虎と豹とキリン

Guidepost

文字の大きさ
11 / 44

触れられる豹

しおりを挟む
 朝、食堂でぼんやり自分が食べた食器を颯一が戻していると「お。童貞のそうちゃんじゃん」などと言われ後ろから通りすがりの誰かに尻を触られた。

「ひ」

 何しやがると振り向こうとした時には既に、どこからともなくやってきた渉にその尻触り男は連れ去られていた。

「……どこにいたんだあいつ」

呆れつつも、また間違いなく戻ってくるであろう渉から避難すべく、颯一は食堂から早々に立ち去る。
 同室であり親友である友悠は朝あまり食べないため、朝食は一人でとることが多い。誰か友人がいたらそいつと一緒に食べたりもするが、男同士だし気にならないので基本的には一人で黙々と食べる。
 最初は渉がひたすら同じ時間に来たらどうしようと思っていたが、寮での食事中そういうことはしてこず、颯一はゆっくりと食事ができた。ホッとする反面、そういう気の使い方ができるなら四六時中そうしてくれと思ってしまう。
 ちなみに朝、颯一はこんなにモリモリ食べているのに、そして友悠は野菜ジュースくらいしか飲んでなさげだというのに、なぜ友悠のほうがあんなに背も筋肉もあるのだろうと今さらながらに少しムッとする。
 とはいえ朝から不満はよくない、楽しいこと考えようと思いながら歩いていると、後ろから「そうちゃん」と渉の声がした。颯一は聞こえなかったふりをしてそのまま歩き続ける。

「そうちゃん!」

 颯一はますます早歩きになった。だがあっという間につかまる。

「待てよ、呼んでいるのに無視なんてひどいぞ」
「……本当に用事があって呼んでるんだろうな」

 走って逃げればよかったと思いつつ、颯一はジロリと後ろにいる渉を睨み上げた。先ほどは助けてくれたのだろうが、あれくらいなら自分でも対処できるようにはなったし別に渉に助けて欲しいと頼んでいない。

 それに……。

「ある! さっきそうちゃんお尻触られただろ。消毒しなきゃな!」
「は……?」

 消毒したいのはやまやまなくらい気持ちが悪いが、それと渉はどう関係があるのだと颯一は怪訝そうな顔を渉へ向けた。そしてその顔が見る見る怒りで赤くなる。

「俺が上から上書きしてあげるよ。本当はお嫁にきてくれてからそうちゃんの体に触れたいところだけど仕方ない、緊急事態だからな」

 渉は真顔で颯一の尻を撫でてきた。

「そうちゃんのお尻小さいな、かわい……っぐ」

 かわいいと言いかけたところで、渉は鳩尾を押さえて黙りこんだ。

「ケツのデカイ男とか太ってねえ限りいるわけねーだろ! つか何しやがるこの変態……!」
「……っなぜいつも鳩尾を攻めて……痛いじゃないか……」
「一番やりやすいし効果ありそうだろが」

 本当は金的が一番だろうが、さすがに同じ男としてそれは痛すぎてできない。

「……一番の急所を避けてくれるそうちゃんの優しさがじんわりくるよ。愛だな!」

 つい今しがたまで鳩尾を押さえていた渉は、もう普通に戻りキリッとした表情で笑いかけてくる。その様子も言っていることも、そしてすぐに復活する鍛えられた腹筋も何もかも颯一は腹立たしい。助けられたのだとしても結局のところこの男から誰か助けて欲しいという思いになる。

「何でそうなんだよ!」
「だいたい、ちゃんと俺はそうちゃんを男だと思っているぞ。でもかわいいんだから仕方ないだろう。好きだ、そうちゃん」
「ああああもう、うぜぇ! 男と思ってんならかわいいとかケツ撫でるとか好きとかマジやめろよ……! 俺は女の子がいいんだ!」
「こまったな、俺に女装趣味はない」
「俺にもねぇよ! もうほんっと消えてくれ……!」

