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13話
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一緒に昼ご飯を食べながらもちらちらと麻輝の手を見る。食器などを持つ手が動くたびに筋が目立ち、すらりとした長い指がそれらを持っているのだと改めて実感する。
……やっぱりいい手をしている。
そんなことを黒兎が思っていると「クロ、手、見すぎ」と麻輝が少し困ったような顔を逸らしながら言ってきた。顔が少し赤い気がするのも困っているからだろう。
困らせたい訳ではないが、目の前にいい手があるというのに見ることもできないなんて辛すぎる。
そういえば麻輝いわく「クロフェチ」なのらしいと改めて思い返す。
全体的な存在にフェティシズムを感じるなんて珍しい気がすると同時に軽度だとしても大変だろうなと黒兎は思っている。黒兎が手に反応するように、麻輝は黒兎の存在に反応するということになる。とても落ち着かなさそうだ。
ただ、今みたいに「見すぎ」と言われることはむしろないのが羨ましい。「クロフェチ」ということはそばに黒兎がいるだけで楽しめるのではないかと思われるからだ。違ったとしても黒兎は別に見るなと言うつもりもない。自分がそうなだけにフェティシズムに対して理解はあるつもりだし、麻輝になら別にじろじろ見られても構わない。麻輝は自分も一応フェチだろうに、その辺理解がない。
「何?」
今は手ではなく麻輝を見ていたからだろう。麻輝が少し赤い顔色のまま怪訝そうに聞いてきた。
「お前は……」
言いかけて、だが止めた。黒兎よりも何というか、周りを気にするタイプのようなのだ。フェチについてこんなところで言われたくはないだろう。たまに「空気を読まない」と言われることもあるが、黒兎は黒兎なりに考えている。
「ん?」
麻輝が首を傾げてきた。言いかけてしまったので気になるのかもしれない。
「……お前は別に俺をじろじろ見ていいぞ」
「な、な、何の話っ?」
それだけは言っておいてやろうと思ったことを告げると、だが赤と青の混じった顔色になりながら麻輝がものすごく焦ってくる。今の言い方ならフェティシズムのことだとは思われないだろうに、なにを焦っているのかと黒兎は少しムッとした顔を麻輝へ向けた。
「もー。へ、変なこと言ったあとになんでムッとしてんの」
まだ焦っていそうな麻輝がそんなことを言ってくる。黒兎としては妥当な対応をしたつもりだったのにと思う。そしてフェティシズムのことを避けて説明しにくい。というか、説明が面倒くさい。
なのでふい、と視線を麻輝から食べかけだった昼食へ移した。すると麻輝も仕方ないなといった風に苦笑した後、ニコニコと話題を変えてくる。
ふと、そういえば最近、自分は麻輝に対して手のこと以外でも何となく考えたりしているような気がすると黒兎は思った。クロフェチなどと言われたからか、それよりも前からか、手以外の麻輝のことも見ている気がする。気のせいだろうか。
無意識に麻輝を見ている気もする。手を見ているんだと何となく思っていたが、麻輝を見ていることも多いように思う。
食事が終わると麻輝がジュースを二人分買っていた。二人でぶらぶら歩いて外のベンチでそれを飲む。
麻輝が話すことをなんとなく聞きながら、そういえば麻輝の声も耳に入りやすかったなと思った。大抵ぼんやりしているので、向き合っている訳ではないなら誰かが喋ったりしている声はあまり耳に届かないのだが、麻輝の声は大勢の中でも気がつきやすい。
黒兎が飲み終えたことに気づいた麻輝はニコニコと空の容器を黒兎から取って自分の空いた容器と一緒にした。それをまたぼんやり見ながら、黒兎は手を伸ばす。そして麻輝の手に指を絡めた。
「クロ、こーゆーとこではあまり触らないほうがいいよ……」
麻輝がたしなめるように言ってきた。その長い指はだが黒兎をたしなめるというよりは宥めるように優しくぽんぽんと触れ返してくる。とても心地よくて目を閉じる。
「クロ、寝るの? もーすぐ授業始まるよ」
基本的にいいやつだが時に煩いなと、今とても心地よかっただけに思いつつ「寝てるんじゃない」と黒兎は不満を述べながら目を開けた。
すると、黒兎の様子を覗き込んでいたのだろう、思っていたよりも近くに麻輝の顔がある。目が合った途端、黒兎がいきなり目を開けたから驚いたのか麻輝がまた赤い顔をして、わっと小さく叫びながら顔を離してきた。
