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9話
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頭を冷やす方法を今すぐ急募したい。何とか冷やそうとしても冷えてくれない。
麻輝は目をぐるぐる回しそうになりながら必死になって思った。
好きな片思いの相手と泊まる状態で二人きりというだけでも凄いことだというのに、その相手がいつものこととはいえ自分の手を握ったり撫でたりしてくるのだ。しかも「触っていいよ」などと言ってくる。逆に平気な者がいたら是非会ってみたい。
「クロ……違うんだ……」
堪えるのに必死で、上手く誤魔化す言葉など出てこない。
「違う? 何が」
だいたい手以外に好奇心など無いんじゃないかとさえ思えるくせに、黒兎は「何で」が多すぎる気がする。麻輝はため息を吐いた。
「クロ、と……触りたい気持ち的なものが、違う」
「? あー、まあそりゃ人によって違うもんだろ。いいって。俺だって散々触らせてもらってるんだ。俺、こんなだけどこれでもありがたいとは思ってる」
黒兎は少し笑みさえ浮かべながら「だから触ってくれたらいい」と男らしくはっきり言ってくる。
違う。違うんだよ。
麻輝はぎゅっと目を瞑って首をぶんぶんと振った。そうすればこの邪でけしからん欲望が消えてくれるとばかりに。でも当たり前だが消えてくれない。
触りてぇ……。
息が荒くなるのを堪えつつも欲望は膨らむばかりだ。沢山触れて、ぎゅっと抱きしめて、そして舐めて、味わい尽くしたい。
「何だよ」
麻輝の考えていることなど当然わからない黒兎が少し面倒くさそうに呟いてくる。何て言えばどうにか誤魔化せるのだろうか。というか、何故自分は誤魔化そうとしているのだっただろうか。
思考が追いつかなくなってきている。
バカ、気持ち打ち明けられないのと、ちょっとでも触れたらそのままめちゃくちゃにしてしまいそうだからだろ。
自分の中の遠くでそんな声が聞こえ、ああそうだったとボーっとして息を少し乱しながら思う。
「……? なぁ。大丈夫か? 薬でもやってんのか?」
どれほど自分の様子が妙なのだろうかと麻輝は黒兎の言葉で微妙になった。
「薬、って。何、それ」
笑おうとしたら乾いた声になった。
「何か、前に出回ってたって聞いた」
「そうなの?」
「うん」
「にしても俺、そんなのやんないよ」
「まあ、そうだろうな」
黒兎が麻輝の手を弄りながらニヤリと笑ってきた。
ああもう、かわいい。どうしたらいいんだよ俺。
いっそ壁に頭を思い切り打ちつけようかと思ったが、それだと本気で薬を疑われるだろう。麻輝は絞り出すように言った。
「……俺、……ほら、合津とか皆に、さ……たまにクロ厨だとか、言ってるだろ……」
「あー、言ってたっけ」
その言葉で改めて黒兎が自分への関心がとても薄そうだと麻輝は実感する。泣けそうだが今のこの自分の状態にとっては、水を差してもらえるありがたい言葉かもしれない。
とはいえ、簡単にクールダウンできるものでもない。
「あれ、冗談半分本気半分っつーか……っ、んで、あ、ある意味クロフェチみたいなものだからさ! だ、だからその、触るとかそういうの、何つーか、ね? 至るところ触ってしまいたいっつーかその」
上手く誤魔化すどころか余計に怪しくも不可解なことを口走る。現に黒兎がポカンとした顔で麻輝を見ている。
死にたい。いや、死ぬのはやっぱり嫌だから深い穴を掘って一人で埋まりたい。
空いている方の手でせめてもと目を覆っていたら「いい、けど」と呟く黒兎の声が聞こえてきた。
いい、けど。……いいけど、って何だっけ?
肯定?
いいの?
え、いいのっ?
でも「けど」だよ?
いいけど、気持ち悪い、とかいいけど、ほんとは嫌とか、なんかそういうのじゃないの……?
