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11話
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ところで同じフロアに住んでいるが、今のところ桜太郎はあてがった部屋でちゃんと眠っている。好きだから当然のように柚斗もそうなれ的なことを言うわりに、強引にことを進めようとはしてこない。傍若無人で無茶苦茶なところのある男だが、案外変なところで真面目というか、言われたことは結構守ってくる。
……いや、口調や態度はちっとも直さないな。とはいえ本人いわく、あれでも敬語らしいな。……何だ? 培ってきたものなのか?
例えばだが、言動はあまり注意されないながらも、普段から目上の者に言われたことは守れ、といった風に言われて育ったのかもしれない。きちんとしているのかしていないのかよくわからなくて、柚斗には桜太郎の育ってきた環境がどんなものなのか全く想像がつかなかった。
サービス業とはいえ地域密着型の青果店や鮮魚店ならもしかしたら言葉遣いはさほど気にしないとかなのだろうか。実家辺りもそうだが、柚斗が仕事し住んでいるこの辺りもそういったタイプの個人商店がないのでピンとこない。柚斗の店や他にもある店だとやはり接客に関してそこまでぞんざいというか、いい風に言えば気さくではない。
家を出ているとはいえ、手伝いをしたくないからという理由なら別に勘当されたとか親とひどい喧嘩したとかではないのだろうか。その辺もどういう状況なのか分からないままだ。桜太郎が未成年ならいい加減にできなかった、というかそもそも雇うことも家に住まわせることもできないが、一応成人しているだけに根掘り葉掘り聞くのもと、うやむやのままだ。
とはいえ、このままでいいのだろうかとは思う。柚斗としては案外問題はないのだが、桜太郎にとっていいのかどうかが全くわからない。
どうしたものかと頭の片隅で思っていたある日、桜太郎の身内が店へやって来た。
「あの」
「はい。いらっしゃいませ」
そろそろ閉店時間ということで他に客はいなかった。入ってきたのは不惑を過ぎたかどうかといった年齢であろう男性だった。落ち着いた雰囲気と、目を引く整った容姿をしており、柚斗も叶うのならこういった年の重ねかたをしたいものだと内心思う。
「こちらに五月桜太郎という男が働いてませんか」
「……あの、どちら様でしょうか」
低めの声も話し方も落ち着いた感じではあるが、どこか有無を言わせないといった雰囲気もある。あと単純にそもそも桜太郎の素性も何もわからないので多少は警戒せざるを得ないというのだろうか。
ただ一瞬だがふと思ったのは、何となく雰囲気が似ているような気がして、もしや父親ではないだろうかということだ。だがすぐまさか、と自分に否定した。桜太郎の父親にしては若い気がする。それにどう見ても青果店や鮮魚店の店主といった雰囲気ではない。
……俳優とかしててもおかしくないよな。いやでもそういえば言動は最悪だけど桜太郎も顔と背はかなり──
「ああ。失礼しました。私は桜太郎の叔父です。五月和実と申します」
桜太郎のおじ……。
おじさん……って、待て。ひょっとして前に桜太郎が言っていた……?
