも冗談ならまだしも、理解できないことに本気だから始末に負えない。
「くっそ……っ! 追っかけてくるなよ! 死ねよ!」
「好きだぁぁぁぁぁ」
「っ嫌だぁぁぁぁぁ」
一度逃げ出すと、もう捕まったら二度と世間様に顔向けできないようなこと、されそうな気しかしない。逃げないまま捕まった時は大抵、何かしてきたらとりあえず腹パンしたりして対処できる。だが一旦逃げてしまうと「捕まったら最後」と思ってしまうこの現象は何だろうか。
だったら逃げなければいいのかもしれないが、あの変態の勢いを見るとつい逃げたくなってしまう。これは仕方ないと颯一は思っている。
そして前に一度逃げている途中、友悠が「あ。おはよう、そう」と声をかけてきた際とどまって「おはよう」と挨拶する余裕なく、たまたま「タッチ!」と、両手でハイタッチした後で逃走を続けたことがあった。その時の颯一に深い意味などなかった。確かに変態から追いかけられている状況を変わってもらえたらという希望はあったが、考えてのことではなかった。
「ああああああああ! 友人テメェ! 殺す……!」
「ええっ?」
だが軽い気持ちで颯一が行った両手でのハイタッチは、どこをどう見てそうなったのかわからないが、渉の視界では友悠が颯一の手を握ったように見えたらしい。その時、颯一は友悠に心から申し訳ないと思いつつも勉強した。
今後友悠を見つけたら盾にする。もう人として最低でもいい。友悠はノンケだし、渉は友悠に対して変なことはしない。だったら多分問題ないだろう。
颯一はとりあえず安全だろうと思われるところまで逃げると息を整えた。
どうやら余り人のいないところらしい。何でもいいと、とりあえずベンチに座る。
「……昔はいいヤツだったのになぁ……」
ため息をついてから思う。
いつも「そうちゃん」とニコニコ呼びかけてきて、一緒によく遊んでいた。小さい頃から格好よくて明るかった渉は、いつだって人気者だった。
一方取り立てて特に見た目がよくもなく、背も今は何とか普通サイズになったがその頃は小さくて、おまけに勉強も大してできるわけでもない颯一は、いつも至って平凡だった。せいぜいかけっこが少々得意なくらいで何をしても普通。
友だちは他にもいたが、年上でしかも人気者の渉がいつも颯一に懐いてくれるのは、子ども心に少し得意気でもあった。
もちろん、颯一自身も渉が幼馴染として好きだった。渉が全寮制の学校へ入り会えなくなった時は、寂しいとさえ思ったくらいだった。
「……それがあんな変態に……」
「変態?」
ふと、あまり普通に言って欲しくない部分を繰り返され、颯一は顔を少し引きつらせながら見上げた。そこに立っていたのは多分上級生だ。決して男をいいと思ったことなどない颯一が、思わず見惚れるほど綺麗な生徒だった。
「……っと、誰」
ポカンと見惚れた後で、颯一はハッとなり聞いた。そして少し警戒する。
不用心だった。この変態の巣窟である学校の、人気のない場所に自ら来るだなどと。
颯一の脳内に、今は渉によって駆除されたとは言え、当初何度か襲われそうになった嫌な思い出が駆け巡る。いくら自分が平凡でも油断してはならないと、ある意味勉強させてくれた気持ちの悪い皆様に、感謝などはしていないが「まだまだ精進不足でした」と心の中でとりあえず報告しておく。
「……何を構えているのか知らないが、そこは俺がいつも利用している場所だ」
だが立っていた生徒はどうでもよさげに言い放つと、颯一の座っているベンチにストンと腰をおろし、おもむろに本を読み始めた。
「え? あ、そ、そう。それは、ごめん。……なさい……」
颯一は唖然としつつもつい謝る。そして立ち上がった。
「……別に謝る必要などないだろう? 俺が利用しているとはいえ、俺専用でも何でもない」
「あ、そ、そうっすか」
本から目を離さずにまた言い放ってきた相手に、颯一は何となく相槌を打つとまた座ってしまった。
……て、何で座りなおしてるんだ俺。別に用事はないんだし、ただ単に変態から逃げていただけなんだし、このまま立ち去ればいいものを。
所在なさげに思っていると、美形が本から目を離し、颯一を見てきた。
「隣でそわそわされると鬱陶しい。何だお前……? ああ、もしかして男か何かから逃げてるのか?」
「っ鬱陶しいって……! って、何でわかるんだ……? あー、まぁ、そんなもんです……。すみません、邪魔して」
「……そうか。俺も本当に一人になりたい時は飼い犬から逃れてここへ来ている。ここは落ち着くしな。別に構わない。好きにすればいい。ただここでそんなそわそわするな」
美形は静かにそうとだけ言うと、また本に目を戻した。相変わらず素っ気ないものの言い方ではあったが、その物静かな話し方に何となく颯一は好感を持った。
あの変態が日々煩いから、な……。……て、飼い犬? ここってペット飼ってよかったっけ?
