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102話
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アレクシアとウィルフレッドの報告により、ケルエイダでの会議室はざわついていた。
その後「やはりリストリア自体が怪しいのでは」という意見も出たが結論は出していない。
「クリードには一度何らかの公式訪問にかこつけて来てもらおう。赤い石を見せたいし、ウィルが聞いた術者については俺も気になる」
兄弟だけで集まるとルイがため息を漏らしながら言ってきた。第一王子であり騎士隊長でもあるルイはただでさえ忙しい身だ。疲れも溜まっているのだろう。一方ラルフは相変わらず一見能天気そうに見える。
「俺もその辞めた術者が気になるなー。にしてもウィル、お手柄だね」
「は? いや……俺は特に何もしていませんが……」
実際何もしていない。したことと言えばほぼ、アリーセと過ごしたくらいではないだろうか。ウィルフレッドは大したことが出来ず忌々しいといった顔をそっと横へ向ける。
「術者についてクリードに調べるよう口にしたのはウィル、あなたではないですか。私もうっかりしていました。つい目先のことが気になってしまって」
それを言うなら俺が別にオートマタのことにあまり気がいってなかったからだ。
ウィルフレッドは内心答えた。顔つきはキリッとするよう心掛けているが内心ではひたすら微妙な気持ちでいっぱいだ。
アレクシアとクリードの二人が赤い石やオートマタのことで頭を悩ませているであろう時にウィルフレッドはレッドのことをある意味考えていた。そしてそこから気を逸らそうとして浮かんだに過ぎない。
いやまあ、どのみち俺にとってオートマタであったという事実自体大してどうでもよかったしな。
自分で自分が居たたまれなさすぎて、ウィルフレッドは自分に言い訳をする。
ウィルフレッドの中ではあの赤い石はただ魔法を使って動かす媒体という認識でしかない。それはこの世界では一番リストリアの技術が近いとは一応思っていたが、それだけだ。だからどうこうといった発想はなかった。クリードの言動のせいで一瞬クリードに疑いを持ちはしたが、犯人をウィルフレッドがもし一人で調べるとしたらただひたすらおびき寄せあぶり出し攻撃する。それに尽きたような気がする。頭を使うことは嫌いではない。使っても余りある程知識もある。ただこういった場合、悪意に関してはウィルフレッドには隠せないことは既に以前判明している。よって証拠など必要ないし事実から何かを導き出す必要性もあまりない。もしクリードが本当に犯人だったとしたら、天界の生き物でない限りいずれ隠しても隠しきれない悪意によってウィルフレッドにはバレていただろうし、別の存在であれおびき寄せればいずれは判明する。もちろんその際にウィルフレッドとて推測したりはするが、なんというか、少し視点が違う気がする。
よって、ウィルフレッドが一人で調べるのではないこの世界ではウィルフレッドの方法は通用しない。悪意は隠せるものだし確証もないのに決めつけたり行動したりはしない。ウィルフレッドが普通の人間のつもりでいる限り、魔法は使えるくせに悪意は察知出来ない人間と同じでなければならないし、正当性なども必要だ。それもあり赤い石に関してはプライドがどうこう関係なくすっかり皆に委ねているしウィルフレッドは調べた結果を聞くだけだ。とはいえ他人事でもない。
我が国や我が身内を攻撃する者がいるならただではおかない。
これはウィルフレッドが人間だからではなく、魔王時代であっても思っていたことだ。自分のものを脅かす相手は誰であろうが許さない。
ただし「自分のもの」に関しての考えや気持ちはずいぶん変わってしまったかもしれないとは自分でも思っている。
──これは俺が弱くなったというより人間になったから仕方ないこと、でいいんだよな。
『もちろんです。ウィルフレッド様が弱くなどと。いやまあ物理的には弱くなられましたが』
相変わらず考えを聞いていたらしいフェルが口を挟んできた。ウィルフレッドはじろりと犬のような生き物を睨みつける。
『勝手に考えを読むなと言っているだろうが』
『そこはウィルフレッド様に調整して頂かないと』
『貴様が鍛えろとも言っている』
『ご無体な』
せめて聞いていても黙れ、とも思ったが実際黙られるとそれはそれで想像するといつ何時立ち聞きをこっそりされているか分からないような気持ちになるので不愉快だと思い直す。
『っち。丸々と太りよってからに』
『太ってなどおりません』
昨日は明け方までほぼ一晩中レッドの寝息を聞きながら自己の色々と葛藤し戦っていたウィルフレッドが今朝まず見たのはそのレッドではなかった。レッドは既に起きて仕事をしているらしく、ウィルフレッドを起こしたのは艶々と毛並みのいいフェルだった。魔力か剣を振るう力があれば即フェルを攻撃していたかもしれない。
ウィルフレッドが戻ったとクライドから朝聞いたフェルはたっぷりの食事にありついた後にまだ眠っているらしい主人を起こしにやって来たのだと、イライラとウィルフレッドがフェルの頬辺りをつねり上げた際に聞いた。魔獣だけに自分だけではやって来れず、クライドにここまで付き添ってもらったらしいことがまた忌々しい。
クライドに易々懐柔されやがってと言えば『私がそんなことあるはずがないでしょう。ウィルフレッド様一筋ですのに』と甘い菓子、セムラのように福福とした体をもふりと震わせてきた。
『説得力という言語を貴様は習い直せ!』