黒兎もつい目を逸らしてしまう。だが黒兎の場合は驚いた訳ではない。だというのに自分でもよくわからない。
別に普段、何らかの話をしている時などに顔が近くなっても何ともないのだが、こうして不意をつかれると顔や目を合わせていられない気持ちになる。驚いているつもりはないのだが、実は自分でも気づいていないが驚いているのだろうか。そうじゃないと説明がつかない。
「クロ? どうかした?」
「……お前のように驚いているように見えなかったか?」
「え、今のそれ、驚いてたの……? クロさー、さすがにそれはわからな過ぎ……」
「……俺もわからない」
「? 自分でも驚いたことがわからなかったってこと?」
「お前の顔が不意に近いと、何故か目を合わせてられなくなる。驚いたからじゃなかったら、何だこれ」
「え?」
麻輝が何故かまた驚いている。ある意味先ほどよりも目を見開き、口をポカンと開けて驚いている。一体何に驚いたのだと黒兎は怪訝な顔をした。
「待って、何でクロが怪訝な顔してるんだよ。そうしたいのは俺だからね? 今の、どういう意味なの?」
「わからないからお前に聞いたんだろ」
「え、だってそんなのクロにしかわからないだろ」
「じゃあわからない」
「え、待って。投げないで! もう少し掘り下げよう。な? 詳しく見分を……」
黒兎がさらに唖然とするくらい、麻輝が妙に熱心だ。
「ちょっとクロ! なんで引いてんだよ!」
「……お前が意味わからなさ過ぎて」
「君のが意味わかんないよ……!」
そんなやりとりをしていると予鈴が鳴った。そろそろ本格的に面倒くさくなってきていた黒兎はこれ幸いと立ち上がる。
「いつもは俺が引っ張っていかないと授業サボりそうな勢いなのに……!」
麻輝がそんなことを言いながら後についてきた。
「学校終わったら部屋、行くから!」
何かそんなことを言っていたが黒兎は返事もせずに自分の教室へ向かった。部屋へ来られて話の続きをされても面倒くさい。わからないならもういい。
だいたいせっかく心地よかったのに……。
そう思ったところで「そういえばそうだ、手に触れられて気持ちよかったんだった」と改めて思い出した。
別に黒兎も手フェチとはいえ四六時中、手のことを考えている訳ではない。だが麻輝の手に触れ、触れられていたというのにそれをすっかり忘れて違うことを考えたりしていたことがなんとなく落ち着かなかった。
……やっぱりいい手をしている。
そんなことを黒兎が思っていると「クロ、手、見すぎ」と麻輝が少し困ったような顔を逸らしながら言ってきた。顔が少し赤い気がするのも困っているからだろう。
困らせたい訳ではないが、目の前にいい手があるというのに見ることもできないなんて辛すぎる。
そういえば麻輝いわく「クロフェチ」なのらしいと改めて思い返す。
全体的な存在にフェティシズムを感じるなんて珍しい気がすると同時に軽度だとしても大変だろうなと黒兎は思っている。黒兎が手に反応するように、麻輝は黒兎の存在に反応するということになる。とても落ち着かなさそうだ。
ただ、今みたいに「見すぎ」と言われることはむしろないのが羨ましい。「クロフェチ」ということはそばに黒兎がいるだけで楽しめるのではないかと思われるからだ。違ったとしても黒兎は別に見るなと言うつもりもない。自分がそうなだけにフェティシズムに対して理解はあるつもりだし、麻輝になら別にじろじろ見られても構わない。麻輝は自分も一応フェチだろうに、その辺理解がない。
「何?」
今は手ではなく麻輝を見ていたからだろう。麻輝が少し赤い顔色のまま怪訝そうに聞いてきた。
「お前は……」
言いかけて、だが止めた。黒兎よりも何というか、周りを気にするタイプのようなのだ。フェチについてこんなところで言われたくはないだろう。たまに「空気を読まない」と言われることもあるが、黒兎は黒兎なりに考えている。
「ん?」
麻輝が首を傾げてきた。言いかけてしまったので気になるのかもしれない。
「……お前は別に俺をじろじろ見ていいぞ」
「な、な、何の話っ?」
それだけは言っておいてやろうと思ったことを告げると、だが赤と青の混じった顔色になりながら麻輝がものすごく焦ってくる。今の言い方ならフェティシズムのことだとは思われないだろうに、なにを焦っているのかと黒兎は少しムッとした顔を麻輝へ向けた。