「あの、飼い犬って……?」
だが颯一が話しかけるも、今度はもう美形は本から目を離さないどころか何も話しもしなかった。
……無視ですか……!
そう思いながらも、だが颯一は同じように黙ってそこに座り続けていた。なぜかわからないが、落ち着く。何となくこのベンチだけバリアーでも張り巡らされているかのような気分になった。
とりあえずこの人の傍にいても安全。そして周りからも隔離されたような気分にすらなり、颯一はようやくホッと一息ついていた。
「友悠、タッチ」
「へ」
颯一は走って近づくと友悠に軽く抱きつき耳元でそう言い、離してまた走りだした。そしてチラリと後ろを振り返る。
案の定、颯一の後を追っかけてきていた渉がとてつもなく黒さをにじませた表情で友悠に絡みに行っていた。
「……ごめんな、とも」
謝りつつも、だが颯一は足の運びを緩めない。一刻も早くこの場から立ち去るつもりだった。
普通に接してくれるならだいたい幼馴染なのだ、颯一だって逃げない。だが渉は颯一を見つけると、ものすごい勢いで近づいてきて抱きついたり変なこと言ってきたりしかしてこない。それも冗談ならまだしも、理解できないことに本気だから始末に負えない。
「くっそ……っ! 追っかけてくるなよ! 死ねよ!」
「好きだぁぁぁぁぁ」
「っ嫌だぁぁぁぁぁ」
一度逃げ出すと、もう捕まったら二度と世間様に顔向けできないようなこと、されそうな気しかしない。逃げないまま捕まった時は大抵、何かしてきたらとりあえず腹パンしたりして対処できる。だが一旦逃げてしまうと「捕まったら最後」と思ってしまうこの現象は何だろうか。
だったら逃げなければいいのかもしれないが、あの変態の勢いを見るとつい逃げたくなってしまう。これは仕方ないと颯一は思っている。
そして前に一度逃げている途中、友悠が「あ。おはよう、そう」と声をかけてきた際とどまって「おはよう」と挨拶する余裕なく、たまたま「タッチ!」と、両手でハイタッチした後で逃走を続けたことがあった。その時の颯一に深い意味などなかった。確かに変態から追いかけられている状況を変わってもらえたらという希望はあったが、考えてのことではなかった。
「ああああああああ! 友人テメェ! 殺す……!」
「ええっ?」
だが軽い気持ちで颯一が行った両手でのハイタッチは、どこをどう見てそうなったのかわからないが、渉の視界では友悠が颯一の手を握ったように見えたらしい。その時、颯一は友悠に心から申し訳ないと思いつつも勉強した。
今後友悠を見つけたら盾にする。もう人として最低でもいい。友悠はノンケだし、渉は友悠に対して変なことはしない。だったら多分問題ないだろう。
颯一はとりあえず安全だろうと思われるところまで逃げると息を整えた。
どうやら余り人のいないところらしい。何でもいいと、とりあえずベンチに座る。
「……昔はいいヤツだったのになぁ……」
ため息をついてから思う。
いつも「そうちゃん」とニコニコ呼びかけてきて、一緒によく遊んでいた。小さい頃から格好よくて明るかった渉は、いつだって人気者だった。
一方取り立てて特に見た目がよくもなく、背も今は何とか普通サイズになったがその頃は小さくて、おまけに勉強も大してできるわけでもない颯一は、いつも至って平凡だった。せいぜいかけっこが少々得意なくらいで何をしても普通。
