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12話
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「はぁ……」
どうも先ほどから「はぁ」「はぁ」しか言っていない気がする。文字で見れば柚斗はまるで息の荒い変態だ。
「俺の兄、要はこいつの父親は気軽に出歩けないのでね、代わりにと頼まれたんです」
それは確かに出歩けないだろう。何故名字で気づかなかったのだと柚斗は微妙な顔になった。とはいえ別に珍しい名字でもない。まさかそういった任意団体である五月会の五月などと、思うはずもない。
にしても青果店なんて、どこから出てきたのかと柚斗は自分に呆れる。
「本当にすみませんね。ああ、俺は極道関係者じゃなくただの養護教諭ですので、気楽にしていただければ」
「養護教諭……保健の先生ですか」
俳優でもしそうな容姿だけに、暴力団の親分を兄に持つ保健医という肩書きに違和感しかない。
「保健のセンコーとかお似合いっスよね、ゆーと、さん。どう見てもかず兄エロ親父だもんな」
そしてこの頭の悪い馬鹿がこの叔父の甥であり青果店などではなく暴力団の親分を父親に持つ馬鹿、というのも違和感だ。
「お前は喋らないほうがいいぞ桜太郎。せっかく見てくれがよくてもむしろ残念具合が増す」
「んだと、クソかずジジィ」
「誰に向かって言っている」
「るせぇ。かず兄は帰れ」
「お前を連れに来たんだ、馬鹿者」
「帰らねーし」
「それは自分の親父に直接言え」
「何度も連れ戻されては言ってるっつーの! あのクソ親父」
和実とのやり取りを見ていると、普段の桜太郎よりも子どもっぽさが増しているような気がして、思わず柚斗は微笑ましい気持ちになりかけた。だが我に返る。
とりあえずあまり把握できていないが、どうやら父親は桜太郎に対し、厳しいくせに過保護ということのようだ。跡目を継ぐ桜太郎の兄はしっかりしているらしく、そちらの教育などにかまけ弟を放置しつつ甘やかした結果ろくでもないことばかりやらかすようになり、それを後悔してのことだと、あまりに口喧嘩ばかりするので一旦落ち着かせようと桜太郎にカヌレとコーヒーを用意させに行った際に、和実が生ぬるい表情で言ってきた。
「えっと、そんなの俺に言っちゃっていいんですか……」
後で口封じなどと言われたら堪ったものではない。
「兄に対する弟としての愚痴です」
和実はにっこりと微笑んだ。とても整った顔立ちであり、優しげに笑みを浮かべているのにどこか癖があるというか落ち着かない気持ちになるのは何故だろうと柚斗もとりあえず笑みを浮かべながら思う。
とにかくそういったこともあり、父親はふらふらしている桜太郎を一人暮らしさせるのも忍びなく、また仕事に関してもまともな仕事に就かないくらいなら家業を手伝わせるほうがましだと思っているようだ。
だったら言動などの教育をもっとちゃんとして欲しいと密かに思うが、柚斗が思っても栓なきことだろう。
「俺はな、ここでこの人と働きてーんだよ」
「へぇ?」
カヌレとコーヒーを持ってきた桜太郎の言葉を聞いて和実がニヤリと笑った。
そういえば桜太郎の話が正しいならだが、和実はバイだったなと柚斗は苦笑した。一応勘違いされないよう、今の柚斗としての考えをはっきり言っておいたほうがいいだろう。
「桜太郎くんは意外にも真面目に働いてくれてます。なので俺としてはこのまま働いてくれるのに全く何の問題もありません」
「さすがゆーと、さん。意外はよけーだけど話わかるっス」
「ただし。家庭の問題に関して俺は口を挟めないし、はっきり言って何の関係もない」
「ぁあ?」
