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3話
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「きょー」
朝、別に示し合わせているのではなく必ず揃うわけではないが、たまに聖恒と隣の双子の登校時間が合うことがある。その時は三人でそのまま学校へ向かう。ちなみに双子もいつも一緒に出ているのではない。かといってあえて別々に出ようとしているのでもないため、タイミングが合えば一緒になるようだ。
あだ名を呼ばれ、聖恒は真和を見た。
「この前カテキョ来たんだろ?」
「あー、うん」
「どーだった? つか女?」
真和が楽しげに聞いてくる。聖恒が答える前に利麻が微妙な顔で弟を見た。
「カズはほんと。私は知ってるけど男の先生だったよ」
「第一俺はこんと違って年上興味ないし」
聖恒が続けると真和は怪訝な顔をする。
「え。大人の女に興味ないとかマジ? しかも女のカテキョとかマジヤバくね? 絶対色っぽいと思うんだけど」
それに対し聖恒と利麻は口をそろえて「キモッ」と一掃する。
「こん、よく考えろ。女の家庭教師って要は先生だぞ」
「うん」
「お前、うちのガッコの女の先生をさ、そういう目で見られる?」
「無理」
「だろ?」
馬鹿だなという顔で聖恒が真和を見ると「えー」っといった風に眉を下げてへの字口になっていた。
夕方、部活を終えて家に帰ると母親に「明日は先生来る日よね。この間先生におやつはいいって言われたけど……どうしよう」と聞かれる。
「何で俺に聞くの」
「だって聖恒の先生でしょ」
「何それ。だいたい俺、勝手に家庭教師呼んだことに対して文句言ったくらいなんだぞ」
ため息つきながら言うとニッコリされた。
「そんな口は数学の成績がよくなってから利けば」
そう言われると言い返せない。そもそも兄である遥希と同じ大学へ行きたいと親にも言っているのは自分だ。そしてその大学を目指すならいくら他の教科の成績がよくとも、数学も必須なのだということも知っている。周りは「俺らまだ高二だろ」などと言っているが、あの大学を目指すなら高二もへったくれもない。
他の教科の成績がいいからこそ聖恒はわかっている。遥希のように塾やもちろん家庭教師を利用しなくとも、必死になって勉強しなくとも、日常の勉強だけで大丈夫な人は実際存在する。聖恒も数学を除けばその仲間に入られたのかもしれない。
だがいくら部活が楽しかろうが、気合いを入れないと無理なものは無理なのだとも、わかっていた。
……分かってるからこそ余計、なー。
要は拗ねているようなものだが情けないので認める気はない。それとともにやっぱり自分の兄は凄いなと改めて遥希のことを尊敬する。
遥希に対しての聖恒を、真和だけでなく利麻も同じように愛情を込めて「ブラコン」だと言ってくる。ブラコンと言われるのは嫌ではないが、コンプレックスという言葉に関しては少々納得がいかない。あんなできた兄を慕わない弟がいたらむしろお目にかかりたいくらいだと思っている。
「……先生がいいっつったんだから、いいんじゃねーの」
「でもただの遠慮かもしれないでしょ。実は期待しておられたとかだったら……」
「めんどくさいなー……だったら用意してればいーだろ」
「でもいらないって言われ……」
「次は出す。そんでまた言われたらもう出さねぇ! これでいいでしょ」
「そーね。さすが聖恒。頼りになるわー」
「よく言う……」
聖恒は微妙な顔で母親を見た。顔は聖恒に似ている。いや普通に言うなら聖恒が母親似というのだろうか。だが性格は絶対似ていないと思う。性格は遥希も自分も父親似だと思っている。母親はふわふわしたところがあり、基本的に毎日が楽しそうで、そして気持ちがいいほど父親や聖恒たちを振り回してくれる。