「……いいけど……気色悪い?」
目を覆ったまま麻輝が呟くと、握っているほうの手を思い切り引っ張られた。
「っい」
「……何、それ。ってことはお前は俺に手を触らせてくれながらそう思ってるってこと?」
「っ思ってない!」
黒兎の低い声に、麻輝は慌てて目を覆っている手を離してじっと黒兎を見ながら首を振った。
「じゃあ何でそんなこと言うんだよ」
「だ、だって」
「あー、いいけどって言い方? 俺フェチってこと? そりゃ、何でって思ってるけど……お前からしたら俺の手フェチだって、何で、だろ。そーゆーもんじゃないのか」
フェチ持ちの人の納得、ある意味安易か……!
少々微妙になりながら麻輝は心の中で即突っ込んだ。
「だ、だって、だからって! 手だけならまだしも、男に色んなとこ触られるとか、き、気持ち悪いだろ?」
「手だけならまだしも?」
「っあ、いや、俺は君に触られるの嫌じゃない、嫌じゃないけどなんていうか一般的に……!」
先ほどまでのどうしようもない興奮はどこかへ行っていた。そういう意味では今の状況は助かったと言えるのだろうか。だがまるで自分が妙な性癖を暴露しているみたいで少々落ち着かないのと、何より黒兎の返答に対しいちいち心臓マッサージをされているかのようにとてつもなくドキドキする。
「……別に俺もマキなら嫌じゃない」
だが黒兎が今言った言葉でまた自分の何もかもが爆発しそうになった。
「っえ」
「嫌だったらそもそも手にも触ってない」
え、あ、ホント……って、待って……それって麦野郎も同じってことかよ……!
「こんなにたくさん触ってるのってマキだけだし」
「ぶふっ」
先ほどから感情の起伏が激し過ぎて本当に眩暈を起こしそうだった。思わず変な声が出そうになり今度は目ではなく口を押さえた。黒兎が妙な顔で見てくる。
「……大丈夫か?」
「ぅん……」
籠った声で頷けば、また少し笑ってきた。
「だから別に構わない。俺フェチだっていうなら触っていい、触りたいとこ」
死ぬ。
決して黒兎は麻輝を好きだと言っている訳ではないし、そもそも沢山のことを理解していない。それでも麻輝は笑顔のまま固まった。
麻輝は目をぐるぐる回しそうになりながら必死になって思った。
好きな片思いの相手と泊まる状態で二人きりというだけでも凄いことだというのに、その相手がいつものこととはいえ自分の手を握ったり撫でたりしてくるのだ。しかも「触っていいよ」などと言ってくる。逆に平気な者がいたら是非会ってみたい。
「クロ……違うんだ……」
堪えるのに必死で、上手く誤魔化す言葉など出てこない。
「違う? 何が」
だいたい手以外に好奇心など無いんじゃないかとさえ思えるくせに、黒兎は「何で」が多すぎる気がする。麻輝はため息を吐いた。
「クロ、と……触りたい気持ち的なものが、違う」
「? あー、まあそりゃ人によって違うもんだろ。いいって。俺だって散々触らせてもらってるんだ。俺、こんなだけどこれでもありがたいとは思ってる」
黒兎は少し笑みさえ浮かべながら「だから触ってくれたらいい」と男らしくはっきり言ってくる。
違う。違うんだよ。
麻輝はぎゅっと目を瞑って首をぶんぶんと振った。そうすればこの邪でけしからん欲望が消えてくれるとばかりに。でも当たり前だが消えてくれない。
触りてぇ……。
息が荒くなるのを堪えつつも欲望は膨らむばかりだ。沢山触れて、ぎゅっと抱きしめて、そして舐めて、味わい尽くしたい。
「何だよ」
麻輝の考えていることなど当然わからない黒兎が少し面倒くさそうに呟いてくる。何て言えばどうにか誤魔化せるのだろうか。というか、何故自分は誤魔化そうとしているのだっただろうか。
思考が追いつかなくなってきている。
バカ、気持ち打ち明けられないのと、ちょっとでも触れたらそのままめちゃくちゃにしてしまいそうだからだろ。
自分の中の遠くでそんな声が聞こえ、ああそうだったとボーっとして息を少し乱しながら思う。
「……? なぁ。大丈夫か? 薬でもやってんのか?」