「桜太郎。ちゃんと親と話せ。ここで働きたいのもこの仕事に興味を持ったからなんだろ。それもちゃんと伝えろ。そうしてしっかり話し合って認めてもらってから改めて履歴書、持ってこい。そしたら正式に雇ってやる」
「ぁあ? 何……」
桜太郎が凄もうとしたところで和実が立ち上がり、桜太郎をつかんだ。
「って! 離せかず兄!」
「お前が大人だと言うならここで騒ぎ立てて柚斗さんに迷惑をかけるのをよしとしないだろう? 柚斗さんに言われたことをちゃんと考えろ。あと俺は強要しないが兄さんに報告はする。もし別の者が来てみろ。ヤクザが出入りしている店だと思われてもしてみろ」
そういう脅迫はこちらの心にもくるものがあるのでやめて欲しいと柚斗は内心そっと思った。
「……っち」
ただ、桜太郎は大人しくなった。
「柚斗さん、この桜太郎があなたに言われたらコーヒーを淹れたりと、素直に言うことを聞いてて少し驚きました」
「……普段どれだけ聞かないんですか……」
「ふふ。では、カヌレとコーヒーをごちそうさまでした。甘いものはあまり食べないんですが」
ブルータスお前もか。
甘いものをほぼ食べないと言っていた桜太郎を思い出す。
「でも美味しかったです。今度同居人への土産を買いに、改めて来ます」
和実はまた礼儀正しく頭を下げると先に店を出て行った。残った桜太郎が振り向く。
「ゆーと、さん」
「ああ」
「こうなったら俺、真面目にちゃんとやるって、親父説得するっス。んで、ちゃんと履歴書書いてまた絶対来るから、それまで誰も雇わねーで」
「うん、わかった。がんばって」
口元を綻ばせ、柚斗が頷くと桜太郎が近づいてきた。
「……あの、よ」
「?」
「……、やっぱ何でもねっス。んじゃ!」
少し言い淀んだ後、桜太郎も店を出て行った。彼らが行ってしまうと、何だか妙にこの店が静かになったような気がした。
「まぁ、元に戻ったってことだな」
そんな風に独り言を言いながら、柚斗はコーヒーカップや皿を片付けた。
どうも先ほどから「はぁ」「はぁ」しか言っていない気がする。文字で見れば柚斗はまるで息の荒い変態だ。
「俺の兄、要はこいつの父親は気軽に出歩けないのでね、代わりにと頼まれたんです」
それは確かに出歩けないだろう。何故名字で気づかなかったのだと柚斗は微妙な顔になった。とはいえ別に珍しい名字でもない。まさかそういった任意団体である五月会の五月などと、思うはずもない。
にしても青果店なんて、どこから出てきたのかと柚斗は自分に呆れる。
「本当にすみませんね。ああ、俺は極道関係者じゃなくただの養護教諭ですので、気楽にしていただければ」
「養護教諭……保健の先生ですか」
俳優でもしそうな容姿だけに、暴力団の親分を兄に持つ保健医という肩書きに違和感しかない。
「保健のセンコーとかお似合いっスよね、ゆーと、さん。どう見てもかず兄エロ親父だもんな」
そしてこの頭の悪い馬鹿がこの叔父の甥であり青果店などではなく暴力団の親分を父親に持つ馬鹿、というのも違和感だ。
「お前は喋らないほうがいいぞ桜太郎。せっかく見てくれがよくてもむしろ残念具合が増す」
「んだと、クソかずジジィ」
「誰に向かって言っている」
「るせぇ。かず兄は帰れ」
「お前を連れに来たんだ、馬鹿者」
「帰らねーし」
「それは自分の親父に直接言え」
「何度も連れ戻されては言ってるっつーの! あのクソ親父」
和実とのやり取りを見ていると、普段の桜太郎よりも子どもっぽさが増しているような気がして、思わず柚斗は微笑ましい気持ちになりかけた。だが我に返る。
