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59話 ※
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秋星の言葉に邦一はポカンとしている。それはそうだろうなと思いながらも秋星はたたみかける勢いで続けた。
「第一、クニ今まで誰か好きになったりしたことあんの」
「え」
「ないやろ。ないのに何で俺に対してそんな気ぃないてわかんねん」
「いや、だって」
「だってもクソもあらへんねん。なぁ、ほんだらお前は俺に触れられる度に気持ち悪いとか思ってたんか」
「いや、それは……」
ここで秋星は一旦言葉を切った。そしてニッコリと邦一を見る。
「なんや」
「……気持ち悪いと思ったことはないよ。だいたいお前に血を吸われてる時点で何をされようが」
「同じか?」
「まぁ……、いや、同じというか……そうだな……正直、興奮する。お前に触れられると」
興奮するのは秋星のというかヴァンパイアの力のせいだろうなと思いつつも、更にニコニコと頷く。
「ドキドキするってことやろ」
「……まぁ、そう……」
「見てみぃ。そんなん俺のこと好きやからに決まってるやろうが」
「そうなのか? でも……お前の妙な力がそうさせてんじゃ……」
思わず舌打ちしそうになり、秋星は軽く舌を噛んで誤魔化す。力を使ってのマインドコントロールだけはするつもりないが、思わずしたくもなる。むしろ邦一に「自分を出せ」などと言わなければ良かったとさえ思いそうだ。
もちろん、本気ではない。自分のない邦一が欲しいのではない。
「じゃあ別のヴァンパイアで試してみるか?」
これは嘘だ。何がどうあっても邦一に触れていいのは自分だけだと秋星は思っているし、もし他の者が少しでもそういう意味で邦一に触れたら絶対に許さない。
「じょ、冗談じゃない。あんなこと、秋星以外にまでごめんだ」
裏を返せば秋星なら構わないとも取れるが、邦一がそう言うのは恐らく小さな頃から秋星に仕えるのだと教え込まれてきたからこそだろう。わかってはいるが、どうしても嬉しくなってしまう自分が忌々しい。
この橘 秋星ともあろうヴァンパイアが。いくら邦一とはいえ人間ごときの些細な言葉に振り回されるなど。
小さくため息を吐くと、秋星は「じゃあ」と布団の上を座ったまま擦るように邦一へ近づいた。
「お前はやっぱり俺が好きなんや」
手を邦一の頬に添える。そしてゆっくりと指を顎へと這わせていくと邦一の肩がピクリと動いた。
このまま血を吸いたい。邦一からはいい匂いも漂っている。少なくとも秋星に触れられて不愉快だとは思っていない匂いだ。秋星は顔を邦一の首元へ近づけた。更に匂いが強くなる。
「お、おい。さっきお前飲んだだろ!」
「体力消耗したねん……補給させぇ」
「消耗って……お前があんなことするからだろ……」
秋星は少し笑いながら邦一の首元をペロリと舐めた。汗をかいていなくとも、邦一の肌というだけで甘美な味を覚える。
ああ、このまま思い切り歯を食い込ませ、堪能したい。
これでもいつだって加減している。だがこの無粋で野暮な生真面目馬鹿に受けた心理的な打撃をやり返してやりたいなどと思う。痛みを与えたい訳ではない。激しく貪り味を堪能すると共にこれでもかと唾液を流し込み、快楽と血を失っていく苦しみで混乱し泣いて悶える様を見たいだけだ。
せぇへんけどな。
「あんなこと、されながら達してたんは誰や」
囁きながら軽く甘噛みした。それだけで邦一はまた体を小さく震わせている。
せぇへんけど貪りたい。
「クニはな、俺のもんや……それわかってたらそれでええ」
本当はよくない。秋星がどれ程邦一を大事に思い、必要としているかわかって欲しい。これ以上ない程に必要としていることをわかった上で、邦一も受け入れて欲しい。受け入れた上で、邦一も秋星を必要として欲しい。
大事に思ってくれているのはわかっている。普段淡々として素っ気なさすらある邦一だが、それでも秋星を大事だと思ってくれているのはわかる。だがそこに秋星が本当に欲しい感情も入れて欲しい。その感情込みで、必要として欲しい。
わがままだとは思わない。この自分にこれほど沢山欲されるのを光栄に思えとまでは思わないが、邦一が何もかも秋星中心になれと思うことに罪悪感はない。