 颯一は思いっきり睨み上げると、その場から走って逃げ去った。部屋に戻ると鍵を慌てて閉める。

「おかえ……お疲れ……」

 制服に着替えていた友悠が帰ってきた颯一に気づき、ニッコリした後で微妙な表情になっている。

「あいつほんっともう……!」
「はは……。でも珍しいね、朝の食堂ではいつもそっとしてくれてたんじゃなかったっけ?」

 苦笑した後で友悠は上の服を脱いでシャツを羽織りだした。

「ちょっと食堂で知らないヤツにケツ触られて。そのせいだな……」
「え? だ、大丈夫だった?」

 颯一の言葉を聞いた途端、友悠が手をとめて心配そうにそばへやってきた。

「ああうん。それはまあ……。あいつがいつものようにあっという間にどこかに排除してた。一体いつも何やってんだか……」
「……ああ」

 友悠は少し遠い目になって呟いた。
 颯一にちょっかいを出した相手を大抵凄い勢いで颯一から引き離すと「言い聞かせ」とは名ばかりの脅しをかけているのを友悠は知っていた。颯一にした内容や相手によって、口で済む場合と手足つきの場合がある。それをされた相手は二度と颯一に手出しをしないどころか、前に「おはようございます込谷様」などと言ってくるヤツがいて、その時は颯一も友悠も固まった覚えがある。

「だいたいほんとここのヤツら変だよ。朝っぱらから男の尻触って何が楽しいんだか」

 颯一は呆れたようにため息ついた。

「まあ、こういうところだからね。それに、そうは中学の頃までは目立たないような子だったのかもだけどさ、ほんともう少し自か……気をつけた方がいいよ」

 自覚と言いかけたのか、だが友悠は言い直した。

「何、気つけるの」
「確かにその、全体的に平凡そうな感じはあるんだけど……実際のところそうの顔立ちってどちらかというと綺麗だよ」

 綺麗だと言われ、颯一は複雑な気持ちになる。

「カッコいいとかイケメンとかそういうのがいい……」

 確かに残念ながら全くもって男らしさに当てはまらないし、嬉しくないながらに例えば女装したら多少映えそうな顔立ちではあるかもしれない。それはこの、女子に飢えた、だが男でも全然いけるなどといった場所では結構問題なのかもしれない。

「本当に男が好きなヤツならそっちのが好きかもだよ。今はそういうこと言いたいんじゃなくて、その……」
「……うん、まあ、気をつけるよ、それはうん……ありがとう」

 友悠にやんわりと言われ、颯一は素直に頷く。その際にふと、友悠のボタンをとめていないシャツに目がいき、急に「納得いかない」といった気持ちになった。

「な、何……?」

 近寄ってきてジッと自分の胸のあたりを見られ、友悠は引いたように聞いてきた。

「ともって朝食わねぇのに何でそんな筋肉あんの? 俺と何が違うんだよ。何これ。ずるくねぇ?」
 さらにシャツをガバッと広げ、颯一は憤慨する。
「それは体質とかそんなんじゃ。ていうかじろじろ見ないでくれる? さすがに気持ち悪いよ」
「あ、悪ぃ、そうだよな……」

 あはは、と二人が笑いかけたところで部屋の入り口が勢いよく開いた。

「そうちゃん、嫌な予感が……! ってあああやっぱり的中した! てめぇ友人! 俺の嫁に何してくれてんだ……!」

 いきなり入ってきた渉に、二人は固まる。

「自分の体を俺のそうちゃんにむりやり触らせ挙句の果てにはそうちゃんに触ろうとするなどこの外道」
「え? っちょ、違……!」
「気持ちの悪いこと言うな……! っていうかお前! またここの部屋の鍵、勝手に……! だいたい嫁じゃねぇ!」
「何を言ってるんだそうちゃん。そうちゃんはそもそも俺の許嫁じゃないか! そして友人は殺す」
「お前こそ何言って……!」
「ああもう、胃が……」

 その後颯一がむりやり渉から鍵を奪い返し、何とか追い出してその場を強引に収めざるを得なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

君に捧げる、魔法のレシピ〜さえない動画配信者の僕が、クラスの王子様的男子に恋をした結果〜

ryon*
BL
地味でおとなしい性格の高校生 佐藤 理人は、趣味でこっそりお菓子のレシピ動画を公開している人気配信者でありスイーツ研究家。 ある日理人は、幼なじみの太陽に味見用としてクッキーを手渡すところを、大路に見られてしまう。 しかも清雅は大の甘党で、理人が配信している動画の大ファンだったことが判明。 しかし清雅は、理人=推し配信者の『りとる』だとはまったく気付いていなくて……!?

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

処理中です...