ホンモノの恋

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9話

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 恵が帰宅した後、入れ違いで来た利麻の勢いがとてもよすぎて聖恒は微妙な顔をして目をむいた。

「そんなじゃ嫁に行けねーぞ」
「余計なお世話だしきょーちゃんはちょっと女に対して古風過ぎるし、私の彼はこれでいいって言ってるから」

 一言口にすると三倍になって返ってきた。聖恒は余計なことは言わないでおこうとばかりに黙っていると「そんなことよりカズ、来てるんでしょ、お邪魔します」と丁寧に言いつつも勝手に上がってくる。この辺は幼馴染みの気安さというか、聖恒も似たようなものなので何とも思わない。

「あ、いた! カズ! まったく自分の勝手で人様の家に泊まる上に、うちに連絡一本もしないから母さん怒ってたよ」

 利麻の声に、見つかった真和は体を大きくビクリと震わせ青い顔をしている。

「こん、お前言ってなかったのかよ」
「ご、ごめんて!」
「あら、利麻ちゃん、相変わらずかわいいわね」
「わー、おばちゃんこんばんは、ありがとう! そんなこと言ってくれんのおばちゃんくらいだよー」
「嘘嘘、絶対彼氏にも言われてるくせに。あとご迷惑かけてたならごめんね。真和くん凄く家事の手伝いしてくれたの」
「おばちゃんは悪くないよ、この馬鹿が悪い。それに私の友だちが怖いからって逃げてここに来たんでしょう? みんなにそれ言っちゃうよ」
「やめて!」

 真和は聖恒の後ろに隠れながらも必死になって言う。それを振り返り微妙な顔で見た後に聖恒は「まあ別に泊まってくのは構わないからさ。おばちゃんによろしく言っといてやれよ。そんで利麻、お前もう帰れ」と諭すように言った。

「うん、わかった。じゃあこの馬鹿よろしく。ご迷惑かけてごめんなさい」

 勝手に上がってはきたが、利麻は丁寧にお詫びをした後で帰っていった。残った真和は涙目で聖恒を見てくる。

「その目、やめろ」
「だって」
「お前が悪い。ったく」

 翌日、利麻は誰にも何も真和のことを言っていないようで、真和は心底安心していた。

「いやいや、普通そんなの言ってまわらねーだろ」
「わかんねーよ、利麻なら!」
「だってお前のそんな情けない話聞いて喜ぶやつ、別にいないだろ」
「慰めるにしても言い方……!」

 昼休みに弁当食べながら、真和は拗ねたような顔をしている。

「だってビビり過ぎ」
「お前は女がどんだけ怖いか知らな、……いから平気でいるんだ……!」

 途中まで大きな声で話していた真和は、近くにいた女子の視線を感じてハッとなり、途中から声を潜めた。聖恒も肉食系女子の怖さなら知っているが、とりあえずため息つく。

「俺、女兄弟いないからわかんないし」
「あいつらはな、かわいい顔した悪魔だからな! やっぱ俺は大人の女性が一番だ……」
「何でそこまで。利麻たしかにこえぇとこあるけどいい子じゃねーの。お前いったい何されたんだよ?」
「ガキの頃、顔が似てるからって女装させられたりすげーコキ使われたりした。マジ最悪……今はそりゃそんなのねーけど、結構なトラウマにもなるだろ? そんで利麻の昔からの友だちは俺的にガラ悪い。絶対悪ノリして俺いたぶる系のヤツら」
「あー……」

 もし自分の母親が自分に女装とかさせていたら恐らく聖恒もとてつもなく母親か女装かもしくは抵抗できない立場の弱さにトラウマになっていたかもしれない。どのみちトラウマはなくても女装は嫌だ。
 去年の文化祭に下手したら女装させられそうになってドン引きだったし、確かに恋愛絡みじゃなくても「女子こえぇ」とは聖恒も思った。

「今、初めてお前の気持ちがちょっとわかったし同情もしたわ」
「今頃初めてかよっ? つか、ちょっとっ?」

 そんな風であっても基本的に利麻と真和の双子は仲がいいと聖恒は思う。放課後にはもう普通に話していた。

「利麻、部活か? 俺もだし一緒に行く?」

 とりあえず聖恒が声をかけると利麻がテニスラケットを振りながら得意げに笑ってくる。

「うん、もうすぐ大会あるし頑張らないとね。カズもフラフラしてないで部活やればいいのに」
「俺はいーの。あのな、お前らとは違う普通の頭の俺は、今のうちから必死にならないとな、きょーと同じ大学なんてとても行けねーの」
「お前、まだ俺と同じ大学目指してたの」
「ひでぇ! お前らと同じ大学行こうと俺こんな頑張ってんのに!」

 真和の泣き言に、聖恒と利麻は声をそろえて「やだキモい」とからかった。
 部活を終えて帰宅すると、聖恒はシャワーを浴びてから自室のベッドへ横になる。二階へ上がる際に母親から「もーすぐご飯だから」と言われて手を上げておいたが、一旦のんびり横になりたかった。
 ぼんやりと机を見ると、聖恒はふと恵を思い出した。恵に教えてもらうようになってから、苦手だった数学の成績は目を見張るように上がってきている。元々他の教科に苦手なところもないし、成績は全体的にいい。本来は数学を除けば家庭教師を雇うほど勉強に困っていないと今でも思う。
 数学を除けば。
 その数学も成績が上がれば当然、家庭教師は必要なくなるだろう。

「……ってことは会えなくなる?」

 ぼそりと漏らした後、胸が痛くなる。最初は必要ないなどと本人にすら言ったくせに、いつの間にかとても慕っていた。第二の兄のようだとさえ思っていた。

 だからといって、これはなんだ……。

 聖恒は寝転がりながら怪訝な顔した。普通そこまで心を痛めるものだろうか。

「え、待て待て待て……嘘だろ……?」

 パッと浮かんだことに聖恒は慌てて否定するかのようにうつ伏せになり、頭を抱え込む。
 意味がわからない。よく考えろ、と聖恒は自分の心へ言い聞かせるように呟く。

 かわいいふわふわした子が好きなはずだろ? 先生を見てみろ。ちっともふわふわしてねーぞ。第一俺より少しだけ背が高いんだぞ。柔らかそうな体つきじゃなく、筋ばった筋肉のある固そうな体つきなんだぞ。ほら、ない。ないわ。

 うんうんと一人で頷いていると、まるでもう一人の自分がいるみたいに違う気持ちが浮かぶ。 

 ふわふわしてないけど綺麗な顔してる。美人系で、背も筋肉もあるけどがっしりじゃなくて華奢な感じするだろ?

 待て待て、と聖恒はさらに頭を抱え込んだ。

 一番重要なことを思い出せ。先生は男だ。

 そう。男。そして、とても真面目である意味おしとやかな人だ。
 ああ、と聖恒はまた呟いた。

「俺……めぐちゃんが……好き?」
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