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大地が「イケメンだったら俺になんかいいことでもあんのかよ」と聞けば、圭悟は「モテてんのあやかれるかも?」と適当なことを言ってくる。
「んなもんあやかれるなら俺だってもっと昔にあやかってるわ」
「お前彼女いたことないもんな」
「うるせえ、今それ言う必要あんのか? だいたいちょこっとだけならいたことありますー。……まじちょこっとだけど……」
どうでもいいやりとりをしていたら隣のクラスの友人、茶山 勝一(さやま しょういち)が近づいてきて「んだよ、彼女欲しいとか廊下で熱望すんなよ」と大地の首に腕を回してきた。
「死ね。してねえし……! なに聞いてそーなんだよ」
「そうそう。ちゃんと人の話は聞けよ勝一。彼女ができない残念なやつって話だよ。だいたい抱きつくなら俺にしろ」
「圭悟もちげぇだろ……! つかウザいからお前らどっか別のとこで仲よくして」
圭悟と勝一もなにをどうなってそうなったのか付き合っており、大地の中での男同士像に対する偏見がない一因となっている。
さらにどうでもいいようなやりとりをした後に圭悟は「にしても幼馴染ってそんなもんなの?」と聞いてきた。
「そうなの。だから俺、やだかんな」
「せっかく秀才が幼馴染だってのに勿体ないな。俺だったらこれ見よがしに利用させてもらうわ」
「なんの話だよ」
「圭悟性格歪んでんぞ。んであれだよ勝一。あの氷王子が俺の幼馴染だってんで、声かけて勉強教えてもらえってこいつ言ってくんだよ。だいたい俺は幼馴染ってんなら可愛い女の子がよかった。幼馴染の女の子だったら朝、部屋まで起こしに来てくれんだろ。『もーいつまで寝てんの』とか言ってさー。あとお弁当とか作ってくれたり」
大地はアニメやこっそり楽しんだ指定まではいかないゲームのシチュエーションを思い浮かべながらニコニコと二人を見た。二人は呆れたように見返してくる。
「……それどこの萌えアニメやエロゲーだよ」
「今時そんなのある訳ねぇだろ。……ありえねーし現実見ろよ」
「そうそう。それかやっぱ彼女作れ」
「エロサイトで抜いてたら一生未経験で終わんぞ」
「ああもう、二人してなんなの、うぜぇ……!」
諭すように言ってきつつも思いきり馬鹿にされているような気がする。大地は二人を睨んだ。
「だいたい、お、俺どーてーじゃねえし!」
「無理すんなって」
童貞じゃないと言えば今度は二人が声を揃えてくる。確かに実際のところ大地は未経験だ。彼女は一度だけできたがすぐ振られた。
そもそもそんな簡単に彼女が作られるなら大地はとっくの昔に作っている。ストイックな振りでも真面目な振りでもなんでもないし、する気もない。なってくれる子がいるなら喜んで彼女になってもらいたいと思っている。
できればかわいい子がいいけれども。
「お前らはいーよな。彼女……じゃねえけど相手いるんだもん。だから余裕ぶってんだろ」
大地も別に待っているばかりではない。ちゃんと好きな子ができれば告白だってしたこともある。ただし「友だちとしてなら立原くんほんと面白いんだけど、付き合うのは……」と苦笑いされた。
それでもなんとか一度そう言われた子とは別の子と付き合ったものの「やっぱり恋人というより弟みたいな感じしちゃって」と間もなく振られた訳だ。
俺のなにが悪いの?
何でなの?
