トーカティブレティセント

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タクヤとマサヨシ

2話

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 あの日以来、卓也はちょこちょこと昌義を飲みに誘っている。自分でもよくわからないが、目につくと声をかけたくなるのだ。
 最初は昌義が早く帰りそうな日を見計らって声をかけていたが、もともと律儀でもないし基本的に何でも適当な卓也は「今日飲みに行くか?」などと、いつがどうと気にすることもなくなっていた。
 昌義は昌義で「今日は練習するので」と断ることにも躊躇がない。

「お前、オーナーに対してちったぁ気をつかえよ」
「……オーナーはそういうこと、しないじゃないですか」
「は? そーゆーことって、何」
「いえ」

 相変わらず無表情のまま、昌義はそっけなく答えると仕事の続きをし出した。そうなると今度はむしろムキになって誘いたくなる。
 この歳になってゲーム感覚かよと自分に対して微妙に思っていたが、そうではないことにすぐに気づいた。

「今日はいい髪に当たったか?」
「髪はどんな髪もいいものですよ」
「あー、はいはい、お前はそうだよな」
「っス」

 相変わらず何を考えているか基本的にわからないまま、そんなどうでもいいことを言っているだけなのに卓也は妙に和んでいる自分がいる。
 かといってペットや弟に対するような気持ちでもなく、あー、あれか、と納得する。
 ゲーム感覚でも何でもなく――

「お医者様でも草津の湯でもってやつか」

 思わずボソリと呟くと昌義に変な顔をされた。

「んだ、その顔。……おい、まさか今の言葉聞こえていたのはいいとして、意味わかってねえとかか……?」

 別に聞かれてもいいが、意味がわからない、などと……。

 卓也が微妙な顔をして昌義を見ると無表情のままコクリと頷いてくる。

「おい、嘘だろ。今時の若いもんはどーなってんだよ、こんな的確な言葉ねえぞっ?」

 昌義が事務所で休憩を取っている時にちょっかいをかけているとそこに志生が入ってきた。たまたまなのはわかっているが、この二人は休憩がよく重なる。

「何言ってんのか知りませんが、相変わらず煩いですよね」
「志生。お前ほんっと俺に対する心配りが足りねえ」
「……なんで俺が店長に心、配らないといけないんです。勿体無いじゃないですか、俺の心が」

 ニコニコとしているが言っていることは本当にかわいくない。

「それ」
「どれです」
「ばかやろう。俺がオーナーであり店長でもあるからに決まってんだろが。だから心もすげえ配ってこい、俺がルールだ」
「近藤ちゃんそういえばさっきの髪型よかったよね」
「っス」
「って聞けよ! あーいや。改めてじっと見られると繰り返して言えねえだろうが。それはいいとして」

 華麗にスルーしてきた志生が今度は微笑みを浮かべたままジッと見てきたのでとてつもなく微妙な気分になりながら、卓也は先ほど言っていたことを思い出す。

「いいんですか」
「いいんだよ、それよかあれだ。お前、お医者様でも草津の湯でもって、知ってるよな?」
「はぁ。だからなんなんです」
「マサ、知らねえんだとよ。今の若いやつどーなってんだ。……つかお前もおっさんか」

 途中でふと気付いて卓也が指をさして笑いだすと志生が腹黒そうな笑みを浮かべて「人に指をさしちゃいけませんって習いませんでした?」と卓也の指をつかむ。

「っちょ、おい、痛ぇんだよ!」
「俺を卓也さんと一緒にしないでくれます? 俺が知ってるのは本をよく読むからですし、どう考えても年齢的に俺は近藤ちゃん寄りでしょうが」
「かわいくねえな、ほんっとに!」

 ひたすら笑顔で黒々しい志生に卓也は微妙な顔になる。そして昌義が先ほどから無表情な顔を卓也に向けてきているのに気づいた。

「ああ、草津云々ってのな。気になってたか、悪い悪い」
「……近藤ちゃんの考えてること、わかるんです?」

 卓也の反応に志生が少しポカンとした顔をする。志生も普段あまり笑顔以外の表情を見せてこないのでそういう顔をしてくるとそれなりにかわいく見えるから不思議だなと卓也は苦笑した。

