洋菓子店主の苦悩

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10話

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 そんなに威張られても、と苦笑すると「別に威張ってねぇス」と今度はムッとされた。

「とにかく、身近にそーゆーやついたっスから、珍しくねーし。それに叔父さんめちゃくちゃ堂々としてたスから、そーゆーもんだと子どもん時から思ってるス。ただ俺は女が好きなだけで」

 だったら女好きを貫けばいいだろと柚斗は微妙な顔になった。

「それに跡継ぎに兄ちゃんがいっから、クソ親父も俺が誰と付き合おーが気にしねース」
「ああ、八百屋の……」
「は?」

 いや、青果店か鮮魚店というのはこちらの勝手な想像だった。
 柚斗は何でもない、と手を振る。

「だから俺的には大丈夫っス」
「桜太郎的には大丈夫でも俺が大丈夫じゃないからね?」
「何でだよ」
「何でって言われても……俺、女性が好きだし」
「俺もっス」
「……。それに長男だからほら、跡継ぎとか」

 結婚なんて考えたこともなかったし、そもそも継ぐ跡もなければ起業したのは自分だけれども。

「クソチャラそーなクソ弟がいんじゃねーか。あいつならクソみてーにガキ作るっスよ」
「俺のこと好きならもうちょっと俺の身内に気を使わない? 何でそんなに口悪いの?」

 全くこいつは、と微妙な顔を向ければ面倒くさそうな顔で舌打ちされた。改めて本当に自分のことを好きなのだろうかと柚斗は遠い目になる。

「あいつ、ウゼーっス」
「お前がそんなだから、多分テオもお前のこと鬱陶しいとか思ってんじゃないかな」
「上等だよ」
「何喧嘩する気満々になってんの? お前それで成人ほんとしてんの? だいたいほんとに俺のこと好きなの」
「さらっとディスってくるあんたでも好きっスけど」
「今、俺の言ったのどれも侮辱にも無礼にもならないからな?」

 ため息を吐くと柚斗はようやく食べ終えた皿を片し始めた。

「あ、俺が洗うっス」
「……ありがとう。お前から言ってくるの珍しいな」

 言えばわりと何でもやってくれるが、言わなければ桜太郎は気づかないのか、色々やらないことが多い。とはいえ柚斗も日本人の言わなくても察して精神はあまり肌に合わないので特に不快に思ったことはない。

「褒めてくれんなら褒美はあんたの体でいいっス」
「高くつく洗い物過ぎるだろ……っ」
「んじゃ仕方ねーから頭撫でてくれるんでもいっスよ」

 仕方ないらしい。
 いっそ怒りも湧かない。
 柚斗は苦笑しながら手を伸ばして桜太郎の頭を撫でた。

「洗ってくれんの、いい子だな」
「子、じゃねぇ」

 そう言い返しながらも、桜太郎はその後黙って皿を洗い出した。黙ってではあるが、今にも鼻歌を歌い出しそうな風に見える。

 ……案外単純だな。

 よくわからないやつと今でも思っていることは思っているが、実はわかりやすいところもあるかもしれない。

「って、クソが。俺の好きっつったの流されてんじゃねーかよ」

 洗い終えた後、コーヒーを作っている柚斗を見ながら桜太郎がハッとしたような顔をしてきた。

「流してないだろ。俺は女性が好きだしお前とどうこうなるつもりはない。そういう目で見てないって言っただろ」
「決めつけんなよ」
「お前こそ決めつけるな。お前が大丈夫だから俺も大丈夫って、どんな自己中だよ」
「だからあれっス。サンプル」
「は?」

 いや、やっぱりこいつ、よくわからなかった。

「だからサンプルっス」
「何だよサンプルって」
「まんまだろが」
「……、……ひょっとしてお試しって言いたいのか」
「あ、それっス」
「……。はぁ。っていうか、そんな気軽に試すことじゃないだろ」
「何でだよ」
「そういう……、……やめた」
「あ?」

 説明して通じる気がこれっぽっちもしない。

「……例えば何を試すんだよ」
「セック」
「やっぱいい、言わなくて!」
「聞いてきたのそっちだろ」
「お前の返事くらい予想すべきだった」
「あ? んだよ。……あー、じゃあデート」
「じゃあって」
「ゆーと、……さん、ってフツーどこ行くんスか」

 何故毎回、さん付けがこうもぎこちないのか。

「普通、って?」
「俺、女と遊ぶっつってもクラブで飲んだり踊ったりス。あんたはでもそーゆーのしなさそースし」
「確かにしないな」
「何すんっスか? どこ行ったりするんっスか」
「改めて聞かれると……どうだろな。別に決まってないけど……食べ歩きしたり、美術館とか水族館行ったり、単に公園ぶらついたり……」

 考えながら言えば、桜太郎が妙な顔をしている。

「何だよ」
「いや……面白いんっスか、そんなん」
「……楽しいよ。俺からしたらクラブで飲んだり踊ったりのがよくわからないからな?」
「あー。合わないっスねえ」

 全くだ、と柚斗も思う。だからなおさら、何故桜太郎が柚斗を好きになったのか、関係を深めたいと思うのかわからない。ただの好奇心だろうか。満たせれば満足し、興味もなくすのだろうか。
 なら、一度くらい寝てみてもいいのかもしれないと一瞬思ったが、元々男に興味がない上に昔その男同士での経験があると言ってもわずかな期間で本当に昔のことだ。心身共に負担を感じるとしか思えない。諦めてもらうために何故自分がそこまでしてやらないといけないのかと柚斗は微妙な気持ちで思い直した。
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