「もー。へ、変なこと言ったあとになんでムッとしてんの」
まだ焦っていそうな麻輝がそんなことを言ってくる。黒兎としては妥当な対応をしたつもりだったのにと思う。そしてフェティシズムのことを避けて説明しにくい。というか、説明が面倒くさい。
なのでふい、と視線を麻輝から食べかけだった昼食へ移した。すると麻輝も仕方ないなといった風に苦笑した後、ニコニコと話題を変えてくる。
ふと、そういえば最近、自分は麻輝に対して手のこと以外でも何となく考えたりしているような気がすると黒兎は思った。クロフェチなどと言われたからか、それよりも前からか、手以外の麻輝のことも見ている気がする。気のせいだろうか。
無意識に麻輝を見ている気もする。手を見ているんだと何となく思っていたが、麻輝を見ていることも多いように思う。
食事が終わると麻輝がジュースを二人分買っていた。二人でぶらぶら歩いて外のベンチでそれを飲む。
麻輝が話すことをなんとなく聞きながら、そういえば麻輝の声も耳に入りやすかったなと思った。大抵ぼんやりしているので、向き合っている訳ではないなら誰かが喋ったりしている声はあまり耳に届かないのだが、麻輝の声は大勢の中でも気がつきやすい。
黒兎が飲み終えたことに気づいた麻輝はニコニコと空の容器を黒兎から取って自分の空いた容器と一緒にした。それをまたぼんやり見ながら、黒兎は手を伸ばす。そして麻輝の手に指を絡めた。
「クロ、こーゆーとこではあまり触らないほうがいいよ……」
麻輝がたしなめるように言ってきた。その長い指はだが黒兎をたしなめるというよりは宥めるように優しくぽんぽんと触れ返してくる。とても心地よくて目を閉じる。
「クロ、寝るの? もーすぐ授業始まるよ」
基本的にいいやつだが時に煩いなと、今とても心地よかっただけに思いつつ「寝てるんじゃない」と黒兎は不満を述べながら目を開けた。
すると、黒兎の様子を覗き込んでいたのだろう、思っていたよりも近くに麻輝の顔がある。目が合った途端、黒兎がいきなり目を開けたから驚いたのか麻輝がまた赤い顔をして、わっと小さく叫びながら顔を離してきた。
黒兎もつい目を逸らしてしまう。だが黒兎の場合は驚いた訳ではない。だというのに自分でもよくわからない。
別に普段、何らかの話をしている時などに顔が近くなっても何ともないのだが、こうして不意をつかれると顔や目を合わせていられない気持ちになる。驚いているつもりはないのだが、実は自分でも気づいていないが驚いているのだろうか。そうじゃないと説明がつかない。
「クロ? どうかした?」
「……お前のように驚いているように見えなかったか?」
「え、今のそれ、驚いてたの……? クロさー、さすがにそれはわからな過ぎ……」
「……俺もわからない」
「? 自分でも驚いたことがわからなかったってこと?」
「お前の顔が不意に近いと、何故か目を合わせてられなくなる。驚いたからじゃなかったら、何だこれ」
「え?」
麻輝が何故かまた驚いている。ある意味先ほどよりも目を見開き、口をポカンと開けて驚いている。一体何に驚いたのだと黒兎は怪訝な顔をした。
「待って、何でクロが怪訝な顔してるんだよ。そうしたいのは俺だからね? 今の、どういう意味なの?」
「わからないからお前に聞いたんだろ」
「え、だってそんなのクロにしかわからないだろ」
「じゃあわからない」
「え、待って。投げないで! もう少し掘り下げよう。な? 詳しく見分を……」
黒兎がさらに唖然とするくらい、麻輝が妙に熱心だ。
「ちょっとクロ! なんで引いてんだよ!」
「……お前が意味わからなさ過ぎて」
「君のが意味わかんないよ……!」
そんなやりとりをしていると予鈴が鳴った。そろそろ本格的に面倒くさくなってきていた黒兎はこれ幸いと立ち上がる。
「いつもは俺が引っ張っていかないと授業サボりそうな勢いなのに……!」
麻輝がそんなことを言いながら後についてきた。
「学校終わったら部屋、行くから!」
何かそんなことを言っていたが黒兎は返事もせずに自分の教室へ向かった。部屋へ来られて話の続きをされても面倒くさい。わからないならもういい。
だいたいせっかく心地よかったのに……。
そう思ったところで「そういえばそうだ、手に触れられて気持ちよかったんだった」と改めて思い出した。
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