ホンモノの恋

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17話

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「あー……ムカつく」

 教室にある自分の机に突っ伏して呟いた聖恒に、真和が声をかけてきた。聖恒が恵への思いを打ち明けても、真和は変わらない。いや、聞いた時は唖然としたように驚きつつしばらく黙っていたが、その後気を取り直したように「好きな人、できてよかったな!」とニッコリ笑ってくれた。

「どうしたんだよ、きょー」

 聖恒は口を尖らせたまま顔を上げた。

「例の女子に告られたんだけど……」

 小さな声で言うと真和が前の空いている席に後ろ向きで座り「ふんふん」と頷いてくる。

「って、あのいい感じだった子?」
「んー」

 いい感じだと思っていたけれども、前に行ったカフェで無理だなと思ってそのままにしていた。聖恒が言わなければきっとそのまま流れるだろうと踏んでいたのだ。

「どうだったん?」
「昨日、連れ出された。無視するのも悪いなって思って。そんだら告られて、俺ちゃんとはっきり断ったんだけど」
「勿体ないよなー……」
「勿体なくねーし。……そんだら迫られてキスされた」
「マジで」

 わー、と真和が微妙な顔をしている。聖恒がそういうのを好きじゃないとわかっているからか、真和もそこまでされると引くのかは、よくわからない。
 実際、好きでもないのに強引にキスされるのは不愉快だった。もちろん少しの間一緒に遊んでいたし、その間はこちらも好きかもと思っていたので思わせぶりなところもあっただろうとは思う。そしてそのままにしていたのも申し訳なかったとは思う。
 それでも告白されたことに対しては頭をさげてきちんと断った。それで聖恒なりの誠意は見せたつもりだった。

 なのに何で強引にキスされんの? せめて言葉で言えなかったのか。

 それを思うと腹が立ってくる。

「俺、そういうヤツ嫌い……」
「って、それ本人に言ったのか?」
「だって仕方ないだろ。それに相手も自分の身も軽く扱うヤツ、ほんとに嫌いだもん。体を差し出せばどうにかなるとかどっかで思ってる感じとかムカつくだろ」
「……そうですね」

 真和は微妙な顔をしながら苦笑してきただけだった。
 放課後、部活で体を動かしているとかなりスッキリしてきた。ついでに恵のことを考える。ああいった女子と違う、恵の真面目で純粋そうなところを思い出し、思わずにやけてしまう。反応なども新鮮でかわいかった。
 最高だったキスを思い出す。あのキスをした日、恵の気持ちは聖恒に多少なりとも向いてくれていた気はする。
 好きだとも言わずにしてしまって申し訳ないと思いつつ、正直してよかったともひっそり思っている。

 ……だって拒否されてなかったし、一応、俺、あの女子とは違う、よ、ね……?

 偉そうに嫌いだと言い放っておきながら、自分も許可を得ることなくキスをしているのだ。

 でも、向いてくれていた気がする。

 再度そう思いつつも、まだ全部は届いていない気もしている。とはいえ、やはり強引に進めたくはなかった。恵のことは大切にしたかった。それにもし嫌がったり拒否している恵に無理やりキスしたり他のことしたら、自分の嫌っているタイプと同じになる。
 部活を終えてふと、最後の唇の感触が恵でないことに改めてまた腹が立った。

「……めぐちゃんとキスしたい」

 ぼそりと呟いた。恵と、思い合ってそしてちゃんと、キスが、したい。
 家へ帰ると遥希がいた。

「兄さん、帰ってたのっ?」
「ああ、たまにはな」
「月曜なのに」

 なのに何故いるのだと言いつつも嬉しくて聖恒ははしゃいだ。久しぶりに遥希を見た。相変わらず恰好いいし尊敬できる兄だと改めて思う。自分の目標だ。

「聖恒、成績見たぞ。すごいじゃないか。苦手だった数学もいい成績だ」

 遥希は優しく微笑んでくれた。聖恒は嬉しくて「先生がいいからだよ」と笑う。だがその後父親が言った言葉に凍りついた。

「なら、もう大丈夫そうだな、家庭教師は」
「まあ、元々聖恒、嫌がってたものね。そんな口は数学の成績がよくなってから利けばとか言ったらほんっとにいい成績取ってくるんだもの。さすが聖恒」

 母親もニコニコ言ってくる。
 これは最初からわかっていたことではあった。苦手な数学の成績を上げるために家庭教師を雇っていたのだ。雇用期間も特に設けられておらず、成績が上がるまで、だった。そして聖恒の成績は数学も他と同じくらいに上がっていた。家庭教師は必要なくなったということだ。
 あまりに急な終わりに、聖恒は立ち尽くすことしかできなかった。嫌だ、と言えばよかったのにと思う。成績は上がったけれども、まだ教わっていたいのだ、と。
 だが家庭教師を雇っているのは親だ。そして恵にまだ家庭教師をして欲しい聖恒の動機は不純でしかない。純粋に勉強を教えて欲しいだけならもっと気軽に言えただろう。
 もちろん、勉強をまだまだ教えて欲しい気持ちも本当だ。恵の教え方はとてもわかりやすかったし理にかなっていた。もっと教えて欲しいと思っていたのも本当なのだ。
 本当だけれども、不純な気持ちも本当だった。もっと恵に会っていたい。そばにいて欲しい。家庭教師なら、無条件で毎週二回は会える。だからこれからも来て欲しい。
 好きだ。恵が好きで堪らないから、家庭教師でいて欲しい。
 こんな気持ちを抱えているせいで「嫌だ」と言えなかった。
 その日、恵の元へ連絡が行った。本当だったら明日、会えていたのになと聖恒は思った。そして思い出した。恵の連絡先を知らないことに。
 それとなく親に聞いてみると「なんでそんなの知りたいの」と言われる。

「え、その」

 個人的に会いたいから、と言いかけて言えなかった。好きだと自覚したばかりの聖恒は意識し過ぎていた。上手く言える自信がなかった。

「連絡先は個人情報でしょ。勝手に教えたらダメなんじゃないの、こーゆーのって」

 普段あまり倫理について考えてなさそうな母親がこういう時に限って面倒くさい程の倫理をかざしてきて、尚更聞きづらくなった。

「……今週末、デート、するはずだったのに……」

 後で自室のベッドに転がると、聖恒はポツリと漏らしていた。
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