ホンモノの恋

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11話

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 数学の試験は手ごたえありすぎて気持ちよかった。こんなに解けるものなのかと驚いた。やり方はわかっていて後はちゃんと上手く進めていくだけといったクイズを解いているようなものだ。もしくは犯人がわかっていてあとは推理と手順を楽しむだけの推理小説とでもいうのだろうか。簡単なのだが楽しめて気持ちいい。当然、試験結果はとてもよかった。

「先生、これ試験結果」

 家庭教師がある日を心待ちにして、聖恒はニコニコ得意げに恵に成績表を見せた。差し出された恵は受け取ってちゃんと全部目を通した後に顔を上げ、微笑んでくれた。

「数学、一生懸命に勉強した結果出たね。それにどの教科もすごい。偉いね、きよ」

 そう言って聖恒の頭をポンと撫でてくれる。おまけに恵も誇らしげで嬉しそうだった。恵に褒めてもらえるのが嬉しくて、そして頭を撫でてもらえるのが嬉しくて、聖恒はとてつもなく幸せを感じる。
 おまけに約束を、したのだ。

「先生、約束、守ってくれるんでしょう?」

 聖恒が言うと恵は少しだけ考えるような様子を見せてきた。えっと思っていると微笑みながら「もちろん」と頷いてくれた。
 一瞬焦ったが聖恒は嬉しくなり、また笑顔になる。

「じゃあ来週末の日曜日はどうですか?」
「ああうん。大丈夫だよ」

 やった、と聖恒は隠すことなく喜んだ。
 家庭教師の時間が終わり、恵が片づけているのを見ながら聖恒は少しドキドキする。

「先せ……めぐちゃん」

 名前で呼ぶと、一瞬だけ手の動きが止まった後で恵は「何」と返事してくれた。先ほどからいちいち嬉しくて、聖恒はまたニコニコする。

「めぐちゃんとのデート、俺、楽しみです」
「デートじゃないだろ」

 恵が苦笑してきた。その様子は、言われてないが「馬鹿だな」と言われているような気がする。聖恒は少しムキになって言い返す。

「デートですよ」
「デートなら君は君の彼女とするべきだろ」
「俺、彼女なんていないですよ、めぐちゃん」

 だいたい彼女を作ろうにも理想の女子がいない。好きかもしれないと思っても、いつも結局違った、とがっかりする。
 もちろん自分も悪いのだろう。勝手に幻想するから余計違いにがっかりするのだろう。利麻がたまに「女の子に夢持ちすぎなんだよ」と笑ってくる。確かにそうなのかもしれない。でも夢くらい持ちたいし、その夢だってそんな無茶な夢ではないのではと思っている。
 ただ、ガンガン来る子が苦手なだけだ。他に何も夢を抱いていない。勉強や運動ができなくても、料理ができなくてもいい。
 外見からしてガンガン来そうな子のほうが実は案外おしとやかだったりしてと思ったりするが、外見が派手なタイプも苦手だからどうしようもない。
 聖恒が言ったことに対して恵が驚いたように見てきた。何故そんな顔をされるのだと少々疑問に思っていると恵が聞いてきた。

「じゃあ先日あの駅近くのショッピングモールで連れてた子は?」
「え? こないだ? 俺が? えー……、……あっ、もしかして利麻のことですか?」
「りま?」

 恵が怪訝な顔をしてくる。

「あ、そっか。ちゃんと紹介してないですもんね」

 紹介、というと今度は何とも妙な顔をしてきた。恵は普段、微笑んでくれたりしつつもそんなに表情がころころと代わらないと聖恒は思っているので少々新鮮だった。

「利麻はこの前うちに来てた真和の双子の片割れです。いわば俺の幼馴染みですね。って、利麻と俺がカップルに見えんの……! ちょっと笑う」

 聖恒からすれば本当に兄弟みたいな感覚だし、利麻のようなタイプは完全に彼女にしたい好みから外れている。これからもずっと兄弟みたいな友人でいて欲しい数少ない存在ではあるが、恋人だとしたら多分つき合って速攻お互い「別れよう」となりそうだ。
 実際笑っていると恵がまた変な顔をしてきた。

「っていうかめぐちゃん!」
「え、な、何」
「それって俺らを見かけたってことでしょ。いたんなら声かけてくださいよ」

 笑ったまま言うと、今度は戸惑ったような顔で恵が聖恒を見てきた。何故そんな顔をしているのかさっぱりわからない。

「めぐちゃん? どうかしました?」
「あ、いや。何でもないよ。そっか、紺野くんは双子だったんだな」
「二人とは幼稚園の頃からつるんでるから、何ていうか幼馴染みというか兄弟みたいなもんなんです」
「そ、そうなんだ」

 そう言う恵の様子は、聖恒からすればやはりどうにも様子がおかしいような気がした。しかも目を逸らしてくる。心なしか顔も赤い気がする。

 具合でも悪いのだろうか。

 ふと思った。だとしたら引き留めたのは悪かったのかもしれない。いくら約束を確認したかったとしても。
 とはいえ、ついさっきまで具合が悪そうな素振りは見せてこなかった。顔が赤く見えるのは気のせいなのだろうか。
 聖恒は少しだけ、覗き込むように顔を近づけた。しかしよく顔を見ようとする前に、恵は聖恒の存在に気づいたように顔を向けてきた。
 お互いの顔が予想以上に近かった。つい、まるで見つめ合うような状態になる。見つめ合い、そしてひたすら目が反らせないような状態だった。
 その時間はほんのわずかだったかもしれない。聖恒にはわからない。ただ、妙にゆっくりとした時間に感じられた。
 さらに吸い寄せられ顔が近づいたような気がした。その時、恵の携帯が鳴り響いた。
 恵はハッとしたように口元を押さえて顔を反らす。聖恒も一瞬混乱するかのような不思議な気持ちになっていた。

「めぐちゃん?」

 実際はしてもいない混乱を正常にするかのように聖恒ははっきりとあだ名を呼んだ。

「あ、いや、何でもないんだ。俺、そろそろ帰るよ」

 恵は慌てて立ち上がり、帰っていった。
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