友だちは他にもいたが、年上でしかも人気者の渉がいつも颯一に懐いてくれるのは、子ども心に少し得意気でもあった。
もちろん、颯一自身も渉が幼馴染として好きだった。渉が全寮制の学校へ入り会えなくなった時は、寂しいとさえ思ったくらいだった。
「……それがあんな変態に……」
「変態?」
ふと、あまり普通に言って欲しくない部分を繰り返され、颯一は顔を少し引きつらせながら見上げた。そこに立っていたのは多分上級生だ。決して男をいいと思ったことなどない颯一が、思わず見惚れるほど綺麗な生徒だった。
「……っと、誰」
ポカンと見惚れた後で、颯一はハッとなり聞いた。そして少し警戒する。
不用心だった。この変態の巣窟である学校の、人気のない場所に自ら来るだなどと。
颯一の脳内に、今は渉によって駆除されたとは言え、当初何度か襲われそうになった嫌な思い出が駆け巡る。いくら自分が平凡でも油断してはならないと、ある意味勉強させてくれた気持ちの悪い皆様に、感謝などはしていないが「まだまだ精進不足でした」と心の中でとりあえず報告しておく。
「……何を構えているのか知らないが、そこは俺がいつも利用している場所だ」
だが立っていた生徒はどうでもよさげに言い放つと、颯一の座っているベンチにストンと腰をおろし、おもむろに本を読み始めた。
「え? あ、そ、そう。それは、ごめん。……なさい……」
颯一は唖然としつつもつい謝る。そして立ち上がった。
「……別に謝る必要などないだろう? 俺が利用しているとはいえ、俺専用でも何でもない」
「あ、そ、そうっすか」
本から目を離さずにまた言い放ってきた相手に、颯一は何となく相槌を打つとまた座ってしまった。
……て、何で座りなおしてるんだ俺。別に用事はないんだし、ただ単に変態から逃げていただけなんだし、このまま立ち去ればいいものを。
所在なさげに思っていると、美形が本から目を離し、颯一を見てきた。
「隣でそわそわされると鬱陶しい。何だお前……? ああ、もしかして男か何かから逃げてるのか?」
「っ鬱陶しいって……! って、何でわかるんだ……? あー、まぁ、そんなもんです……。すみません、邪魔して」
「……そうか。俺も本当に一人になりたい時は飼い犬から逃れてここへ来ている。ここは落ち着くしな。別に構わない。好きにすればいい。ただここでそんなそわそわするな」
美形は静かにそうとだけ言うと、また本に目を戻した。相変わらず素っ気ないものの言い方ではあったが、その物静かな話し方に何となく颯一は好感を持った。
あの変態が日々煩いから、な……。……て、飼い犬? ここってペット飼ってよかったっけ?
「あの、飼い犬って……?」
だが颯一が話しかけるも、今度はもう美形は本から目を離さないどころか何も話しもしなかった。
……無視ですか……!
そう思いながらも、だが颯一は同じように黙ってそこに座り続けていた。なぜかわからないが、落ち着く。何となくこのベンチだけバリアーでも張り巡らされているかのような気分になった。
とりあえずこの人の傍にいても安全。そして周りからも隔離されたような気分にすらなり、颯一はようやくホッと一息ついていた。
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