「いやわかるってほどじゃねえけど。でも今のはなんとなく流れでわかるだろうが」
「俺はわかりませんでしたし」

 志生はそう言いながらも少し何か考えるような顔を一瞬すると「たまにはちゃんと休憩とらせてくださいよ。俺、外で飲み物買ってきます」と事務所を出ていった。
 察しのいい志生くんは大好きだよ、と後で言ってやろうと卓也はにんまり笑う。多分言ったらまた歪んだ笑顔を見せてきそうだが。
 そして昌義を見た。

「お医者様でも草津の湯でも惚れた病は治りゃせぬっつーんだよ、さっきの。恋の病は名医だろうが万病に効くっつー草津温泉の湯につかろーが治らねえってこと」
「……へえ」

 話を聞いても表情は変わらない。だがこういう時は頷くだけではなくちゃんと返事をしてくるところがかわいいなと卓也は思い、そして苦笑する。

 こりゃ、やっぱり病にかかってるな。

「で、なんで俺がそう呟いたかってことだけどよ、お前、わかる?」

 卓也が聞くと、今度はただ首をふるふると振ってきた。

「あー、まあ、そうだわな」

 俺はお前が好きみたいだよ。

 志生がわざわざ出て行ってくれたしはっきり言おうと思ったが、やはりここで言ってもなと卓也は笑いながら思い留まった。
 もうしばらく、さらに親睦を深めてから言わないと何となく伝わらなさそうな気がしたのもあった。
 一応そういうことを察することはできるだろうというのは、前に待ち合わせていた時にされていたナンパでわかってはいるが、どうにも察せなさそうと思わせるものが昌義からは漂っているように卓也には感じられる。
 ちなみに察しがいいくせに志生はその後一度からかって遊んだ腹いせに昌義との飲みを邪魔してきた。それでもめげることなくちょくちょくどこかに誘ったりし続けたが、とりあえず昌義は相変わらずといえば相変わらずだった。
 時間があれば付き合ってくれるし、練習があればそちらを優先してくる。だが何を言っても聞いても食べさせても基本的にいつも無表情だ。
 色々適当に無難にやってきているつもりの卓也でもさすがに「あいつ彫刻なの?」と志生に愚痴るくらいには微妙になった。
 それでも少しずつ卓也なりに理解できていっている気がなんとなく、辛うじてはしている。辛うじて、としか言いようがないのだが。
 とりあえず何もしていないことを勝手に想像して悩むのは性に合わない卓也はやはり普通に言うことにした。
 元々男も卓也にとっては対象だ。基本的には女と付き合うほうが多かったが、気に入れば男も女もない。だから自分の気持ちに躊躇することはなかったし、昌義を困らせる気はないのでその場ではっきりさせてダメなら綺麗すっぱり諦めようと思っていた。

「なあ、俺お前が好きなんだけど、俺と付き合ってくれないか? 無理ならむしろはっきり言ってくれ」

 いつもの店で酒を飲みながら、卓也はあっさりと聞いた。ちゃんと昌義の顔を見て言ったが、やはりというか予想通り昌義の表情に変化はない。
 まあ、興味ないだろうしなと卓也が内心思っていると、返事は予想外だった。

「いいですよ」
「え?」
「かまいません」

 マジかよ……!

 卓也は思いきり唖然と昌義を見た後でぐっと握った片手を上げて勝利への気持ちを表した。こんなに色々つかめていないまま、好きだと思ったり付き合いたいと思ったり、そして返事が嬉しかったことはないと思われた。
 まさか、ナンパを軽くあしらえる昌義がまさか「どこに行くか知らないが付き合うのはかまわない」と言っているなんて、思うはずが、なかった。
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