6 / 9
6話
しおりを挟む
いつか仕事はまたするつもりだしすぐ見つかるだろうと呑気に構えていたため、実家には言ってなかった。そして呆気なくバレた。
寮にもう住んでないことが荷物を送られてバレたと知り、爪が甘かったと後悔する。仮住まいだろうが転居届けを郵便局に出しておくべきだった。
母親に電話口で散々説教をされた。
『ほんとにあんたは……。お父さんなんて呆れて怒るのも忘れてるわよ』
「その方がありがたいけど。だいたい首になったんだってば。俺から辞めた訳じゃないし、そのせいで寮も追い出されたのに何で怒られなきゃなんだよ」
『何であんたはそうなの。で、今どこに住んでるって?』
「え、……っと、友だちの家……」
後輩のしかも学生の家にお世話になっているとは何となく言いにくい。
『……本当に友だちでしょうね……』
「他に誰がいるってんだよ」
『……じゃあ住所、教えなさい。そっちに送るから』
「別にいらない……」
『……』
「分かったよ!」
そして教えた結果、荷物は無事届いたが妹も別途やってきた。いきなり携帯電話にかかってきて『わたし。今お兄ちゃんのマンションの下にいるの』とまるで某怪談系都市伝説のようなことを言われて渋々家へ入れた。人の家だが。
「すごいね、すごく綺麗で広い! お友だちさん、すごいね」
「何で来たの」
「電車だよ」
「そうじゃなくて」
「お母さんが見てきなさいって交通費くれたんだもん。女の子のとこに転がり込んでるんじゃないかってムダな心配してたみたい」
「ムダってどういう意味だよ」
「実際女の子じゃないじゃん。お兄ちゃんだもんね」
「俺に失礼だぞ」
「ねぇ、せっかく出てきたんだからたくさん本屋さん行きたいな」
「スルーかよ……」
そしてまた俺にも読ませる気か、と内心微妙に思っていると雪夜が帰ってきた。とたんに妹が妙に興奮している気がする。
ついでに妹だと知ると雪夜も何故かテンションを上げていた。ぶつぶつ言っているのを聞くと「空良先輩の女の子バージョン……」などと訳のわからないながらに捨て置けないことを言っていたので大いに警戒することにした。腐った妹ではあるが、空良にとっては大事な可愛い妹だ。
……いや、でも妹のこの様子からしたらもしかして雪夜に一目惚れもあり得る?
それならそれで仕方がない。雪夜のスペックは高い。妹に相応しい男というのは雪夜みたいな男でなければむしろどんなだ、とさえ空良は思う。妹がこのマンションに泊まりたいと言っても迷惑そうな顔をせずニコニコと快く承知してくれた。ハイスペックなのにいい人なのだ。ただ、雪夜がたまに見せる挙動不審な様子がどうにも……と思うが、妹も大概似たような様子でしかないので案外いいカップルになるのかもしれない。
妹を見ればちょくちょく雪夜の方を見てそわそわとしている。最早間違いない気がした。兄としては少し寂しいがと思いつつ、翌日実家へ帰る前に寄りたいと付き合わされた方々にある本屋の帰りにカフェへ寄り、妹に早速話を持ちかけようとする前に持ちかけられた。
「お兄ちゃんと雪夜さんってどんな関係なの」
「大学の先輩後輩って言っただろ」
やはり雪夜に興味があるのだなと思いながらもこれ以上答えようがなくて簡単に返事をした。
「そんな表向きの答えじゃなくて!」
先輩後輩に表も裏もあるかと思い、戸惑っていると妹がキラキラした目で見てくる。
「だって雪夜さんってお兄ちゃんのこと、すごく好きじゃない。お兄ちゃんだって満更じゃないんでしょ?」
そっちかよ……!