よく考えなくとも父親に性格が似ているなら、母親のことが大好きであろう父親と同じく振り回される運命なのかもしれない。ただそのおかげか、そのせいでというか、聖恒は自分をひたすら振り回すようなワガママだったり気分屋な女性よりは清楚でおしとやかな女性の方が好きだ。残念ながら顔の好みはそのまま父親に似てしまったのか、もしくは嫌なことだが母親に似てかわいいもの好きだからかはわからないが、ふわふわとかわいらしい外見が好みでもある。
ちなみに遥希の好みは美人系だと前に聞いたことある。同居していた頃も彼女がいたことは当然というかあるのは知っているのだが、教えてくれないし紹介してくれなかった。多分こういうところも父親に似ているのだろう。父親はあまりベラベラと話すほうではない。逆に聖恒はこの部分は母親に似てしまったのか、割とオープンだった。
一度「兄さんってどんなタイプが好み?」と聞いたら「きよかな」とニッコリ笑って言われた。間違いなくはぐらかされた。大好きな兄からある意味お前が好きだと言われたようなもので正直嬉しくもあったが「ちゃんと教えてよ」と言えば「じゃあ美人系」と教えてくれた。
じゃあって何……と少々疑わしいが、一応今でも兄のタイプは美人系なのだと思っている。
そいや、先生って兄さんと同じ年くらいなのかなー。
風呂に入って夕飯を食べた後に部屋へ戻ると、ふと家庭教師のことを思い出す。遥希と同じ大学だということは頭は決して悪くない。それに、と聖恒はベッドに横になり転がった。
いざ初回の授業をしてみて早速聖恒は目から鱗だった。数学に対して固定観念を持ちすぎているようにすら思えた。
……まぁでもだからといって、家庭教師なんて……。
翌日、恵が作ってきてくれた数学の勉強の仕方についてまとめられたノートは、とてもわかりやすくて感動的なものだった。聖恒はそのノートを穴が空くほど眺める。
「マジで……」
「目的を決めて計画を立てるのって大事なんだ。これはその手助けになればいいなと思って」
聖恒が家庭教師は必要ない、などと言ったというのに、恵は前回大人の対応してくれただけでなく、とても親身になってくれている気がした。
「俺が君にできることも話しておく」
恵はそう言うと説明してきた。まず聖恒が何をわかっていないか、わかっているかを二人とも常に把握するよう心がける。そして聖恒にとって最良の勉強計画を立てて実行していく。問題を解けば、間違いを見つけるのではなく正しい答えを把握するよう徹底させる。
「聖恒くんは何も見ず、俺からも聞かず正しい答えを導き出せるよう、ひたすら意識してたくさん同じような問題を解いていこう」
気づけば聖恒は頷いていた。
一時間が過ぎた頃、母親が部屋をノックし、入ってきた。
「先生、よかったらお茶を……」
「ありがとうございます。とても嬉しいのですが、本当にお気遣いなく。次からはご遠慮させてください」
「そう? あの……じゃあこれは……」
「美味しそうですし、せっかくなので頂きます。ごちそうさまです」
「まぁ、よかった! じゃあ残念だけど次からは用意しません、ね」
「はい。ありがとうございます」
紅茶とケーキを置いていくと、母親は嬉しそうに部屋を出ていく。多分恵が帰った後に「あの先生素敵」とか何とか煩いだろうなと聖恒は微妙な顔でそっと思った。
「せっかくだし、休憩しようか」
「あ、はい」
ケーキは見た目もかわいらしかった。つい聖恒は内心ニコニコそのケーキを見てしまう。フォークで崩してしまうのも忍びない。そしてこういう趣味も母親と似てるのが何とも微妙だ。
「聖恒くんは甘いものが好きなのか」
「え? なぜです?」
微笑みながら言われ、聖恒はポカンと恵を見た。好きかと聞かれたら「嫌いではない」くらいしか言いようがない。
「だってこの間も今も、何か嬉しそうだ」
顔に出ていたか、と聖恒はまた微妙になった。