「俺の叔父がバイっつーの? 男もいけるやつっスしね」
確かそんな風に言っていた。桜太郎が幼稚園か小学校入る頃くらいから同じ男とずっと付き合ってるとも言っていた気がする。
「何か?」
「あ、い、いえ! 何も……」
失礼なことについじっと見ていたようだ。
「……? ああ、すみません。名刺は持ち歩いてなくて。免許証か何かを見せましょうか」
「い、いえそれは……」
「そうですか? で、ここに桜太郎はいますか」
これは「はい」と答えていいものなのだろうか。桜太郎からは内緒にして欲しいとは別に言われていない。桜太郎のことだから思いつきもしなかった気もしないではないが。
ただ、桜太郎の親ならまだしも叔父だけに、つい少し躊躇していると和実が怪訝な顔をしてきた。そして何か言いかけようとしたところで「もー終わりっスよね?」と桜太郎が厨房から出てきた。
「桜太郎」
「あ? げ、かず兄」
「やはりいたか」
「ぁあ? なんでかず兄がここにいんだよ」
「お前が勝手に家を出るからだろうが。俺こそ貴重な時間を使って、なんでお前なんか探さないといけないんだ」
「んじゃそんなのに時間使わねーで、きおちゃんとイチャコラしてればいーだろが」
「俺の貴生を気安く呼ぶな」
「んじゃ、きおい」
「呼び捨てんな。内藤さんと呼べ」
「るっせーな。かず兄を五月さんって呼ばねーのに何できおちゃんを内藤さんって呼ぶんだよ、他人行儀過ぎんだろ。意味わかんねー」
「じゃあ内藤兄さんって呼べばいいだろ」
「ぁあ? んな呼び方したらその辺の組のやつみてーだろが」
「そうだな」
「笑ってんじゃねー」
何の話をしているのか、というか話が逸れまくっているような気しかしない。柚斗は唖然としつつも無言だった。
「……ああ、店の中で失礼しました」
そんな柚斗に気づいた和実が礼儀正しく頭を下げてくる。
「いえ、もう閉店しますし、それはいいんですが……」
「すみません。今日はこの馬鹿を連れ戻しに来ました」
「え?」
「ぁあ? 聞いてねぇよ?」
「今言ったんだからそりゃそうだろうな」
「るせぇ。何で連れ戻されなきゃなんねーんだよ。もうガキじゃねーんだぞ」
「ガキじゃないならちゃんと親と話つけてから家を出ろ」
「……ち。あの親父が出してくれると思ってんのか?」
「……まぁ、確かに」
忌々しそうな桜太郎に、和実がまたおかしそうに少し笑っている。
未だに話がいまいち見えない柚斗はひたすら傍観者でしかないので、なら放っておいて店を閉めようと動き出した。
「あ? おい、あんた何で俺無視して片付けてんっスか」
無視と言われても。
「俺にわからない内容だしな。えっと、さ……和実さん。気にせず続けててください」
五月さん、と呼ぼうとして桜太郎も五月だったと思い出し名前で呼んだ。和実は「すみません」と謝りつつ、さらに少しおかしげに笑っていた。
……いや、口調や態度はちっとも直さないな。とはいえ本人いわく、あれでも敬語らしいな。……何だ? 培ってきたものなのか?
例えばだが、言動はあまり注意されないながらも、普段から目上の者に言われたことは守れ、といった風に言われて育ったのかもしれない。きちんとしているのかしていないのかよくわからなくて、柚斗には桜太郎の育ってきた環境がどんなものなのか全く想像がつかなかった。
サービス業とはいえ地域密着型の青果店や鮮魚店ならもしかしたら言葉遣いはさほど気にしないとかなのだろうか。実家辺りもそうだが、柚斗が仕事し住んでいるこの辺りもそういったタイプの個人商店がないのでピンとこない。柚斗の店や他にもある店だとやはり接客に関してそこまでぞんざいというか、いい風に言えば気さくではない。
家を出ているとはいえ、手伝いをしたくないからという理由なら別に勘当されたとか親とひどい喧嘩したとかではないのだろうか。その辺もどういう状況なのか分からないままだ。桜太郎が未成年ならいい加減にできなかった、というかそもそも雇うことも家に住まわせることもできないが、一応成人しているだけに根掘り葉掘り聞くのもと、うやむやのままだ。
とはいえ、このままでいいのだろうかとは思う。柚斗としては案外問題はないのだが、桜太郎にとっていいのかどうかが全くわからない。
どうしたものかと頭の片隅で思っていたある日、桜太郎の身内が店へやって来た。
「あの」
「はい。いらっしゃいませ」
そろそろ閉店時間ということで他に客はいなかった。入ってきたのは不惑を過ぎたかどうかといった年齢であろう男性だった。落ち着いた雰囲気と、目を引く整った容姿をしており、柚斗も叶うのならこういった年の重ねかたをしたいものだと内心思う。
「こちらに五月桜太郎という男が働いてませんか」
「……あの、どちら様でしょうか」
低めの声も話し方も落ち着いた感じではあるが、どこか有無を言わせないといった雰囲気もある。あと単純にそもそも桜太郎の素性も何もわからないので多少は警戒せざるを得ないというのだろうか。
ただ一瞬だがふと思ったのは、何となく雰囲気が似ているような気がして、もしや父親ではないだろうかということだ。だがすぐまさか、と自分に否定した。桜太郎の父親にしては若い気がする。それにどう見ても青果店や鮮魚店の店主といった雰囲気ではない。
……俳優とかしててもおかしくないよな。いやでもそういえば言動は最悪だけど桜太郎も顔と背はかなり──
「ああ。失礼しました。私は桜太郎の叔父です。五月和実と申します」
桜太郎のおじ……。
おじさん……って、待て。ひょっとして前に桜太郎が言っていた……?