弟とか、俺、そんな子どもじゃねえと思うんだけど。
ちゃんと彼女のこと考えたし約束だって優先した。遊びに行くのだって彼女がしたいってこと優先させたし特にないなら「じゃあこれは?」って提案だってした。
がんばったつもりなのに。友だちなら面白いのになんで彼氏だとダメになんの。むしろどんな男なら納得できるってんだよ。
「別に余裕ぶってないけど」
「余裕ぶるもんでもねーだろ」
考えていたが圭悟と勝一の言葉に我に返った。
「るせーな。俺、結構顔だって悪くなくね? 性格だって優しくて男前じゃね? なにが不満なんだよ? 女子って理想高すぎねえ? 白馬の王子様とかそこら辺にいる訳ねえだろ? つかいたらむしろドン引きだろ? あーもー自分でも何言ってんのかわかんなくなってきたけど、とにかく意味わかんねえ」
ムッとしながら言う大地の言葉に二人は内心「そういうこと口にするとこがまずアレじゃね」と思いつつ、苦笑する。
「はいはい。悪かったって」
そして二人して同情するかのように頭を撫でてくる。
「撫でんなよ……!」
またムッとしながら二人を見た後になんとなく視線を感じて振り返るが、もちろん誰も大地を見てはいない。
だがふと、廊下の向こう側にいる「氷の王子様」と目が合った気がした。それももちろん、気のせいでしかないと大地は「いい加減頭をぐちゃぐちゃにすんのやめろよ」と意識を圭悟と勝一に戻した。
昼休みになるとなんとなくたむろしている、普段使われていない教室へ向かった。そこには大抵誰か知り合いがいる。大地や圭悟たちはたまにふらりと出向くくらいだが、そこはいつ行っても同じような顔ぶれで、本当にいつもここにいるんだろうなと大地は改めてしみじみ思う。
「大地! 聞いてくれよ! ナツとヒトが冷てぇ」
大地が教室に足を踏み入れた途端、別クラスの友人である相賀 総司(あいか そうじ)が膨れ面で大地を見てきた。
「冷たいんじゃねえ、親切心ってそこは言えよ」
「そうそう。むしろ温かい友情だろうが」
「なんなんだよいきなり」
教室の中を大地が微妙な顔で見ると、美形だが鬼のような形相をした総司の弟、針谷 幾斗(はりや いくと)が腕を組んで立っているのに気付いた。
「針谷どしたの」
鬼のような形相だろうがなんだろうがそういうのはあまり気にならない大地が聞くと幾斗から「テスト、ほぼ書けなかったそうでな」と返ってきた。
「だからってなんで昼休みまで勉強させられなきゃなんねえんだよ! 俺の大事な昼休み」
「やった内容直ぐに復習したほうが頭に入るだろうが」
「問題なんて既になんも覚えてねえよ!」
「うるさい。ほら、行くぞ」
「嫌だっつってんだろが! ちょ、ナツ! ヒト! 助けろって!」
双子が言い合っているのを微妙な顔で見つつ、助けろと言われた総司の友人は「だからお前が、がんばれ」「応援してる」と素っ気ない。
挙句の果てに「大人しくついてこないとここでまたキスするぞ」と幾斗に言われ、ようやく総司は幾斗に引き摺られていった。
「アイツ、懲りねえな」
大地が呆れたように言うと「そーじだからな」と返ってくる。
「でもテストほぼ書けないってんなら大地もだろ」
圭悟の言葉に大地は「ちげぇ。俺は一応全部書いた! その、選択問題のところは」と言い返す。
「選択ってどれか選べば一応埋められるからだろ」
勝一がそれに対しておかしそうに笑ってきたので大地は圭悟と勝一をジロリと睨んでおいた。
大地は実際あまり頭がよくない。この学校は運よく入れたのだと自分でもわかっている。そもそも違う学校に行くつもりだったが私立と公立を受ける際に親から「私立は駄目元でここを受けてみろ」と言われたのだ。
「んでだよ。あんな頭いいとこ、受かる訳ねーだろ」
「零二くんがそこ受けるらしいから」
「なにそれ、んなもん関係ねえだろ……。お前ら親同士仲良いからってなんで押しつけてくんだよ」
「親に向かって『お前ら』とは何。罰として受けなさい。落ちたら落ちたで仕方ないし、公立は下のほう選べばいいし」