「甘いものもお菓子も嫌いじゃないですが、別に好きってほどでもないです」
さすがにそんなに親しいわけでもない相手に「かわいいものが好きなんです」とは言いにくかった。
朝、別に示し合わせているのではなく必ず揃うわけではないが、たまに聖恒と隣の双子の登校時間が合うことがある。その時は三人でそのまま学校へ向かう。ちなみに双子もいつも一緒に出ているのではない。かといってあえて別々に出ようとしているのでもないため、タイミングが合えば一緒になるようだ。
あだ名を呼ばれ、聖恒は真和を見た。
「この前カテキョ来たんだろ?」
「あー、うん」
「どーだった? つか女?」
真和が楽しげに聞いてくる。聖恒が答える前に利麻が微妙な顔で弟を見た。
「カズはほんと。私は知ってるけど男の先生だったよ」
「第一俺はこんと違って年上興味ないし」
聖恒が続けると真和は怪訝な顔をする。
「え。大人の女に興味ないとかマジ? しかも女のカテキョとかマジヤバくね? 絶対色っぽいと思うんだけど」
それに対し聖恒と利麻は口をそろえて「キモッ」と一掃する。
「こん、よく考えろ。女の家庭教師って要は先生だぞ」
「うん」
「お前、うちのガッコの女の先生をさ、そういう目で見られる?」
「無理」
「だろ?」
馬鹿だなという顔で聖恒が真和を見ると「えー」っといった風に眉を下げてへの字口になっていた。
夕方、部活を終えて家に帰ると母親に「明日は先生来る日よね。この間先生におやつはいいって言われたけど……どうしよう」と聞かれる。
「何で俺に聞くの」
「だって聖恒の先生でしょ」
「何それ。だいたい俺、勝手に家庭教師呼んだことに対して文句言ったくらいなんだぞ」
ため息つきながら言うとニッコリされた。
「そんな口は数学の成績がよくなってから利けば」
そう言われると言い返せない。そもそも兄である遥希と同じ大学へ行きたいと親にも言っているのは自分だ。そしてその大学を目指すならいくら他の教科の成績がよくとも、数学も必須なのだということも知っている。周りは「俺らまだ高二だろ」などと言っているが、あの大学を目指すなら高二もへったくれもない。
他の教科の成績がいいからこそ聖恒はわかっている。遥希のように塾やもちろん家庭教師を利用しなくとも、必死になって勉強しなくとも、日常の勉強だけで大丈夫な人は実際存在する。聖恒も数学を除けばその仲間に入られたのかもしれない。
だがいくら部活が楽しかろうが、気合いを入れないと無理なものは無理なのだとも、わかっていた。
……分かってるからこそ余計、なー。
要は拗ねているようなものだが情けないので認める気はない。それとともにやっぱり自分の兄は凄いなと改めて遥希のことを尊敬する。
遥希に対しての聖恒を、真和だけでなく利麻も同じように愛情を込めて「ブラコン」だと言ってくる。ブラコンと言われるのは嫌ではないが、コンプレックスという言葉に関しては少々納得がいかない。あんなできた兄を慕わない弟がいたらむしろお目にかかりたいくらいだと思っている。
「……先生がいいっつったんだから、いいんじゃねーの」
「でもただの遠慮かもしれないでしょ。実は期待しておられたとかだったら……」
「めんどくさいなー……だったら用意してればいーだろ」
「でもいらないって言われ……」
「次は出す。そんでまた言われたらもう出さねぇ! これでいいでしょ」
「そーね。さすが聖恒。頼りになるわー」
「よく言う……」
聖恒は微妙な顔で母親を見た。顔は聖恒に似ている。いや普通に言うなら聖恒が母親似というのだろうか。だが性格は絶対似ていないと思う。性格は遥希も自分も父親似だと思っている。母親はふわふわしたところがあり、基本的に毎日が楽しそうで、そして気持ちがいいほど父親や聖恒たちを振り回してくれる。
