突然ニートになった俺

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5話

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 翌日には空良の手に合鍵が握られていた。鍵を渡してくれた時の雪夜はそれはもう輝くような笑みで笑いかけてきた。

「好きな時に外出してくださいね。あ、でも俺が帰ってきた時にいらっしゃらないと事故にでも遭ってないか不安になりそうだな……」

 もしかして雪夜が帰ってくるまでには家にいろという、亭主関白的なあれだろうかと、手のひらに鍵を乗せたまま空良が何となく思っていると雪夜が顔を赤らめながら「ス、スマホの番号とかアドレスこ、交換してもらってもいいですかっ?」と顔に手を当てながら聞いてきた。

「え?」

 そういえばここに寝泊まりさせてもらうようになってからも携帯番号のやりとりはしていなかった。というか空良がずっと家にいるので不要だったとも言う。

「全然構わないけど……」
「空良先輩とスマホのやりとりとか……無理……」
「無理なの……っ?」
「あ、いえ! 是非お願いします! 最高すぎてしんどいだけです」
「しんどいの……?」

 相変わらずちょくちょく言っていることが謎ではある。だがことごとく提案してくることは真っ当であり純粋だ。むしろ空良の発想のほうが汚れている。
 結局、空良は完全に自由な時間を手にしていた。家で読書なりゲームなりを楽しんでもいいし、外へ出て買い物なり映画なりを楽しんでもいい。雪夜には「お金が必要ならいつでも言ってくださいね」とまで言われてしまった。
 学生でありアルバイトにも行っていないと思っていた雪夜だが、在宅プログラマーとしてそこそこ収入があるのだとこの間一緒に出かけていた時に知った。食事をしようと言われて出向いた店が少し高そうだったため「無理」と言えば「出させてください」とお願いされたのだ。
 年下のしかも学生に払ってもらうのは尚更無理だと首を横に振ると「学生ですが収入はありますので大丈夫です。年下なのはこの際流してくれたら俺が嬉しいです」と返されて知った。どこまでハイスペックの道を突き進む気なのか。ちなみにその店の料理はすこぶる美味しかった。
 ただこれでは完全に自分はクズだ。金が必要ならいつでも言ってとニコニコする雪夜に空良は微妙な顔を向けた。

「そんなことできるか」
「でも……お仕事……」

 言いにくそうにしているが、恐らく無職なので金がないのではということだろう。
 金ならある。わずかな貯金と失業保険ならば。
 ただ失業保険は首になっても空良が若いため、一般受給資格の人と保険を受けられる期間は変わらないし額も低い。このままだとすぐに尽きてしまうだろう。
 とはいえ正直なところまだ働きたくはなかった。首になった傷が癒えていないと言えば聞こえはいいかもしれないが、要はただの怠け癖だ。
 ただ、外出するようになってもすぐにすることなどなくなった。金が大してない上に平日の昼間から一人で遊ぶことに空良が限界を覚えた。学校が休みの雪夜と出かける時は何をしても楽しいというのに、自分は一人で遊ぶこともできないのかと微妙になる。

「そういう時はぼんやり公園で風景を楽しむとかはどうですか」
「年寄りか……」
「え、俺たまにしてましたよ?」
「イケメンがしてるのと凡人がしてるのじゃあまた違うんだよ」
「確かに空良先輩がぼんやりしてるとか絵になりすぎますもんね。俺はきっと周囲に溶け込んでたと思います」
「待って違う! どこをどうとってイケメン枠を俺にしたの? どこ見て凡人枠に自分当てはめたのっ?」
「すみません。そうですよね」
「そうだよ」
「空良先輩はイケメンっていうか、ひたすら可愛いですもんね」
「だからなんでそうなんの……?」

 相変わらず雪夜は空良が何をしても何を言っても可愛いらしい。

 そうか……俺って可愛いんだ。

 などと暗示にかかりそうなほど、合間合間に「可愛い」というワードをぶちこんでくる。
 最近では可愛いと言われると何と言うか、自分の中がむずむずとしてくる。違和感と気持ちの悪さにむずむずしているのだと何となく思っていたが違う気がする。
 そうではなく、体の芯が疼くとでもいうか──

 いや待ってそれおかしい間違ってる。

 空良は自分の発想にストップをかけた。これではまるであれだ。動物に例えたら発情でもしているかのようだ。
 きっと何もしないのがよくないのかもしれない。そう思って空良は雪夜に頼み込み、ここにきてようやく掃除道具のありかを知ることができた。
 そんなことをしなくても本当にいいと言われたが「何もしないでいるとほんとダメになりそーだし、それにお前にも悪い」と返すとまた「優しい……可愛い……尊い……天使……」と経か呪文でも唱えているかのように訳のわからないことをぶつぶつ呟かれた。
 掃除が好きな訳ではないが、元々これでも結構こなす。目に見えて綺麗になっていくのはやりがいを覚える。
 ただやはり料理はできないようだ。目玉焼きくらいは余裕だが、その目玉焼きも余裕と言いつつ調子に乗ると殻が入ったり黄身を潰したりしてしまう。
 雪夜はあんなに手際よく美味しいものを作るというのにと情けなく思う。自分も雪夜に美味しく作った料理を食べさせたい。綺麗に掃除した部屋で美味しいものを楽しんでもらいたい。

 ……いっそ料理教室に通うか?
 それとも飲食店でアルバイトして覚えていくのはどうだろうか。それなら金も貰えるし一石二鳥……。

 途中から目的が「せめて何かをしよう」から「雪夜に楽しんでもらいたい」に変わっていることを空良はまだ気づいていない。
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