そもそも俺がそうなんやからな……。
何度か甘噛みを繰り返した後で秋星は完全に歯を食い込ませた。穴から流れる血を舌で堪能するだけで正直なところ秋星も達しそうな感覚を味わう。
邦一から血を貰うことこそ、秋星からすればセックスのようなものだ。
耽美な甘露が口の中に広がり、秋星の神経から血管から、体中のそれこそ先端まで生気と共に官能が広がり行き渡る。肉体的であからさまなオーガズムではない、精神的な快美感というのだろうか。
もちろん邦一以外の血を味わう時もそういった感覚はある。だが他ではそれに溺れたことはない。ただ、感じるだけというのだろうか。恐らく人間が普通に好きな食事を堪能する時に感じる感覚のようなものだと秋星は思っている。
邦一は違う。血の味が堪らないのもあるが、邦一相手だと陶酔しそうになる。耽溺したくなる。だがいつだって何とか自我を保ってゆっくりと味わうようにしている。邦一からしたら焦らしプレイのように感じられるかもしれないが、これでも秋星なりに気を使ってはいる。
……多少貧血になるかもしれんことまで気ぃ使ってられんけどな。
「っぁ、クソ……も、いい加減に……っ」
「好きやろ……?」
好きだと思えばいい。血を吸われるのも。快楽を味わうのも。そして秋星のことも。
流石に先ほどあり得ない程の痛みを味わったところだけに後ろでの行為は無理だ。だが代わりにまた邦一の着物を乱して至るところを舐め、そして噛み、味わいながら快楽を与えた。
邦一が達すると、精液を余すことなく舐めとった。
他の男がもし精液を出しでもすれば殺意すら抱くかもしれない。女の体液ですら今ではもう堪能できないのだ。男のそれも精液など、この自分が触れるどころか見るのすら忌まわしい。
邦一のだからだ。味もさることながら、邦一の中から作り出された白い液体だと思うと濃艶さすら感じる。
「お前ほんと……」
「また何考えてるねんって言うんか?」
笑みを浮かべて邦一を見ると首を振ってくる。
「いや、それは言わない。……俺が好きだからなんだろ……。にしても遠慮とか堪え性とかそういうだな――」
予想外の言葉が返ってきたせいだろうか。妙に顔が熱く感じられた。体温などほぼないようなものだというのにと自分でも驚いていると、邦一の方がもっと驚いたような顔で秋星を見ていた。
「第一、クニ今まで誰か好きになったりしたことあんの」
「え」
「ないやろ。ないのに何で俺に対してそんな気ぃないてわかんねん」
「いや、だって」
「だってもクソもあらへんねん。なぁ、ほんだらお前は俺に触れられる度に気持ち悪いとか思ってたんか」
「いや、それは……」
ここで秋星は一旦言葉を切った。そしてニッコリと邦一を見る。
「なんや」
「……気持ち悪いと思ったことはないよ。だいたいお前に血を吸われてる時点で何をされようが」
「同じか?」
「まぁ……、いや、同じというか……そうだな……正直、興奮する。お前に触れられると」
興奮するのは秋星のというかヴァンパイアの力のせいだろうなと思いつつも、更にニコニコと頷く。
「ドキドキするってことやろ」
「……まぁ、そう……」
「見てみぃ。そんなん俺のこと好きやからに決まってるやろうが」
「そうなのか? でも……お前の妙な力がそうさせてんじゃ……」
思わず舌打ちしそうになり、秋星は軽く舌を噛んで誤魔化す。力を使ってのマインドコントロールだけはするつもりないが、思わずしたくもなる。むしろ邦一に「自分を出せ」などと言わなければ良かったとさえ思いそうだ。
もちろん、本気ではない。自分のない邦一が欲しいのではない。
「じゃあ別のヴァンパイアで試してみるか?」
これは嘘だ。何がどうあっても邦一に触れていいのは自分だけだと秋星は思っているし、もし他の者が少しでもそういう意味で邦一に触れたら絶対に許さない。
「じょ、冗談じゃない。あんなこと、秋星以外にまでごめんだ」
裏を返せば秋星なら構わないとも取れるが、邦一がそう言うのは恐らく小さな頃から秋星に仕えるのだと教え込まれてきたからこそだろう。わかってはいるが、どうしても嬉しくなってしまう自分が忌々しい。
この橘 秋星ともあろうヴァンパイアが。いくら邦一とはいえ人間ごときの些細な言葉に振り回されるなど。
