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10話
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理解が追いつかないのは自分のせいではないと思う。大典は自らにうんうんと頷き言い聞かせた。
仲よくしてとお願いさせられた挙句素っ気なく追い払われたが、でも唇を舐められた。あれはキスと言っていいはずだ。とてつもなくサラッとされ過ぎて、大典が知り得ない上位クラスの挨拶か何かかとも思えそうだったが、しかしやはりあれはキスの一種だ。もしキスと言わないにしても普通興味のない相手の唇は舐められない気がする。付き合ってなくても軽率に性行為をしてきた大典でもさすがにその気になれない相手の唇を舐めようとは思わない。
翌日、顔を合わせた途端話しかけたかったがタイミングが合わない上に悟は合わせようともしてくれない。仕方なく仕事を始めた。気を緩めることのできない仕事だけに大典も集中し、小休憩になった途端話しかけた。
「悟、お前の考えていることがわからないんだけど」
「何の話っすか」
ペットボトルの茶を飲みながらサラリと返され、大典は一瞬言葉に詰まった。だが気を取り直す。
「昨日仲よくしてくれると言いながらめちゃくちゃ素っ気なく追い出されただろ。でもその際にお前、俺の唇舐めてきた。あれ、どう思ったらいい?」
「先輩がどう思えばいいかなんて知りませんよ。好きに思えばいいんじゃないっすか」
そうなのだろうけれども……!
いや、そうなのか? それでいいのか? 好きに思っちゃっていいならめちゃくちゃいいように取るだろそんなん。
「いや、えっと、じゃあお前はどう思ってあんなことしたんだよ」
「言った通りっすよ。ちょっとだけ仲よくしてあげますって俺、言いましたよね」
言ったけども……!
何だろう、この釈然としない気持ちはと大典は頭を抱えた。
「何やってんすか。そろそろ休憩終わりますよ」
「お、おぅ」
すっきりとしないまま仕事の続きを再開した。好きに思っていいなら行動あるのみじゃないだろうかと思うことにし、大典は仕事が終わると同時に「今日もどうだ、仲よくしてみないか」と言ってみた。
「マジ先輩半端ないっすねえー。今日は俺帰りますんで」
「だったら俺もお前ん家行く」
「来ないでください」
「そうか、って、ええ? 何でだよ」
「何でもへったくれもねぇっすけど。来ないで欲しいから言ったまでです」
「そ、そう」
えぇー? いやほんとマジ理解できねぇんですけど?
大典は頭を捻りながら大吉の店へ自然と向かっていた。
「な、どう思う?」
「……お前さー」
はぁ、とため息を吐きながら大吉はあまり顔色がいいとはいえない顔を大典に向けてきた。
「何」
「何でそういうこと何でも明け透けに言うんだよ。そういうのって普通口にしねぇもんだろが」
「何でだよ、別に俺やべぇこと言ってねーだろ」
「逆の立場で考えろ。もし相手が自分の知らないところでよ、二人きりの時にしたあれこれを誰かに言ってたらどう思うよ」
「……、……俺のこと好きなんだろな」
考えろと言われたのもあり、ちゃんと熟考したというのに「馬鹿野郎かよ」と言われ納得がいかない。
「きっちゃんが何言いてぇのかわかんねぇんだけど。いいからどう思うか言ってくれよ。めちゃくちゃ素っ気なく追い出されたんだぞ。でも唇舐められた」
「知るかよ……そういうことは当事者でどうにかして。あと前から何度も言ってるけど男同士のあれこれを俺に言うな」
「だってあいつ難しすぎんだよ。言っただろ。今日だって来ないで欲しいって何だよっ?」
「来ないで欲しかったんだろ」
「あいつもそー言ってた!」
「じゃあその通りだろが」
「そうじゃなくてほら、何でそういうこと言うんだって話でだな」
別に泣いてはいないが手で顔を覆う。大吉に言えば何か有益な答えが返ってくると本気で思っているわけではないが、少なくとも誰かに言うことで自分の中でのモヤモヤや疑問が多少なりとも整理されたりスッキリするかと思った。しかし全然過ぎて何とも言い難い気持ちだった。