「俺の叔父がバイっつーの? 男もいけるやつっスしね」
確かそんな風に言っていた。桜太郎が幼稚園か小学校入る頃くらいから同じ男とずっと付き合ってるとも言っていた気がする。
「何か?」
「あ、い、いえ! 何も……」
失礼なことについじっと見ていたようだ。
「……? ああ、すみません。名刺は持ち歩いてなくて。免許証か何かを見せましょうか」
「い、いえそれは……」
「そうですか? で、ここに桜太郎はいますか」
これは「はい」と答えていいものなのだろうか。桜太郎からは内緒にして欲しいとは別に言われていない。桜太郎のことだから思いつきもしなかった気もしないではないが。
ただ、桜太郎の親ならまだしも叔父だけに、つい少し躊躇していると和実が怪訝な顔をしてきた。そして何か言いかけようとしたところで「もー終わりっスよね?」と桜太郎が厨房から出てきた。
「桜太郎」
「あ? げ、かず兄」
「やはりいたか」
「ぁあ? なんでかず兄がここにいんだよ」
「お前が勝手に家を出るからだろうが。俺こそ貴重な時間を使って、なんでお前なんか探さないといけないんだ」
「んじゃそんなのに時間使わねーで、きおちゃんとイチャコラしてればいーだろが」
「俺の貴生を気安く呼ぶな」
「んじゃ、きおい」
「呼び捨てんな。内藤さんと呼べ」
「るっせーな。かず兄を五月さんって呼ばねーのに何できおちゃんを内藤さんって呼ぶんだよ、他人行儀過ぎんだろ。意味わかんねー」
「じゃあ内藤兄さんって呼べばいいだろ」
「ぁあ? んな呼び方したらその辺の組のやつみてーだろが」
「そうだな」
「笑ってんじゃねー」
何の話をしているのか、というか話が逸れまくっているような気しかしない。柚斗は唖然としつつも無言だった。
「……ああ、店の中で失礼しました」
そんな柚斗に気づいた和実が礼儀正しく頭を下げてくる。
「いえ、もう閉店しますし、それはいいんですが……」
「すみません。今日はこの馬鹿を連れ戻しに来ました」
「え?」
「ぁあ? 聞いてねぇよ?」
「今言ったんだからそりゃそうだろうな」
「るせぇ。何で連れ戻されなきゃなんねーんだよ。もうガキじゃねーんだぞ」
「ガキじゃないならちゃんと親と話つけてから家を出ろ」
「……ち。あの親父が出してくれると思ってんのか?」
「……まぁ、確かに」
忌々しそうな桜太郎に、和実がまたおかしそうに少し笑っている。
未だに話がいまいち見えない柚斗はひたすら傍観者でしかないので、なら放っておいて店を閉めようと動き出した。
「あ? おい、あんた何で俺無視して片付けてんっスか」
無視と言われても。
「俺にわからない内容だしな。えっと、さ……和実さん。気にせず続けててください」
五月さん、と呼ぼうとして桜太郎も五月だったと思い出し名前で呼んだ。和実は「すみません」と謝りつつ、さらに少しおかしげに笑っていた。
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