「……待て。どうしてそうなるんだ……現実でそんなこと、あるはずがないだろ……」
自分も散々駄目な心配をしていたのを棚に上げ、空良は呆れて見せた。
「えー……絶対美味しいと思うんだけどなぁ」
「お兄ちゃんをネタにしちゃいけません!」
妹は相変わらず妹だった。改めてその認識を深めた後、妹は「雪夜さんにお礼とよろしくって言っててね。雪夜さんと仲良くしてね」と手に入れたたくさんの本と共に帰って行った。
「お母さんにはお兄ちゃんがちゃんとやってるって言っとくから」
そんな風に言ってくれていたのも恐らくは「雪夜さんと仲良く」に込められた淀んだ妄想ゆえにだろう。微妙な思いにかられながら雪夜の家へ帰ると、今日は大学の授業があまりなかったのか既に雪夜が帰ってきていた。
「おかえりなさい、空良先輩」
満面の笑みに迎えられ、空良は思わずドキリとする。
「いつもおかえりって言われてたけど……おかえりなさいって出迎えるのも何かいいですね」
最高の笑みから雪夜が今度は照れ臭そうに笑う。
……何だこの笑みの暴力。
前から雪夜の笑顔はズルいと思ってはいたが、今はズルいどころではない。
下手をすれば殺しにかかるやつだこれ。
「……空良先輩?」
「あ、いや。妹が世話になったな、ありがとう」
誤魔化すように空良も笑顔で言えば、雪夜が片手で顔を覆う。
「……はぁ……天使」
本当に、これさえなければ完璧なハイスペック男子として君臨していただろうにと空良は遠い目になりながら思う。
だいたい何故俺が天使なのか。
「だって雪夜さんってお兄ちゃんのこと、すごく好きじゃない」
その時、妹が言っていた言葉が空良の中に過った。
雪夜さんってお兄ちゃんのこと、すごく好きじゃない
雪夜さんって……
お兄ちゃんのこと……
すごく好きじゃない……
すごく……
好き……
急に頭が逆上せてきた。
「そ、空良先輩っ? ど、どうしたんですかっ? 大丈夫ですかっ?」
雪夜がとても慌てている。
それってやっぱ、俺のこと好きだから?
思わずそんなことを思いつつも空良は真っ赤な顔をしながら空気が抜けるかのようにその場にへたり込んでいった。
寮にもう住んでないことが荷物を送られてバレたと知り、爪が甘かったと後悔する。仮住まいだろうが転居届けを郵便局に出しておくべきだった。
母親に電話口で散々説教をされた。
『ほんとにあんたは……。お父さんなんて呆れて怒るのも忘れてるわよ』
「その方がありがたいけど。だいたい首になったんだってば。俺から辞めた訳じゃないし、そのせいで寮も追い出されたのに何で怒られなきゃなんだよ」
『何であんたはそうなの。で、今どこに住んでるって?』
「え、……っと、友だちの家……」
後輩のしかも学生の家にお世話になっているとは何となく言いにくい。
『……本当に友だちでしょうね……』
「他に誰がいるってんだよ」
『……じゃあ住所、教えなさい。そっちに送るから』
「別にいらない……」
『……』
「分かったよ!」
そして教えた結果、荷物は無事届いたが妹も別途やってきた。いきなり携帯電話にかかってきて『わたし。今お兄ちゃんのマンションの下にいるの』とまるで某怪談系都市伝説のようなことを言われて渋々家へ入れた。人の家だが。
「すごいね、すごく綺麗で広い! お友だちさん、すごいね」
「何で来たの」
「電車だよ」
「そうじゃなくて」
「お母さんが見てきなさいって交通費くれたんだもん。女の子のとこに転がり込んでるんじゃないかってムダな心配してたみたい」
「ムダってどういう意味だよ」
「実際女の子じゃないじゃん。お兄ちゃんだもんね」
「俺に失礼だぞ」
「ねぇ、せっかく出てきたんだからたくさん本屋さん行きたいな」
「スルーかよ……」
そしてまた俺にも読ませる気か、と内心微妙に思っていると雪夜が帰ってきた。とたんに妹が妙に興奮している気がする。
ついでに妹だと知ると雪夜も何故かテンションを上げていた。ぶつぶつ言っているのを聞くと「空良先輩の女の子バージョン……」などと訳のわからないながらに捨て置けないことを言っていたので大いに警戒することにした。腐った妹ではあるが、空良にとっては大事な可愛い妹だ。
……いや、でも妹のこの様子からしたらもしかして雪夜に一目惚れもあり得る?