小さくため息を吐くと、秋星は「じゃあ」と布団の上を座ったまま擦るように邦一へ近づいた。
「お前はやっぱり俺が好きなんや」
手を邦一の頬に添える。そしてゆっくりと指を顎へと這わせていくと邦一の肩がピクリと動いた。
このまま血を吸いたい。邦一からはいい匂いも漂っている。少なくとも秋星に触れられて不愉快だとは思っていない匂いだ。秋星は顔を邦一の首元へ近づけた。更に匂いが強くなる。
「お、おい。さっきお前飲んだだろ!」
「体力消耗したねん……補給させぇ」
「消耗って……お前があんなことするからだろ……」
秋星は少し笑いながら邦一の首元をペロリと舐めた。汗をかいていなくとも、邦一の肌というだけで甘美な味を覚える。
ああ、このまま思い切り歯を食い込ませ、堪能したい。
これでもいつだって加減している。だがこの無粋で野暮な生真面目馬鹿に受けた心理的な打撃をやり返してやりたいなどと思う。痛みを与えたい訳ではない。激しく貪り味を堪能すると共にこれでもかと唾液を流し込み、快楽と血を失っていく苦しみで混乱し泣いて悶える様を見たいだけだ。
せぇへんけどな。
「あんなこと、されながら達してたんは誰や」
囁きながら軽く甘噛みした。それだけで邦一はまた体を小さく震わせている。
せぇへんけど貪りたい。
「クニはな、俺のもんや……それわかってたらそれでええ」
本当はよくない。秋星がどれ程邦一を大事に思い、必要としているかわかって欲しい。これ以上ない程に必要としていることをわかった上で、邦一も受け入れて欲しい。受け入れた上で、邦一も秋星を必要として欲しい。
大事に思ってくれているのはわかっている。普段淡々として素っ気なさすらある邦一だが、それでも秋星を大事だと思ってくれているのはわかる。だがそこに秋星が本当に欲しい感情も入れて欲しい。その感情込みで、必要として欲しい。
わがままだとは思わない。この自分にこれほど沢山欲されるのを光栄に思えとまでは思わないが、邦一が何もかも秋星中心になれと思うことに罪悪感はない。
そもそも俺がそうなんやからな……。
何度か甘噛みを繰り返した後で秋星は完全に歯を食い込ませた。穴から流れる血を舌で堪能するだけで正直なところ秋星も達しそうな感覚を味わう。
邦一から血を貰うことこそ、秋星からすればセックスのようなものだ。
耽美な甘露が口の中に広がり、秋星の神経から血管から、体中のそれこそ先端まで生気と共に官能が広がり行き渡る。肉体的であからさまなオーガズムではない、精神的な快美感というのだろうか。
もちろん邦一以外の血を味わう時もそういった感覚はある。だが他ではそれに溺れたことはない。ただ、感じるだけというのだろうか。恐らく人間が普通に好きな食事を堪能する時に感じる感覚のようなものだと秋星は思っている。
邦一は違う。血の味が堪らないのもあるが、邦一相手だと陶酔しそうになる。耽溺したくなる。だがいつだって何とか自我を保ってゆっくりと味わうようにしている。邦一からしたら焦らしプレイのように感じられるかもしれないが、これでも秋星なりに気を使ってはいる。
……多少貧血になるかもしれんことまで気ぃ使ってられんけどな。
「っぁ、クソ……も、いい加減に……っ」
「好きやろ……?」
好きだと思えばいい。血を吸われるのも。快楽を味わうのも。そして秋星のことも。
流石に先ほどあり得ない程の痛みを味わったところだけに後ろでの行為は無理だ。だが代わりにまた邦一の着物を乱して至るところを舐め、そして噛み、味わいながら快楽を与えた。
邦一が達すると、精液を余すことなく舐めとった。
他の男がもし精液を出しでもすれば殺意すら抱くかもしれない。女の体液ですら今ではもう堪能できないのだ。男のそれも精液など、この自分が触れるどころか見るのすら忌まわしい。
邦一のだからだ。味もさることながら、邦一の中から作り出された白い液体だと思うと濃艶さすら感じる。
「お前ほんと……」
「また何考えてるねんって言うんか?」
笑みを浮かべて邦一を見ると首を振ってくる。
「いや、それは言わない。……俺が好きだからなんだろ……。にしても遠慮とか堪え性とかそういうだな――」
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