突然ニートになった俺

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6話

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 いつか仕事はまたするつもりだしすぐ見つかるだろうと呑気に構えていたため、実家には言ってなかった。そして呆気なくバレた。
 寮にもう住んでないことが荷物を送られてバレたと知り、爪が甘かったと後悔する。仮住まいだろうが転居届けを郵便局に出しておくべきだった。
 母親に電話口で散々説教をされた。

『ほんとにあんたは……。お父さんなんて呆れて怒るのも忘れてるわよ』
「その方がありがたいけど。だいたい首になったんだってば。俺から辞めた訳じゃないし、そのせいで寮も追い出されたのに何で怒られなきゃなんだよ」
『何であんたはそうなの。で、今どこに住んでるって?』
「え、……っと、友だちの家……」

 後輩のしかも学生の家にお世話になっているとは何となく言いにくい。

『……本当に友だちでしょうね……』
「他に誰がいるってんだよ」
『……じゃあ住所、教えなさい。そっちに送るから』
「別にいらない……」
『……』
「分かったよ!」

 そして教えた結果、荷物は無事届いたが妹も別途やってきた。いきなり携帯電話にかかってきて『わたし。今お兄ちゃんのマンションの下にいるの』とまるで某怪談系都市伝説のようなことを言われて渋々家へ入れた。人の家だが。

「すごいね、すごく綺麗で広い! お友だちさん、すごいね」
「何で来たの」
「電車だよ」
「そうじゃなくて」
「お母さんが見てきなさいって交通費くれたんだもん。女の子のとこに転がり込んでるんじゃないかってムダな心配してたみたい」
「ムダってどういう意味だよ」
「実際女の子じゃないじゃん。お兄ちゃんだもんね」
「俺に失礼だぞ」
「ねぇ、せっかく出てきたんだからたくさん本屋さん行きたいな」
「スルーかよ……」

 そしてまた俺にも読ませる気か、と内心微妙に思っていると雪夜が帰ってきた。とたんに妹が妙に興奮している気がする。
 ついでに妹だと知ると雪夜も何故かテンションを上げていた。ぶつぶつ言っているのを聞くと「空良先輩の女の子バージョン……」などと訳のわからないながらに捨て置けないことを言っていたので大いに警戒することにした。腐った妹ではあるが、空良にとっては大事な可愛い妹だ。

 ……いや、でも妹のこの様子からしたらもしかして雪夜に一目惚れもあり得る?

 それならそれで仕方がない。雪夜のスペックは高い。妹に相応しい男というのは雪夜みたいな男でなければむしろどんなだ、とさえ空良は思う。妹がこのマンションに泊まりたいと言っても迷惑そうな顔をせずニコニコと快く承知してくれた。ハイスペックなのにいい人なのだ。ただ、雪夜がたまに見せる挙動不審な様子がどうにも……と思うが、妹も大概似たような様子でしかないので案外いいカップルになるのかもしれない。
 妹を見ればちょくちょく雪夜の方を見てそわそわとしている。最早間違いない気がした。兄としては少し寂しいがと思いつつ、翌日実家へ帰る前に寄りたいと付き合わされた方々にある本屋の帰りにカフェへ寄り、妹に早速話を持ちかけようとする前に持ちかけられた。

「お兄ちゃんと雪夜さんってどんな関係なの」
「大学の先輩後輩って言っただろ」

 やはり雪夜に興味があるのだなと思いながらもこれ以上答えようがなくて簡単に返事をした。

「そんな表向きの答えじゃなくて!」

 先輩後輩に表も裏もあるかと思い、戸惑っていると妹がキラキラした目で見てくる。

「だって雪夜さんってお兄ちゃんのこと、すごく好きじゃない。お兄ちゃんだって満更じゃないんでしょ?」

 そっちかよ……!

「……待て。どうしてそうなるんだ……現実でそんなこと、あるはずがないだろ……」

 自分も散々駄目な心配をしていたのを棚に上げ、空良は呆れて見せた。

「えー……絶対美味しいと思うんだけどなぁ」
「お兄ちゃんをネタにしちゃいけません!」

 妹は相変わらず妹だった。改めてその認識を深めた後、妹は「雪夜さんにお礼とよろしくって言っててね。雪夜さんと仲良くしてね」と手に入れたたくさんの本と共に帰って行った。

「お母さんにはお兄ちゃんがちゃんとやってるって言っとくから」

 そんな風に言ってくれていたのも恐らくは「雪夜さんと仲良く」に込められた淀んだ妄想ゆえにだろう。微妙な思いにかられながら雪夜の家へ帰ると、今日は大学の授業があまりなかったのか既に雪夜が帰ってきていた。

「おかえりなさい、空良先輩」

 満面の笑みに迎えられ、空良は思わずドキリとする。

「いつもおかえりって言われてたけど……おかえりなさいって出迎えるのも何かいいですね」

 最高の笑みから雪夜が今度は照れ臭そうに笑う。

 ……何だこの笑みの暴力。

 前から雪夜の笑顔はズルいと思ってはいたが、今はズルいどころではない。

 下手をすれば殺しにかかるやつだこれ。

「……空良先輩?」
「あ、いや。妹が世話になったな、ありがとう」

 誤魔化すように空良も笑顔で言えば、雪夜が片手で顔を覆う。

「……はぁ……天使」

 本当に、これさえなければ完璧なハイスペック男子として君臨していただろうにと空良は遠い目になりながら思う。

 だいたい何故俺が天使なのか。

「だって雪夜さんってお兄ちゃんのこと、すごく好きじゃない」

 その時、妹が言っていた言葉が空良の中に過った。

 雪夜さんってお兄ちゃんのこと、すごく好きじゃない
 雪夜さんって……
 お兄ちゃんのこと……
 すごく好きじゃない……
 すごく……
 好き……

 急に頭が逆上せてきた。

「そ、空良先輩っ? ど、どうしたんですかっ? 大丈夫ですかっ?」

 雪夜がとても慌てている。

 それってやっぱ、俺のこと好きだから?

 思わずそんなことを思いつつも空良は真っ赤な顔をしながら空気が抜けるかのようにその場にへたり込んでいった。
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