虎と豹とキリン

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キリンの悩み

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 一度邪な気持ちで颯一に近づき、渉に即排除されたことある生徒が友悠に聞いてきたことあった。

「お前って散々込谷の傍にいてさー、そんで馬見塚さんに死ねっていつも言われてるのに、何で実際のところ除去されねーの?」
「……人を害虫みたいに言うなよ……。ていうか死ねって言われるだけで十分大概じゃないか?」

 友悠が呆れたように言い返すと首を振られた。

「何言ってんだよ。お前も一度普通に除去されてみろよ。すみません二度と手出しいたしませんって思うぞあれは」
「……あー……」

 確かにそれは、と友悠は納得しかけてハッとなった。

「って、ちょっと待て。俺はそうとは友だちなんだよ。お前と違って変なつもりで近づいてないから……! だいたい俺がノンケだって知ってるだろ……」
「えーまあそりゃそうだけどさー。でもせっかく部屋まで同じなのにもったいない……」
「……何がだよ……! 全くもう……」

 友悠を知っている生徒ですらこうなら、渉がああいう態度に出るのもわからないでもない、と思いながら友悠はそっと胃を押さえる。
 男に興味が全くなくても、カッコいい同性を見れば普通にカッコいいと思うし、かわいい同性を見ればやはりかわいいとは友悠も思う。
 颯一は実際のところ普通の平均的な男子ではあるが、華奢で顔立ちが女性的なところがどことなくあるからか、かわいいと思われたりもするだろうなとは思う。それに確かに笑った顔はかわいい。未だに誰かにちょっかいをたまにかけられているのも知っている。
 知ってはいるが、それでもやはり友悠は男に興味がないため、例え目の前で颯一が裸でいようが引くことはあれど興奮するのはあり得ない。だというのになぜそれをわかってもらえないのだろうとため息も出る。
 だがそんなこと考えていた友悠の気持ちは今、一気に上昇した。目的の人を見つけたからだ。今日こそ何が何でも知り合いになる、と意味不明な勢いで気合いを入れると「ヤマモト先輩」が見当たらなくなる前に突進していった。

「ヤマモト先輩……!」
「……お……、おう……?」

 声にとてつもなく引いたような感情がこもっている。それもそうであろうと友悠は我に返った。ものすごい勢いで走ってきたかと思うといきなり自分の制服をつかんでくる見知らぬ生徒がいれば、明らかに友悠もドン引きしそうな気、しかしない。

「す、すみません……!」

 友悠は自分の顔が熱くなるのがわかった。とりあえず慌てて手を離す。

「いや……」

 困っている、絶対困っている。知り合う前から変なヤツだと思われたと、友悠はどん底の気分になりそうだった。

「おー? もしかして告白? 告白なんか? マジで? ちょ、こーじやるなお前!」

 そんな微妙な空気を全く読まないようなあっけらかんとした声に、だが友悠は唖然となった。

「何がやるんだよ……バカじゃねーの田中。お前ほんっと能天気な? ああ、悪いな誰か知らないけど。こいつのことは気にするな」
「え……、あ、ああいえ! 気にしません。その、ありがとうございます……。えっと、告白じゃないんですが、お、俺とお知り合いになっていただけないでしょうか……!」

 改めてちゃんと声をかけてくれた事に嬉しくなり、友悠は思い切ってそう言った。

「……え?」
「えー、やっぱ告白じゃねーの? もしくはナンパ?」

 そしてその反応に、友悠は消え入りそうになった。その後ようやく事情、というか知り合いになって欲しかったわけを話すと「あー……ほんと俺が謝るのも何だが、すまないな」と言ってもらえた。

「い、いえ。本当にそれは……」
「お前の名前、何ていうんだっけ? 俺は山本な。山本晃二。ついでにこの馬鹿は田中。田中聡」
「俺、馬鹿じゃねーよ!」
「うるさい馬鹿」

 二人のやりとりについ笑ってしまいながら、友悠も慌てて名乗った。

「す、すみません……! 知り合いになんて言っておきながら名前すら名乗ってなくて。俺、藤田友悠っていいます」
「藤田くん。俺も一応気にはしておくけどさすがに一年のクラスまで出向くのは中々難しい」
「あ、いえ! そんなことしていただかなくても! ただ、その、こうして話を聞いてもらえるだけで俺、嬉しいしホッとします……」

 友悠が少し頬を赤らめながら言うと、聡が楽しげに言ってきた。

「それって恋じゃねーの? ねーねー、ともちゃん恋だろー?」
「……は……?」

 恋? ともちゃん……?

 友悠が聡に唖然としていると、晃二が聡を軽くはたきながらまた謝ってきた。

「悪いな。こいつはほんと馬鹿だからあまり気にするな。先輩だから云々煩く言うヤツじゃねーから普通に無視してくれて大丈夫だ」
「だから俺馬鹿じゃねーって! あと先輩後輩はそりゃ気にならねーけど、無視は嫌にきまってんじゃん!」

 この間食堂で「田中! お前また」などと言っていたのを友悠は思い出した。そして晃二がいつも急にいなくなるのを何となく理解できた。まともなタイプの人は皆大変なのだなと妙な親近感を覚える。それから恐る恐る少し聞いてみたかったことを聞いた。

「あの……山本先輩って、その……そっちの気は……」
「ねぇよ……」

 途端とてつもなく微妙な表情で返事が返ってきた。

「あ、そうですか、よかった」
「何が? 何がいいのん? 男同士嫌いとか? でもほら、ヤってみねーとわかんねーじゃん? 俺もホモ興味ねーし女の子がいいけど、でもヤってみたら気持ちいいかも……」
「うるせぇ、お前は黙ってろマジ……」
「えー?」

 晃二の横で「ブー」とふくれっ面をしている、友悠よりも遥かに背の高い相手を、友悠は唖然と見た。

 何そのとてつもなく自由な発想。

「……でもその、さすがに男相手にそういう目で見れないから……」
「じゃああれだ、勃たねぇっつーなら、勃ててもらうか、突っ込んでみてもらうとかど……っいて! こーじ痛ぇよ!」
「痛く殴ったんだ、当たり前だろうが! ほんとお前、ほんっと……!」

 そして目を丸くして驚いている友悠にまた謝ってきた。

「マジすまない。次、何か相談あったら、こいついない時に聞いてやるから、いつでも言ってこい。とりあえず俺らもう行くわ」
「あ、はい……! 本当にありがとうございました」
「えー何だよー! 俺だってちゃんと相談に乗ってやれるぞ。あれだよともちゃんはちょっと考えすぎなんだよ、もっと気楽に行こーぜ」
「お前はお気楽すぎなんだよ! おら、行くぞ。じゃーな藤田くん、また」

 友悠にニコニコ手を振ってくる聡の耳をつかんで、晃二はそのまま立ち上がった。そして痛がる聡に「いいから行くぞ、もうすぐチャイム鳴るだろうが」などと言っている。
 そんな二人を、友悠はポカンとしながら見送った。
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