「そんな訳のわかんねーこと言ってくるヤツは親でも『お前』で十分だよ! んだよ公立は下のほうって。それはそれで失礼だな……!」
そんなやりとりを親としつつ、結局受けさせられる羽目になり、おまけにどうせ受けるなら猛勉強しろとまるで騙された気分だったが、何がどう間違ったか受かったのだ。
受かったはいいが、結局こうして日々勉強にはとてつもなく、ついていけてない。圭悟は「解けない」などと言いつつ大地からしたら十分ついていっているし勝一は外見だけ見ると圭悟よりも頭が悪そうだがあれでもそこそこできる。
「あいつ、お前の幼馴染だろ? 勉強、教えてもらえばいいだろ」
ふと圭悟が言っていた言葉とともに零二の顔が浮かんだ。
アイツに勉強とか……それならついていけないままでいいぞ。
微妙な顔で思いながら、ここで食べようと持ってきた弁当を大地は机に広げた。
「んなもんあやかれるなら俺だってもっと昔にあやかってるわ」
「お前彼女いたことないもんな」
「うるせえ、今それ言う必要あんのか? だいたいちょこっとだけならいたことありますー。……まじちょこっとだけど……」
どうでもいいやりとりをしていたら隣のクラスの友人、茶山 勝一(さやま しょういち)が近づいてきて「んだよ、彼女欲しいとか廊下で熱望すんなよ」と大地の首に腕を回してきた。
「死ね。してねえし……! なに聞いてそーなんだよ」
「そうそう。ちゃんと人の話は聞けよ勝一。彼女ができない残念なやつって話だよ。だいたい抱きつくなら俺にしろ」
「圭悟もちげぇだろ……! つかウザいからお前らどっか別のとこで仲よくして」
圭悟と勝一もなにをどうなってそうなったのか付き合っており、大地の中での男同士像に対する偏見がない一因となっている。
さらにどうでもいいようなやりとりをした後に圭悟は「にしても幼馴染ってそんなもんなの?」と聞いてきた。
「そうなの。だから俺、やだかんな」
「せっかく秀才が幼馴染だってのに勿体ないな。俺だったらこれ見よがしに利用させてもらうわ」
「なんの話だよ」
「圭悟性格歪んでんぞ。んであれだよ勝一。あの氷王子が俺の幼馴染だってんで、声かけて勉強教えてもらえってこいつ言ってくんだよ。だいたい俺は幼馴染ってんなら可愛い女の子がよかった。幼馴染の女の子だったら朝、部屋まで起こしに来てくれんだろ。『もーいつまで寝てんの』とか言ってさー。あとお弁当とか作ってくれたり」
大地はアニメやこっそり楽しんだ指定まではいかないゲームのシチュエーションを思い浮かべながらニコニコと二人を見た。二人は呆れたように見返してくる。
「……それどこの萌えアニメやエロゲーだよ」
「今時そんなのある訳ねぇだろ。……ありえねーし現実見ろよ」
「そうそう。それかやっぱ彼女作れ」
「エロサイトで抜いてたら一生未経験で終わんぞ」
「ああもう、二人してなんなの、うぜぇ……!」
諭すように言ってきつつも思いきり馬鹿にされているような気がする。大地は二人を睨んだ。
「だいたい、お、俺どーてーじゃねえし!」
「無理すんなって」
童貞じゃないと言えば今度は二人が声を揃えてくる。確かに実際のところ大地は未経験だ。彼女は一度だけできたがすぐ振られた。
そもそもそんな簡単に彼女が作られるなら大地はとっくの昔に作っている。ストイックな振りでも真面目な振りでもなんでもないし、する気もない。なってくれる子がいるなら喜んで彼女になってもらいたいと思っている。
できればかわいい子がいいけれども。
「お前らはいーよな。彼女……じゃねえけど相手いるんだもん。だから余裕ぶってんだろ」
大地も別に待っているばかりではない。ちゃんと好きな子ができれば告白だってしたこともある。ただし「友だちとしてなら立原くんほんと面白いんだけど、付き合うのは……」と苦笑いされた。
それでもなんとか一度そう言われた子とは別の子と付き合ったものの「やっぱり恋人というより弟みたいな感じしちゃって」と間もなく振られた訳だ。
俺のなにが悪いの?
何でなの?