どれほど自分の様子が妙なのだろうかと麻輝は黒兎の言葉で微妙になった。
「薬、って。何、それ」
笑おうとしたら乾いた声になった。
「何か、前に出回ってたって聞いた」
「そうなの?」
「うん」
「にしても俺、そんなのやんないよ」
「まあ、そうだろうな」
黒兎が麻輝の手を弄りながらニヤリと笑ってきた。
ああもう、かわいい。どうしたらいいんだよ俺。
いっそ壁に頭を思い切り打ちつけようかと思ったが、それだと本気で薬を疑われるだろう。麻輝は絞り出すように言った。
「……俺、……ほら、合津とか皆に、さ……たまにクロ厨だとか、言ってるだろ……」
「あー、言ってたっけ」
その言葉で改めて黒兎が自分への関心がとても薄そうだと麻輝は実感する。泣けそうだが今のこの自分の状態にとっては、水を差してもらえるありがたい言葉かもしれない。
とはいえ、簡単にクールダウンできるものでもない。
「あれ、冗談半分本気半分っつーか……っ、んで、あ、ある意味クロフェチみたいなものだからさ! だ、だからその、触るとかそういうの、何つーか、ね? 至るところ触ってしまいたいっつーかその」
上手く誤魔化すどころか余計に怪しくも不可解なことを口走る。現に黒兎がポカンとした顔で麻輝を見ている。
死にたい。いや、死ぬのはやっぱり嫌だから深い穴を掘って一人で埋まりたい。
空いている方の手でせめてもと目を覆っていたら「いい、けど」と呟く黒兎の声が聞こえてきた。
いい、けど。……いいけど、って何だっけ?
肯定?
いいの?
え、いいのっ?
でも「けど」だよ?
いいけど、気持ち悪い、とかいいけど、ほんとは嫌とか、なんかそういうのじゃないの……?
「……いいけど……気色悪い?」
目を覆ったまま麻輝が呟くと、握っているほうの手を思い切り引っ張られた。
「っい」
「……何、それ。ってことはお前は俺に手を触らせてくれながらそう思ってるってこと?」
「っ思ってない!」
黒兎の低い声に、麻輝は慌てて目を覆っている手を離してじっと黒兎を見ながら首を振った。
「じゃあ何でそんなこと言うんだよ」
「だ、だって」
「あー、いいけどって言い方? 俺フェチってこと? そりゃ、何でって思ってるけど……お前からしたら俺の手フェチだって、何で、だろ。そーゆーもんじゃないのか」
フェチ持ちの人の納得、ある意味安易か……!
少々微妙になりながら麻輝は心の中で即突っ込んだ。
「だ、だって、だからって! 手だけならまだしも、男に色んなとこ触られるとか、き、気持ち悪いだろ?」
「手だけならまだしも?」
「っあ、いや、俺は君に触られるの嫌じゃない、嫌じゃないけどなんていうか一般的に……!」
先ほどまでのどうしようもない興奮はどこかへ行っていた。そういう意味では今の状況は助かったと言えるのだろうか。だがまるで自分が妙な性癖を暴露しているみたいで少々落ち着かないのと、何より黒兎の返答に対しいちいち心臓マッサージをされているかのようにとてつもなくドキドキする。
「……別に俺もマキなら嫌じゃない」
だが黒兎が今言った言葉でまた自分の何もかもが爆発しそうになった。
「っえ」
「嫌だったらそもそも手にも触ってない」
え、あ、ホント……って、待って……それって麦野郎も同じってことかよ……!
「こんなにたくさん触ってるのってマキだけだし」
「ぶふっ」
先ほどから感情の起伏が激し過ぎて本当に眩暈を起こしそうだった。思わず変な声が出そうになり今度は目ではなく口を押さえた。黒兎が妙な顔で見てくる。
「……大丈夫か?」
「ぅん……」
籠った声で頷けば、また少し笑ってきた。
「だから別に構わない。俺フェチだっていうなら触っていい、触りたいとこ」
死ぬ。
決して黒兎は麻輝を好きだと言っている訳ではないし、そもそも沢山のことを理解していない。それでも麻輝は笑顔のまま固まった。
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