よく考えなくとも父親に性格が似ているなら、母親のことが大好きであろう父親と同じく振り回される運命なのかもしれない。ただそのおかげか、そのせいでというか、聖恒は自分をひたすら振り回すようなワガママだったり気分屋な女性よりは清楚でおしとやかな女性の方が好きだ。残念ながら顔の好みはそのまま父親に似てしまったのか、もしくは嫌なことだが母親に似てかわいいもの好きだからかはわからないが、ふわふわとかわいらしい外見が好みでもある。
ちなみに遥希の好みは美人系だと前に聞いたことある。同居していた頃も彼女がいたことは当然というかあるのは知っているのだが、教えてくれないし紹介してくれなかった。多分こういうところも父親に似ているのだろう。父親はあまりベラベラと話すほうではない。逆に聖恒はこの部分は母親に似てしまったのか、割とオープンだった。
一度「兄さんってどんなタイプが好み?」と聞いたら「きよかな」とニッコリ笑って言われた。間違いなくはぐらかされた。大好きな兄からある意味お前が好きだと言われたようなもので正直嬉しくもあったが「ちゃんと教えてよ」と言えば「じゃあ美人系」と教えてくれた。
じゃあって何……と少々疑わしいが、一応今でも兄のタイプは美人系なのだと思っている。
そいや、先生って兄さんと同じ年くらいなのかなー。
風呂に入って夕飯を食べた後に部屋へ戻ると、ふと家庭教師のことを思い出す。遥希と同じ大学だということは頭は決して悪くない。それに、と聖恒はベッドに横になり転がった。
いざ初回の授業をしてみて早速聖恒は目から鱗だった。数学に対して固定観念を持ちすぎているようにすら思えた。
……まぁでもだからといって、家庭教師なんて……。
翌日、恵が作ってきてくれた数学の勉強の仕方についてまとめられたノートは、とてもわかりやすくて感動的なものだった。聖恒はそのノートを穴が空くほど眺める。
「マジで……」
「目的を決めて計画を立てるのって大事なんだ。これはその手助けになればいいなと思って」
聖恒が家庭教師は必要ない、などと言ったというのに、恵は前回大人の対応してくれただけでなく、とても親身になってくれている気がした。
「俺が君にできることも話しておく」
恵はそう言うと説明してきた。まず聖恒が何をわかっていないか、わかっているかを二人とも常に把握するよう心がける。そして聖恒にとって最良の勉強計画を立てて実行していく。問題を解けば、間違いを見つけるのではなく正しい答えを把握するよう徹底させる。
「聖恒くんは何も見ず、俺からも聞かず正しい答えを導き出せるよう、ひたすら意識してたくさん同じような問題を解いていこう」
気づけば聖恒は頷いていた。
一時間が過ぎた頃、母親が部屋をノックし、入ってきた。
「先生、よかったらお茶を……」
「ありがとうございます。とても嬉しいのですが、本当にお気遣いなく。次からはご遠慮させてください」
「そう? あの……じゃあこれは……」
「美味しそうですし、せっかくなので頂きます。ごちそうさまです」
「まぁ、よかった! じゃあ残念だけど次からは用意しません、ね」
「はい。ありがとうございます」
紅茶とケーキを置いていくと、母親は嬉しそうに部屋を出ていく。多分恵が帰った後に「あの先生素敵」とか何とか煩いだろうなと聖恒は微妙な顔でそっと思った。
「せっかくだし、休憩しようか」
「あ、はい」
ケーキは見た目もかわいらしかった。つい聖恒は内心ニコニコそのケーキを見てしまう。フォークで崩してしまうのも忍びない。そしてこういう趣味も母親と似てるのが何とも微妙だ。
「聖恒くんは甘いものが好きなのか」
「え? なぜです?」
微笑みながら言われ、聖恒はポカンと恵を見た。好きかと聞かれたら「嫌いではない」くらいしか言いようがない。
「だってこの間も今も、何か嬉しそうだ」
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