とりあえずあまり把握できていないが、どうやら父親は桜太郎に対し、厳しいくせに過保護ということのようだ。跡目を継ぐ桜太郎の兄はしっかりしているらしく、そちらの教育などにかまけ弟を放置しつつ甘やかした結果ろくでもないことばかりやらかすようになり、それを後悔してのことだと、あまりに口喧嘩ばかりするので一旦落ち着かせようと桜太郎にカヌレとコーヒーを用意させに行った際に、和実が生ぬるい表情で言ってきた。
「えっと、そんなの俺に言っちゃっていいんですか……」
後で口封じなどと言われたら堪ったものではない。
「兄に対する弟としての愚痴です」
和実はにっこりと微笑んだ。とても整った顔立ちであり、優しげに笑みを浮かべているのにどこか癖があるというか落ち着かない気持ちになるのは何故だろうと柚斗もとりあえず笑みを浮かべながら思う。
とにかくそういったこともあり、父親はふらふらしている桜太郎を一人暮らしさせるのも忍びなく、また仕事に関してもまともな仕事に就かないくらいなら家業を手伝わせるほうがましだと思っているようだ。
だったら言動などの教育をもっとちゃんとして欲しいと密かに思うが、柚斗が思っても栓なきことだろう。
「俺はな、ここでこの人と働きてーんだよ」
「へぇ?」
カヌレとコーヒーを持ってきた桜太郎の言葉を聞いて和実がニヤリと笑った。
そういえば桜太郎の話が正しいならだが、和実はバイだったなと柚斗は苦笑した。一応勘違いされないよう、今の柚斗としての考えをはっきり言っておいたほうがいいだろう。
「桜太郎くんは意外にも真面目に働いてくれてます。なので俺としてはこのまま働いてくれるのに全く何の問題もありません」
「さすがゆーと、さん。意外はよけーだけど話わかるっス」
「ただし。家庭の問題に関して俺は口を挟めないし、はっきり言って何の関係もない」
「ぁあ?」
「桜太郎。ちゃんと親と話せ。ここで働きたいのもこの仕事に興味を持ったからなんだろ。それもちゃんと伝えろ。そうしてしっかり話し合って認めてもらってから改めて履歴書、持ってこい。そしたら正式に雇ってやる」
「ぁあ? 何……」
桜太郎が凄もうとしたところで和実が立ち上がり、桜太郎をつかんだ。
「って! 離せかず兄!」
「お前が大人だと言うならここで騒ぎ立てて柚斗さんに迷惑をかけるのをよしとしないだろう? 柚斗さんに言われたことをちゃんと考えろ。あと俺は強要しないが兄さんに報告はする。もし別の者が来てみろ。ヤクザが出入りしている店だと思われてもしてみろ」
そういう脅迫はこちらの心にもくるものがあるのでやめて欲しいと柚斗は内心そっと思った。
「……っち」
ただ、桜太郎は大人しくなった。
「柚斗さん、この桜太郎があなたに言われたらコーヒーを淹れたりと、素直に言うことを聞いてて少し驚きました」
「……普段どれだけ聞かないんですか……」
「ふふ。では、カヌレとコーヒーをごちそうさまでした。甘いものはあまり食べないんですが」
ブルータスお前もか。
甘いものをほぼ食べないと言っていた桜太郎を思い出す。
「でも美味しかったです。今度同居人への土産を買いに、改めて来ます」
和実はまた礼儀正しく頭を下げると先に店を出て行った。残った桜太郎が振り向く。
「ゆーと、さん」
「ああ」
「こうなったら俺、真面目にちゃんとやるって、親父説得するっス。んで、ちゃんと履歴書書いてまた絶対来るから、それまで誰も雇わねーで」
「うん、わかった。がんばって」
口元を綻ばせ、柚斗が頷くと桜太郎が近づいてきた。
「……あの、よ」
「?」
「……、やっぱ何でもねっス。んじゃ!」
少し言い淀んだ後、桜太郎も店を出て行った。彼らが行ってしまうと、何だか妙にこの店が静かになったような気がした。
「まぁ、元に戻ったってことだな」
そんな風に独り言を言いながら、柚斗はコーヒーカップや皿を片付けた。
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