トーカティブレティセント

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シキとミヒロ

3話

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 海優くんがお客様になった当初から学生だとは知っていたけど、寮に入っている人だとは知らなかったとたまたま髪を切りながら会話をした時に思った。

「ずっと男子校だったんだ」
「はい」
「じゃあ女の子と中々出会えないね」

 そんなに美形なのに残念だねといった気持ちを込めると海優くんは「まあ、別に」と相変わらず素っ気な……クールだ。

「でも周りは割と身近で相手見つけてるようです」
「へーぇ。…………え?」

 身近。
 とは。
 あれか、幼馴染とか、友達の紹介とか、そういうやつか。

 俺が勝手に納得しかけていると「ここだけの話……です」と海優くんが視線を落としつつ少しだけ遠慮がちに呟いた。俺の中でなにか擽られるような感覚が走る。

 なに、今の。すごく、なんだろう。
 ……甚振りたい……?
 いやいや。なに考えてんの、俺。相手は高校二年……じゃなくてもう三年になってたか。三年生のそれも男子。というかお客様ですよ。

 そっと口元をひきつらせた後で気をとりなおす。でも甚振りとまではいかなくても、少しからかいたくなるのは仕方ないよね?
 そんなことを思いつつ、ふと海優くんの言葉の意味を少し考えた。要は身近で相手を見つけているというのはここだけの話ですよ、ってことだ。

 それって、ああ。

 なんとなく察して俺はむしろ関心を覚えた。男子校って、本当にそういうの、あるんだ?
 カットを終えてドライヤーを取り出してから俺は海優くんの耳元に顔を近づけた。
 この店はカットをする場も個室ではないが軽く仕切りがある。個人個人寛いでもらう為だ。ヘッドスパをする時などは完全個室もある。そういったところもわりと人気のようだ。大抵のお客様は自分が綺麗に仕上がったところを見てもらうのはいいが、その過程まで周りに見てもらいたいとは思っていないからかもしれない。
 それもあって、耳元に顔を近づけるくらいは俺も周りを気にしない。

「ミヒロくんも男の子と、なにかあったりした?」

 囁くように聞くと海優くんはふるりと首と肩を震わせた。そして慌てたように俺のほうを振り返ろうとしてくる。

「あ、ごめんね。ここだけのって言ったからこっそり聞いたほうがいいかなあって」

 俺はニッコリしながら謝る。もっとも内心謝る気はないのだが。

「いえ。あと、俺はそういうの、なかったです」

 すでにいつも通り淡々とした様子で海優くんは答えてきた。

「そっか」

 俺は微笑みながらブローを始めた。本当はもっと耳に触れてみたいけれどもあからさまなのはいただけない。
 でも、絶対、そうなんだろうなと俺はそっと思っている。

 海優くん、耳、弱い。

 別に俺も海優くんと同じで、周りに男がイける知り合いはいるが自分は興味がない。女性が好きだ。年下の女の子は可愛いし、同じ歳も可愛い。そして年上の女性だって可愛い。総じて、可愛い。
 仕事柄、同業者や客に女性は多い。お客様には手を出さないが、それなりに出会いもあるということだ。
 元々学生の頃から女性と濃厚な意味で仲よくするのは大好きだったし今も好きだ。だから、ほんと、興味は、ない。
 ただ、海優くんの反応はどこか楽しく思う。

 普段物静かで淡々とした子なのに、耳、弱いのつい表に出ちゃうんだ、そうなんだ?

 そんな風に思って楽しくなる。お客様に対してそれはないとは俺自身少し思うのだけれども、なんだろうか、海優くんは別というか、なんだろうな。まあ最初から好印象なお客様ではあったから、俺の中でもなにか特別なのかもしれない。
 好印象のお得意様をからかうのが楽しいとか、どう考えても間違っているだろうけれども。

「ありがとうございました。ミヒロくん、またね」
「はい、こちらこそいつもいい感じにしてくれてありがとうございます」

 終わって入口まで見送ると、海優くんは丁寧に言葉を返し頭を軽く下げると歩いていった。それを少し見送っていると、すれ違う女性などがチラチラと海優くんを見ているのがわかる。

 彼、かなりイケメンだしね。

 俺はそっと微笑みながら思った。ただでさえ美形でそれなりに高い身長の上に、この俺が気持ちを込めて丁寧に仕上げてるのだ。むしろ見返さないほうがどうかしてるってくらい。
 だが海優くんはそんな視線に全く気づいていないのか、気づいていたとしても興味がないのか、そのまま歩いていく。
 俺はさらに微笑んだ後、店に入ろうとした。すると海優くんが振り返ってきた。そして改めて俺に頭を下げ、今度こそそのまま歩いていった。

 なにあれ、女の子だったら俺絶対すごい可愛いって思ってるよ。

 そう思いながら店内に入ると受付を担当していた吉田さんに「志生さん、なにニヤついてるんですかー」と笑われた。

「俺、ニヤついてた?」
「ええ。私までうつっちゃいますよ」
「いいじゃない。吉田さん可愛いからニコニコしててよ」
「志生さん、誰にでも言いそうですよねー」

 俺の言葉に、慣れたものだと吉田さんは笑いながら言い返してきた。

「そんなことないよ?」

 俺は手をふりながらバックヤードに向かう。丁度その時近藤ちゃんもバックヤードに向かうところだった。

「近藤ちゃんとタイミング、よく合うねえ」
「っス」

 ニコニコと話かけるも、相変わらずの反応だ。
 俺は次のお客様の準備をするついでに水を飲もうと思っていたが、近藤ちゃんはカラー剤を作りにきたようだ。
 淡々とした近藤ちゃんを見ているとふと思うことがあった。海優くんの反応、楽しいけど同じようにというか、さらに無表情な近藤ちゃんの場合ってどうなんだろう。
 近づくと「近藤ちゃんの髪、いつもいい感じだよね」などと言いながら髪に触れる。そしてその際に耳にも触れてみた。

「……っス」

 ああ、いつもと変わらなかった。
 俺はただニコニコとして手をひっこめる。ある意味、さすが近藤ちゃん。そう思っているとどこかに電話していたらしい卓也さんがたまたま見ていたようで、電話を終えると出てきて「俺のマサになにしてくれてんの」とふざけたことを言ってきた。

「店長、気持ち悪いです」
「なんかしてたのお前なのになにその言い草?」

 俺と卓也さんがそんなバカらしいことを言っているそばで、近藤ちゃんは相変わらず無表情のままカラー剤を作ると「染めてきます」とバックヤードから出ていった。

「ほんっと近藤ちゃん無反応」
「だよなー」

 俺の言葉に卓也さんも苦笑していた。
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