イライラするし悲しいし意味がわからなさ過ぎてハテナしかないしもどかしい。でも唇は舐められた。そこだけは嬉しいしそわそわするし期待もする。けどやはり他が大典にとってマイナス過ぎて顔を覆うしかない。
「何でこう、思い通りにいかねーんだ」
「大典、普通はそういうもんだぞ」
「あ?」
「俺に凄むんじゃねぇ。お前がクソ忌々しいことに今まで上手くいきすぎてたってことだよ! 普通は恋愛なんてな、なっかなか上手くいくもんじゃねぇ」
「……マジかよ」
「ああ」
「……きっちゃん、辛い恋ばっかしてきたんだな。わかってやれなくてすまねぇ」
「殺すぞ。そこじゃねえ。俺のことは置いておけ、クソ」
基本温和な大吉がそれこそ凄んでくる。だがすぐに呆れたようにため息を吐いてきた。
「じゃなくてだな、そう上手くいくもんじゃねぇんだからマジで悠賀くんのこと好きならヤベーほど悩めやってこと」
「そうなのかよ……恋愛、やべーな……」
その後、それなりの時間になってきたので他の客が増えてきた。大吉は「食ったら金置いて帰れよ」と言うと他の客相手に応対したり調理したりしている。
「朝妻くん」
渋々大人しく料理とビールを交互に口へ運んでいるとサラリーマンから声をかけられた。何度か見かけたことのある程度の顔見知りだ。
「何」
「両方いけるって前に言ってたけど、今好きな人って男なのかな」
「ああ」
「上手くいかないって悩んでたけど、どうかな。僕相手に色々練習してみるってのは」
「あ?」
何言ってんだと思った後でピンときた。これは誘われているってやつだと。
見ろよ、やっぱり悟相手じゃなかったらこうも簡単なのに、マジなんであいつ難しいんだよ。
「ありがとな。でもやめとくよ」
「朝妻くんって付き合ってもない相手に操立てるタイプだっけ」
「んなんじゃねーけど、今そういう気分じゃねえ」
「そうか。じゃあまたそういう気分になったら声、かけてくれるかな」
「なればな」
声をかけてきたサラリーマンは「ありがとう」とにこやかに手を振って帰っていった。
仲よくしてとお願いさせられた挙句素っ気なく追い払われたが、でも唇を舐められた。あれはキスと言っていいはずだ。とてつもなくサラッとされ過ぎて、大典が知り得ない上位クラスの挨拶か何かかとも思えそうだったが、しかしやはりあれはキスの一種だ。もしキスと言わないにしても普通興味のない相手の唇は舐められない気がする。付き合ってなくても軽率に性行為をしてきた大典でもさすがにその気になれない相手の唇を舐めようとは思わない。
翌日、顔を合わせた途端話しかけたかったがタイミングが合わない上に悟は合わせようともしてくれない。仕方なく仕事を始めた。気を緩めることのできない仕事だけに大典も集中し、小休憩になった途端話しかけた。
「悟、お前の考えていることがわからないんだけど」
「何の話っすか」
ペットボトルの茶を飲みながらサラリと返され、大典は一瞬言葉に詰まった。だが気を取り直す。
「昨日仲よくしてくれると言いながらめちゃくちゃ素っ気なく追い出されただろ。でもその際にお前、俺の唇舐めてきた。あれ、どう思ったらいい?」
「先輩がどう思えばいいかなんて知りませんよ。好きに思えばいいんじゃないっすか」
そうなのだろうけれども……!
いや、そうなのか? それでいいのか? 好きに思っちゃっていいならめちゃくちゃいいように取るだろそんなん。
「いや、えっと、じゃあお前はどう思ってあんなことしたんだよ」
「言った通りっすよ。ちょっとだけ仲よくしてあげますって俺、言いましたよね」
言ったけども……!
何だろう、この釈然としない気持ちはと大典は頭を抱えた。
「何やってんすか。そろそろ休憩終わりますよ」
「お、おぅ」
すっきりとしないまま仕事の続きを再開した。好きに思っていいなら行動あるのみじゃないだろうかと思うことにし、大典は仕事が終わると同時に「今日もどうだ、仲よくしてみないか」と言ってみた。
「マジ先輩半端ないっすねえー。今日は俺帰りますんで」
「だったら俺もお前ん家行く」
「来ないでください」
「そうか、って、ええ? 何でだよ」
「何でもへったくれもねぇっすけど。来ないで欲しいから言ったまでです」
「そ、そう」
えぇー? いやほんとマジ理解できねぇんですけど?