弟とか、俺、そんな子どもじゃねえと思うんだけど。
ちゃんと彼女のこと考えたし約束だって優先した。遊びに行くのだって彼女がしたいってこと優先させたし特にないなら「じゃあこれは?」って提案だってした。
がんばったつもりなのに。友だちなら面白いのになんで彼氏だとダメになんの。むしろどんな男なら納得できるってんだよ。
「別に余裕ぶってないけど」
「余裕ぶるもんでもねーだろ」
考えていたが圭悟と勝一の言葉に我に返った。
「るせーな。俺、結構顔だって悪くなくね? 性格だって優しくて男前じゃね? なにが不満なんだよ? 女子って理想高すぎねえ? 白馬の王子様とかそこら辺にいる訳ねえだろ? つかいたらむしろドン引きだろ? あーもー自分でも何言ってんのかわかんなくなってきたけど、とにかく意味わかんねえ」
ムッとしながら言う大地の言葉に二人は内心「そういうこと口にするとこがまずアレじゃね」と思いつつ、苦笑する。
「はいはい。悪かったって」
そして二人して同情するかのように頭を撫でてくる。
「撫でんなよ……!」
またムッとしながら二人を見た後になんとなく視線を感じて振り返るが、もちろん誰も大地を見てはいない。
だがふと、廊下の向こう側にいる「氷の王子様」と目が合った気がした。それももちろん、気のせいでしかないと大地は「いい加減頭をぐちゃぐちゃにすんのやめろよ」と意識を圭悟と勝一に戻した。
昼休みになるとなんとなくたむろしている、普段使われていない教室へ向かった。そこには大抵誰か知り合いがいる。大地や圭悟たちはたまにふらりと出向くくらいだが、そこはいつ行っても同じような顔ぶれで、本当にいつもここにいるんだろうなと大地は改めてしみじみ思う。
「大地! 聞いてくれよ! ナツとヒトが冷てぇ」
大地が教室に足を踏み入れた途端、別クラスの友人である相賀 総司(あいか そうじ)が膨れ面で大地を見てきた。
「冷たいんじゃねえ、親切心ってそこは言えよ」
「そうそう。むしろ温かい友情だろうが」
「なんなんだよいきなり」
教室の中を大地が微妙な顔で見ると、美形だが鬼のような形相をした総司の弟、針谷 幾斗(はりや いくと)が腕を組んで立っているのに気付いた。
「針谷どしたの」
鬼のような形相だろうがなんだろうがそういうのはあまり気にならない大地が聞くと幾斗から「テスト、ほぼ書けなかったそうでな」と返ってきた。
「だからってなんで昼休みまで勉強させられなきゃなんねえんだよ! 俺の大事な昼休み」
「やった内容直ぐに復習したほうが頭に入るだろうが」
「問題なんて既になんも覚えてねえよ!」
「うるさい。ほら、行くぞ」
「嫌だっつってんだろが! ちょ、ナツ! ヒト! 助けろって!」
双子が言い合っているのを微妙な顔で見つつ、助けろと言われた総司の友人は「だからお前が、がんばれ」「応援してる」と素っ気ない。
挙句の果てに「大人しくついてこないとここでまたキスするぞ」と幾斗に言われ、ようやく総司は幾斗に引き摺られていった。
「アイツ、懲りねえな」
大地が呆れたように言うと「そーじだからな」と返ってくる。
「でもテストほぼ書けないってんなら大地もだろ」
圭悟の言葉に大地は「ちげぇ。俺は一応全部書いた! その、選択問題のところは」と言い返す。
「選択ってどれか選べば一応埋められるからだろ」
勝一がそれに対しておかしそうに笑ってきたので大地は圭悟と勝一をジロリと睨んでおいた。
大地は実際あまり頭がよくない。この学校は運よく入れたのだと自分でもわかっている。そもそも違う学校に行くつもりだったが私立と公立を受ける際に親から「私立は駄目元でここを受けてみろ」と言われたのだ。
「んでだよ。あんな頭いいとこ、受かる訳ねーだろ」
「零二くんがそこ受けるらしいから」
「なにそれ、んなもん関係ねえだろ……。お前ら親同士仲良いからってなんで押しつけてくんだよ」
「親に向かって『お前ら』とは何。罰として受けなさい。落ちたら落ちたで仕方ないし、公立は下のほう選べばいいし」
「そんな訳のわかんねーこと言ってくるヤツは親でも『お前』で十分だよ! んだよ公立は下のほうって。それはそれで失礼だな……!」
そんなやりとりを親としつつ、結局受けさせられる羽目になり、おまけにどうせ受けるなら猛勉強しろとまるで騙された気分だったが、何がどう間違ったか受かったのだ。
受かったはいいが、結局こうして日々勉強にはとてつもなく、ついていけてない。圭悟は「解けない」などと言いつつ大地からしたら十分ついていっているし勝一は外見だけ見ると圭悟よりも頭が悪そうだがあれでもそこそこできる。
「あいつ、お前の幼馴染だろ? 勉強、教えてもらえばいいだろ」
ふと圭悟が言っていた言葉とともに零二の顔が浮かんだ。
アイツに勉強とか……それならついていけないままでいいぞ。
微妙な顔で思いながら、ここで食べようと持ってきた弁当を大地は机に広げた。
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