今もルイたちの話を一応聞きながら睨みつけているフェルをしっかり見る。どれほど様々な肉を与えられクライドに良いように使われていたのだと改めてウィルフレッドは思った。
その後「やはりリストリア自体が怪しいのでは」という意見も出たが結論は出していない。
「クリードには一度何らかの公式訪問にかこつけて来てもらおう。赤い石を見せたいし、ウィルが聞いた術者については俺も気になる」
兄弟だけで集まるとルイがため息を漏らしながら言ってきた。第一王子であり騎士隊長でもあるルイはただでさえ忙しい身だ。疲れも溜まっているのだろう。一方ラルフは相変わらず一見能天気そうに見える。
「俺もその辞めた術者が気になるなー。にしてもウィル、お手柄だね」
「は? いや……俺は特に何もしていませんが……」
実際何もしていない。したことと言えばほぼ、アリーセと過ごしたくらいではないだろうか。ウィルフレッドは大したことが出来ず忌々しいといった顔をそっと横へ向ける。
「術者についてクリードに調べるよう口にしたのはウィル、あなたではないですか。私もうっかりしていました。つい目先のことが気になってしまって」
それを言うなら俺が別にオートマタのことにあまり気がいってなかったからだ。
ウィルフレッドは内心答えた。顔つきはキリッとするよう心掛けているが内心ではひたすら微妙な気持ちでいっぱいだ。
アレクシアとクリードの二人が赤い石やオートマタのことで頭を悩ませているであろう時にウィルフレッドはレッドのことをある意味考えていた。そしてそこから気を逸らそうとして浮かんだに過ぎない。
いやまあ、どのみち俺にとってオートマタであったという事実自体大してどうでもよかったしな。
自分で自分が居たたまれなさすぎて、ウィルフレッドは自分に言い訳をする。
ウィルフレッドの中ではあの赤い石はただ魔法を使って動かす媒体という認識でしかない。それはこの世界では一番リストリアの技術が近いとは一応思っていたが、それだけだ。だからどうこうといった発想はなかった。クリードの言動のせいで一瞬クリードに疑いを持ちはしたが、犯人をウィルフレッドがもし一人で調べるとしたらただひたすらおびき寄せあぶり出し攻撃する。それに尽きたような気がする。頭を使うことは嫌いではない。使っても余りある程知識もある。ただこういった場合、悪意に関してはウィルフレッドには隠せないことは既に以前判明している。よって証拠など必要ないし事実から何かを導き出す必要性もあまりない。もしクリードが本当に犯人だったとしたら、天界の生き物でない限りいずれ隠しても隠しきれない悪意によってウィルフレッドにはバレていただろうし、別の存在であれおびき寄せればいずれは判明する。もちろんその際にウィルフレッドとて推測したりはするが、なんというか、少し視点が違う気がする。
よって、ウィルフレッドが一人で調べるのではないこの世界ではウィルフレッドの方法は通用しない。悪意は隠せるものだし確証もないのに決めつけたり行動したりはしない。ウィルフレッドが普通の人間のつもりでいる限り、魔法は使えるくせに悪意は察知出来ない人間と同じでなければならないし、正当性なども必要だ。それもあり赤い石に関してはプライドがどうこう関係なくすっかり皆に委ねているしウィルフレッドは調べた結果を聞くだけだ。とはいえ他人事でもない。
我が国や我が身内を攻撃する者がいるならただではおかない。
これはウィルフレッドが人間だからではなく、魔王時代であっても思っていたことだ。自分のものを脅かす相手は誰であろうが許さない。
ただし「自分のもの」に関しての考えや気持ちはずいぶん変わってしまったかもしれないとは自分でも思っている。
──これは俺が弱くなったというより人間になったから仕方ないこと、でいいんだよな。
『もちろんです。ウィルフレッド様が弱くなどと。いやまあ物理的には弱くなられましたが』
相変わらず考えを聞いていたらしいフェルが口を挟んできた。ウィルフレッドはじろりと犬のような生き物を睨みつける。
『勝手に考えを読むなと言っているだろうが』
『そこはウィルフレッド様に調整して頂かないと』
『貴様が鍛えろとも言っている』
『ご無体な』
せめて聞いていても黙れ、とも思ったが実際黙られるとそれはそれで想像するといつ何時立ち聞きをこっそりされているか分からないような気持ちになるので不愉快だと思い直す。
『っち。丸々と太りよってからに』
『太ってなどおりません』
昨日は明け方までほぼ一晩中レッドの寝息を聞きながら自己の色々と葛藤し戦っていたウィルフレッドが今朝まず見たのはそのレッドではなかった。レッドは既に起きて仕事をしているらしく、ウィルフレッドを起こしたのは艶々と毛並みのいいフェルだった。魔力か剣を振るう力があれば即フェルを攻撃していたかもしれない。
ウィルフレッドが戻ったとクライドから朝聞いたフェルはたっぷりの食事にありついた後にまだ眠っているらしい主人を起こしにやって来たのだと、イライラとウィルフレッドがフェルの頬辺りをつねり上げた際に聞いた。魔獣だけに自分だけではやって来れず、クライドにここまで付き添ってもらったらしいことがまた忌々しい。
クライドに易々懐柔されやがってと言えば『私がそんなことあるはずがないでしょう。ウィルフレッド様一筋ですのに』と甘い菓子、セムラのように福福とした体をもふりと震わせてきた。
『説得力という言語を貴様は習い直せ!』
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