大典は頭を捻りながら大吉の店へ自然と向かっていた。
「な、どう思う?」
「……お前さー」
はぁ、とため息を吐きながら大吉はあまり顔色がいいとはいえない顔を大典に向けてきた。
「何」
「何でそういうこと何でも明け透けに言うんだよ。そういうのって普通口にしねぇもんだろが」
「何でだよ、別に俺やべぇこと言ってねーだろ」
「逆の立場で考えろ。もし相手が自分の知らないところでよ、二人きりの時にしたあれこれを誰かに言ってたらどう思うよ」
「……、……俺のこと好きなんだろな」
考えろと言われたのもあり、ちゃんと熟考したというのに「馬鹿野郎かよ」と言われ納得がいかない。
「きっちゃんが何言いてぇのかわかんねぇんだけど。いいからどう思うか言ってくれよ。めちゃくちゃ素っ気なく追い出されたんだぞ。でも唇舐められた」
「知るかよ……そういうことは当事者でどうにかして。あと前から何度も言ってるけど男同士のあれこれを俺に言うな」
「だってあいつ難しすぎんだよ。言っただろ。今日だって来ないで欲しいって何だよっ?」
「来ないで欲しかったんだろ」
「あいつもそー言ってた!」
「じゃあその通りだろが」
「そうじゃなくてほら、何でそういうこと言うんだって話でだな」
別に泣いてはいないが手で顔を覆う。大吉に言えば何か有益な答えが返ってくると本気で思っているわけではないが、少なくとも誰かに言うことで自分の中でのモヤモヤや疑問が多少なりとも整理されたりスッキリするかと思った。しかし全然過ぎて何とも言い難い気持ちだった。
イライラするし悲しいし意味がわからなさ過ぎてハテナしかないしもどかしい。でも唇は舐められた。そこだけは嬉しいしそわそわするし期待もする。けどやはり他が大典にとってマイナス過ぎて顔を覆うしかない。
「何でこう、思い通りにいかねーんだ」
「大典、普通はそういうもんだぞ」
「あ?」
「俺に凄むんじゃねぇ。お前がクソ忌々しいことに今まで上手くいきすぎてたってことだよ! 普通は恋愛なんてな、なっかなか上手くいくもんじゃねぇ」
「……マジかよ」
「ああ」
「……きっちゃん、辛い恋ばっかしてきたんだな。わかってやれなくてすまねぇ」
「殺すぞ。そこじゃねえ。俺のことは置いておけ、クソ」
基本温和な大吉がそれこそ凄んでくる。だがすぐに呆れたようにため息を吐いてきた。
「じゃなくてだな、そう上手くいくもんじゃねぇんだからマジで悠賀くんのこと好きならヤベーほど悩めやってこと」
「そうなのかよ……恋愛、やべーな……」
その後、それなりの時間になってきたので他の客が増えてきた。大吉は「食ったら金置いて帰れよ」と言うと他の客相手に応対したり調理したりしている。
「朝妻くん」
渋々大人しく料理とビールを交互に口へ運んでいるとサラリーマンから声をかけられた。何度か見かけたことのある程度の顔見知りだ。
「何」
「両方いけるって前に言ってたけど、今好きな人って男なのかな」
「ああ」
「上手くいかないって悩んでたけど、どうかな。僕相手に色々練習してみるってのは」
「あ?」
何言ってんだと思った後でピンときた。これは誘われているってやつだと。
見ろよ、やっぱり悟相手じゃなかったらこうも簡単なのに、マジなんであいつ難しいんだよ。
「ありがとな。でもやめとくよ」
「朝妻くんって付き合ってもない相手に操立てるタイプだっけ」
「んなんじゃねーけど、今そういう気分じゃねえ」
「そうか。じゃあまたそういう気分になったら声、かけてくれるかな」
「なればな」
声をかけてきたサラリーマンは「ありがとう」とにこやかに手を振って帰っていった。
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