不機嫌な子猫

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41話

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 いつものように仕事をさくさくと済ませると、ウィルフレッドは思い切り伸びをした。それから忌々しげに舌打ちをする。
 昨日も兄姉たちから子ども扱いを受けた。たまたま前日眠るのが遅かった上に朝が早かったせいで眠かったわけだが、「眠いならお眠りなさい」とか「寝室まで運んであげる」とか挙げ句の果てには「添い寝してあげるよー」などと言われた。屈辱的でしかない。
 これほどしっかり仕事をこなしている優秀な自分であってもまだ、兄姉はやたらとウィルフレッドに対して舐めた扱いしてくる。これはどういうことなのだと納得がいかない。
 中身が魔王とはいえ、実際今の自分が子どもの頃はまだ仕方がなかったのかもしれないとはウィルフレッドも一応思っている。見ている限り、兄姉たちはウィルフレッドと違って周りからさほど子ども扱いはされていなかったので納得は出来ないが、実際ウィルフレッドの体は子どもではあったので辛うじてよしとする。
 だが今、ウィルフレッドも十六歳であり成人している。どこをどう取っても間違いなく大人だ。それでも尚、子ども扱いはどう考えてもおかしいではないかとしか思えない。馬鹿にされるのは我慢ならない。悪行を働くようなやからからどうにか力を取り込む以前の問題だ。

「……もしや……俺が童貞のままというのが駄目なのか?」

 下らない思いつきでしかないが、他に思い当たることがウィルフレッドにはなかった。魔界では考えられなかったことだけに思い当たらないのかもしれない。もちろんずっとウィルフレッドとして成長してきてはいるが、魔王としてとてつもなく長い生を全うしたのだ。どうしても思考する際には魔王だった頃のことが基本になってしまう。
 今の自分の、魔力や運動能力が低いとか容姿があまりにも普通だといったことはマイナス要素でしかないが、さすがに子ども扱いには繋がらないはずだ。

「……馬鹿馬鹿しい思いつきではあるが、別に童貞云々などどうでもいい訳だし、物は試しで誰か適当なやつを見繕ってさっさと捨てるか」

 それで功を奏すればよしだし、意味がなかったにしてもセックスをしたという事実が残るだけだ。大した手間でもない。
 問題は誰にするかだが、別に誰がいいといった拘りはない。ただ体を売るのが商売という相手は王子という立場的によろしくないかもしれない。あと男でも女でも構わないが、女は後々面倒かもしれない。妊娠の心配だけでなく、感情面でも気を使いそうだ。そうすると男相手になるが、前に相当年上の男に力が得られるか試しで手を出そうとした時のことを思うと、出来ればあまり年上はいくら中身が魔王であってもウィルフレッドの気持ち的に楽しくない。目的は子ども扱いをされないための試しではあるが、どうせするなら楽しいほうがいい。ある程度年齢は離れ過ぎていないほうが楽しめそうだ。

「そうと決まれば……」

 ウィルフレッドがとりあえず年齢のそこそこ近い男で誰か適当な相手をと考えていると執務室のドアをノックする音が聞こえてきた。

「入れ」

 兄姉ならノックをしてもそのまますぐにドアを開けてくる。レッドはそもそも入ってこないというか、知らせて入ってこないというか。
 誰だと、開いたドアを見ていると若い男が「失礼します」と中へ入ってきた。

「……お前は確か……レッドの部下の一人か」

 はっきり誰とは覚えていないが、そいつの見た目が悪くないからか顔は見た記憶があった。レッドの仕事はウィルフレッドの側近ではあるが、地位としては貴族であり何名もの騎士たちをまとめている上司でもある。それらを総合的にまとめているのが、ウィルフレッドの兄であり王国の騎士団隊長ルイ・スヴィルクになる。

「はい。提出する書類をお持ちしました」
「ああ、そこへ置いておけ」
「は!」

 いつもならそれで終わる流れだ。どこの部署や所属でも、誰かが直接書類を持ってくることはたまにある。この建物内に入れている次点で不審者ではないため、特にこの執務室は決まった人物しか出入り出来ない場所にはしていない。重要書類は絶対に放置していないしそれこそウィルフレッドと一部の人間しか基本的には触れられない魔力のかかった引き出しにしまわれている。もちろんそんな魔力はウィルフレッドがかけたのではない。というか、かけられない。
 だが、今は違った。それで終わらせるには惜しいタイミングではないかとウィルフレッドはニヤリと笑った。

「貴様、ちょっとこちらへ来い」
「は」

 男は戸惑いつつも執務室を出たウィルフレッドについてくる。だがウィルフレッドの部屋へ入るよう示すと更に戸惑いだした。

「恐れながら、私めが入っていい部屋では……」
「煩い。いいから入れ」
「は、はい」

 無理やり引っ張りつつ、男も大人しくついてきた。

「名は何と言う?」
「自分はモヴィ・クラ……」
「ああ、いい。ファーストネームだけで結構だ、モヴィ」

 ニヤリと笑いかけると、モヴィはますます戸惑った表情をした。ウィルフレッドは構わずモヴィをベッドまで引っ張っていった。とはいえ力強くはないのでモヴィがウィルフレッドに合わせて歩いているといった形ではあるが、この際そんなことはウィルフレッドにとってどうでもいい。ベッドまで来ると、そのままモヴィを押し倒そうとした。
 童貞ではあるウィルフレッドだが、前世では散々飽きるほど行ってきた行為だ。躊躇も戸惑いも疑問も何もない。ついでに元魔王としては罪悪感もない。
 だがそれと共に身長も筋肉もなかった。思うように動かせない。本来なら華麗にモヴィをベッドに押し倒しているはずだった。さらりと倒し、そのまま行為に及んでいるはずだった。今のウィルフレッドの容姿が冴えない分、前世で培った知識と経験で、せっかくだからボトム側になることに慣れていないであろうモヴィにも至福と言える経験を味わわせてやるつもりだった。
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