それならそれで仕方がない。雪夜のスペックは高い。妹に相応しい男というのは雪夜みたいな男でなければむしろどんなだ、とさえ空良は思う。妹がこのマンションに泊まりたいと言っても迷惑そうな顔をせずニコニコと快く承知してくれた。ハイスペックなのにいい人なのだ。ただ、雪夜がたまに見せる挙動不審な様子がどうにも……と思うが、妹も大概似たような様子でしかないので案外いいカップルになるのかもしれない。
妹を見ればちょくちょく雪夜の方を見てそわそわとしている。最早間違いない気がした。兄としては少し寂しいがと思いつつ、翌日実家へ帰る前に寄りたいと付き合わされた方々にある本屋の帰りにカフェへ寄り、妹に早速話を持ちかけようとする前に持ちかけられた。
「お兄ちゃんと雪夜さんってどんな関係なの」
「大学の先輩後輩って言っただろ」
やはり雪夜に興味があるのだなと思いながらもこれ以上答えようがなくて簡単に返事をした。
「そんな表向きの答えじゃなくて!」
先輩後輩に表も裏もあるかと思い、戸惑っていると妹がキラキラした目で見てくる。
「だって雪夜さんってお兄ちゃんのこと、すごく好きじゃない。お兄ちゃんだって満更じゃないんでしょ?」
そっちかよ……!
「……待て。どうしてそうなるんだ……現実でそんなこと、あるはずがないだろ……」
自分も散々駄目な心配をしていたのを棚に上げ、空良は呆れて見せた。
「えー……絶対美味しいと思うんだけどなぁ」
「お兄ちゃんをネタにしちゃいけません!」
妹は相変わらず妹だった。改めてその認識を深めた後、妹は「雪夜さんにお礼とよろしくって言っててね。雪夜さんと仲良くしてね」と手に入れたたくさんの本と共に帰って行った。
「お母さんにはお兄ちゃんがちゃんとやってるって言っとくから」
そんな風に言ってくれていたのも恐らくは「雪夜さんと仲良く」に込められた淀んだ妄想ゆえにだろう。微妙な思いにかられながら雪夜の家へ帰ると、今日は大学の授業があまりなかったのか既に雪夜が帰ってきていた。
「おかえりなさい、空良先輩」
満面の笑みに迎えられ、空良は思わずドキリとする。
「いつもおかえりって言われてたけど……おかえりなさいって出迎えるのも何かいいですね」
最高の笑みから雪夜が今度は照れ臭そうに笑う。
……何だこの笑みの暴力。
前から雪夜の笑顔はズルいと思ってはいたが、今はズルいどころではない。
下手をすれば殺しにかかるやつだこれ。
「……空良先輩?」
「あ、いや。妹が世話になったな、ありがとう」
誤魔化すように空良も笑顔で言えば、雪夜が片手で顔を覆う。
「……はぁ……天使」
本当に、これさえなければ完璧なハイスペック男子として君臨していただろうにと空良は遠い目になりながら思う。
だいたい何故俺が天使なのか。
「だって雪夜さんってお兄ちゃんのこと、すごく好きじゃない」
その時、妹が言っていた言葉が空良の中に過った。
雪夜さんってお兄ちゃんのこと、すごく好きじゃない
雪夜さんって……
お兄ちゃんのこと……
すごく好きじゃない……
すごく……
好き……
急に頭が逆上せてきた。
「そ、空良先輩っ? ど、どうしたんですかっ? 大丈夫ですかっ?」
雪夜がとても慌てている。
それってやっぱ、俺のこと好きだから?
思わずそんなことを思いつつも空良は真っ赤な顔をしながら空気が抜けるかのようにその場にへたり込んでいった。
0
あなたにおすすめの小説
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
雪色のラブレター
hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。
そばにいられればいい。
想いは口にすることなく消えるはずだった。
高校卒業まであと三か月。
幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。
そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。
そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。
翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる